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第4話 始まりの地④

(まだ生きてる・・・

 まだ生きてる・・・

 まだ生きてる・・・

 長いな・・・)


何も感じ無い。


(あの紋は相良さんのじゃ無かったな・・・)


何故か冷静に自分を見ている自分がいる。

木をなぎ倒す轟音と共に、妖魔が祐希の横を駆け抜けている。


(えっ?・・・)


妖魔は祐希を素通りしていく。


拍子抜けしたのと同時に、

死が遠ざかる安堵と認識すらされていない怒りが

全身に広がるが、頭は冷静なままだ。


(なぜ無視された?偶然?気まぐれ?

 俺が弱いから?人を襲わない?

 いや、紋師は殺された。

 紋師だけを襲うのか?攻撃してきた者だけを襲うのか?

 どこに向かってる?あの仕草は何かを探してる?)


 頭の中にいくつもの疑問が浮かぶが、何もわからない。


(燕も襲われないのか?)


わからない。

そう思った時には、すでに妖魔を追いかけ始めていた。


妖魔の速度は思っていたほど、速くは無かった。

恐怖が実際よりも速く感じさせていたのだろう。


とはいえ、燕の足では、いずれ追いつかれるのは必然だ。

妖魔に追いつくと、距離を取って並走する祐希。

もう祐希の顔に恐怖の色は浮かんではいない。

妖魔がこちらを気にるす様子はない。


(何とか、こちらに気を引かなきゃ・・・)


「おい!クソ妖魔!こっちだ!こっちに来い!」


そう叫びながら、拳ほどの石を投げると、妖魔は一度立ち止まるが、

何かを探る仕草をし、再び走り出す。

その先には小さな足跡が続いている。

祐希はクソッ、と悪態をつきながら、後を追う。


もう少し行くと、林から抜け、崖上の開けた洞窟のある場所へ出る。

そこには大天狗の祠がある。この地に住む者なら誰でも知っている。

600年前に封印されたと言われる大天狗。畏怖と尊敬の対象である。

燕ならそこにいると思った。


(ヤバイ・・・)


祐希は妖魔に飛び乗ると、小刀を頭に突き立てた。

つもりであったが、小刀の刃は折れ、傷一つ付きもしなかった。


しがみついている間に、林を抜けた。


「止まれ!止まれ!止まれ!止まれ!止まれ!」


刃の通らない妖魔の頭を何度も何度も殴りつけるが、

無意味なことは拳の感触から、嫌なほど良くわかる。


「燕!逃げろ!」

まだ姿の見えない弟に向け、叫ぶ。


洞窟から、泣き腫らした目で兄を呼び叫ぶ燕が出てくる。


「捕まれ!必ず助けるから!」


祐希は妖魔から飛び降り、その場で硬直する燕を抱きかかえると、

その場から走り出す。


「グギャギョグギギャグギョ~~~!」


突如鳴り響く耳をつんざく奇声に振り返ると、

口角を吊り上げ笑っている様にも見える巨大な口を開いた妖魔が、

以上に長い舌を祐希達を目掛け飛ばしてくる。


祐希は咄嗟に燕を突き飛ばす。

走る激痛。

叫び出したい衝動が湧きがるが声は出ない。

今までに経験したこのの無い痛み。もう痛みなのかどうかもわからない。


赤い壁が目の前に垂直に立っている。いや、自分の血が広がった地面に倒れている。

視界に映る、ちぎれた自分の腕を見て、そうなのだと気が付く。


視界に映る全てがゆったりと動いている。

さっきまでの痛みが嘘のように、もう何も感じない。

赤い地面が広がって行く。

ぼやけていく視界の中、雪に足を滑らせ崖下へ落ちていく燕の姿がかろうじで見える。

死の寸前の一瞬であり、永遠でもある間。

視界には何も見えなくなり、脳裏に蘇る鮮明な記憶。


~~~


住宅街に響く

人々の悲鳴、建物が崩れ落ちる音、人のものではない奇声、燕の泣き声。

幼い日の祐希が1歳に満たない燕を抱え、杖をついている母を支えている。


「私は大丈夫。直ぐに紋師が来てくれるから」


もうすぐそこまで迫っている妖魔に、母が本気でそう思っていないことは、

5歳の祐希でも分かった。

嫌だ嫌だ、と顔を涙と鼻水でグシャグシャにした祐希に続ける母。


「燕を守って。お兄ちゃんの祐希なら出来る。振り返らないで走って!」


妖魔対する恐怖か、母の“最後”の思いを受け取ったからか。

燕を抱え走りだす祐希。


振り返ってしまった。

母が妖魔に握りつぶされている。悲鳴も上げずに......


潰れた母をゴミのように投げ捨てると、こちらに向かってくる妖魔。


突如、妖魔の体は光の鎖で締め上げられ、周囲には結界が張られる。

鎖と共に妖魔の体は徐々に細く締め上げられ、潰されていく。


燕を抱きながら震える祐希に、今よりシワの少ない相良が、

大丈夫かい?、と聞いてくる。


「母さんが・・・母さんがっ!」


祐希の言葉に、察した相良は表情を曇らせる。


「お前のせいだ!お前がもっと早く来れば、母さんはっ!」


~~~


(また助けられなかったな・・・母さんごめん・・・

 相良さん・・・ごめん・・・

 燕だけでも・・・どうか助けて・・・)


祐希の腕から広がり続ける血は大天狗の祠へと達する。

(ほこら)から、何かが祐希の体に流れ込んで来る。


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