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イラストから物語企画参加作品

多様社会


今日の仕事先は新階層の15階東地区、仕事先で使用する器材が乗った荷車を引いて地下都市の上下を繋ぐエレベーターに向かう。


エレベーターの前は旧階層下部から新階層に向かおうとする人たちで長蛇の列。


それでも旧階層上部から最下層の新階層20階まで5000メートル以上ある階層を上下するのに、エレベーターを使える上級公務員なだけましなのだが。


新階層に住む一般市民や下級公務員はエレベーターの使用を禁止されているからな。


500年前地球に巨大な隕石が激突し大量の土砂が衝撃で巻き上げられる。


巻き上げられた土砂に太陽光が遮られ氷河期が誘発され地上は今、雪と氷に閉ざされた極寒の地になっていた。


隕石の激突で逃げ惑った避難民はその当時出来たばかりの、半径10キロ上下500メートルの10数階ある巨大な地下街に逃げ込む。


逃げ込んだ避難民達と、巨大な地下街建設のどさくさに紛れて地下街のそのまた下の地下1000メートルのところに建設されていた軍の核シェルターに駐屯していた将兵は、地上が冷え込み地下での生活が長引くと考え核シェルターの下に居住区の建設を始める。


人々は日ごとに寒くなる地上に出掛け地下の居住区建設に必要な物資を集めた。


自分達の生活空間を良くしようとしている時、地下街に生息していた鼠などの生き物が突然巨大化し人々を襲い避難民に多数の犠牲者が出る。


人々を守る為に核シェルターの軍の指揮官は地下街で暮らす人たちを核シェルターの下に建設中の居住区に移動させ、地下街のちに古階層と言われるようになる階層を破棄。


核シェルターとその下ののちに旧階層上部下部と言われる階層だけでは人々を収容しきれず、軍と避難民の代表者達が協議し旧階層の下に新階層が建設された。


新階層は一般市民の居住区や、キノコや食用苔それに地上から持ち込まれた麦や米に野菜の農場と犬や猫の畜産施設が広がる。


ふーやっと着いた。


エレベーターから荷車を引っ張りだし東地区に向けて歩く。


東地区に向かう通路の天井や壁には、電灯の代わりに光苔が貼り付けられ通路を仄かに照している。


地下水脈を利用した水力発電所や地熱を利用した地熱発電所は次々と建設されているのだが、必要とするだけの発電量には程遠く、エレベーターや農場など必要不可欠なところでしか電気は使えない。


オット、荷車に積んだ器材の上に無造作に置いた鞄が落ちるところだった。


後ろの手で鞄を押さえる。


前方から下級公務員が走り寄って来た。


「おはようございます。


今日、子供達に講演してくださる方でしょうか?」


「はい、今日は宜しくお願いします」


返事を聞き、近寄ってきた下級公務員が私から荷車を受けとり引き始める。


今日の仕事はこの地区にある初等学校で、子供達に旧階層下部にある研究所で調べた研究結果を教える事。


講堂に着き、荷車に積んであったバッテリーに投影機のコードを繋ぐ。


興味深そうに私を見つめる300人程の子供達と向き合った。


「こんにちは!」


「「「こんにちは!!」」」


「おう! 元気がいいな。


君達のような元気のいい子供達に研究結果を話せると思うと、テンションが上がって発表のやりがいがあるよ。


さて、500年前何が起こったか知ってるかい?」


「はい! 巨大な隕石が地球に激突しました」


最前列にいた子供が挙手して答える。


「その通り、その結果地上は雪と氷に閉ざされました。


それじゃ、雪と氷に閉ざされる以前、地上から上を見ると何が見えたか知っている人はいるかな?」


子供達は皆首を傾げた。


「空が見えたのだよ」


「「「空? 空って、何ですか???」」」


1枚目の写真を投影機の上に置きスクリーンに映す。



挿絵(By みてみん)



「上の方で光っているのは光苔ですか?」


子供の1人が疑問を口にした。


「違うよ、此が空。


えーと、此方の方が分かりやすいかな?」


別な写真を投影機に乗せる。



挿絵(By みてみん)



「この建造物の隙間で光っているのが太陽。


白いモヤモヤしているのが雲でそれ以外が空だね」


「あのー」


子供の1人が遠慮がちに手を上げた。


「ん? 何だい?」


「その下の方に映っているのは人ですか?」


「そうだね。


500年前に生きていた人だね」


「「「へー」」」


別な子供が手を上げて質問してくる。


「何か身に纏っているように見えるんですけど」


「そう、此は服です。


昔の人たちは服を纏っていたのです。


私達が服を纏っていないのは理由があります。


1つは、地下都市の内部は地熱で熱く服を纏う必要が無い事。


2つ目は、服を作るのに必要な繊維が採れる植物が必要量栽培されていない事。


私が所属する研究所で少量栽培されていますが、此は何時か地上で暮らせるようになったとき地上で栽培する為に必要な種子を得る為の物なので、服を作る訳にはいかないのです。


3つ目は、畜産されている犬や猫の毛皮や古階層で冒険者の方達が駆除している大鼠の毛皮、これ等は極寒の地に向かう研究者とその護衛の将兵や地上に近く寒い古階層で活動している冒険者の人たちに支給する量しか無いのが理由ですね」


他にも理由があるのだが大雑把に言えばこの3つが主な理由。


何か疑問を持った子供がいないか子供達1人1人の顔を見ながら空が映っている写真を探す。


あ、あった。


この写真の方が青空が今投影機の上にある写真より鮮明に映っているな、投影機に見つけた写真を置く。



挿絵(By みてみん)



途端。


「「「同じ姿形だー!」」」


「「ギャアアアアーー!」」


「「「怖いよーー!」」」


「「キャァァァァーー!」」


「「バケモノだぁー-!」」


子供達が泣き叫びスクリーンから少しでも遠ざかろうと押し合いへし合いして講堂の後ろの方へ逃げ出した。


ヤベ、初等学校の子供達には早かったか?


古階層の生き物が突然巨大化した理由は地上の放射線量が増えた事にある。


軍の医師や避難民の中にいた研究者等の研究で、隕石が地球に激突する前の放射線量より激突後の放射線量は凄まじく増えていた。


隕石が放射能を大量に含んでいたのかウラン鉱石のような鉱石でできていたのかは、氷河期が終わったあと隕石や激突した場所を調べなくては正確な事を言えない。


ただ地上の放射線量は核実験が行われたネバタ砂漠やビキニ岩礁並みに増えていた。


巨大化した鼠等の生き物だけでは無く人も被爆してDNAの配列が滅茶苦茶になり、今では親兄弟でさえ姿形や目や鼻に手足等のパーツの数や大きさや色が同じ者は存在しない。


私は10本ある腕を大きく広げ10数個ある目を見開き、騒ぐ子供達の声に負けないくらいの大声を発して子供達を落ち着かせようと大きく息を吸い込んだ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] これはすごい! 絶句です! すごいです!
[良い点] 氷河期になってしまった地球で生きている人類。 なるほど、こんな風に生活しているんですね。 私たちにとってはなんでもないイラストでの、子供たちの反応。ラストのオチがタイトルとはまっていていい…
[一言] 何気ない呟きを拾ってもらってありがとうございます。 隕石の落下となると、いつの時代も他人事ではないですけど、いつか、宇宙に逃れていた人類が地球に帰還を果たした時、いったいどうなることでしょ…
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