第5話 始まりの地⑤
林の中を猛スピードで駆ける相良。
先行してハヤブサが飛んでいる。
間に合え!そう心の中で念じ続けてる。
レベル1で発令された厄災は、移動中にレベル2に上げられていた。
タイプ狩人でも、星無しの紋師1人では、手に負えないかもしれない、
そう考え、焦っていた。
ましてや、祐希と燕が鹿狩りへ出ている。
妖魔の霊気を肌で感じられる距離まで来た。
確かにこの気圧はレベル2だ。
腕を払うと、ハヤブサは光の粒子となって消える。
状況を把握するため、出来るだけ高い木の上を移動し始める。
(あれだ・・・)
妖魔を目視し、近づいていく。
徐々にハッキリと見えてくる妖魔。
相良はハッとする。
妖魔の前方には祐希が真っ赤な地面の中に倒れている。
燕の姿は見当たらない。
突如、それはまさに突如。
妖魔達のいる地点から湧き起こった霊気。
その気圧に一瞬たじろぎ、立ち止まりそうになる。
次の瞬間。
何が起きたのかはわからない。
妖魔が、消えた。
それがいたはずの場所は、何かに押しつぶされたようになり、
妖魔のものであろう、血肉が地面にへばりついている。
(祐希・・・?)
傍らに立っている祐希。らしきモノ。
逆立った白銀の髪の毛。
白目の部分は黒く、瞳は真っ赤に染まっている。
右腕には、手の甲を中心に広がる紅い紋。
相良の脳裏に浮かぶ、伝説の大天狗。
着ているものがそれでなければ、相良にも祐希だとは気が付かなかっただろう。
「ぐぉぉぉおああああああああああああ!!!!」
祐希の上げる咆哮は、到底人のものとは思えない。
相良が素早く印を結ぶと、祐希を鎖が締め上げる。
(あ、無理だ・・・)
本能的に悟る相良。
砕け散る鎖。
ザシュッ!
祐希の右腕が宙を舞う。
相良が跳んできた何かを見ると、そこには次の一太刀を入れようと構える久我の姿。
「待ってくれ!」
そう叫ぶ相良に、一瞬動きをとめる久我。
先ほどまでその場を支配していた、気圧が小さくなり、
祐希の右腕が再生していく。
「兄ちゃ~ん!」
崖をよじ登ってくる燕が叫んでいる。
何が起きているのか分からず、困惑する久我。
それは相良も同じだ。
燕は何度も兄を呼んでいる。
徐々に小さくなっていた気圧が、ふっと消え、崩れ落ちるように倒れる祐希。
それは相良の知る祐希の姿だ。
崖を登り切った燕が祐希に駆け寄り、抱きしめる。
燕の無事に安心しつつ、祐希の状態に不安げな相良。
久我は相変わらず何が起きているのか分からずに、相良と少年たちを交互に見ている。