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セリュー帰還 次へ

朝日が登る中私は街への帰路に就いていた。

禍々しい魔力が渦巻いていた森は静まり返っていて魔物は一匹も出てこなかった。

二度思い切り叩きつけられた私だけど幸い大怪我はしていない。

ただし、ちょっと分厚い程度の服はあちこちボロボロ。

スカートなんかひどい有様だし胸元もかなり危うい所だった。


(ポロリしそうで怖いなぁ)


もう下手に走ったりは出来ない、こういう事があるから着替えは用意しておくべきなんだねー……

もそもそと干し肉を齧り、魔法で作った水を飲んで取り敢えずの驚異が去った事にホッと胸を撫で下ろす。

実感が湧かなかったけど……こうしてホッと気を抜ける様になると実感が湧いてくる。


「んー……取り敢えず母さんには怒られそうだなぁ」


大丈夫大丈夫と言って得意満面で魔法使って説得したのにボロになって帰ってくるんだもの。

五体満足で帰って来たと安心はするだろうけど……うん、絶対怒る。

帰りの道すがら……森をマジマジと見てみる。

手付かずの森を見るのは久しぶりだ、見たのは何年前だろう?

ううん、前世でも指折り数える程度だと思う。前世はコンクリートが地面を覆う世界だったもの。

今の人生でも森に入ることは無かった。ずーっと乳牛のお世話したり麦の栽培に精を出していたんだもの。


「目印も解凍してるよねぇ、ハァ……ロウ・トレントに教えてもらってなかったら迷子だったかも」


まっすぐまっすぐと進んでいっている森の道なき道。

方向感覚は簡単に失われやすい変化に乏しい道だ。

真っすぐ歩きながらだから方角を見失ってはいないけど……


(呑気に立ち止まって周りを見てたらすーぐ方角見失うよ)


狩人とか他の冒険者はどうやって方角に当たりをつけてるんだろう?

上を見上げて星が見えたら方角を割り出して従えばいいと思うけど。

やっぱり刃物で傷入れるのかなぁ、その辺も聞いてみよう。

鬱蒼と茂る森の風景に光が差し込んでくる、あぁ出れた。

上を見上げれば太陽がこんにちは、耳を澄ましてみて剣戟や怒号も聞こえない。

あとは徒歩でクソながーい道を歩いて街まで戻らなきゃいけないワケかぁ。

冒険って響きは良いけれどこうして歩くとすごく怠いのもあるかも。

長距離移動はできるだけ別な足がほしいね。



道中魔物に遭遇するわけでもなく危なげなく街までたどり着いた。

守衛のおじさんには私の格好で慌てられた。

大怪我はしてないけれど服装がボロボロ、自慢の銀髪とかも汚れてた。


「魔物たちが急に勢いを無くして出てこなくなったと聞いたけれど、まだ居たのか!?」

「めちゃくちゃデカいトレントとやりあったんです……討伐してきましたよ」

「おぉっ……これは、本物か?」

「通って良いから取り敢えずキミはギルドに報告して休んでくれ」

「はぁい、もうへっとへと……」


とりあえず水浴びをゆーっくりと楽しみたい。

あとバキバキになった全身投げ出してグースカ寝たい。

一日水浴びしてないの結構キツイ、自覚したらめちゃくちゃ水浴びしたくなってきた。

幼少期はそんな事なかったのにねー、めちゃくちゃどろんこになって遊んでたのに。


街に入ればどこか暗い空気だったのが一変して明るく希望が見えていた。

両腕を失いながらも生き延びている人、傷だらけになりながらも生還して家族と談笑している人。

あっちこっちに笑顔を浮かべて生活を送る人が居る。よかった。

父さんはどうなったんだろう?ギルドにする報告が終わったら母さんの所に……


「っ……お父さん!!」

「アルエット、お前……良く無事で……!」


ヘロヘロになりながら来たギルドの前、お父さんがソワソワしながら立っていた。

お父さんは……片腕が無くなっていた。でも生きていてくれた。

走り寄って抱きついてギュッと……顔を押し付けて……

ドクンドクンと脈打つ心臓の音に、上から降り注ぐ愛しい声に涙腺が緩む。

背中に回される片腕がちょっと悲しくもなるけど、良かった。


「ん?お父さん……」

「な、なんだアルエット?」

「……仕方ないかもしれないけど、娘のおっぱいで固くするのは」

「……コロシテ」


うん、年頃の娘がこんなワガママボディになったらしょうがないよね!

きっと若い頃のお母さんより魅力的だもん。


「母さんに言いつけるね、ケダモノ」


がっくり項垂れた父さんは放って置いて、ギルドに報告だ。



ギルドに詳細を報告すると王都からの情報が伝えられた。

おそらく私が倒したエルダー・トレントと同じく魔王の尖兵が各地にあらわれている。

王都に集っていた勇士が各地にトンボ返りして迎撃にあたっているけれども……

私と同じように元凶を発見、元凶と思わしき物を見つけた、感じたという報告はまだ無いらしい。

それに神の啓示を受けたっていう冒険者も居ない……ふむふむ。

あぁだからかと納得もする。


(あのちょっと荒れ気味の冒険者さんはそういうことかぁ)


ギルド内の酒場で荒れてる見るからに屈強そうな冒険者さんが居た。

大声で騒いでいるから愚痴の内容も大まかには聞こえてきているし。

緊急事態と聞いてコッチに派遣されたのに何もないじゃねぇか無駄足だった!

みたいな事を延々と愚痴ってる、無駄金やけ酒は良いのかなぁ?


「よし、とりあえず半分は父さんに渡して……寝よう!」


エルダートレントの討伐報酬は結構なものだった。

農村と変わらない生活を送れば4ヶ月は食いつなげる。

それだけ大きな額が入ってきて私は震えた、冒険者すげーって。

まぁエルダートレントが特別なんだろうけど……それでも他の依頼報酬を見てもすごい額だった。

報告するものは報告したし私はギルドを後にする……前にお父さんを引っ張っていく。

……お父さんを引っ張るなんて前は出来なかったのにね。

すべて終わった後平和になっても私は一般人に戻り切ることは出来なさそうだなぁ。



水浴びも何もかも終わらせて冒険者として貸し与えられてる寝床に転がる。

服は着慣れた農民服、寝巻きは今度買ってくるとしよう。

魔法使いの服も修繕してもらわないとだし……はぁー、必要経費が結構あるなぁ。

計算機や紙なんか無いから完全に暗算でやってるけど……頭が痛くなる。


「あーだめ、もう眠い……おやすみなさい……」


これからどうしよう、どうなるんだろう?

そんな不安を抱えながら微睡みに落ちていく。



――――『汝、試練を乗り越えし勇者……ここに祝福を与える』



バッと跳ね起きる。神様の声が聞こえた気がする。

祝福?いやいやご冗談を、冒険に出る前にくれたんじゃ無かったんですか?


(ん?蒼銀……これ、私の髪?)


跳ね起きた私の視界に降りてくる見慣れたような違和感を覚える毛髪。

私の毛髪の色は真っ白、雪のような真っ白な髪だった。

この世界ではまぁなくはない髪色、というか髪色は遺伝に関係なかったりする。

それが色味が変わっているんだ、ちょっと困惑する。

透き通るような蒼が混ざった自分の髪をつまんで……首を傾げる。

祝福を受けた証なのだろうか?では何の祝福?


「んー……うぇ、なんか……気持ち悪い」


今まではしっかりと自分で1~10まで制御して練り上げていた氷の魔法。

なんだろう意識して操作しないといけないマニュアル車を運転していたらオートマチック車にいきなり変わった?

うん、多分そんな例えでいいと思う。いきなり自分の手足のように練れるようになったんだもの。

さらに言えば魔力を身体にまとっているような感じで身体能力も上がってないかなぁ?

祝福といったけどこれは……どういう祝福なんだか。

うーん……魔力がなじんでいる?魔法使いの才があるとか言ってたからそれをさらに伸ばした?


「んぁー……わかんなーい……」


身体からこみ上げる魔力の量だって増えてる気がするしこんな魔力どうするっていうんですかー。

チートじみたモノが必要なのかもしれないけどコレはコレ、やりすぎじゃない?

スッキリしないけど目が覚めちゃったし色々消耗品とか買いに行こう。

お金と後々の平和のため……私も冒険者の端くれとして頑張らないと。



あんまり大金は握りたくないけど……お財布とか無いからね。

大金入った背負い袋を大事に抱えながらお買い物へゴーゴー。

やってきたのはセリューの雑貨屋さん。まずはここで冒険に便利な小物を買う。

冒険の必需品小銭入れ、ポーション入れ、ナイフスリーブ、松明掛け等が一緒になった革ベルト。

それと実際に使う各種傷に効くポーションと活力回復のポーション。

頼りたくはないけど眠ったら死ぬって孤軍奮闘の時にはコレをがぶ飲みして切り抜ける。


(結局これエナジードリンクみたいな感じだよね……味は酷そうだけど)


支給されるポーションは塗り薬でちょっと使い勝手が良くない。

おまけにすごく痛い、擦り傷もたちまち治るけどすっごく痛い滲みる。

だからちょっと高価でも飲んで効くタイプのポーションが売れる……液体の方が製造コストが掛かるっていうのもあるんだろうけどね。

あとは旅に使って便利な頑丈なナイフ、魔力に反応して火を出すアイテム。

各種着替え……は流石に置いてないからこんなものかなぁ。


「これください」

「一気に買うねぇ……冒険者にでもなるのかいお嬢ちゃん?」

「あの、冒険者です……」


カウンターが微妙に高い、私の低身長だと辛い。

商品を並べてお会計をする、かなりイイお値段して顔がキュッとなるなぁ。

食費3週間分……必需品とはいえ結構するぅ。

冒険者じゃないと思われてるみたいだけど首元のチョーカーを見せてみるとちゃんと売ってくれた。

冒険者でない人にはこれらは売ってはくれないみたいなんだ。

早速着けてみてからお金を小銭入れに入れる……わぁパンパン。

ポーションも入れてばっちり、松明はどうしよう。


「松明の代わりならこんなのがあるし……あぁそれと方角を示すコレもいいぞ」


店主さんがさらにいろいろオススメしてくる。

お金を持っているのが見えたのもあるけど、見た感じは本当に親切心から教えてくれていると思う。

松明の代わりは魔力で光る鉱石を詰めたランタン。しっかり松明掛けに吊るせる仕様。

そしてもう一つは真っ直ぐ北を向く石を封じた透明な玉。

これもベルトに引っ掛ける事ができる。方角はこれで良いのかも。


「ナイフや着る物はここを出て真正面の店だ、頑張れよ」

「ありがとうございます、頑張りますね!」


さて、買い物を終えたら……父さん母さんとお食事して……次に向かう街を決めようかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドスケベボディな女の子がポロりしそうなエチエチ魔法使い衣装着ていてそれを抱きしめたらそりゃあ娘相手でも興奮しますよね。 次はどこの街に行くのか楽しみです。
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