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神源華の翡翠  作者: さわば
一章
9/15

9.春風の訪れ

 フェイツェイとユージュは、中庭の東屋に通された。

 私的な訪問とは言え、二人とも皇族への礼儀として華やかな装いをしている。シェンウー家から直接来たので、フェイツェイはユージュの手持ちの服を借りた。黄色が基調の服で、(スカート)は白地に黄色い花の刺繍が散りばめられている。髪も服に合わせた色合いのリボンで結い、全体的に明るい印象に仕上げられていた。

 落ち着かずに立ったり座ったりしながら待つフェイツェイを、空色の衣装に身を包んだユージュは静かに見ていた。

 

 それほど待たされず、人の気配が近づいてくる。二人は席を立ち、礼の姿勢を取った。

 姿を見せたのは、ツーロンと彼に従うランチュァン、他何人かの侍女だった。礼を受けてツーロンがフェイツェイ達に椅子を勧めると、侍女達が茶の用意をしていく。お菓子を何品かと温かい茶が供されると、侍女達は指示通り下がっていった。もしや侍女たちがいる中で話をするのかと警戒したフェイツェイは、少しほっとする。だが、緊張感が消えることはなく、出された茶菓子にも手を伸ばせない。ギリギリ礼儀に反しないように茶で口を湿らせただけだ。その様子を見たツーロンは、ふっと視線を手元に落とす。


「申し訳ありません……あなたにそんなに負担を強いることになるとは、思っていませんでした。私の落ち度です。」

「やめてください、ジェジェ!あなたを責めに来たわけでなないのです。私の方こそ、勝手な真似をしてジェジェにご心配をおかけしてしまい……誠に申し訳ありません。」


 軽く頭を下げるツーロンに、フェイツェイは慌てに慌てた。さすがに席を立つほどではなかったが、ガタッと椅子を鳴らし、最後には机につきそうなほど頭を下げた。


「そんな、そもそも私が……」

「ジェジェ、フェイツェイ。お互い相手を思って謝っているのはわかりますが、このままどちらが悪いか話していてもちっとも建設的じゃないでしょう?ジェジェ……いえ、ツーロン様もお忙しいのですし、この辺りにしませんか?」


 謝罪合戦になりかけていた状況を、笑顔で遮ったのはユージュだ。昔から、三人の中で調整役というとユージュだった。ツーロンもフェイツェイも平行線になる未来が見えたのか、大人しく引き下がる。


「フェイツェイは、ツーロン様にお伝えしたいことがあって参上したのですよね?」


 ユージュが話題を振ってフェイツェイが頷くと、ツーロンとランチュアンは少し体を硬くする。


「えっと……何と言えばいいか……私には恋愛感情というものがまだわからない。だからジェ……ツーロン様が向けてくれる気持ちが、よくわからないんだ。私を娶っても、ツーロン様の不利益にしかならない、としか思えない。」

「不利益……」


 確かに利害だけ見れば、フェイツェイが最良の伴侶とは言い難い。四家という強力な後ろ盾、十四歳にして武官養成所指折りの実技成績。それだけでは若干弱い。女主人には社交も必須技能になってくるし、皇位継承権第一位の伴侶ともなればそれは顕著だが、フェイツェイの不得手とする分野だ。四家の娘ならば、ユージュの姉に年頃の者がいるが、そういった能力面では彼女の方が優れているだろう。またチィゥスウェイの妹が育つのを待ってもいい、ツーロンはまだ若いのだから。

 理屈としてはそうだ。そう、なのだが……。

 ツーロンが俯いてしまうと、ランチュァンは見ていられないとばかりに瞑目して拳を握る。


「……でも、恋というものは、そういう利害や打算では計れないものなのだろう?私が周りに何を言われても、ツーロン様の剣となり盾として動きたいと想うのと一緒だ。」


 その言葉に、ツーロンとランチュァンが驚いたように目を見開いた。


「恋はわからないが、誰かを想う気持ちというのは、少しは理解できる。……ツーロン様が私にそういった気持ちを向けてくれているというのは少し、落ち着かないというか、混乱するが……否定したくはない。ただ、応じる事ができるか否かは、全然わからない。……今は、それでいいだろうか?」


 表情が変わらないようでいて、フェイツェイの瞳が揺れている。彼女も不安なのだと、その瞳で見つめられたツーロンは感じた。


「構いません、ただ私の気持ちを知っておいて欲しかったのです。……言わなければきっと、後悔すると思ったから……」


 ツーロンは成人した。これから縁談がどんどん舞い込んでくるだろう。何も言わなければ、フェイツェイは決してツーロンを結婚相手として見なかったはずだ。

 上手くいけばツーロンの護衛として配属されるだろうが、お役目はお役目、つかず離れず傍にいるのに、異性として全く意識されないに違いない。そして知らぬ間に結婚相手を決めて、別の男と家庭を持って……それを漫然と待っているのが、ツーロンには辛かった。


「良かった。……そうだ、すっかり言うのを忘れていた。」


 ほっと一息ついたフェイツェイ。皆の様子を微笑みながら見ているユージュ。急転直下の展開について行けずしどろもどろになっているランチュァン。そして張りつめていた糸が緩んで、潤む目元を押さえるツーロン。


「成人おめでとうございます、ツーロン様。今後のご活躍を心よりお待ち申し上げております。」


 静かに微笑みながら祝いの言葉を述べるフェイツェイ。その髪をふわりと巻き上げるように、春風が東屋を通り抜けていった。

ひとまずここで大きな区切りとなりました。

別の話で…となっていたアレコレはどうなった!?など声を頂けると、喜んで続き考えます。

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