表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一目惚れで異世界ダイブ  作者: 黒里しい
6/11

第五話 「異世界飲み会」

 絶対飲みすぎた。起きて最初に思ったことはそれだった。

 隣で下着に毛布をひっかけた姿でメイリーが寝ている。自分も似たような格好だ。ちょっとヒヤリとしたがすぐに思い出した。外が暗くなる前から飲み始めて、暗くなってもう一度明るくなり始めたころに流石に二人とも眠くなってきて、せっかく買った服をだめにしないためにほとんど意識のなさそうなメイリーが二人の服を魔術ではぎ取ったのだ。酔ったメイリーはやたらと魔術を多用していた。専門じゃないとか言ってたけどちょっとしたサイキッカーのようだった。正直思ったより自由自在でびっくりした。

 徐々に記憶が戻ってきた。

 まず乾杯して、それからお互いが選んだ服を早速着てみて、そしたらお酒もまだ全然入ってないのになんだかとっても楽しい気分になってしまって、結局まじめな質問はほとんどせずに騒ぐだけ騒いでしまった。私もメイリーも大声で騒ぎ出すタイプではないけど、本当にただなんか楽しくなってしまったんだ。こんなに楽しいのなら、大学生が毎週のように飲み会開いてバカ騒ぎするのも当然なんだな、と今更わかった。

 とはいえ全く質問しなかったわけでもない。今後のためにも思い出せるだけ思い出しておこう。





「じゃーん! 『ヘンシン! 魔法少女メイリー・ミーメイ!』こんな感じ?」

「うん、最高! ありがとう! 今まで見たどんな魔法少女より可愛い!」

 リクエストに応えて立ち上がって名乗り口上を披露してくれたメイリーに、私は興奮しながら惜しみない拍手を送った。金の瞳とアッシュの髪が鮮やかな魔法少女衣装によく映えてる。

「そんなに褒められると照れちゃうな。少女って歳でもないし、ボクのお腹はシロナほど細くないし」

「そんなことない。これ以上ないよメイリー」

「コレイジョウナイ?」

「最高ってこと」

 試着の時はキャミソールの上から着ていたので、へそ出しスタイルは今初披露だったが、これも抜群だった。ただ肉がないだけの私と違って、スマートに引き締まりつつ柔らそうだと感じる絶妙バランス。後で触らせてもらおう。いや、今か?

「あ、そうだ。今日はできるだけ質問に答えるって言ったんだっけ。何でも聞いてよ」

 存在感のある胸を張って彼女は言った。私は伸びかけた手を下ろし開栓済みのお酒の缶を手に取って一口飲んだ。こちらの世界はペットボトルは飲料類にはまだあまり使われていないようで、今この部屋にはソフドリも含めて大量に缶が準備されている。

 中身の酒については、あまり元の世界のお酒にも詳しくないのでよくわからないが、所感としてはあまり違わない気がする。日本よりワインみたいな果実酒っぽいものが多いくらいだろうか。成分とかはもちろん飲んでも全然何もわからないが、まぁ何かあってもメイリーが何とかしてくれるだろう。ともかく質問タイムを開始するならちょっとお酒の力を借りたい気分だったのだ。

 最初はやっぱりこの質問にしよう。

「私ね、空間に空いた穴を通ってここに来たんだけど、その前に穴からメイリーがこっちを向いてるのが見えたんだ。そっちからはどう見えてた?」

 メイリーもお酒をごくごくと飲み始めた。魔法少女が缶ビール的なものをあおる姿はちょっと背徳的だった。

「あー、そうね。穴が開いてるようには見えなかったなぁー。でもシロナが降って来た日は月の光り方がなんかいつもと違って、ボクは月を見てたよ」

 予想はしていたけど少しだけ残念だった。

 メイリーは月を見てただけで、本当に目が合ったわけではなかったのだ。

「でも」

 メイリーはあっという間に缶を空にしながらつづけた。

「変な話だけど月が笑ったような気がしてね。なんか月と目が合ったみたいだなーって思ってた」

 瞬間的に頭に血が上る。

 目が合ってた。目が合ってたんだ。

 魔法少女衣装を見た時よりも頬が緩んでだらしなくにやけてしまう。

 これはアルコールなんかよりよっぽど効く。

「それで珍しく買い物が終わった後もぶらぶらしてたら君を見つけたんだから、面白いよね」

 そのあと熱くなった顔をごまかすようにどんどんペースを上げて、そのあとの記憶は眠さもあいまって若干あやふやだが、適当にじゃれあいながら時折気になったことを質問してたはずだ。


「大きな鳥? あー、多分スフィーだね。小さいやつでも翼を広げるとボクの二倍、大きいのだとさらに倍。今までで最大のものはさらにその倍くらいだったかな? 高いところに住んでるからこの辺じゃあんまり出くわさないね。え? あー、確か飼育されてる例もあるから、見ようと思えば見られるよ。おとなしい動物だけど、何せあの大きさだから触れ合うのは少し危ないかも。見たいの? じゃあ、そのうち見に行かなくっちゃね」


「ドロッとした川? あー、確か特殊な酸が溶け出しててね。ボクも行ったことないなぁ。あの辺は変な生き物が沢山住んでるらしいけど、なんか怖くて。触手みたいな。聞くだけで怖いんだよね、昔からそういうの」


「この家? あー、一応集合住宅。広い家ってなんか苦手で。ああ、音は大丈夫。この棟の部屋、全部ボクが買ったから。いくつかの部屋は昔の仕事関係で魔力コンピューター置き場にしてあるけどほとんど空き部屋のまま……あ、だからってあげないからね。空き部屋もボクのだから。君の部屋はここだから。ほかの部屋に住んだりしちゃだめだから」


 とりあえず思い出せるのはそんなところだろうか。後半になるにつれてメイリーの喋り方が子どもっぽくなっていったような気がする。

 まあ当分はこの状況が続いていくんだろうから、メイリーの日本語のこととか、この世界の常識についてはまたゆっくり聞いていくことにしよう。

 布団から起き上がり、とりあえずこの世界に一緒にやってきたスーツを着て、場所を教えてもらった姿見の前に立つ。

 カーテンから差し込む少し金色がかった光を浴びた私の姿は、日本で見るのとは少し違っていた。肌や髪の色は大きく違わないものの少し違和感がある。瞳はメイリーの言う通り、うっすら銀色に見えた。

 でも何より違うのは表情だ。寝起きでボケボケしながらも、私の顔は自分の目にも生き生きして映った。

 ついふふっと笑いが漏れた時、不意にズボンが下に引っ張られた。ワイシャツのボタンもひとりでに外れていく。

 ズボンをおさえながら振り返ると、案の定メイリーがこちらに手を向けて魔力操作を行っていた。

「お、おはようメイリー。いきなり脱がさないでくれるかな」

「駄目だから」

 思いっきり寝ぼけた顔をしたメイリーは思ったより強い口調で言った。

「そんな服着て、ボクに黙って仕事探しにいくつもり? 就活なんてさせないよ」

 どうやら誤解させてしまったらしい。しかし眠かったり酔っていたりすると魔術を乱用するのか、この人は。

「大丈夫、出ていかないよ。起きちゃったから、とりあえず服着ただけ」

「なんだ。黙って出てっちゃうのかと思った。ごめんね」

 いいよ、と言おうとしたら結局抵抗むなしくスーツは剥ぎ取られた。代わりに上下そろいの薄ピンクのパジャマが魔法のように手に収まっていた。何か見知らぬ可愛い動物の絵が描かれている。

 見るとメイリーも同じデザインのパジャマに着替えているところだった。

「寝巻も買っておいたから、ボクとお揃いのやつ。まだちょっとしか寝てないから、もっとちゃんと寝よ」

 この家に初めて来たときも寝ていた布団が敷きなおされ、誘われるままにメイリーの隣に横たわると、服の袖を捕まれた。

「おやすみ。起きてまたすぐ着替えたりしちゃだめだから」

 本当に焦らせてしまったらしい。何かトラウマでも踏んでしまったか。悪いことしたな。

「おやすみ」

 すぐにまた寝息を立て始めた麗しの魔術師を見て、まただらしなくにやけながら、私も目を閉じた。

 さようならスーツ。どうやら当分着ちゃだめらしい。

 この場所が、私の家である限りは。

出会い編完。

この辺の話は漫画で描いてみたいです。読んでくれる人がいれば。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ