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しんとした空気の中で、藤宮先生が口を開く。
「……一つ、いいですか」
「……?」
「つまりあなたは、俺を信用できないから、交際できないということですか」
あらためて尋ねられ、私は言葉を詰まらせた。
「……えと、それ、は……」
「答えなさい」
藤宮先生は、説教を始めるときのように強い口調で言う。
ぴっと背筋が伸びる。
「そ、そう、です……けど、それは藤宮先生が悪いわけじゃなくて、私だけの問題で……」
しどろもどろになっていると、
「……俺の話を聞いてくれますか」
「は……はい」
私は、いたずらがバレた子供のように姿勢を正した。
「言いたいことは山ほどありますが……まず一つ。あなたはべつにおかしくありません。疑うことのなにがいけないんですか」
「え……」
私は目を瞬く。
「もちろん、かつてのあなたのように、無条件に恋人を信じる人もいるでしょう。ですが、世の中そんな人間ばかりじゃない。恋人同士でも隠しごとぐらいあるでしょうし、相手を疑うこともあります。純粋に信じ合わなければ上手くいかないというのなら、この世の恋人たちはほとんどが破局していますよ」
ぽかんと口を開ける。
「それに、音無先生」
「は、はい」
「疑うのは、好きだからでしょう?」
「え……」
「あなたは……一番重要な部分を抜いて話し出すから誤解を産むんです。……好きだから疑ってしまう。同じく、好きだから信用したい。そういうことでしょう。違いますか」
「……そうだとしても、私の場合は違います。私は初めから……」
すると、藤宮先生は私の肩を掴み、言葉を遮るように言った。
「俺のことなら、いくらでも疑えばいい」
驚いて、顔を上げる。そこには、悲しいくらいに優しい顔をした藤宮先生が私を見つめている。
「俺はただ、あなたを愛させてほしいだけです。他にはなにも望みません」
藤宮先生の切実な声に、私は泣きそうになる。
(……どうして……)
藤宮先生は、私にこんなにも優しくしてくれるのだろう。そんな権利、私にはないのに。
「……私は、絶対藤宮先生を傷付けます……誰かと一緒にいることに向いていないんです……今だってこうして、藤宮先生に気を遣わせてます」
「好きな人を気使うことのなにがいけないんですか? ……俺はただ、好きな人に好きだと伝えているだけです」
「……藤宮先生……」
胸が詰まった。涙で藤宮先生が滲んでいく。
そのときだった。




