クラス1の美少女とクラスで2番目にかわいい妹が俺のことを取り合ってくる件
お立ち寄り頂きありがとうございます。短め(連載1話分くらい)なので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。
夏休みを目前に控えた教室。冷房の効いていないから茹だるような暑さの中。俺はクラス全体の暑苦しい注目を集めていた。なぜなら――。
「タケルくん、水族館のチケットを2枚貰ったんだけど、夏休みに一緒に行かない? 」
こんな暑苦しいのにクラスで1番可愛いと言われる美少女――黒崎野薔薇に鼻と鼻がくっつきそうな距離まで顔を近づけて迫られていたから。しかも暑さののせいか、彼女はYシャツのボタンを2番目まで開けていてその豊満な胸を包む下着が下手したら見えてしまいそうで目のやり場に困って余計に質が悪い。
クラス1の美少女である黒崎に俺みたいな冴えない男子高校生が言い寄られること。それは実は珍しいことじゃない。と、いうか、ここ2週間はことあるごとに俺に対して構ってくる。と、いっても黒崎がおれに恋をしてしまったから、なんていう理由から迫ってくるわけじゃない。
「あー、また野薔薇がお兄ちゃんに言い寄ってる! お兄ちゃんの周囲3メートル以内に入るのは真百合の許可がなければダメ、って言ったでしょ!」
甲高い声が聞こえてきたかと思うと、これまた暑苦しいのに俺と強引に腕を組んでくる美少女がいた。彼女こそが黒崎がここ最近、俺に構ってくる主な原因である白河真百合――俺の双子の妹にして、このクラスで『2番目にかわいい』と言われる女の子だった。
黒崎が俺に構ってくるようになった経緯はこうだ。4月。クラスがはじまってから暫く経つと、誰が言うともなしに黒崎が『クラスで1番可愛い女の子』、真百合が『クラスで2番目に可愛い女の子』と言われるようになった。それに対して当初、黒崎は涼しい顔をして黙認していたが、それに突っかかったのが負けず嫌いなわが妹だった。それから、黒崎と真百合はことあるごとに勝負するようになった。
でも、成績でも運動でも常に黒崎の圧勝だった。そんな真百合が負け惜しみで口にした科白がこうだった。――『い、いいもん。この世界の殆どの人にとってあたしが2番だったとしても、世界のたった1人、お兄ちゃんさえあたしのことを『1番』だって言ってくれればそれでいいもん! 』
そう、俺と真百合は自慢じゃないがお互いにシスコン・ブラコンの兄妹だった。そんな俺にとって妹の真百合が『1番』なのは当たり前だった。そして、それはクラスが始まってすぐに周知の事実だった。だって俺達はクラスでも兄妹同士のイチャイチャを隠そうともしなかったから。
まあそのことについては正直、真百合のブラコンがあからさますぎたから男子たちが僻んで『クラスで2番目』に真百合をしてるんじゃないかとも思ったけれど、それはとりあえず置いておいて。
この負け惜しみの結果、これまで黒崎の眼中にすらなかったモブキャラ、『ライバル(笑)の兄A』が認識されるようになったのである。
それから黒崎は俺たち兄妹のことをじぃっと観察してくるようになった。それで気づいてしまったのだ、世界で少なくともたった1箇所でも『真百合が1番』になり、『黒崎が2番』になってしまう場所があることに。俺にとっては銀河一可愛い妹と送る平穏なハイスクールライフを送りたい俺としては、正直気づかないでほしかった。
ともかく、そのことに気付いた黒崎はらしくもなく地団太を踏んで悔しがった。これまで『1番』が当たり前だった彼女にとってはじめて直面した『1番になれない場所』。その事実自体が、黒崎には許せなかったんだと思う。その結果、ここ最近の黒崎は俺の『1番』になるべく、ことあるごとに俺のことを口説こうとしてくるのである。そして真百合も真百合で、それを黙って見過ごすようなお人好じゃなかった。これまでもそれなりに激しかった兄妹間のスキンシップは黒崎に張り合うかのようにどんどんエスカレートしていったのだった。妹よ、そこは張り合う所じゃない……。
そんなこんなで、俺は『クラスで1番可愛い』女子と『クラスで2番目に可愛い』女子の競争の道具にされてしまったのだった。そのおかげで女子からはゴキブリを見るような目で見られるわ、男子からは明らかな敵意を向けられるわ、ごく少数の『百合を保全する会』なる組織から『百合の間に挟まる男は死すべし! 』と命を狙われるわ、散々だった(因みに俺は百合好きだ。この世界の全員が女の子は女の子同士で、男の子は男の子同士でお付き合いすればもっと世界は平和になると思う。その礎となって俺が殺されるのはごめんだが)。
「ほんと、泥棒の黒猫は油断も隙もないんだからっ! 」
しゃああ、と猫のように威嚇する真百合。妹よ、そんなことをしているとお前の方がよっぽど猫みたいだぞ。そう思ったけれど、妹に嫌われるのが怖いお兄ちゃんは思ったことをごくり、と飲み込んでおく。
「あなたの方こそ大概よね。そろそろお兄ちゃんから卒業したら? あなたに束縛されてタケル君もかわいそう」
同情するように目を潤ませてくる黒崎。それに対して真百合は俺と腕を組む力をぎゅっと強めてくる。
「兄妹は卒業とかないんですぅ。一生、死ぬまで兄妹のままなんですぅ」
「まああなただったらそんなことを言うと思ってたわ。――仕方ない、本当はこの科白は、もっとロマンチックな場所――そう、夏休みの水族館まで温存しときたかったのだけれど、仕方がないわね」
黒崎の意味ありげな科白にこれまで徹底抗戦を続けていた真百合がちょっと怯む。
「この科白って……」
「確かにあなた達は兄妹よ。でも、兄妹であるあなたには絶対になれない関係――それに、わたしだったらなることができる。あなたには絶対になれない、タケル君のたった1人しかいない『1番』にね」
勝利を確信した表情で真百合に向かってそう言った後。改まった調子で、不安そうに少し視線を揺らしながら、黒崎は俺のことをまっすぐに見つめてくる。
「白河タケルくん。――わたし、あなたのことが好きになっちゃった。だから、わたしと付き合ってみない? いくら可愛い妹さんだからって、ずっと一緒にいられるわけじゃないし、彼女にできるわけでもないでしょ。真百合さんだっていつかは結婚し、タケル君の元を離れていく。そうなった時、1人だときっと寂しいわよ。だから――わたしの彼氏にならない? わたしなら、いつまでもタケル君の傍に居てあげられる」
黒崎の破壊力抜群の告白にクラス全体が静まり返る。男どもの一部と『百合を保全する会』の一部はあまりに尊すぎて失神してる(というか百合を保全する会の一部メンバーよ、なぜ失神してるんだ。俺は男だぞ)。
そして。決定的な科白を言われて真百合は今にも泣きだしそうになっていた。黒崎が言った『兄妹は恋人同士になれない』『兄妹はいつまでもいられない』というのは一般的に考えるとあまりにもド正論すぎたから。でも――。
「黒崎、俺はお前とは付き合わない。なぜなら俺は一生、死ぬまで真百合と一緒にいるからだ」
迷うことなく言い切った俺に、勝ちを確信していた黒崎の表情が揺らぐ。
「な、なんで。まさか妹と結婚するとでも言う気? 」
「まさか。確かに俺は自他ともに認める重度のシスコンだが、日本の民法ぐらい知ってる。何より俺と結婚なんかしたところで真百合は幸せになれないし、世界だってこれっぽっちも平和にならない」
「世界平和とかよくわからないけれど……なら、どうやって一緒にいる気よ」
「真百合が素敵な人と結婚し、家を出ていったとしても、俺は真百合についていく。だって俺にとって真百合は『世界で1番』で、真百合にとって俺は、『世界にたった1人しかいない』お兄ちゃんだからな。真百合に『お荷物だ』といくら拒絶されようとも、俺はついていく。それだけ、俺の真百合に対する思いは本物だ。この気持ちはぽっと出の、せいぜい世界1可愛いレベルの美少女なんかに捻じ曲げられるようなものじゃない」
「お兄ちゃん……! 」
感激したかのような妹の視線。ちょっとは見直したぞ、とこれまで共に戦ってきた仲間に対してのように力強く頷く男子共の視線。わたしを振るなんてありえない、という信じられない者でも見るかのような黒崎の視線。何言ってんだこいつ、とでも言いたげな女子たちの視線。様々な思いの籠った視線が俺の一身に浴びせられる。でも、それは次の俺の台詞で台無しになる。
「それに、料理が壊滅的な真百合に1人暮らしさせるなんてありえないからな。真百合が結婚する相手を壊滅的な料理で殺害しちゃいました、なんて言われて警察から取り調べを受けるのは嫌だし」
「お兄ちゃん! あたしが料理ができないこと、まだこのクラスのみんなは知らないんだからそんなトップシークレット流さないでよ! 」
真百合の美しいドロップキックが炸裂し、俺は教室の隅まで吹っ飛ばされる。そんな大好きな妹のドロップキックを浴びられた高揚感の中。俺はゆっくりと気を失っていった。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。この作品はギャグ調のラブコメを目指して書いてみました。この作品がもし「面白い」と感じたり、楽しいと感じてくださったら作者冥利に尽きます。
なお、本作は『2番手ヒロイン三部作』の第2作として『クラスで2番目にかわいい』幼馴染がぼくにとってはかわいすぎる』のある種カウンターパート的な作品になっています。もし興味が湧きましたらこちらもお立ち寄り頂けると嬉しいです。URLは↓。
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