そして黄昏の刻 ~who?~
さて、筆録して、見聞として記録として残されるには、この山――――少年曰く森は、グアテマラシティと呼ばれ、現在でも一国が取り扱っている私有地であり、また、一種のダンジョンとして立ち入りが禁じられている場所である。
「で、なーんでガキがこんな危ない森に入って遊んでんだよ……虫も出るしもう嫌!帰りたい!」
「そりゃあ男の子ですもの、冒険がしたいお年頃なんですよ……というか、あれだけ意気揚々と来たのにもう文句ですか!?根を上げるのが早すぎます!」
そりゃあハローワークから逃げるためだもの、という言葉をグッと抑え、木々や草をその辺で拾った小枝で搔き分け、ヴィルはカリンと共に森を散策していた。
「つーか、ここってどこの領地だっけ?魔王軍?王国?」
「もう!そんなことを聞くなんてことは、本当に何もしてこなかったんですね!ここは一応……王国のものですよ……」
「一応……ねぇ……」
一応、カリンがこの言葉を付け足すときは、大抵厄介な領地ということになる。厄介というのは、魔王軍からしても厄介で、王国からしても厄介な、とても面倒で面倒くさい領地。すなわち――
「まぁ……こういうことだわな……っと!」
ブーメランのように小枝を投げ、上手くキャッチする。そして暫くすると、ガサガサという林をかき分ける音とともに、一匹の黒い塊が落ちてきた。
「お前みたいなやつがいるから厄介なんだって」
それは、鳥のような形をしているが、尾に蛇のような生き物を宿す獣……曰く、魔獣と呼ばれる存在だ。
魔獣は確かに魔王軍の生物ではあるのだが、何せ知恵がない魔王軍の配下であり、人間に近しい魔力を持つ者には所かまわず攻撃してくる。だからこそ危険であり、知能もないため魔王軍の方で管理することすらかなわない生物だ。
――まぁ、社会という厄介者って点だけは、俺と同じか――?
そんな言葉を飲み込みながら、ヴィルは消滅していく魔獣を見守る。魔獣は中の魔力が使い切られるとその姿を保つことができなくなり、消滅する。その代わり、魔力があるだけ動くので、傷ができれば体は再生し、ある限りの魔力を使って魔法も飛ばしてくる。戦い慣れていない者たちからすれば、本当に厄介な代物だ。
「こいつら、魔族以外なら見境なしに攻撃してくるから、俺まで攻撃されて嫌なんだよなぁ……勇者兼魔王の嫌なとこね、こういう時、本当にカリンちゃんを羨ましく思うよ」
「そう思うなら是非、業務などなども羨ましく思って欲しいところですね」
これはこれで嫌な話題を出され、押し黙って探索を続けるヴィル。探索を始めてから想像以上に時間が経ち、もうすでに時刻は黄昏時を迎えていた。だがしかし、徐々にその目的地が近づいているのは分かっていた。
「魔法の玉の痕跡をたどって探しているが……何か妙だな……」
「妙?何がですか?」
「いやぁ……あまりにも魔獣が活性化しすぎてる。何かが影響しているとしか思えん……」
「……そうですね、私も気になったのは、先ほどから鳥の形をした魔獣しか出ていないところですね、そろそろ犬型や豚型なんかが出てきても良い頃合いなんですけど」
「ふむ……?」
訝しげに思いながらも、魔獣を倒しつつ欅を掻いて歩いていく……徐々に、本当に徐々にだが、確かに魔法の玉が近づいているのが肌で感じる。しかし、これは――?
「ヴィル様!危ない!」
「――!」
後方からの気配を察知し、左手で薙ぎ払う。ソニックブームを魔力で固めた攻撃だ、これは……鳥型の魔物の攻撃。
「……なるほど、そりゃあお前なんかがいれば、鳥型魔獣のパラダイスってことだ」
そこに怏々としない表情で立っていたのは、大きな鳥。しかし、やはりというべきか、尾には蛇のような、大蛇の姿をしたものが寄生していて、まさしくこの森の長、鳥型魔獣たちのリーダーとも呼べる化け物がこちらを見下ろしていた。
「ヴィル様!ここは私が――」
「いや、控えろ……ここは俺がやる」
咄嗟に前に出たカリンをヴィルが払いのけ、魔獣の前に立つ。
「……お前、魔獣だけど知能あるだろ、ここがどこの領地だかわかってんのか、そんなに弱い者いじめしたいならよそでやれよ」
木の上に立つ魔獣に対し、そう指さして説教をこくヴィルに、「いや、あなたはそれすら分かってなかったでしょ……」とカリン、それを見て「クックック……」と不敵な笑みを浮かべる魔獣だ。
「二秒待つ、ここから立ち去れよカラス」
そう煽るヴィルに、その魔獣は大きな羽根を羽ばたかせると空気の弾丸をまたヴィルに向かって放つ。ソニックブームを固めた攻撃、それを、今回は五つほど飛ばしてきた。
「うおっ!」
咄嗟にヴィルは腕で頭を守る姿勢をとるが、ソニックブームは無慈悲にヴィルに向かい、そこには砂煙が立ち込めた。鳥魔獣はそれを見て、「クックック……クワー!」と高笑いのような素振りを見せる。
「……ヴィル様……!」
嚙み締めたような声で名前を呼ぶカリンに、「はいはい」と、ヴィルは返事をする。砂煙が晴れるころ、そこには平然とした顔で立っているヴィルがいた。
「もう!真面目にやってください!」
「わかってるって……二秒、経ってるぜクソカラス」
「クエ?」と不思議そうに首を傾げる魔獣だが、その首は天地がひっくり返っていて、すでに胴体とは切り離されていた。
「その鳴き方じゃ、ニワトリのほうが正しかったかな?」
鳥魔獣が自分の死に気づくころには、すでに体が消滅していた。その戦いの様子を見ていたのか、周りにいた鳥魔獣たちは逃げるように飛び立つと、直ぐに森から去っていったようだ。確かに魔獣に知能はないが、微量の魔力を脳にそそぐことで本能くらいは作ることができる。さらに魔力を与えれば、先ほどの大型魔獣のように理性もできる。ある程度の魔力のある魔獣なら、長がいなくなったことを知って離れる輩も出るだろう。
「これで、少しはカリンの仕事に協力できたか?」
「私の仕事ではなく、ヴィル様の仕事ですがね!それより、わざわざ攻撃なんか受けなくともよかったんじゃ……」
これでも魔王の器を持つ存在、魔獣など相手にもならない力量差がある。それを、あえて攻撃を喰らい、猶予を与え、子供に与える罰のように死を与える。その様を見て、カリンは「真面目にやれ」とご立腹のようだった。
「いいだろ、少しくらいは……」
少し拗ねた様子で、ヴィルは背を向けてまた歩き始める。それを見て、「待ってくださいよ!」と追いかけるカリンには気にも留めず。