動く人形
某大都市の郊外。
数年前に新築された住宅がある。
そこは、いわゆる旧家。
今の建物は何度目かの新築。
この家に、戦前から大切に保管されている人形が。
青い目の人形。
戦時中にこの家から召集された大学生が。
学徒出陣。
彼の交際相手だった女性が、人形をプレゼントしたらしい。
当時の事情から、このことは家の秘密にされ、家族以外にはいっさい口外されなかった。
出陣した男子は、間もなく白木の箱になって帰宅。
さて、くだんの人形。
秘密にされているのは、今も存在することだけではなく、夜中に動くこと。
世帯主の床の間に、ガラスのケースに入れて置かれているが、夜中に動く様子が何度も目撃され、動画に撮影されている。
これらについても、今の家族として、秘密が厳重に守られている。
どのように動く?
まず、人形の向きが変わること。
ここの家族は、動画を繰り返し見た上で、ある推察を。
「人形は、某神社のほうへ向きを変えている」。
某神社とは…
英霊が合祀されている神社。
そして、この人形は両腕も動く。
左右の腕が、伸びたり曲げられたりしながら、それぞれ別の方向へ。
2通りの向きは何度も変わり、何かのシグナルを発しているように見える。
この様子を動画で見た家族は、関係しそうな資料を図書館から借りたりして調べ、推察した。
「手旗信号ではないか」。
確かに、当時の状況とぴったり符合している。
この人形は生きている。
きょうも夜中に…