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第44話 再会と別離

主人公が桶狭間の戦いで偶然知り合った人物。


後日主人公を訪ねてきたその人物は、あの秀吉でした。


そして、思いもよらぬ再会が待っていました。

「ええっと・・・たしかに私は又介ですが・・・。」


 突然訪ねて来て「秀吉」を名乗り、人払いを求めたかと思えば、「なぁ、お前、又介やろ?」である。

 何が何やらで、俺は混乱した。


(つーか、いきなり訪ねて来て、呼び捨てってどういうことやねん!!本物の豊臣秀吉にしても、俺の方が10も歳上やし、今は身分も上やぞ!!)


 そう考えると、だんだん腹が立ってきた。

 歴史上著名な人物とはなるべく親しくしたいとは考えていたけど、秀吉との相性は最悪かも知れない。


「マタスケやろ?俺や、ヨシローや!忘れたんか!?」


(はぁ!?コイツは何を言っとんや?何がヨシローやねん。・・・えっ!?ヨシロー!?)


「ヨシローって、あのヨシローか?」


「やっぱりマタスケやったんやな。何か、そんな気がしてたんや。」


 間違いない。

 見た目や声は全然違うけど、目の前にいるのは幼なじみの藤田吉郎(ふじたよしろう)(ヨシロー)だ。

 ただ、何で「木下藤吉郎」を名乗っているのかが気になるところ。


「ヨシロー、何で俺のことわかったんや!?」


「ま、カンやな。最初に会った時から、何となく。」


「カンかよ!」


「けど、桶狭間の戦いの後、マタスケが「チャンス」って言葉使ったやろ?アレで確信した感じやな。」


(そっか。あの時、俺が興奮してしゃべってたから、ヨシローは確信持ったんやな。世の中、何がどう転ぶかわからんな。)


「ひとつ質問していい?」


「ええよ!」


「ヨシローの名前、何で木下藤吉郎なん?」


「パッとせん名前やろ?実は来年結婚する予定やねんけど、ヨメさんのお母ちゃんの名字もらうねん。ちょっとフライングしてんねんけどな。藤吉郎は、俺が足軽になった時、もらった部屋に前住んでたヤツの名前やねん。ま、適当に付けた感じ。」


「いや、適当で木下藤吉郎って・・・。」


「あ、でも、(いみな)は秀吉やで!戦国時代で下からはい上がるって言ったら、秀吉やろ!?せめてあやかろうと思ってな。」


(いや、あやかるも何も、本物の秀吉に転生してないか、コレ!?ひとつ、確かめてみるか。)


「なぁ、こっちの世界で生まれた場所って中村ってとこ?」


「うん?そやで!」


「織田家に仕える前、松下って家におらんかった?」


「いた、いた。周りと合わんくって、すぐ暇出されたけど。」


「じゃあ、最後の質問。弟いる?小一郎くんだっけ?」


「おう、よく知ってるな。名前まで当たってるわ。姉ちゃんも妹もおんで!てか、メチャ詳しいな。何でそんなに知ってんの?」


(ヨシロー、この様子ならまったく気づいてないよな・・・。とぼけてるようにも思えん。名前といい、その他の条件といい、完璧に一致してる。間違いない。)


「・・・ヨシロー。お前、本物の秀吉に転生してんぞ・・・!?」


「は!?そんなわけないやろ?」


「いや、木下藤吉郎は秀吉の最初の名前やぞ!さっき聞いた質問も、本物の秀吉の出身地とか経歴とか家族の話やし。全部一致するってことは、間違いないわ。」


「ええっ!?そうなん?マジかよ・・・けど、これはチャンスやな。わざわざ秀吉にあやからんでも、ホンマもんの秀吉になれるんやろ?最高やん!!」


「お、おう。良かったな・・・!」


(さすがヨシローやな。切り換えの速さにビビるわ。俺やったら秀吉に生まれ変わったら、プレッシャー感じてたまらんけどな。)


「そうや!実はマタスケに頼みあんねん!!」


「何!?」


「ほら、俺、歴史とか全然詳しないやろ?戦国時代のこととかわからんことだらけやったから、ここまで大変やったんよ!だからさ、これからは色々歴史のこと、教えてほしいねん。」


「要は、これから俺にちょくちょくアドバイスをしろって言いたいんやろ?」


「そうそう。よくわかってるやん!!」


「お前なぁっ!!」


(ちゃっかりしてるなぁ。見た目は変わっても、中身はやっぱヨシローやな。つーか、秀吉っぽいって言えば、秀吉っぽいか。)


 何はともあれ、俺はこの世界に来て初めて、心の中をすべて打ち明けられる人間に出会えた。

 それが幼なじみのヨシローなのだから、言うことはない。


 その日、俺たちは夜遅くまで語り合った。

 昔話に花が咲き、気がつけば大声で笑い転げたりした。

 久しぶりに前世に戻ったようだった。

 家族や家臣に気味悪そうに見られていたことも気づかないくらい、夢中になっていた。


 ……………………………………………………………


 思いがけぬ親友との再会を喜んだのも束の間、逆に入れ替わるように別れがやって来た。


 桶狭間の戦いの熱狂が収まる間もなく、信長は尾張守護・斯波義銀を国外に追放した。

 桶狭間の戦いに際し、三河守護・吉良義昭、足利一族の石橋忠義と共謀し、二の江の領主・服部友定とも連携して今川家を尾張に引き込もうとした容疑によるものだった。

 裏切った斯波家臣が秘かに知らせてきたことから信長の知るところとなり、あえなく追放となったのだ。


 斯波義銀は俺の旧主だ。

 学問や武芸の手ほどきをした、俺の生徒でもある。

 幼い頃から斯波家の復権に燃える彼に、俺はそんな使命などにこだわらず、「君臨すれども統治せず」の考え方を紹介したものだ。


 だが、結局その考えが容れられることはなかった。


(事前に相談してくれれば、言葉を尽くして止めたのに・・・。)


 もはやどうにもならないことだが、流浪の身となった旧主君のことを思うと、胸が痛んだ。


(せめて経済的な支えとなるよう、いくらかの財を送ろう。)


 側近の右近に義銀の行方を探らせると、どうやら遠縁を頼って京へ上ったらしい。

 俺は京に知己が多く、往来が頻繁な那古野弥五郎に頼み、財物を届けてもらった。


 やがてしばらくして、義銀から礼状が届いた。

 追放の身となり、思い出されるのが又介の教えだ、今はただいつか尾張に戻れる日が来ることを願っている、また今生で又介と会いたいものだと書かれていた。


 読み終わって俺が感じたのは、自分の伝えたいことを人に伝える難しさと、歴史を変えることが、あるいは不可能ではないかという思いだった。

 改めて「運命」や「天命」という言葉が、脳裏にこびりついたように頭から離れなかった。

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