表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/266

プロローグ

<登場人物紹介> ※年齢等は本文中の内容です。

太田牛一・・・73歳。豊臣家家臣。織田信長に仕え、後に丹羽長秀の寄騎となる。信長の死後は丹羽長秀に仕え、長秀の死後の死後、豊臣秀吉に頼まれてその家臣となる。弓の名人だが、主に行政官僚として活躍する。織田家臣時代から書きためていた大量のメモや日記を使い、『信長公記』を書いた。


大田勇介・・・33歳。今作の主人公。架空の人物。特にこれといった特徴はなく、平凡な独身人生を送っている。小学生の頃から歴史好きで、公立高校の社会科教師になった。幼馴染の吉郎からは「マタスケ」と呼ばれている。


藤田吉郎・・・33歳。主人公の幼馴染。架空の人物。明るく社交的な性格で、男女問わず交友関係が広い。コピー機などオフィス向けの機械を売る会社に勤めている。何事も要領がよく、度胸もあるため、職場での信頼も厚い。周囲からは女好きすぎる点が玉にキズと言われ、そのためかいまだに独身。2歳年上の雄輔という兄がいる。


 ……………………………………………………………


連載第二弾の『是非に及ばず』のプロローグをお届けします。


あらすじで「史実準拠」とか言っておきながら、最初のうちは架空のお話と人物の登場ばかりが続きます。


と言うか、牛一の情報が少なすぎて、ゼロから話とか作っていかないと成り立ちません。。。


筆者の産みの苦しみを思いやりつつ、微笑みを浮かべながら優しい気持ちで読んでくださるとありがたいです。

 歴史的瞬間、というものがある。多くの場合、周りの人々を驚かす一瞬のことだ。

 だが、いま男が書いている書物の完成も歴史的瞬間のひとつには違いないが、誰もそれとは気づかない静かなひとときであった。


 大坂城内の玉造にある屋敷の奥まった一室で、男は黙々と筆を進めていく。

 やがて男は「この書物には故意に削除したものはなく、創作もしていない。これが偽りであれば神罰を受けるであろう」といった意味の文章を書き付け、筆を置いた。

 

 たった今、「しんちやうき(信長記)」と題したその書物を完成させた男の名を太田牛一という。

 牛一の顔には、達成感よりも強く疲労が滲んでいた。

 その瞬間、牛一の心中に去来したものは、虚脱感、虚無感、そして強い諦観であった。


(時は流れ・・・もう20年は経ったか。みんな、いなくなってしまった。)


 牛一は一人の男の顔を脳裏に思い浮かべた。


(織田信長。やはり、あのお人は不世出の英傑だった。あの人のため、俺はやれることはすべてやってきたつもりだ。それも、いまこの瞬間をもって終わった。)


 牛一の頭の中をこれまで過ごした数十年の軌跡が奔流のように流れ出ては消えていった。

 そして、書物をまとめながら浮かび上がった、ある考えに再びとらわれるのだった。


(様々な場面で、俺は自分の信念に従って行動してきた。だが、今思えば、何か見えないものに突き動かされていたように思えてならない。そう、まるで俺自身の運命に従って動いていただけのように。)


 そして、一言つぶやいた。


「是非に及ばず。」


 ……………………………………………………………


「マタスケ!全然進んでへんやんか。どっか調子でも悪いんか?」


「いやいや。俺らも、もう33やぞ。いつまでも昔のまんまとはいかんやろ。」


 陽気な声でしきりに酒を勧めてくる「藤田吉郎ふじたよしろう」に対し、俺は勘弁してくれと手を振る。

 こんな生存欲の塊みたいな奴と同じように飲み食いさせられてはかなわない。


「せっかくの美味い店なんやから、堪能せなアカンやろ。マタスケ好みの日本酒と魚が美味い店、探すの苦労したんやで。記憶が飛ぶくらい、いってもらわな!」


 それを言うなら、せっかくの隠れ家風の店の雰囲気を堪能させてくれよ、と心のなかで吉郎の騒がしさにツッコミつつ、つがれるままに杯を干す。

 玉造という大阪の真っ只中にありながら、都会の喧騒を忘れさせてくれる店なのに、吉郎のせいで台無しである。


 ちなみに俺の名前は「大田勇介おおたゆうすけ」と言うのだが、幼なじみのこいつは昔からマタスケと呼ぶ。

 吉郎の兄が「雄輔ゆうすけ」といい、呼び名が被ってしまうことと、「勇」の字を分解すると「マ」と「田」で「マタ」と読めるかららしい。

 そんな謎理論の呼び方をするのは吉郎くらいだが、俺はこの呼名が結構気に入っている。


 「オオタマタスケ」と言えば『信長公記』の著者である太田牛一の通称であり、歴史好きの俺の心を微妙にくすぐる呼び名なのだ。

 そう言えば、今年(2013年)はちょうど太田牛一の没後400年に当たる年だったはず。


「それにしても、ウチの会社はおかしいわ!土日も関係なしに仕事入んねんで。今日も仕事入れられそうやったから、兄貴の結婚式やからいけませんって言ったら、じゃあかわりに明日昼から頼むで、やと。」


 吉郎の会社はコピー機などオフィス向けの電機機械を販売していて、吉郎はその営業職だ。

 普段から忙しく、取引先から電話が入ると土日だろうが対応するらしい。

 はっきり言って、ブラック企業じゃないかって俺は思っている。


「俺かって、明日は昼前から仕事やぞ。またバスケ部の練習試合の引率や。」


 そう、俺も明日は仕事なのだった。

 社会科教師になる夢をかなえて公立高校に勤めているが、勉学以外の仕事が予想外に多くて厄介だ。

 特にやったこともないバスケ部の顧問を任されたのが一番大変で、土日に練習やら試合が入ってきてかなり時間を取られる。

 教師もたいがいブラックな職場なのだ。


「つーか、マタスケがバスケ部顧問っておかしいよな。全然イメージないわ。」


「形だけやで。くっついて行って、頑張れ〜とか言うくらいのもんやし。」


「そんなことやろと思ったわ。マタスケが指導してるとこ、想像できへん。」


「俺もや。」


 アハハ、と声を揃えて笑った。

 気のおけない者同士、遠慮ない会話に花が咲く。


 2人とも明日の仕事を考えたら早く帰るべきだが、もうしばらく話したい気分だった。

 どちらも奈良の実家を離れ、大阪での一人暮らし。

 遅くなっても迷惑をかける人もいないし、終電で帰って寝れば、まだ若い俺たちの体力なら、なんとかなる。


「けど、兄貴が結婚したって、何かまだ実感がないわ。」


「30代半ばにもなると意識も変わるんかな。確かに俺もまだピンとこんけど。」


 つい先ほど吉郎の兄の雄輔の結婚式が終わったばかり。

 雄輔兄は周りから「遊スケ」と呼ばれるほど色々な遊びに通じていて、まさに人生を謳歌していた人だ。

 このままずっと気楽な独身生活を送るものとみんなが思っていたのに、最近付き合い始めた彼女とひょこっと結婚してしまった。


 吉郎も兄に似て遊び好き、美味しい店を開拓するのが好きで、陽気でマメな性格なので男女問わず友人が多い。

 まだまだ落ち着く気配もないだけに、兄の心境の変化に戸惑っているようだ。


「ま、なにはともあれ、今夜は祝杯や。カンパーイ!」


「ああ・・・乾杯。」


 こいつには感傷的という言葉ほど似合わないものもないなと思いつつ、杯を重ねる。


 そして・・・いつしか意識を失った。

第一話は短めです。


第二話から舞台が大きく変わりますので、引き続きご愛顧をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ