2、舞踏会での再会
「郵便です」
「ご苦労様」
クレアの母親は、郵便を受け取ると青ざめた。
「クレア! パーカー家から手紙が届いているわ!」
「え!? 私に? 開けてみましょう」
クレアは母親から封筒を受け取ると丁寧にそれを開けた。
「まあ、舞踏会への招待状ですわ!」
クレアが驚いて声を上げると、母親は言った。
「クレア、それなら私の婚約の時に来ていたドレスを着て行きなさい」
「そんな大事なものを?」
「パーカー家はこの国の名士ですから、失礼があっては申し訳ありません」
「分かりましたわ、お母様」
クレアと母親は大急ぎで仕立屋を呼んで、ドレスのサイズを手直ししてもらった。
「招待されているのは、クレアだけですね。あなたももう18才、一人で大丈夫ですわね」
「ええ、お母様」
舞踏会の当日クレアは馬車に乗り、一人パーカー家を訪問した。パーカー家には大勢の貴族達が集まっていた。クレアは目立たないように、壁の傍に立っていた。
「クレア様、来て下さったんですね」
「コリー様。おまねきありがとうございます。怪我の具合は大丈夫ですか?」
「おかげさまでこの通り、元気になりました」
コリーはにっこりと笑って、クレアを踊りに誘った。
クレアは踊りの際にコリーと顔が近づくたび、コリーから涼やかな香りが漂って来て、ドキドキしている。曲が終わると、コリーとクレアはテラスに出た。
コリーが言った。
「クレア様は婚約されていらっしゃるのですか?」
「いいえ。私のような貧乏男爵家の娘に縁談があるとお思いですか?」
クレアは困ったような顔で微笑んだ。
「でしたら、私と婚約するのはいかがですか?」
「ええ!?」
クレアは突然の申し出に、心臓が止まりそうになった。
「何を話しているかと思えば。コリー、そんな話は私たちが許しません」
「父上、母上? いつからそこに?」
いつのまにかコリーの後ろには、パーカー卿夫妻が立っていた。
「ロールズ家といえば、民には慕われているものの貧しい貴族だと有名ではありませんか」
コリーの母親はそういうと、クレアを冷たい目で見据えた。
「私の結婚です。父上と母上には関係ありません!」
「いいえ、コリー様。家のつながりは大事です」
クレアはそう言って立ち上がった。
「私、ロールズ家を誇りに思っておりますわ」
「貧乏貴族の分際で、何を言っておるのか」
パーカー卿はクレアの台詞を鼻で笑った。
「それでは、貧乏でなければよろしいのですわね」
クレアはそう言って微笑んだ。
「コリー様、本日は夢のようなお時間ありがとうございました」
クレアはドレスの裾を上げて優雅にお辞儀をした。
「パーカー卿、奥様もごきげんよう」
それだけ言うと、クレアは自分の屋敷に帰っていった。