第22話 鳴かず飛ばず
20話に渡る「前奏」にお付き合いくださった読者の皆様、長らくお待ちいただき、ありがとうございました。
ようやく主人公が織田信長と顔を合わせる機会がやって来ました!
無事に那古野へと着いた俺たちの一行は温かく迎えられ、早速信長と対面することになった。
斯波岩竜丸が上座に迎えられ、信長が一段下がって拝謁する形となった。
俺たち斯波家の家臣は左右に居流れて着座した。
対話の口火を切ったのは、信長だった。
「ようお越しくだされました。織田上総介にございまする。お父上のこと、まことに残念でございました。どうぞ、ごゆるりと逗留くだされませ。」
「そなたの忠義、ありがたく思うぞ!」
「ははっ。弟ぎみも無事こなたへ落ちて参られました。すぐに兵を整え、ふらちな大和守めらを討ち果たしてご覧にいれまする。」
「おお、ありがたし。よろしく頼むぞ!!」
「ときに、武衛様は何故この信長を頼ろうと思し召されましたか?叔父の孫三郎の方が歳も長け、武名も高うございまするが!?」
「それは・・・そこなる太田又介が強く勧めたからじゃ。」
「ほう!?」
突然自分のことが話題に出てきて、俺はビックリした。
あの織田信長の視線が自分に注がれている。
急激に口の中や唇が乾いてきた。
「太田殿か。何故、この那古野を頼られた?」
タイミングはともかく、この状況はシミュレーションずみだ。
俺は覚悟を決め、唇に舌で湿りをくれて、口を開いた。
「我らは帰る巣をなくした鳥のようなもの。羽を休めるため、とまる枝を探しております。3年鳴きも飛びもしない鳥がとまっている枝がございましたので、その枝を最善と考えたまでのことです。」
「・・・鳴かず飛ばず、か。面白い!」
笑みを浮かべた信長が再び岩竜丸の方に向き直った。
次に信長の口から出た言葉は、さらに俺をビックリさせるものだった。
「武衛様。太田殿をしばしお借りしとうごさいまする。」
「・・・それは構わぬが・・・どうするのじゃ!?」
「今しばらく語ろうてみたいと考えまする。では、これにて。太田殿、参られよ!」
断る間も何もあったものではない。
いきなり会見は打ち切られ、呆気に取られる岩竜丸らを残し、俺は信長に促されるまま書院へと連れて行かれた。
さすがにこんなシチュエーションまでは想定外だ。
初対面でいきなり2人きりになるなんて、考えもしなかった。
いったい何をされるのか、見当もつかない。
「さて・・・改めて、なぜわしを鳴かず飛ばずの鳥と見立てたか聞かせていただこう。」
さっきと打って変わって、信長からは強い「圧」を感じる。
目の前にいるのはどちらかと言えば細身で、威圧感のある肉体の持ち主ではない。
やや大きな鼻を除けば、細面でやや垂れぎみの目を持ち、顔つきにもいかつさはない。
ただ、眼力が異様に強く、放たれる眼光が刺すように感じるのだ。
「熱心に己を鍛え、兵を鍛える大うつけはおりますまい。また、槍を3間半に長くし、高価な鉄砲を多く集めるなど、並みの将では考えもつかぬことです。」
「であるか。」
信長の目つきがさらに鋭くなったようだ。
自分が最も力を入れている軍事面について細かく指摘され、警戒を強めたのだろうか。
「わしを大うつけではないと見た者はほとんどおらぬ。・・・実に面白し!そのほう、わしに仕えぬか?」
(えっ!?いきなりやな、オイ・・・!せっかちってレベルじゃねえぞ!?)
「ありがたいお言葉ですが・・・私は武衛様の家臣でございますので・・・。」
「では、武衛様が諾と申されれば良いのだな?」
(ええっ!?何でそうなんの?俺、断ったよね・・・?遠回しの言い方とか通じへんのか?まぁ、元々そのうち信長の家臣になるつもりやったから、いいけどさ・・・。)
「して、わしに仕えたならば、何を望む?」
(何か、展開が急過ぎる!!でも、別に欲しいものなんてないよなぁ・・・。食うには困っとらんし。強いて言えば、史官になりたいって夢くらいか。)
「私は史官になりたいと思います。」
「史官とな。・・・史官とは何じゃ?」
さすがの信長も、俺がなりたい「史官」についてはピンとこなかったらしい。
俺が詳しく説明するにつれ、信長の目が輝きだした。
「ハハハ、ますます面白い!!かような変わった男とは思わなんだ!・・・許す、わしに近侍し、我が史官となれ。」
何がツボに入ったのか知らないが、俺の夢は信長にとって随分と珍妙な望みだったようだ。
たぶん、俺が地位や名誉、金といった方面の欲望をさらけ出すと考えていたのだろう。
俺がそんなものに執着する人間ならば、前世で公立高校の教師などするわけがない。
ただ、変わった人間に対する拒絶反応はないようで、逆に面白がっている。
どうやら、型にハマらない人間が大好きらしく、俺もめでたくその一員にカウントされたらしい。
俺からすると、信長の方がはるかに型にハマらない変わり者だと思うのだが。
「史官として、わしにまず問いたいことはないか?」
(そりゃ、聞きたいことはいっぱいあるよ!けど、一番聞きたいことっていったら・・・あれかな?)
「では・・・上総介様はどのような国を作りたいとお考えですか?」
(さて、どんな答えが返ってきますか。君主として、どんな考えを持ってるか、そこんとこ知りたいわ。)
「わしは尾張を統べ、近国を平定し、いずれは京へ上り、天下を差配したい。」
(ふむ。確か、この時代の天下というのは、京都周辺の地域のことを差すんやったな。問題は、なぜ上洛して畿内を支配したいかやな。)
「何のために京へ上り、畿内を押さえるのですか?」
「日本で最も豊かな地ぞ!京や堺などを押さえれば、我が家の富強は比類なきものとなろう!!」
(やっぱ、「戦国大名=会社経営者」やな。ドラマとかやったら、ここで「戦のない世をつくるため」とか言いそうなとこやけど、上辺はともかく本音は組織(家)の拡大が最重要って感じなんやろな。)
生の信長はどこまでもリアリストで、最大の関心は自分の勢力をいかに拡大するかだった。
そして、その商業重視の姿勢がよくわかった。
この当時、日本最大の都市・京都や日本有数の商業都市・堺への関心を露わにしていることから、その傾向が読み取れる。
このあたりの感覚は、津島や熱田といった商業都市を押さえて家を大きくした祖父や父ゆずりなのだろう。
「それだけではないぞ!やがては鎮西(九州)まで平げ、唐(中国)や南蛮(東南アジアやヨーロッパ)との交易の利も、我が手にすべておさめたい!」
ここまで聞いて、信長の「政権構想」では幕府や朝廷との関係についてまったく触れられていないことに気づいた。
「では、朝廷や公儀(幕府のこと)はどうなさいますか?」
「むろん、お助けいたす。畿内を鎮め、公方様や帝の御心を安んじるのじゃ。」
ハッキリ言って、この時点での信長の考えに革命要素は無さそうだ。
どこまでも勢力の拡大を考えて行動しているようだった。
最終的にそれらを確認でき、初めての対面は実り多いものとなった。
翌日から俺は信長の家臣として仕えることになった。
早速信長が岩竜丸に交渉し、俺の身柄を譲り受けたのだ。
とは言え、俺には特に定まった仕事はなく、軍議や政務の場に同席し、記録をつけることが唯一の仕事らしい仕事となった。
信長との初めての対話がようやく描けました。
ここまで長かった。。。
次回は弔い合戦に参戦します!!




