第一話 「金色のシルクハット」
目を開けると、飛び込んできたのは金色がかった空。夕焼けのオレンジとも黄砂の黄色とも違う、一目で別世界だと確信したあの空の色だ。
本当に別世界に来たんだ。
手を掲げてみる。すると、いつも見る自分の手とは少し違って見えた。
空が違うんだから光も違うわけか。物理法則そのものが違うのか、星や空気の問題か。私は地球の物理法則にも全然詳しくないけどともかくそのレベルから地球とは違う世界らしい。
立ち上がる。飛び込むきっかけになったあの少女がいた町の中ではない。穴が映す景色は数秒ごとに切り替わっていたし、飛び込むまでに切り替わっていたのだろう。もしくは穴が映していた光景と転移先は関係ないのかもしれない。そもそもあの男性が「ゲート」と呼んでいただけで移動できると勝手に思って飛び込んだのは明らかに危険すぎたことに今更気づく。まぁ結果オーライだろう。
ともかくここは草原だった。多分高所から落下したはずだけど怪我をした様子はないのはこのおかげか。
「それだけじゃないなこれ。体が軽い」
惑星レベルで異なっているのだから当然か、多分重力も違う。多分少しだけ。1メートルジャンプする感覚で跳んだら数センチ余分に飛べるくらいの感じ。
確かめるように手足を動かしていたら、足に何かがぶつかった。
大きな金色のシルクハット。私にゲートを見せた彼がかぶっていたものだ。こちらの世界で見ると、それほど派手な色には感じなかった。もともとこちら側のものなのかもしれない。
拾ってみると帽子とは思えないくらいに重い。
見ると中には何やら機械がくくりつけてあった。ぱっと見は携帯電話に近い。取り外してみてみると、どうも電源がついているらしかった。
「どうやって使えばいいんだろうこれ」
そう呟くと、その機械から謎の音声が再生された。
もしかするとこれは。思いついたことを試してみる。
「私」
呟くと、機械は『みぁ』と音を出した。
「みぁ」
真似して発声してみると、今度は機械が『私』と喋った。しかもさっきより音が大きい。
ここまでくれば確信していいだろう。やはり双方向に翻訳してくれる機械だ。
しかも帽子の内側に入れてあったことからも恐らく、日本語→異世界語は自分の耳に聞こえるように、異世界語→日本語は対話相手に聞こえるように設定されているのだ。
間違いない。突然衝動的に飛び込んだ私のために自分の道具をとっさに投げ入れてくれたのだ。今は姿の見えない相手に頭を下げて感謝した。あと内心ずっと怪しい男呼ばわりしていたことを反省した。彼はいい人だったみたい。
この機械の設定から見て彼は異世界人だったんだろう。長年やってるようなことを言っていたし、日本語化のほうは使っていなかったようだが。
ともかく、これの設定を逆にできれば。機械を触ってみると、メニュー画面すぐに翻訳サイトでよく見る「⇔」マークがあった。押したら期待通りに設定が変わっていた。逆にスマートフォンのように多機能な機械でなかったことが幸運だった。
元あったように機械を帽子の内側にくくりつけ、帽子をかぶって立ち上がる。
そして大きく息を吸い込んでから声を出した。
「私は、白銀しろなです」
『みゃーは しろがねしろな』
異世界語の自己紹介が誰もいない草原に響き渡った。
よし。
決意を新たに前を向くと、草原の先に、少女がいたあの町が見えた。
割と近くに落ちていたんだ。気持ちはさらに前向きになった。
絶対に見つける。
そして仲良くなるんだ。
しらない世界で一人きり。普段の自分だったら不安に飲まれそうなものなのに、なぜか私の胸はわくわくでいっぱいだった。
次回、町に到着。から長くなりそうなので今回はかなり短めでした。