最終章・55
気が付けば、私はベッドの上にいた。
一人になり我に返ると、頭を抱える。
(……やってしまった)
私はなぜ、あんなことを言ってしまったのだろう。私は、なぜ……。
(藤宮先生の言葉を遮りたかったから? ……違う。だって……)
あんな瞳で好きな人に見つめられたら、とても耐えられない。
『――好きです』
私を見つめる藤宮先生の顔が、頭から離れない。自分の声が、何度もリフレインする。
(……好き。好き、好き、好き……)
涙が頬をつたっていく。
「好きです……先生」
私は自分自身の肩を抱き、うずくまった。
想いが溢れて、気持ちを口にした直後、我に返った私は逃げ出した。送ってくれた藤宮先生に、背中を向けた。挨拶もせずに。
想いを告げた私は、最低だ。彼の想いに気付いて、咄嗟にその言葉を、一番言ってはいけない言葉で塞いでしまった。
スマホを取り出し、藤宮先生にメッセージを送る。
『先程は失礼しました。送ってくださってありがとうございました。お気を付けて』
送ってすぐ、既読のマークがつく。直後、着信が入った。
手が止まる。
「…………」
一瞬のためらいののち、私は通話ボタンをタップした。
「……は……い」
『音無先生?』
藤宮先生の声に、どうしようもなく胸が詰まった。
「あの……藤宮先生。先程のことは、忘れてください」
沈黙が落ちた。
『……どうして?』
しばらくして、ため息混じりの言葉が返ってきた。
「その、藤宮先生は指導医ですし……私は新人で、歳も離れてますし、その……とても藤宮先生に釣り合うような人間ではありませんから」
『……それは今、関係ないと思いますが』
「……私は、藤宮先生と今の関係を崩すようなことは望んでません。だから……」
『じゃあ、あの言葉は?』
苛立ったような強い口調に、一瞬怯みそうになる。
「……あれは」
あれは本音だ。上手い言い訳なんて思いつくはずもない。
『……俺は、あなたが好きです。あなたの想いを知った今、今まで通りに接するなんてできません』
切実な言葉に、胸がじくりと疼いた。
けれど、私はその言葉にはどうしても答えられない。
「私は……無理です」
繋がった回線の向こうで、藤宮先生の戸惑うような息遣いが聞こえた。
「すみません……私は、藤宮先生と恋人にはなれません」
『待って、なんで……』
逃げるように通話を切った。電話を切った瞬間、嗚咽が漏れる。自分から拒絶したくせに、心はみっともないくらいに悲鳴を上げていた。




