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神源華の翡翠  作者: さわば
二章

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24/26

2-10.終幕1

 変化は劇的だった。

 光が収束していくにつれ、さあっと波が引くようにフェイツェイの髪色が赤から翡翠に変わっていく。

 ユージュにしてみれば長い時間だったが、実際は瞬く間のこと。光が収束仕切るのと同時に、影縫いの術も解け、フェイツェイがバランスを崩して二人は崩れ落ちる。ユージュの細腕で体勢を立て直すのは無理だった。

 

「フェイツェイ!」

 

 自身も地面に転がりながら、ユージュはフェイツェイを抱き起こした。

 大急ぎで彼女の口に水筒をあてがい、中身を流し込もうとする。意識のないフェイツェイに、気道に入らないように飲ませるのが大変だが、なりふり構っていられなかった。

 水筒の中身は、滋養のつく薬湯だ。あれだけ人の域を超えた神術を使っていたのだ、体力も気力も消耗し、瀕死の状態に近い。荒神が、元々捨てるつもりだったフェイツェイの身体を、気遣ってくれるわけなどないのだから。

 即効性を重視したので味は酷いものだが、とにかく早く栄養を摂らせなければならない。せっかく魂を呼び戻し、封印に成功したのに、身体機能が停止してしまえば全てが水の泡だ。


「お願い、飲んで……!」


 フェイツェイの口の端から薬湯が溢れ、焦る気持ちを押し込めるのに苦労していると、こくりと喉が鳴る音がした。

 その音に冷静さを取り戻し、更に二口、三口と飲ませていく。

 水筒が半分ほど空になったところで、咳き込みながら口を離すフェイツェイの背を、ユージュは支えながら撫でた。


「甘くて酸っぱくて苦くて辛くてしょっぱい……酷いなユージュ。」


 無表情に見えるフェイツェイだが、ユージュにはしょんぼりしているのが分かった。食べるのが大好きなフェイツェイだから、こんな酷い味のものを飲まされてへこんでいるのだろう。

 ……だが、生きている。

 味に文句が言える程度に、元気そうに。


「ごめんあそばせ。味の改良までは出来なかったのです。次の機会がないことを祈りますわ、切実に。」

「……そうだな。私もこのような出来事は、二度とごめんだ。」


 顔を見合わせた二人は、小さく微笑んで、空を仰ぐように倒れ込むのだった。


◆◆◆


 その後すぐ、皇帝が派遣した部隊とムォリー、神官数名が到着した。

 先行部隊が倒れ伏し、神術の打ち合いで焦げたりぬかるんだりしている現場に驚くが、それより目標の人物(フェイツェイ)とユージュが共にスッキリしたような顔で倒れ込んでいたので、その場は少し混乱した。

 神官の一人がユージュに近寄り、助け起こす。何とかまだ意識が残っていたユージュは、フェイツェイが処分されないようにと、必死で言葉を紡いだ。


「封印に……成功、しました……ここに、居るのは、フェイツェイ……です……」


 ユージュの言葉を神官が伝えると、その場は騒然となった。

 生きて帰れるかと悲痛な思いを胸に荒神を倒しに来たら、既に脅威は去ったと言われたのだから。

 神官たちは本当に封印できているのか確認するため、急いで簡易検査を実施する。


「本当、に……?」


 ムォリーはか細く呟いた。

 荒神と化してしまっただろう娘を止める……そう言えば綺麗に聞こえるが、実際やることはフェイツェイを殺すという事だ。

 そろそろと近寄って、神官たちの間からフェイツェイを見、息をしていることを確かめると、自然と涙が零れてくる。


「ああ……!ユージュ、何と言えばいいの……!」


 ムォリーは泣きながら、ユージュに駆け寄り抱きしめた。


「……いつか来る日が来たのだと、わたくしがあの子の代わりに神を抱えて生きていこうと、諦めていたのに……!」

「……おば様……」


 ユージュは重い腕を上げ、ムォリーの背を撫でた。


「あなた一人にこんな大仕事を任せてしまってごめんなさい。こんなにボロボロになって……ありがとう……」


 ぎゅうぎゅう抱きしめられて、ちょっと痛いなと思いつつ、ユージュは満足して、そのままムォリーの腕の中で気を失う。

 神官たちの簡易検査でもフェイツェイに異常なしと判断されれば、負傷者はまとめて派遣隊によって搬送された。


◆◆◆

 

 人目を避けるようにして運ばれた先は、ツーロンの宮の一角だった。

 気を揉んでいたツーロンは、先触れが来るなり部屋を飛び出して――という気分であって、実際は速足程度だ――運ばれてきた者たちを迎え入れる。

 真っ先に目に入れたのは、フェイツェイの翡翠色の髪だった。

 担架で運ばれる彼女を見つめながら、ほっと息を吐く。


「先にユージュを心配すべきであろう?全く、薄情なものよな。」


 一行の後ろから、当然の顔をして皇帝が入ってくる。


「は、母上!?何故こちらに……」

「馬鹿者、皇帝陛下と呼べ。何故も何も、朕がここに運ぶように命じたからじゃ。」


 つんと澄まして言ってから、皇帝はツーロンを流し見た。


「当てがあるなら、集まった時に言えば良かっただろうに。そなたらもまだまだよの、視野が狭い。」


 その言葉で、ツーロンは自分とユージュの動きが、どうやってか皇帝に悟られていたのだと知る。

 すぐさまその場で跪き、礼を取る。


「皇帝陛下、この責は私にあります。ユージュが示してくれた案にすがり、実行を促したのは私です。お咎めがあれば私に。」

「……その言葉、違えることはないな?」


 皇帝の悪戯っぽい声に、思わず顔を上げる。


「では命じる。この者たちの世話をせよ。使える者は限られておるのでな、そなたの手も借りねばならん。」

「……はっ。お任せください。」


 ツーロンが再び頭を下げると、くすっと忍び笑いが落ちてきた。

 後始末を任されるくらい、どうと言う事はない。ツーロンはほっとした。

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