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掌の上

 〜只今、第二回神さまフルボッコ大会開催中〜




 あれから間もなく、地球から輪廻転生を担当している事務員だと言う人がやって来た。

 事務員は件の娘の事を覚えており、「あの子に何か問題があったのか」と聞かれた。

 そんな事務員にこれまでの経緯を説明。静かに話を聞き終えた事務員はいの一番にこう言った。


「事情は分かりました。話の前に少々お待ち下さい」


 そしてどこからか出現した巨大なハンマー。

 おもむろに神へと振り降ろされるハンマー。

 当然のように続く勇者。

 再び観戦体勢に入る魔王。ポップコーンとコーラが欲しい。




「なんで、そんな、事に、なってるの、よ!!」


 しばらくドゴッ、グシャッ、と破壊音? ばかりが木霊する時間が続いた後、事務員のモーションが変化した。

 あ、必殺技来るな、と分かる溜めがあり、そして。


「勇者の、幼馴染み、とか、ヒロイン、ポジション、だと、思うじゃない!! 始めから、殺させる、予定なんてっ、聞いて、ないっ、わ、よっっっ!!!」


 ドガガガガッ!


 放たれた連撃。事務員は、はーっ、はーっ、と肩で息をしながら手を止めた。

 もう終わり? という顔をしつつ大人しく引き下がる勇者。

 後に残ったのはボロ雑巾からミンチに進化(?)した神。


 一段落ついたと判断し、魔王は問い掛けた。


「聞いていいですか? 先程のセリフはどういう意味です? この神は正当な手段で他の世界の魂を招き入れたのではないのですか?」


 元々、勇者の為に幼馴染みの行方を知ろうと、あわよくば二人を引き合わせられないかと呼んだひとだが、聞き捨てならないセリフが聞こえたのでそちらを先にする。


《僕はちゃんとまともに――》

「てめぇは黙ってろ」


 なんだか後ろの方で神が何か言おうとして勇者に潰されたりしてるが放置。


「手続き自体は正式に不備無く処理されたわ。内容も、そうね、嘘をついた訳では無いのよね。『勇者を正しく導く幼馴染み役』と聞いて、こっちが勝手に勘違いしただけなのよね。ああもうっ!!」


 事務員はそう言って苛立たし気に髪を掻き回す。


 魂の世界間移動を持ち掛けたのはこの神の方だそうだ。

 自分の世界で行き詰まっている、現状打開策として他所の魂の介入を考えている、と。

 地球の方は見込んだ魂が同意するならと反対はしなかった。

 魔王の見たところ、地球の神は放任主義だ。他所の世界との交流も気に留めていないと言うのは本当だろう。

 自由にさせる代わり、困難にも手を出さないが。

 そして異世界の神は一人の魂を見出し、その魂も納得した様子であり、何ら問題無く二人を見送り、やがて戻って来た魂を迎え入れた、というのが地球側から見た顛末だ。

 戻って来た魂も、普通に元気でおかしな様子も無く、誰も違和感を感じなかったという。

 なので魔王が連絡を入れた時はまるで心当たりが無く困惑していたそうだ。


 そうして何事かと来たら、聞かされた話がこれ。

 うん、頭抱えるわ。


「詐欺と言うべきか確認不足と言うべきか、難しい所だな」

「ええ、質が悪いと思うけど、糾弾する内容では無いのよ。これに関してこちらから口出しする権利は無いわね」

「……あいつボコって良かったのか?」

「大丈夫よ。うちのボスなら『やんちゃさんだね☆』で済ませるから」


 それもどうなのか。


「あ〜、ともかく件の魂は無事で地球に居るんだな?」

「事務員殿、リアナと会わせて欲しい。頼む」


 若干無理矢理話を進めた魔王。

 そこに勇者が被せ気味に口を挟んだ。想い人の事ゆえ大人しくしていたが、ずっと焦れていたのは分かっていた。

 事務員もそれは察していたのか、勇者の態度に不快を表す事無く、対応する。


「ごめんなさい、出来ないわ」

「なぜ」

「あの子はもう、生まれ変わって地球上で生きているの」


 どういう事かと問う勇者に、事務員は順々と説明する。

 世界間を行き来するのは本来難しい事であること。

 魂だけなら可能ではあるが、膨大なエネルギーが必要であり簡単では無いこと。

 肉体を持った状態で無事に世界を渡ろうと思えば、双方の世界の神が上位で協力し合わなければならないこと。


 何度も世界を行き来してきた魔王は例外がある事を知っていたが、勇者はそれには当て嵌まらないので言わなかった。

 魔王のような特異体質(魂質?)はそうそう居ないのだ。


「一応言っておくけど、あの子を死なせて連れて来る、なんて絶対にしないわよ? あの子、今生では気の合う友達も出来て楽しくやってるんだから」

「そんな事言いません。……リアナは楽しく生きてるんですか」

「そうよ。だから、そこは諦めてちょうだい」

「――分かりました」


 説明を終え、静かに話を聞いていた勇者は言う。


「では今から死ぬのでチキュウに連れて行ってください」

「待て」

「ちょ、なんでそうなるのよ!」


 躊躇い無く己に剣を向ける勇者を慌てて止める。


「リアナは楽しく生きてるんでしょう? それなら俺だって邪魔したくないです。なら、俺がそちらに行くべきでしょう」

「いや、言いたい事は分かるがな?」

「いきなり自殺しようとすんじゃないわよ! 何考えてんの!?」


 これまで勇者を見て来た魔王は、勇者の行動にも『さもありなん』としか思わない。しかし事務員的には突然の凶行だ、慌てている。

 ……ふむ。


「勇者の望みは分かった。それなら私が勇者を殺そう」

「あんたまで何言い出すの!?」

「……え?」

「私は魔王で、お前は勇者だ。殺す理由としては十分だろう」

「いや、でもあんたは」

「今更殺人を拒みはしない。――それにな勇者、自殺というのはお前が、ヒトが思うよりずっと危険な事なんだ」

「危険?」

「そう。いいか勇者、よく覚えておけ。自殺は、魂に傷を付ける。自分で自分を殺すというのは、ただ命を失うだけでは済まない。恐ろしい行いなんだ」

「よく分からないが、それじゃリアナは」

「あ、それは神の指示だしそうなるよう仕向けた奴の責任もあるからそう問題は無い」

「なら良い」


 むしろ、そんな指示をあっさり受け入れてしまう意識の在り様の方が問題だ。


「自ら死ぬしか選択肢が無い時や、自分の死が最善の結果に繋がる、なんて状況もあるから絶対やるなとは言わん。けれど、可能な限り回避しろ」

「……」


 あ、まだなんか納得いってないな。


「……勇者も、思う人への気持ちや思い出なんかを失くしたくはないだろう?」

「分かったやらない」


 良し。


「………あなた達……本気、なのね?」

「受け入れ難いだろうが、彼のその子への執着は強過ぎる。寿命が尽きるのを待っても、それまでの時間をただ無為に潰して終わるだけだ。それなら、私の手で送ろうと思う」

「魔王…………」

「仲が良いと言えば良いんでしょうけど……」


 釈然としないわ、そう溢して事務員は説得を諦めた。どっちも手に負える相手ではないようだ。


「まだ問題は残ってるわよ? あなたの魂を無事に地球まで送るには、私では力不足よ。そこの神も随分弱ってるし、魂を送り出すには頼りないわ」


 地球側の人員も、今は人手不足で協力を取り付けるのは厳しいらしい。

 ちなみに神が弱ってる、というのは既に一つ魂の遣り取りをしたばかりだから。この神の力量では連続して魂の遣り取りは出来ないので二人にボコられたのは(結果的には)関係ない。


 考えていると。


「――それなら、俺の勇者としての力は使えないか?」


 なんて、勇者が言い出した。

 魔王は表面を繕いながら、神へと意識を向けた。


「どれ? ――ちょっと、なんで一個人(たましい)にこんな能力付与してんのよ!?」


 その辺りはまだ説明してなかったか。ここでまた斯々然々。

 頭痛い、と頭を抱える事務員。


「はぁ。まぁ、これだけあれば後は(こいつ)から絞れる量で足りるわね。ただ、これで力使い果たしたらあなたは無力な一般人よ。いいのね?」

「構わない」

「そう。ならいいわ」


 話が付き、では早速と言う勇者に待ったを掛ける。


「一度地上に戻って別れをして来たらどうだ? そのお嬢さんの葬儀もやってないだろう?」

「……………。そうだな、弔いはするべきか」


 渋々とした様子で頷く勇者。気持ちはもう地球に行っちゃってるんだろう。

 気が急くだろうが、こういう事はきちんとして行く方がいい。別に急いではいないのだし。


 事務員の方もその方が良いと勇者を促す。そして死んだら地球に来れるよう手配をし、準備をすると先に帰った。


「私はもう少しコレに話があるから先に戻っててくれ」

「そうか。じゃあ、後で」


 勇者を地上に送り、神域は静かになった。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「――で、感想は?」

《最っ高!!!》


 がばりと起き上がり、芝居がかった動きで腕を広げる神。起き上がると同時に傷が修復されパッと見は回復しているが、見た目だけだ。

 変わらず瀕死のまま、けれど元気に語り出す。


《貧しい暮らしの中育まれる二人の絆、使命に引き裂かれる二人、愛しい人の元に帰る為に奮闘する勇者、けれど愛は失われ暴走する――》


 ウザい。

 魔王は早々に耳を傾けるのを止めた。うん、お前はそういう奴だよな、知ってた。

 異世界から来た少女の悲劇も、勇者の絶望も、こいつには娯楽なのだ。

 しばらく語り続けた後、気が済んだのかふと言葉が途切れ、魔王へと向き直る。


《勇者の力の処理が出来るだけでも御の字なのに、こんな素敵な物語が生まれるなんて!! 本当に、君には感謝するよ。君に依頼して良かった》


 言って、魔王の手を取りにこにこと晴れやかに笑う神。

 こんなに喜べない感謝も珍しいな。


「どういたしまして」

《改めてお礼をしたいな。何か望みはない?》

「そこまで言われる程の事はしてないだろう、過分な報酬はいらないよ」

《いやいや! 世界を超えて想い人を追い掛けるあのエピソードは君が居なくちゃ成立しなかった! 戦時中の物語も君が程良く強敵だったからこそ発生したんだ、過分なんかじゃないさ》

「そうか? ――それなら」


 ふと、思い付く。


「それなら、世界の運営というものを体験してみたい」

《世界の運営?》

「普段貴方がやっている、様々な調整やなんかだな。――無理ならいい」


 少し前から思っていた。この神の干渉が、一時的にでも無くなれば、と。

 この神は未熟だ。無論、初めから完璧である必要は無いし、ある程度の失敗は成長に必要なものとして許容されている。

 かと言って、地上に生きるモノ達が蔑ろにされていい訳がない。


 神が至らないのは仕方ない。しかし、こんな風に神に振り回され続けるのは地上のものが気の毒過ぎる。

 余計な干渉の無い時代があってもいいではないか。


 魔王はただの通りすがり。ずっとこの世界に居る訳じゃない。

 そんな自分がここまで干渉するのはやり過ぎだとは思う。しかし通りすがりを貫くなら、勇者の暴走も放置すべきだった。

 それが出来なかった時点で手遅れなのだ。ならばいっそ、思いっ切り関わってしまえ。


 そう思って出してみた提案。

 もちろん、無茶を言っている自覚はある。ダメ元だ、幾つか策を――と考えていたらあっさり頷かれた。


《いいよ~》

「……いいのか?」

《うん、君ならおかしな真似しないだろうし。はい、神権代行権限》


 なんだその信頼。せめて悩めよ最高責任者。


《じゃー僕は地上の観察するから、気になる事あったら声掛けてねー》


 ……………………………。


「あんた、暇になるならヒトとして産まれてみないか?」

《へ?》

「勇者と幼馴染みの物語、気に入ってたみたいじゃないか。見るだけじゃなく、体験して来たらどうだ?」

《へっ? えっ? 僕がヒトに?》

「ああ。短い期間でも、ここを離れられる機会などそうそう無いだろう? 貴重な体験をさせて貰う代わりに、管理はしっかりとやろう」


 どうだ? と問うと、よほど予想外だったのかア然としていたが、直ぐに好奇心が表に出て来た。


《やる! やるよ! ヒトとしての生かー、どんな感じかな?》

「どんな所に産まれる? やっぱり最初は無難な所にするか? それともまず退屈しなさそうな所にするか?」

《次があるか分からないもの、無難じゃもったいないよ。ヒトを満喫したい!!》

「ならこの女性の子どもはどうだ? 波乱万丈な、退屈とは無縁な人生になりそうだ」

《任せる!》


 任されたので、渡された権限を早速使って転生先を決定。

 張り切る神を見送った。


 選んだ転生先は、魔王襲撃により故郷を追われた難民の集団の中。貧困に喘ぎながら各地を転々としている一団の一つ。

 母親は自主性の薄い、困難にも他人を頼るばかりのヒトで、且つ見る目が無い。夫は目先の事しか見えず、行き当たりばったりでどんどん状況を悪くするばかり。どちらも自分の事ばかりで他人への気遣いは感じられない。似た者同士、お似合いの夫婦ではあるのだろう。

 こんな両親の元で産まれる子どもは不憫でならない。

 しかし元からトラブル歓迎という相手にはうってつけの転生先だ。


 きっとただ生きるだけで必死にならざるを得ない、努力もちょっとやそっとじゃ報われない、大変な苦労を伴う人生になるだろう。

 上手く行けば、神が感動したような悲劇も実体験出来るかも知れない。当事者として。


 ――神として、時に悲劇を起こさなければいけない事もあろう。そんな相手に、痛みを、悲しみを、……生の感情を教える事が正しいかは分からない。

 それでも。

 それを行うなら、その意味を、どんな思いをするのかを知った上で。

 ……我ながら、大きなお世話だと思うけど。

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