例えば、魔法の話とか ~science~
「ほぉぉぉぉぉん?それで?今まで駆り出された勇者たちが役に立たず、ついには魔王退治の支援物資目当てで勇者を名乗る輩が出てくるようになったから、異世界からなんか強そうなヤツを引っ張ってこようって魂胆だったわけだ?でも、それで?俺たちが攻撃されのは納得いかないなぁ?」
ペラペラと、女魔導士の内ポケットから勝手に取り出した手記のようなものを読み漁り、ヴィルはこの状況を整理する。
「そうですぅ……攻撃したのは実力を確かめたかったからで……別に危害を加えたかったわけじゃあ………」
「嘘つけぇ!危害加える気満々だっただろうが!」
「うぅ……すいましぇぇん……」
以前、突っ伏したままでいる女魔導士は、涙面になりながらヴィルの言葉に返答する。第二十六次魔王術式……掛けた人物の筋線維を弱らせ、同時にその人物の持つ磁力を強くすることで無理矢理重力に逆らえなくする魔法である。
――しかし、それよりも気にかかるのは……
ヴィルは突っ伏したままの女魔導士のほうを向き、しゃがんで目線を合わせると、「おい」と声をかける。
「はいぃ……?」
「この手記には、お前が今日、今、ここで異世界からの召喚をする旨が書かれている……ということは、本当にお前が俺たちを召喚したのか?」
「だからぁ……そうだって言ってるじゃないですかぁ……」
「……」
そんな馬鹿な、と言いたくなるほど、ヴィルは自分の耳を疑う。召喚魔法――正確にこれを自分たちの魔法の世界で呼ぶなら、空間転移魔法と呼ばれるだろう。しかし、どちらにせよそれは自分たちの考える魔法の世界ではありえない話だ。
――それは、今ここに魔王として君臨するヴィルですら、不可能だったことなのだから。
思考を凝らし、まるで溺れるごとく深く考えるヴィルに、しかし同じくして、立場は違えども、思考を凝らしているのはもう一人。それは、今にもみっともなくひれ伏したままでいる魔導士……。
――――なんなんだ、こいつらは――と、確かに、自分が召喚した。だが断片的な話を聞けばどうだ、勇者?魔王?勇者をしながら魔王をしているのか?こいつは、訳が分からない。
確かに、事実として、異世界から強力な魔力を持つ人物を選択して呼び出したはずだ、だがどうだろう?実際に来たのは人間と……魔族?人間と魔族が共存しているのか?それに魔法の仕組みもわからない、いや、正確に魔法と言っていいのか?これは――――科学だ。
「まぁいいか……」
固まった状態でいたヴィルがついに動き、手記を女魔導士の前におくと立ち上がる。そしてカリンのほうを向くと――
「カリンちゃん、もういいよ……ひとまず話を聞くことにしよう」
「……わかりました」
そう言って、兵士たちから少し離れた地べたにそのまま座ると、術が解け、兵士たちが不思議そうな顔をしたまま立ち上がる。
「話を聞く、腹減ったからなんか出してくれよ」
「……わかりました勇者様……すぐに茶菓子を用意します」
そう返答すると同時に、女魔導士は視線だけで兵士たちをその場から立ち退かせると、
「こちらへどうぞ、客室へ案内いたします」
そういって、奥の入り口へと向かい入れた。