第7話 目覚めと覚悟②
相良、久我、祐希の3人は、相良の部屋に集まっている。
「ん~。何から話そうかな」
顎髭を撫でながら、思案顔で言う久我。
「今回の妖魔で一般人に被害は無かったよ」
「お前が燕を守ったおかげだ」
久我に続き、相良が言う。
「ただ、紋師が1名死亡と断定された。現場で腕だけ見つかったよ」
あれか。と思い出し、辛そうな表情の祐希。
「紋師がやられて、何で俺は襲われなかったんだろう・・・?」
そう呟いた祐希は、その日の状況を2人に伝える。
「妖魔の中には、人の霊気を取り込んで、力を付ける奴がいる。
そういう奴は霊気を探し求めてるが・・・
話を聞いた限りじゃ、そういうタイプだったとしか言えないな」
久我はそう言うと、続ける。
「燕くんは顕紋していなかったが、潜在的な霊気に惹かれたか、
大天狗の霊気に惹かれたのか。
現状ハッキリわかっていることは、
君達が妖魔に遭遇して、生き残ったって事ぐらいだよ。
今回の件は通常通り、東北支部が事後処理をしている。
ただ・・・」
そう言葉を切った久我は一層真剣な表情で、祐希を真っすぐ見つめる。
「君の体に起こったことは極秘だ。
つまり、その歳で紋が顕れたことと、
それに大天狗が関係しているかも知れないって事はね」
「えっ、大天狗が関係してるんですか?」
話の見えない祐希がキョトンとしている。
それを受けた久我は、そうだった、そうだった。と頭を掻きながら、
意識がなくなる前に覚えている事を訊ねる。
相良は少し心配そうな面持ちで向かいの祐希を見ている。
「俺、妖魔に腕を切られて、めっちゃ痛くて、血がいっぱいで、
死ぬかもって思ってたら、意識がなくなって・・・そこからは・・・」
それ以上は思い出せず、宙を見つめている。
「そうか、ありがとう。
これまた推察でしかないが・・・
どうやら君は封印されていた大天狗の霊気に何かしらの干渉を受けた様だ。
ちなみに、妖魔は君が滅したらしい」
そう言う、久我の言葉を相良が継ぎ、
「お前の姿は、まるで伝説で語られる大天狗のようだった。
あの時はどうなることかと・・・」
「そ、そんなことあるの?」
記憶の無い祐希は思ったことを口にするしかない。
いや、と苦笑いを浮かべながら久我が答える。
「妖霊に施した封印が弱まることはあるが、
当然、定期的に強化し直している。で、君のその手」
祐希の右腕辺りを見ながら続ける。
「顕紋の儀以降に紋が顕れるなんて話は前例が無いよ。
しかも、相良さんによると、妖魔に切り落とされた腕が再生したようだし、
俺が切り落とした時にも再生し、そうして今も君の腕がある」
「えっ!ちょっ、えっ!?俺の腕切ったんすか?」
「だって、俺が駆けつけた時の君は、人じゃ無かったからね。
本当は首を狙ったんだけど・・・
まぁ、その話は置いといて。」
「---」
何か言いたげな祐希を無視して久我は話を続ける。
「このことは当然協会へ報告したわけなんだけど。
もちろん、一部の人間ね。
協会としては、未知の存在である君を放っておくわけには行かないんで、
協会本部の管理下に置かせてもらうことになった」
「管理下って・・・」
不安そうに呟く祐希に久我は微笑む。
「要は、都の魂紋学院に入って、霊気の使い方を学び、
いずれは魂紋師として貢献してくれって話だと思ってくれればいいよ。
多少の制限はかかるだろうけど、他の学生と同じだよ。
聞いた話じゃ、ずっと紋師になりたがってたみたいだし、
悪い話じゃ無いでしょ?
もちろん紋師を目指す以上、今回の件の様に命の危険は付きまとうが」
祐希に、断る権利など与えられていなことは伏せつつ、様子を伺う久我。
出来れば本人の意思で決めてもらいた。
それがきっと、今後に影響するだとうと考えていた。
少し考えている様子を見せた祐希が口を開く。
「燕は?」
久我の想定通りの質問だ。
「燕くんも一緒に、都の中等部へ入ってもらえるようにしてあるよ。
保護者である相良さんと、燕くん本人からは了承をもらってるし」
相良と目配せをする久我。
祐希が眠っている間に話はまとまっているのだろう。
「・・・・・・
俺、絶対紋師になって、母さんを殺した妖魔を全部ぶっ殺してやるって思ってたのに、
紋は出なくて・・・それでも諦めきれなくて必死に修行してたけど・・・
心のどこかで、どうせ無理なんじゃないかって思ってる自分もいて・・・
実際、妖魔を目の前で見たらビビッてなにも出来なくて・・・
紋師じゃ無くたって、いや、力が無いから死ぬことだってあるんだ・・・
何が起きたのか正直よくわかんないけど、やっと力を手に入れたんだ。
・・・
俺、行くよ!」
祐希の顔には覚悟の色が浮かんでいる。
「それを聞けて良かったよ」
正直、断られたらどうしようか、と思っていた久我は内心ほっとして続ける。
「ただ、君は17だから、高等部の2年に編入してもらうことになるんだけど、
一般的な紋師のように中等部へ通ってない君には、
やらなくちゃいけない事が沢山あるから覚悟してね。
まぁ、新学期まで3ヶ月あるし、死な無・・・大丈夫でしょ」
先ほどまでの覚悟の顔は保っているが、額からは冷や汗が流れ出している。
「さっ、話もまとまった事ですし、宴にしますか」
静かに聞いていた相良は、苦笑いを浮かべ、腰を上げる。