第6話 目覚めと覚悟①
東の窓から差し込む朝日が、板張りの床に置かれたベッドで眠る
祐希の顔を照らしている。
祐希は苦しそうなうめき声を上げ始める。
「うっ・・・うわっ!」
全身に汗をかき、叫び声と共に目を覚ます。
はぁ、はぁ、と荒い呼吸で、辺りを見回し、
そこが祐希達の暮らす寺の一室であることに
ひとまず胸をなでおろす。
ダダダダダダダッ
ガラガラ!
足音に続き、扉が開かれる。
祐希の声を聞いた燕が、
泣いているのか笑っているのか分からない顔で入ってき、
兄の顔を確認すると、そのままの勢いで跳びついてくる。
「燕!」
弟の名を呼びながら、笑顔で自分のお腹に乗った頭を撫でる。
何が起きたのかは分からないが、
確かに手から伝わる燕の感触に、胸から目頭へと熱いものが広がっていく。
ふと、祐希は自分の手の甲に、複数の羽根が円で囲まれた紋があることに気が付く。
開かれたままの扉から、相良と久我に続き、子供たちが入ってくる。
祐希の目覚めに、喜びはしゃぐ子供たち。
相良は笑顔を見せるものの、どこか心配そうな表情で矢継ぎ早に言葉を発する。
「目が覚めたか。体はどうだ?どこか痛むか?何か異常は無いか?」
「相良さん。お、俺いったい・・・何が何だか・・・」
自分の手の甲を触りながら、曖昧な記憶を探る祐希。
「何があったか覚えてるかい?」
相良の後ろに立っていた久我が、一歩前へ出ると、そう聞いてくる。
「妖魔から逃げて・・・燕を助けようと・・・それで・・・」
体から切り離された自分の腕の映像がフラッシュバックし、慌てて肩を触る祐希。
「無理をしなくていい。丸5日間眠り続けてたんだ。
何か体に異変を感じたら直ぐに教えてくれ」
久我はそう言って祐希をなだめ、簡潔に自己紹介を済ませると、
後ほど改めて詳しい話をする旨を伝える。
5日も寝ていたのか、と驚く祐希に微笑むと、
視線で相良へバトンタッチし、部屋を後にする。
それを受けた相良は満面の笑みを浮かべ、
「とにかく、今夜は祐希の快気祝いだ!
それに、燕の顕紋祝いもだ!
奮発して、お前達の大好物を沢山用意してやる!
それまで、ゆっくり休んでなさい。
よしっ!皆で買い出しだ!」
そう言って、はしゃぐ子供たちを連れて去っていく。
「・・・え?えっ?マジかよ燕!」
相良からさらりと知らされた、燕に紋が顕れた事実に驚く祐希。
「へへっ!」
燕は嬉しそうに、紋の描かれた手の甲を兄に見せる。
スゲーじゃねーか、と褒める祐希の腹の音が盛大に鳴るのを聞き、
燕は、まずはお粥だね、と駆け去っていく。
♢♢♢
庭の見える縁側で、右手を口に近づけ、話している久我。
「はい、彼が目を覚ましました。今の所、霊気に異常は見られません。
記憶に多少の混乱はありそうですが、体に異変は無いようです。
予定通り、今夜話をして明日にはそちらへ向かうつもりです」
「了解した。引き続きよろしく頼む」
そう返ってきた、年齢は感じるが力強い声に、
承知した旨を伝え通話を切ると、
今後の忙しさを思い、
長い溜息をつきながら、髪をかきあげる。