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オープンハート・シンドローム〜天才心臓外科医の心は難攻不落!?〜  作者: 朱宮あめ


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(なにが悪かったんだろう……)

 頼人くんの担当を外された理由を悶々と考えながら、私は院内の売店で遅めのお昼を選んでいた。

(失礼がないように気を使ったつもりだったんだけどな……)

 なにが悪かったのか、藤宮先生は教えてはくれない。

 梅のおにぎりとツナマヨのおにぎりを両手に持ちながら、唸るようにして悩む。

(……食欲ない。藤宮先生、あれからあんまり私のことお昼に誘ってくれないし)

 いろいろと解せないことばかりだ。

「おや。これは、音無先生ではないですか」

 声をかけられ、振り返った先にいたのは高級そうなスーツに身を包んだ初老の男性だ。

「――あ」

 私は甘てて背筋を伸ばした。

「こんにちは、田中先生」

 声をかけてきたのは、頼人くんのお父様である田中勝頼議員だった。相変わらず隙がなく、齢七十を過ぎているとは思えないほどしゃっきりとしている。

「お食事ですか?」

 勝頼議員は私の手の中のおにぎりをちらりと見て、眉を下げて微笑んだ。

「……はい。うっかりお昼を食べ損ねてしまって」

「お医者さんは大変ですね。もう夕方なのに、お昼ですか」

「いえ。私がただうっかりしてただけなので……」

 私はおにぎりを後ろ手に隠しつつ、ぎこちなく微笑んだ。

「でしたら、休憩をご一緒させていただいても? 少し、音無先生にお話したいことがありまして」

「あ……でしたら、藤宮をお呼びしましょうか」

「いえ、音無先生がいいんです」

「そうですか……」

(どうしよう。でも頼人くんじゃなくてお父様だし、休憩を一緒にするくらいなら怒られないかな)

 コンビニで買い物を済ませると、中庭のベンチに移動した。

 

「それで……話といいますと?」

「倅の体調はどうですか?」

 ちらり、と勝頼議員を見る。

「……もしかして、会いに行かれていないんですか?」

(病院には来てるのに……)

 私の問いに勝頼議員は小さく微笑み、ふっと目を逸らした。私は手元のおにぎりに視線を落とし、口を開く。

「……すみません。実は私、藤宮先生に頼人くんの負担にならないよう、回診には来なくていいと言われてしまいまして。ただ、カルテ上は問題はありません。検査も滞りなく進んでいます」

「おや……そうでしたか」

「頼人くんの力になりたいと思ってたんですが、私はまだまだ未熟で……その、失敗してしまったようで」

「失敗?」

「はい」

「それは、どんな?」

「それが……分からないんです……私もなにがまずかったのか考えてるんですが、さっぱり分からなくて。……ダメダメですね、私」

 患者の家族相手に弱音を吐いている時点で既にダメダメだ。すると、勝頼議員はふぅ、と息を吐いた。

「分からないですねぇ……私も、息子の考えてることが全然分からないんですよ。つい口うるさくして、久々に顔を合わせてもすぐに喧嘩になってしまって」

 いやあ、情けない、と勝頼議員はそう言って、悲しそうに俯いた。

 少し、驚いた。私の知る勝頼議員は、いつでも堂々としていた人だったから。

「田中先生でもですか?」

「親だというのに、まったく不甲斐ないですね」

「そ、そんなことは! そもそも田中先生はとても立派なお仕事をされていて、田中先生のおかげで頼人くんはこんなふうに最先端の治療をできているわけですし! 頼人くんはきっと感謝していますよ」

「……どうでしょう。彼にとっては、それが重荷なのかなと思ったりもするんです」

 勝頼議員はぽつりと言った。

「べつに肩書きを傘に着たいとか、そういうわけじゃないんですけどねぇ。ただ、息子が心臓の病気だなんて言われてしまったら、親としてはどんなことをしてでも助けたいって思ってしまうじゃないですか」

 その言葉で、藤宮先生が私を頼人くんから引き離したわけがなんとなく分かったような気がした。

「顔を上げてください。頼人くんは大丈夫です。真面目に検査も受けてくれているし、薬も飲んでくれてますし。それに、お父様のことをちゃんと考えて行動されてます。病気だって、藤宮先生が執刀なんですよ。きっとすぐによくなります」

「……それは、良かった」

 心底ホッとしたように息をつく横顔に、私はふと父親のことを思い出す。

 私も、父親の似たような横顔を見たことがあった。


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