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第1話 始まりの地①

(えん)!急げ!」


 叫ぶ祐希(ゆうき)が弟、燕の手を引き、足場の悪い雪道を必死に走っている。

 祐希は少しでも走りやすそうな場所を、木々が密集する林の中から

 選択しているが、雪が地面を(おお)う中、ましてや長時間歩き回った後だ。

 祐希1人なら逃げ切れただろうが、燕の体力は持ちそうにない。


 泣きそうな顔で精一杯足を運ぶ燕。

 祐希達の後ろから聞こえる、木々をなぎ倒す音はまだ遠い。

 時々立ち止まっている様子も音から感じられる。

 しかし、少しずつだが、確実に近づいてくる。


 もう、やるしかない・・・俺がやらなきゃ、2人ともここで死ぬ。

 時間さえ稼げれば、紋師(クレスター)が助けに来るはずだ・・・。


「燕!このまま出来るだけ遠くまで走れ!」


 そう叫ぶと立ち止まり、鹿を捌くために持っていた短刀を構える。

 その様子から、兄が何をするつもりか察するが、置いては行けない。


「兄ちゃんも一緒に逃げよう!もっと速く走るから!」

 そう言って祐希の腕を引く燕の肩を力強く掴み、

「大丈夫だ!直ぐに紋師(クレスター)が来るはずだから!そしたら、俺もすぐに行く!

 頼むから、走ってくれ!時間が無い!」

 そう早口でまくしたてる。


 今まで見たことのない、必死な形相の兄にそういわれ、頷き、走り出すしかない。


 祐希は近づく音をにらみつけ、小刀を握る手に力を込める。

 (クレスト)が無くてもやれるはずだ、毎日毎日修行してきたんだ。

 相良との武術修行の日々を思い出しながら、そう自分に言い聞かせる。


「やれる…やれるはずだ…俺ならやれる…殺ってやる…」

 徐々に大きくなる呟き。


 木々の間から、

 頭の殆どの面積を、歯をむき出しにした口が占めている妖魔の姿が見えてきた。

 頭だけでも4メートルはありそうなその妖魔の体は、まるで巨大なトカゲのようである。

 妖魔が近づくにつれ、寒気が増し、不安と恐怖の液体が、

 つま先から全身を包み込むような感覚に襲われていく。

 嫌でも、妖魔に対面した12年前の記憶が蘇る。

 20メートルほど先で立ち止まると、辺りを伺う様子でその妖魔の口元から見せる主張の強い歯は

 真っ赤な血に塗られ、布の様なものがこびりつき、それに絡まりぶら下がる人の手には、

 紋が描かれている。


 何が起きたのかは察しがついた。


(あぁ・・・何てうぬぼれていたんだろう・・・

 俺が、修行した程度で敵うわけないんだ・・・

 どうして殺れる何て思ったんだ・・)


 再び走り出し、迫りくる妖魔。


(あ、死んだな・・・)


 いつの間にか腰を抜かした祐希は、地面に付いた自分の膝を見ていた。


(まだ生きてる・・・

 まだ生きてる・・・

 まだ生きてる・・・

 まだ生きてる・・・

 まだ生きてる・・・

 長い()だ・・・)


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