あるいは、異世界転生 ~warp~
微かなざわめきと、しかし嬉々とするような声、森の中の土臭さとは一変して、少しの石のような古臭い香り……どこか懐かしいような香りだ。「おぉ!ついに勇者様が召喚された!」「成功だ!まさかここまで上手くいくとは!」そんなざわめき、「またエセ勇者じゃないのか?」「金と時間、そして魔力の無駄だ、また残党にやられて終わりだろうよ……」しかし反対に、そんな嘆き声……ここは一体?
ゆっくりと目を開いたとき、そこには数々の鎧を着た兵士、そして魔導士の恰好をした女が目の前に立っていた。
「ヴィル様!ご無事ですか⁉」
「あ、あぁ……というかここはどこだ……?まさか王国……?」
嫌な過去を思い出す。しかし、それにしても古い恰好だ、今日は何かの祝祭日だったか?
そんなことを考えていると、女魔導士がゆっくりと近づいてくる。そして徐に口を開くと……
「そう!ここは王国でございます!勇者様!」
――――はい?
「ゆ、勇者様……?久々に聞いたな……」
やはり今日は何かの記念日か何かなのだろうか、そう思いながら何か知らないかとカリンの方向を向くが、カリンは横に首を振る。ならばとヴィルは立ち上がり、その女魔導士に向かい合う。
「具体的に説明してくれ、俺たちはさっきまで山奥にいたはずだが?」
「そうです!あなたたちは神の示しにより、ここに召喚されたのです!」
「召喚だと……?」
召喚魔法、確かになくはない、昔なら召喚魔法といい、主に人間が魔獣を呼び出し、従える魔法ということで使われていた。しかし、それは昔の話……今は研究により、それが架空のものであったと証明されている。魔族や人の場所から場所への移動は実際にはできず、今まで従えていた魔獣というのは、人間が自分の魔力を使って作り出していたものであり、元々存在していたものではない。ということが分かっている。すなわち、自分たちがここにいることの理由にはならない。
「……真面目に話せよ、ここはどこだ、俺たちをどう呼び出した?」
「……すいません、勇者様……それを話すには、まず試験をこなしていただきます……」
「はぁ?」
眉をひそめ、理解のできない様子でいると、それでも関係なし、容赦なく周りにいた兵士たちがこちらに槍を向けてくる。
「勇者というものは強くなければなりません、それこそ、魔王を倒せるほどまでに……だからこそ、こんな兵士たち数人程度に負けていただいては困るのです」
「魔王を……倒す……?」
何を言っているんだと思ったのが早いか、兵士の持っていた槍が思い切りヴィルの腹部、頭部を貫こうとする。だが、その槍たちは遂にヴィルに触れることはかなわず、肌に触れるか触れないかのところで完璧に静止する。
「な……!?」
思わず声の漏れる兵士たちを無視し、ヴィルはカリンに目を合わせると、「カリン……」と、名を呼びかける。
「ちょっと、本気出す」
「……はっ!」
カリンは何かに気づいたかのように膝をついて頭を垂れると、勢いよくそう返事をする。
――――彼女は、知っているのだ。ヴィルという男が、人間が、魔族の王が、到底自分ごときが傷をつけることすら……かなわないことを。
そんなカリンの様子を不思議に思うと同時か、兵士たちは槍を持っていられないほどの圧力を上から感じ、立つことすら難しいほど、もはや床に突っ伏した状態になっている者までいるほど、その重みを感じていた。
「この方をどなたと心得る!」
カリンがそう言葉を発したと同時に、ヴィルはポケットに手を突っ込み、あくまでラフな格好で、自由奔放、気ままに、己が思うままに、そうして格の違いを知らしめるために、ヘラヘラとした笑みをなくして、圧をかけ続ける。
「この方は、先代魔王を倒した勇者であり、現在の魔王……ヴィルトゥ・オーソ様であられるぞ!」
姿からは威厳は感じられず、風格からは魔王とは思えず、丸腰で筋肉質のようにも見えない体は勇者とすら言い難い。
しかし、兵士たちは、そして女魔導士は確かにその貫禄を前にして、その言葉が嘘ではないことを理解していた。