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神源華の翡翠  作者: さわば
二章

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26/26

2-12.終幕3

 人知れず国家の危機が訪れていた晩春月も、穏やかに下旬を迎えている。

 今日は休日で、フェイツェイとユージュの快気祝いと称して、ツーロンの住む宮でお茶会が開かれている。

 負傷していた兵たちも既に復帰しており、宮にはいないため、事件の名残はもうどこにもない。


 お茶会には、ズーチェ家とシェンウー家を中心に、ツーロンと関係の深い者たちが招かれた。名目は名目として、ツーロンと臣下たちとの交流会という体だ。

 フェイツェイと親しい学友扱いで、ランチュァンとチィゥスェイも出席している。

 大きな(テーブル)が二、三用意され、最初は席次があるものの、歓談しているうちに席を移っていく方式だ。

 主賓であるフェイツェイとユージュは、ツーロンの両隣に席が用意された。


 フェイツェイは、主催者であるツーロンが開会の挨拶を終えるのを待って、茶菓子に手を付ける。

 挨拶の内容は、フェイツェイとユージュの快復とこれからの健康を願い、会場に集まってくれた皆との仲を深めたい、とかそんなところだ。

 ツーロンは、フェイツェイが口の中のものを飲み込むのを待って、小声で話しかけた。


「どうですか?今日はフェイツェイの好きなものを多めに用意したのですが……」


 フェイツェイは体ごと顔をツーロンの方に向け、澄んだ瞳で彼を見つめる。表情は変わらないが、目が光を映してキラキラ輝いている。


「道理で、どれもこれも美味しそうだと思っていたんです。お気遣い痛み入ります。」


 公式の場なので改まった物言いをするフェイツェイだが、声は弾んでいる。近しい者にしか分からない弾み具合ではあるが。

 ツーロンが嬉しくなって微笑むと、ユージュがクスクスと笑い声を立てた。


「わたくしには何もございませんの?」


 ツーロンは慌ててユージュを見る。


「いえ、そんなことはありません。ユージュは甘いものがあまり得意ではなかったでしょう?堅果(ナッツ)はいかがです?肉月餅もありますよ。」


 フォローを入れると、ユージュは口元を隠しながら微笑んだ。


「わたくしの好みを覚えていて下さったのですね、ありがとう存じます。お言葉に甘えて、少しずつ摘ませていただきますわ。……あら、この月餅、少し大きいですわね。フェイツェイ、半分召し上がっていただいてよろしいかしら?」

「ん? 構わないぞ。ユージュは少食だな。」

「フェイツェイに比べたら、ほとんどの人間は少食だと思いますわ。」


 和気あいあいと話す二人は、とても愛らしい。

 それは良いのだが、これは、ユージュからの挑戦と思って良いのだろうか?ツーロンはふと過った考えを捨てられない。

 だって、残しておけば、フェイツェイは自然と「それ、食べないならもらって良いか?」と言うはずなのだ。だからツーロンの目の前で仲良く分け合う必要はない。これは、見せつけられている……?

 ユージュは肉月餅を半分に割り、片方を自分の取り皿に、もう片方をフェイツェイの取り皿に乗せる。そしてツーロンを見て微笑み、ついと視線をある皿に向けた。


「あら、龍髭糖(ロンシュータン)もございますわね。あちらは確か、ツーロン様とフェイツェイの好物だったのでは?」


 ツーロンは目をパチパチと瞬かせた。さっきの分け合いは、ここに繋げるための布石だったのだろうか?


「……ええ。貴重なお菓子ですが、この会に向けて、陛下も色々と協力してくださったので……フェイツェイ、少しいかがです?」


 少し呼吸して動揺を抑えると、ツーロンは普通に話を続けた。フェイツェイはというと、嬉しいようなしょんぼりしたような、複雑そうな顔をする。


「少し……あ、いや、もちろんいただきます。」


 その答えを聞いて、ツーロンはハッとする。普通に人に勧める時のように考えてしまったが、相手はフェイツェイだ。そう言えば昔も、『味はいいけど量が少ない』と言って、少ししょんぼりしていたではないか。

 失敗に思い至ると、ツーロンは龍髭飴の乗った大皿を侍女に寄せてもらい、自分の分を適量取り、残りを全てフェイツェイの前に差し出す。


「どうぞ。たくさん召し上がれ。」


 そうフェイツェイに微笑みかけると、それを見ていたフェイツェイの瞳がパッと輝いた。そして少し弾んだ声で礼を述べる。


「ありがとうございます!」


 ツーロンは安堵感と喜びで笑みを深くする。

 フェイツェイはツーロンの焦りや喜びといった感情の乱高下に気付くことなく、龍髭飴を思いっきり楽しんだ。

 

 この一連のやり取り、そこに潜む機微に気づいたのは、同じ卓についていた中でもユージュとムォリー、ランチュァンくらいのものだった。

 感情を隠す術に長けたツーロンと、感情を読み取りにくいフェイツェイ。二人のやり取りは、表面上は穏やかで感情が大きく動いていたようには見えない。二人の私生活をよくよく知ってる人々でないと、変化には気づかないだろう。

 ちなみにチーガンは、同じ光景を前にしていたが、『まったくズーチェの跡取りが食い意地を張って、嘆かわしい』としか思わなかった。ツーロン側の情報の欠如のせいである。


 ユージュは微笑ましげにフェイツェイとツーロンを眺め、袖で口元を隠しながら呟いた。


「まだお菓子に負けますか……お励みなさいませ、ツーロン様。」


 そうして和やかに、お茶会は進んでいった。

 春が終わり、夏の気配を日差しに感じる、ある休日だった。

これにて二章完結です。

読んでくださりありがとうございました!

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