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2話 サンダーストラックアニメーションスタジオ

まずは異世界に行く前の話から始めよう。


俺が勤めているのは、三鷹にある3DCG制作会社『サンダーストラックアニメーションスタジオ』長いので『サンスト』と業界では呼ばれている。

社員は40人ほどの小規模のスタジオだが、設立25年と3DCG制作会社としては老舗である。クオリティーの高さで評判のスタジオだ。


その日は2021年8月20日、22時過ぎ。

外は大雨。俺を含む5名のスタッフが仕事をしていた。


俺の職業はCGアニメーターだ。

3DCGソフトの3dsMaxで手付けのモーション制作をしている。

栄養ドリンクの空き瓶が綺麗に並べてある……3日間スタジオに泊まり込みで作業中だ。

おそらく傍から見たら、大変と辛いと思われそうだがやればやるほど、アニメーションは良くなるし、何より自分のスキルアップに繋がるので案外苦ではない。

そして1日でも早く上手くなりたいと思っている、5分だって無駄にしたくない。


(ダメだ、全然上手くできない)


俺は自分に厳しいタイプだと思う。これくらいで納得できない。

立ち上がり自分で実際にパンチを何度も繰り出しモーションの確認する事にした。

アニメーターは役者だ、実際に動かないと良いアニメーションなんて作れる訳がない。


「はいはい、皆さんお疲れちゃ~ん」

制作進行の哲さんが、栄養ドリンクやお菓子を買って帰ってきてくれた。

ちなみに俺の机の上にある栄養ドリンクも全部、哲さんが買ってきてくれたものだ。


山県哲さん、24歳。

ちょっと太り気味の制作進行、メイドさんにお金を支払って叱ってもらう事を愛する、ユニークな変態さんである。


ホワイトボードには『納期8月23日午前10時!死守!』と書かれている。

「納期まで残り3日もないじゃないですかー!頑張りましょー!終わったら、皆でメイド喫茶行っちゃいましょー。僕の行きつけのメイド喫茶紹介しちゃいますからね」

と言いながら、哲さんは買ってきたお菓子を残業している5人のスタッフに配り始めた。


「スネタちゃ~ん、ファイトだよ。そのカットのモーション!期待してるからね」

「ありがとうございます」

哲さんが俺の好きなお菓子を机に置いてくれた。

ユニークな変態さんであるが、それぞれ好みなどを把握するなど社会人として重要なスキルも持っている人だ。

そこは尊敬できる点である。


「和彦ちゃ~ん、どう?プロップの剣のモデルできてるかぁーい?」

哲さんが、席でスマホでマンガを読んでいるモデラーの和彦に質問する。


森和彦、20歳。俺と同じ専門学校出身で同期入社。

細身の長身ではあるが、イケメンではない。

ジャケットを着ていれば、清潔感がある風に見えるという理由で、夏でもジャケットを着ている男である。

清潔感があるという点はとても大事で見習いたい点ではある。



「一応、終ってるっス」

「本当に?流石早いねー。終わってるなら帰っていいんだよー和彦ちゃん」

「マンガきりの良い所になったら帰るっス」

哲さんが不思議そうに聞くが、森はそう言ってマンガを読み続ける。

まぁ俺と同じ非リア充だ、急いで帰ってもやる事ないだろうな。


「義雄さ~ん、後5カットの撮影、よろしくでーす」

「ふむ……」

黒田義雄さん、45歳。撮影チーフを務める偉くて凄い人だ。


アフターエフェクトで撮影処理をもの凄いスピードでやっている。

エクスプレッションの鬼と言われている。


いつも口数は少ない。撮影監督も務めるベテランの実力者。

バツイチらしく、10歳の娘さんは元妻に育てられている……こんな仕事ができる人なのに幸せになれないなんて人生とは難しいものだ。


「虎之助さ~ん、今回の話数も鬼クオリティー間違いなしじゃなですか~。満足のいく仕上がりで納品できそうですね」

「満足なんてしたら終わりだ。そんな日は来ないよ」


加藤虎之助さん、33歳。

俺はこの人に憧れてこの会社に就職した。

業界で知らない人はいないくらい天下無双のCGディレクターだ。


クライアントが求める以上の映像を常に作り出し、何より仕事に対する責任感が強くスキルアップを欠かさない。


そして特にモーションがむちゃくちゃ上手い……作る時に迷いがない、引き出しが多い。

後、新婚さんで美人の奥さんがいる。

俺もこういう人になりたいな……後者の内容は無理でも前者は何とかしたいものだ。


「スネタ、ちょっといいかな?」

「はい!直ぐ行きます!!」

虎之助さんが俺が提出したカットを一通り確認してくれたようで俺に声をかけてくれた。

「後こっちでやっとくから、データもらえるか?」

「もう1回やらせてください!」

「迷ってる感じ出てるし、今やっても無理だと思うぞ。こっちはいいからc131からセカンダリやっておいてくれ」

「もう1回だけ!」

「納品終わったら、このカットの直し方また教えるから」

「了解です……ありがとうございます!」


自席に戻った俺の後ろを和彦が通りかかる。

「テイク5までやったのに、ダメだったらしないな、スネタ」

「うん」

「おやおや……ディレクターに引き上げられるなんて、給料泥棒なんて精が出るな。練習全然してないのか?虎之助さんが優しいからって甘えてんじゃねーぞ」


和彦の言う事はごもっともだ。

同期で仕事のできる和彦がこのような事を言うのも理解できる。


(だが大丈夫だ。そう俺は大丈夫なのだ)


クリエーターには2種類存在する。

『最初からできちゃうけど、後から伸び悩むタイプ』と『最初はできないけど、できるようになってからは凄く伸びるタイプ』だ。


虎之助さんからは俺は後者と言われている。

そう、尊敬する虎之助さんが言うのだ。間違いない。


その証拠に俺は、休日は1日14時間は練習している。

口だけでなくしっかり練習をしているのだ、伸びない訳がない。


和彦は専門学校の時からモデラーとして上手かったしコンテストで賞も取っている。

実際仕事も無難にこなしている、新人として一目置かれている。

「一応、俺は別に練習しなくてもできちゃうから、お前の気持ちなんてわかんないけどな」

「大丈夫。俺は和彦の気持ちわかっているから」

俺はできる限り優しく和彦の肩を叩いた。


「はっ?意味わかんないぞ」

と、和彦は去っていく。


「可哀そうだな……和彦」


和彦は前者のタイプだな。

きっと自分では気づいていないのだろう。

いつか壁にぶつかった時には、優しく励ましてあげないとな、せっかくの同期だ。それくらいはしてあげよう。


ただ俺は虎之助さんからカットの引き上げになった時に、科している事がある。

腕立て30回。


(これが俺の流儀だ)


小学校、中学校と野球部に所属していた事もあって、こういうペナルティーを科すのが癖になってしまった所は否めない。

虎之助さんに「もうそれいいから……」と止められた事もある。

でも体を動かす事はアニメーションを体で理解するのと同じなので、将来的には役に立つペネルティーだ。


という訳でスタジオにある会議室で俺は腕立て伏せ中である。

(週末、家で特訓だ……10モーション、いや20モーションは作るぞ)


次の瞬間。


『ドガガガァガーーーン!』


突然と雷が、俺たちがいるビルに落ちた!

物凄い爆音が響きビルが上下左右に激しく揺れ、停電にする!


(今まで経験した事のない揺れだ!)


俺は腕立て伏せを中断し、会議室から飛び出した。


「何だ!」

「地震っすか?」

「いや雷が落ちたんじゃないですかー!」

真っ暗になったスタジオで俺たち全員混乱してしまっている。


「データは大丈夫ですか!」

思わず俺の口から出た第一声だ。


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