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鳴りやまぬ月長石  作者: 弾指
第2章 九星の封扉編
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尋ね人

「となりに座ってもいいですか?」

 背中まで伸びた、亜麻色の髪をした少女が、バーのカウンターでグラスを傾けている青年に話しかける。


 短髪でブラックスーツスタイルの青年、紫藤(しどう)(がく)は顔を上げ、話しかけてきた女性の顔を、鷹のような眼でジロリとにらんだ。

「・・・なんだ、お前か」

 

 見知った顔だったため、青年は警戒心を解く。

「こんなところへ、何の用だ?」


「何の用って、ここはお酒を楽しむ場所でしょう?」

 少女はにっこり返答するが、紫藤は怪訝な顔をする。

「・・・お前、まだ高校生だろ。誰かと一緒に来たのか?」


 紫藤の問いに、少女は首を振る。

「紫藤さんが、ここにいるって聞いたので」

「・・・あ?俺に会いに来たのか?わざわざ東京まで?」


 少女は、紫藤のとなりに腰掛けると、「シャーリーテンプルをひとつ」と、マスターに注文する。

 五〇歳くらいのヒゲ面のマスターは、笑顔もなく無言でうなずき、準備に取り掛かる。


「・・・なんか、不愛想な感じの方ですね」

 少女は、ひそひそと紫藤に話しかける。

「ここのマスターは、余計なことは言わないし、話しかけてもこない。俺は、そこが気に入ってる」

 そう言って、グラスを傾ける。


「それより、夕凪(ゆうなぎ)家の当主様が、俺に何の用だ。はやく話せよ」

 紫藤は、となりに座る夕凪(ゆうなぎ)()(えで)に話を急かす。

「紫藤さんは、私と一緒にいるのが嫌なんですか?」

 花楓は、不服そうに頬をふくらませる。


「・・・夕凪家では、紫藤さんを“打碁師”として迎えることに決まりました」

「は?」

「悔しいですね。結局、私には、あなたを超える棋力は無かった」

 どことなく自嘲するような表情で、花楓は言葉を漏らした。


「おい、勝手に話を進めるなよ」

「あら、議論する必要は無いと思いますよ。柊木名人も、天刑家の打碁師として出ますし。三日月家は、現当主である三日月真衣ご本人の登場です。ぞくぞくしますね」

 花楓は、わくわくする気持ちを抑えきれないような口調で紫藤に(ささや)く。その頬は、すこしだけ紅潮していた。


 すこし考え込んだ紫藤は、ひとつため息を吐く。

「“四家の碁会”か。昔はおとぎ話のように思っていたが、ご指名を受けて光栄だ」

 皮肉のこもった口調で、そう応えた。


「星旺家は、誰が打つんだ?」

「・・・じつは、まだ決まっていないようです。あそこは当主が機能していないので、芦原源吾が決めるのでしょうが」


「まあ、どこの家からも、鬼のように強い棋士ばかりが出てくるんだ。そう簡単には決まらないか」

 紫藤の言葉に、花楓は「自信家ですね」と笑った。「鬼のように強い棋士」には、当然、夕凪家の打碁師として出る紫藤自身も含まれているからだ。


 花楓は、ふと真面目な表情で姿勢を正し、紫藤の目をまっすぐ見る。

「紫藤さん。打碁師を受けていただいたこと、夕凪家の当主として、心より御礼申し上げます」

 そう言って、バーのカウンターに座ったまま、深々と頭を下げた。





白洲(しらす)先輩、おひさしぶりです」

 侘助の声に、身長が低くて目が大きく、おっとりした童顔の少女は振り返る。


 かつてS中学校囲碁部の先輩だった白洲まふゆは、現在、囲碁部の部長となっていた。

「あ、石鳴くん!みちるちゃん!ひさしぶり!」

 まふゆは、ほわっとした笑顔で彼の声に応じた。

 学校が変わってから一年ほど経ち、侘助もみちるも少しだけ背が伸びたが、みちるの背格好は、ほとんど変わっていないように見える。


 みちるから、S中学校でプロ棋士になれるほど強い女生徒の名前が『夕凪(ゆうなぎ)』だと聞いて、侘助は雷にうたれたような気分だった。

 夢に出てきた女性の名前と同じなのだ。せめて、あの時に名前くらい聞いておけば、と自分の不注意が嫌になったが、後悔などしても仕方がないと気持ちを切り替える。


 芦原源吾から情報を引き出すのが難しい状況で、夢の真相へとつながる手掛かりは、今のところ『夕凪』という名の女生徒しかいない。

 そして、幼馴染の東仙(とうせん)みちるに聞いた話だと、『夕凪』という女生徒と親しかったのが、クラスメイトだった白洲まふゆだったそうだ。


「先輩、これから碁会所に行きませんか?ちょっと、ご相談させていただきたいことがありまして」

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