2-6.処遇
この国は、皇帝の祖たる始祖とその手勢が、禍ツ神を討ち取って建国されたとされている。
しかし実際は、始祖と四人の部下が、それぞれの魂に荒れ狂う神を封印しただけだ。
封印した神の名を家名に頂き、その力を用いることで大陸の覇者となった。
その封印は千年を超えた今も、血族に受け継がれている。
生まれつき神々を封印している代わりに、その力を恩恵として授かっているのだ。
そして時折、百年にひとり程の割合で、封印が薄く生まれついてしまう子がいる。
その子は「凶星の元に生まれた」と呼ばれ、神官たちの監視の対象となり、極秘裏に封印を強化され続けている。
これが、今はもう一握りの者しか知らない、この国の秘密。
◆◆◆
深夜。皇帝から緊急の呼び出しを受けて、チーガンとムォリー、ツーロンは、皇帝の私室の一室に通された。
窓は小さく、出入り口はひとつだけ。部屋自体も他の部屋に比べたら小さい。いかにも密談向きといった風情だ。
その部屋には先客がいた。顔が隠れるような長衣を着た人物、神官が二人。
集められた顔ぶれを見れば、部屋にはピリッとした緊張感が走る。
フェイツェイの話になるのは間違いないが、いい話という感じはしない。
「待たせたの。皆、座るが良い。」
最後に入ってきた皇帝が、円卓の一番奥の席に座る。その右隣に神官が一人、左隣にツーロン、彼らに向かい合ってチーガンとムォリーが座る。もう一人の神官は、座った神官の少し後ろに佇んだ。
「呼び出したのは他でもない。およそ予想は付いておるだろうが、フェイツェイのことじゃ。」
口火を切った皇帝から目配せを受けた神官が話し始める。
「封印が切れかかっております。」
一瞬静まり返ったが、チーガンが焦ったように声を上げる。
「馬鹿な、次の封印の儀まではまだ間があったはずだ!」
「原因は不明、現在調査中でございます。」
あくまで冷静に返す神官。
ツーロンは震える手を握りしめ、震えを隠す。
「対処法は、あるのでしょう?」
ツーロンの質問に、神官がどう答えるのかと部屋が静まり返る。その間がやけに長く感じられた。
神官は努めて冷静に口を開いた。
「一刻も早く封印の儀を執り行うか、新たに魂を捧げて封印を確かなものにするか、ふたつにひとつです。」
前者は今まで通り、フェイツェイに犠牲を強いながらも封印を継続する方法。
後者は、第三者の魂を介して、フェイツェイごと荒神を封印する方法だ。フェイツェイを失うことはもちろん、第三者の身の安全も保障されてはいない。
「既に使いを出しておる。……間に合うと良いのだが。」
神官と皇帝の言葉を聞いて、すっとムォリーが席を立ち、膝をついて礼をする。
「もしふたつめの手段に出なければならない時は、わたくしをお使いくださいませ。」
「ムォリー!?」
チーガンが立ち上がり、ムォリーの傍らに膝をつく。
封印の代償に使われて、無事に意識が戻るかわからない。そんな心配からだった。
「大丈夫です。始祖様たちとて、その後皇家と四家を建てたではありませんか。」
「なら……それなら私の方が」
「いけません。今の当主はあくまであなたなのですから。」
ムォリーは、言葉では戻ってくると安心させていても、既に帰って来られなかった時のことを考えている。チーガンはぐっと拳を握り、耐えるように肩を震わせた。
「……まだ、フェイツェイが戻って来ないと決まったわけでは……」
悲痛な空気になりがちな中、反論するようなツーロンの声を遮るように、唯一の入り口を叩く音がした。皇帝の出した使いだった。
「ズーチェのフェイツェイ嬢を呼び出しに参りましたが、演習場のどこにも見当たらないとのこと。いかが致しましょう?」
部屋にピンと緊張の糸が張った。
第二の手段が近づいたことに焦ったツーロンが、思わず椅子を鳴らす。
「……探せ。見つかるまで探し続けよ。」
使いが去ると、皇帝は椅子から立った。
「ムォリーは神官庁へ。城壁の中へ入られる前に片を付けよう。」
「お待ちください、陛下!」
「待たぬ!」
皇帝は第二の手段を取った。
ツーロンの悲痛な声に、重く威圧的な声が重なる。
「許せよツーロン。朕はこの国に住まう、数多の命を背負っておるのじゃ。」
そのまま振り返ることなく部屋を後にする皇帝、ムォリー、神官。チーガンは目礼し、ツーロンを残して行った。
「……フェイツェイは……彼女とて民で……」
頭ではわかっている。たった一人の命と、国中の命を天秤にかけるなど、為政者のすることではない。
それでも、諦めきれない。
ふと、手元に影が落ちた。
振り返ると、先程去った神官の傍らにずっといた神官が立っていた。
「フェイツェイを、呼び戻しましょう。このまま荒神ごと封印なんて、真っ平です。」
その声を聞いて、ツーロンは目を見開いた。
「……ユージュ?」




