0ー3.交流2
それから数日、ユージュはジェジェに琴を習い、フェイツェイは小さな太鼓に切り替えて遊んだ。大雑把なフェイツェイには琴を奏でることより、叩けば音が出る太鼓の方が楽しかった。
また別の日、日差しも温かく、良い日和だった。音遊びにも慣れて少し退屈し始めたフェイツェイは、太鼓を持ったまま器用に船を漕ぎ始める。ユージュが脇からツンツン突いても、その時はハッとするものの、眠気はなかなか去ってくれない。
ぽかぽかとした庭を眺めていたジェジェが、不意に呟く。
「そうだわ、少し散歩をしましょうか。」
そんなジェジェの思いつきから、蕾が綻び始めた庭で散策をすることになった。
ジェジェが庭を案内して歩くすぐ後にフェイツェイが続き、ユージュは一歩下がって続く。そのさらに数歩後を、侍女達がついてきていた。
フェイツェイは興味を引かれるのか、あちこち寄り道したりしゃがみ込んで植物を観察したりしながらついて行く。幼子らしい行動にジェジェは微笑んだ。
「あちらに鞦韆があるわ。良ければ遊んでいきましょうか?」
フェイツェイはすぐ誘いに乗って、跳ねるような足取りで鞦韆に向かう。
華麗な庭の中に開けた場所があり、そこに鞦韆が設置されていた。この宮に相応しく、綺麗に色を塗られ細工が施されている。フェイツェイは、本当にこれで遊んで良いのかと首を傾げた。
「さあ、誰から乗る?」
ジェジェは気にすることなく、丁寧に磨かれた座板を繋ぐ吊り縄に手をかける。縄もささくれなどひとつもなく、上等そうだ。
フェイツェイはユージュを見て、ユージュはフェイツェイを見た。フェイツェイの目は爛々と輝いていて、ユージュの目は困ったように揺らめいていた。お互い、何となく相手の思っていることを察して、譲り合いはあっさり終わった。
「……ジェジェはのらないのか?」
「わたくしはいつでも乗れますから、今日は二人に乗って欲しいわ。」
「わかった、じゃあ私がのる!」
フェイツェイが弾む足取りで鞦韆に近づき、座板に座ると、ジェジェはそっと背中側に回った。
「最初はわたくしが背中を押しますね。慣れてきたら、自分で漕いでみるといいわ。」
フェイツェイはワクワクしながら、背中を優しく押される感触を楽しむ。少しずつ揺れが大きくなっていくと、振り子のように揺れる感覚が楽しいし視界も変わってきた。揺られる感覚に慣れてきたフェイツェイは、自分で鞦韆を漕ぎ始める。重心移動をさせ、もっと高く、もっと大きく揺れるように、ぐんぐん漕いでいく。
ジェジェが背後から離れて、鞦韆の脇でフェイツェイを見ているのが見えた。その隣で、ユージュが目を真ん丸に開いて口元を押さえている。揺られる楽しさの中で、フェイツェイは何とも言えない可笑しさを感じていた。二人の目が、家族が自分を見る目に似ていたからだ。心配、期待、それらが混ざり合った不思議な感情。それが自分に向けられている。私は大丈夫だと言いたいが、この速さでは、口を開いたら舌を噛むかもしれない。手を振ろうとしたら、体が持って行かれて飛ばされそうだ。それらはとても痛いだろう。こういう時はどうしたらいいのだっけ、と考えながら漕ぎ続ける。
ぎい、ぎいと縄が軋む音を聞きながら、フェイツェイは少しずつ速度を落としていった。満足したのもあるが、何となく二人の元に戻りたくなったのだ。ゆっくりと止まりそうな揺れになってきたら、ぴょいと飛び降りた。ととっと少し転げるように前に歩いたが、怪我はない。顔を上げたら、いつの間にかユージュが気絶していて、ジェジェの侍女に介抱されるところだった。
不思議そうにユージュを見て首を傾げるフェイツェイだったが、くすくすと殺しきれない笑い声を聞いて、声の主、ジェジェを見る。
「フェイツェイは……とても……お転婆なのね……」
笑い声の合間に絞り出した言葉は、なんだかとても楽しそうで、フェイツェイは天女を笑わせたと誇らしい気持ちになった。もっとも、悦に浸っていたのは、ユージュが目を覚まして説教を始めるまでだったが。それでも、その小さな誇りは、フェイツェイの胸に芽吹いたのだ。
笑いすぎて出た涙を拭いつつ、ジェジェは聞こえないような小さな声で呟いた。
「……この鞦韆、もっと頑丈に補修しておいた方がいいかしら……?」




