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打倒

ちょっと気が緩んだ所を殴り飛ばされて……背中から打ち付けられた私。

幸い背負い袋がちょっとしたクッションになったおかげでダメージは……軽減されてると思う。

捕まらなかったのは幸いだけど……


「うぐっ……!」


冷気に苦しみながらも私を捕らえようとする根っこ触手はまだ伸びてくる。

起き上がろうとする私の足を捕らえると一気に引きずられる。

トレントの目が私をまっすぐ見据えている。

大きく裂けた口がかなり怒っているようにも見える。

エッチな事はされそうにないけど碌なことにはなりそうにないかなぁ。

引きずられながらも魔法は……使える!!


「シッ……!!」


何度も作ってきて行使工程が研ぎ澄まされてきた氷の鏃。

トレント自身にかけるのがレジストされてしまうのであれば……こうする他ない。

連続して3発作成して飛ばしていく。狙いはそれぞれ違う。

1発目はトレントの表皮、何らかの手段で弾かれる可能性もあるけれど……

表皮にダメージが入るならば根っこもおそらくは切断が可能。

2発目以降のものが大本命、表皮が硬かったとしてもそこは防げないだろう……

トレントのギョロっと出ている目玉、そこに超高速で飛来させる。

自分がされたらおっかないことこの上ない、さてどうだ?

ズルズル引きずられてスカートは捲れショーツが丸見えになっていってるけれども……

今はそっちに気を割いている暇はない、コレが弾かれた場合の事を考えて、いやすぐに動かないと。

足を掴んでいる触手は……腕程度の太さ。ならばえぇと……


「いぃぃやぁぁああぁあ!?いったた……」


次の策を考えている最中に私は投げ出された……掴んでいた触手がのたうち回っている。

また投げ出されて身体のあちこち痛むのを我慢して……トレントの方を見る。

樹皮に傷が入っていた上に目玉に2本の鏃が深々と刺さっていた。

大ダメージだろう、他の触手も地面で暴れているのか地面が大荒れ模様。

ふふ、痛かろう……あぁこの鏃もインスパイア元は別世界の大砲から来ている。

相手ははたき落とす、防御するための即効手段が無いと見える。そういう意味ではマンティスの方が強敵だね。

これは好機……あーくっそ、腰からしたも痛むなぁ、どっか折れてたりしないよね……

脂汗が額や背中を伝う、こんな怪我人生で一度も無いんだもの。

杖を支えにしながら立ってみれば……あぁすごくグロい。

トレントの目玉は崩壊して血に相当する樹液がだばだばと出てきている。

蜜というには……あまりにも黒く赤い。これは多分トレントの魔素だ。


「痛いでしょ、もうささっと楽になっちゃおう……ねっ!」


あと残る弱点と言えそうな場所といえば……うん、大きく開いた口だ。

樹皮に覆われてはいないし中から溢れてくる魔力からして……核はそこの中にあるんだろう。

防がれるかもしれないし、一発一発を精密に仕上げるだけ集中は……無理、あちこち痛くて集中できない。

拳大の鋭く尖った大雑把な氷を作って高速発射していく。

私が知る、マシンガンやガトリングガンなんて呼ばれるそれらと同じ様に……!!

粗く作られた魔法の氷は樹皮に当たれば傷を少し付けて細かくくだけていく。

それが何発、何十発と立て続けに着弾していく。

細く長い腕らしきものが庇うけれどもその腕に次々に着弾して……合間から狙いの場所へと飛んでいく。

特に誘導なんかしていない、手からまっすぐ、飛んでいくようにしているだけ。


「フローズンマシンガン……なんてね……」


口に入り込んで砕け散る氷は全体の2割に留まるけれども……

潤沢に残していた魔力に物を言わせた連射をすること……どれくらいだろう?

集中が続かなくて連射力が半分程度に下落した頃には……トレントは活動停止していた。

たぶん、ヤッた……背中に浮かんでいたゲートも霧散していて……嫌な魔力も薄まっている。

溢れ出るトレントから離れていく魔素が私に取り込まれ……なじんでくる。

……あぁだめ、一気に疲れた……動きたくない。

へたり込んだ私、夜の帳が降りた森で眠るのは危険だけど……どうしよう。

出るにしたって途中で力尽きそうなのは明白。

木の洞でもあればそこに身を押し込んで眠るとかもできるだろうけど……

トレントの死骸にはそんな洞は見つからない……周りにそんな大木もない。

参ったなぁ……ちょっと探せば横穴とか見つからないかな?


『そこな女子……そこな女』

「う、幻聴……?」

『幻聴ではない……右向けば分かる』

「……うげ、お仲間?」


疲れて幻聴が聞こえたかと思った。

ちょっと籠もった感じでどこか衰弱しているようにも聞こえるその声に従って右を向く。

目玉と口が浮かび上がった……私が倒したトレントと同族と思われる魔物が居た。

ただその大きさや纏う雰囲気は全然違う。

太さは私の肩幅の1.5倍程度、高さもさほど高くはない……葉っぱもしおれ気味で元気がなさそうだ。


『いいや、あれは突然現れて私達の食い物を奪った略奪者だよ……倒してくれてありがとう』

「……あーまぁ、どうも?」


神様からの啓示で受けた指令というか試練というかなんだけど。

感謝されるとまぁ嬉しいような恥ずかしいような。

話が分かる魔物もいるんだなと驚く。


『私達はこの森に住んでいるトレント、樹精だよ』

「精霊の一種ってこと?」

『然り、災厄の時が近くなっているとは思っていたが各地の魔素を吸い尽くそうと現れるとは思わなんだ』


あー……色々と有意義な話を聞けそうだけど……瞼が重いなぁ。


「ごめんなさい、戦ってへっとへと……」

『だろうな、同伴は?』

「一人でやれっていうのが試練の内容だったから居ないの……」

『ふむ……では私が抱え込んでやろう』

「うぇ?うわ、返事は聞かないの!?うひゃぁ……」


トレント……えー分別をつけるためにロウ・トレントとでも言いましょうか。

蔓の触手を伸ばしてきて私に絡みつけていく。

絡みつく場所はあんまり考えてないのか結構エグいところまで絡んで……

太ももの付け根や胸を絞り出すように絡んだり……だ、誰かに見られていたら恥ずかしくて死ねるヤツです。


「えーっと……こういうことは他にも?」

『仲間が良くやるよ、疲れている人間を抱きかかえて地面から離して寝かそうとするんだけどね』

「嫌がられません?」

『嫌がられるね、そもそも燃やされる事が多いよ、恩を仇で返す人が多い……そもそも声が聞こえない人が多いね』


ふむふむ、ロウ・トレント側からは発信してから行動に移すけれども襲われたりって勘違いされて燃やされるんだとか……


「燃やされて平気なの?」

『殺されるほどに燃やされてはいないから平気だ、それよりなぜ嫌がる?』

「それはですねー……」


説明しながら……気がつけば私はすとーんと寝ていた……

ただ説明が途中だったからわりとエッチぃ縛られ方して吊るされていたから起きた後悲鳴をあげた。

なんで縛り方が亀甲縛りに近い事になるんだか説明してもらいたいな!!



ロウ・トレントから聞いた情報は中々に興味深いものだった。

魔物の中でも知能があって人間と適切な距離を置くのがいる……ロウ・トレントがその例。

一応ながら魔力に載せた思念を飛ばすのだけど一部の魔法使い以外には届かない。

自然の寵愛を受けた人間ならば魔力を使わずとも対話ができると言う。

私はその前者に相当する、よっぽど魔力感知の才能があるって事だろうか?

今回の災厄についても少し聞けた……どうやら数百年単位で巡ってくるものらしい。

各地の魔素を吸い上げて……より強力な魔物を送り込んでくる。

その存在はいわゆる魔王、魔を束ねる正しく王たる存在。

その魔王は各地の魔素を吸い上げ、練り上げ……そして各地にゲートを開き尖兵を送り込む。

ゲートの守護者はゲートを開くに使われなかった魔素を絞り上げながら成長していく。

……早々に処理できたのは幸いだったということか。


「ありがとう、トレントさん」

『助けられたのはこちらだ、あのまま吸い付くされていたら我々は全滅していただろう』

「ううん、それでも……一宿の恩義は忘れません」


干し肉を齧りながら森を出よう……方角は教えてもらった。

あとはまっすぐ歩いていって……帰還して、報告をあげればいい。

ついでに……あのバカでかいトレント、エルダー・トレントと勝手に名付けよう。

アイツのものだった根っこの触手等を一部採取しているから嘘だっていう事にはならないとおもう。

振り返れば……一晩お世話になったロウ・トレントが腕と触手を振っていて……ちょっと可愛いなと思ったりもした。





一晩で片付いたこの騒動……その最中に大陸の首都、アニマ大陸首都・リビンでは各地から伝令に走った兵士達が報告をあげていた。

東西南北に分かれている祠の街近隣で大規模な魔物被害が発生している。

暗雲立ち込め雷鳴轟く夜に……予言にあった大災厄と同じだと。

被害にあった農村は多く、早く鎮圧しなければ食糧事情に取り返しのつかない大打撃が入るのは免れない。

各地に散らばった冒険者達はあまり強くはない。期待の星というのは早々に首都に集まる。

そこで徹底的に鍛えられ国の力として抱えあげられる。

他大陸との往来は難しいが出来ないわけではない、もっと言えば精強な大陸国家が戦争を仕掛けてきてもおかしくはないのだ。

過去にも大陸間で勃発した侵略戦争というのはある。

間が悪い事に各地に散らばっていた有力な冒険者も年に数度の招集で居ない……もしくは少ないタイミングだったのだ。

各地に早急に戻すが……できるのは街の防衛だろうと見られる。

宮廷予言師は言う。


『神託の子現れり、その子でなくば災厄の魔の手摘み取れず』


大災厄が訪れる時と同じくして覚醒すると言われる神託の子。

その子供がその魔の手を刈り取っていく……そう伝えられているのだ。

事実並み居る手練は時を追う事に精強になっていく魔物に抑えきれず抗えず……街へと逃げる事になっていた。

ただ、一方……セリューの街の者たちを除いて……

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― 新着の感想 ―
[一言] いつもお世話になっています。 TS魔法使いアルエットちゃんがどう活躍するか楽しみです。 なんかやたらと露出の多い魔法使いの衣装ていいですよね。ボディライン出る感じのタイプとかゆったりしている…
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