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第57話 ロンドンの会合

1915年2月10日 イギリス ロンドン

労働党議員となった元タイムズ紙の編集員、レオポルド-チャールズ-モーリス-ステネット-アメリーは指定された会合場所へと急いでいた。


「やあ、アメリー君」

「お久しぶりです。ウェッブさん」


店に入ると、フェビアン協会の実質的な指導者であるシドニー-ジェームズ-ウェッブは数年前と変わらず、柔和な笑顔でアメリーに話しかけてきた。


「議員生活はどうだい」

「ええまあ、順調です」

「そうか、なら良かった。…実のところ今回君を呼んだのはその事では無くて…ああいや、もちろん関係はあるんだが」

「はぁ」

「つまり、あなたがたイギリス労働党は今後の社会主義勢力のあり方についてどのような意見を持っているか、ということですよ。このまま時流に流されブルジョワたちと共存する社会改良主義を進めるのか、それとも革命に身を投じるかです。ウェッブさんはそれをあなた…ええっとアメリーさん?に聞きたかったのですよ」


中々要領を得ないウェッブの質問に対してアメリーが若干困惑しながらも生返事を返している、と奥から出てきたラテン系らしき男がその顔に似合わない流暢な英語でウェッブの会話の意図を要約して伝えた。


「失礼ですが貴方は?」

「ああ、これは失礼を。イタリア社会党員ベニート-ムッソリーニといいます。以後よろしくお願いします」

「なるほど、イタリアの方でしたか」

「ムッソリーニさんはイタリア社会党でも一目置かれる存在でね。私も彼の話を聞いてみたいと思ったんだよ」

「私もウェッブさんにあえて光栄ですよ…それで質問の答えですが」

「…私は社会改良主義を続けるよ。たとえ時流に身を任せ、闘いを放棄した臆病者と言われても私は無駄な流血を重ねるよりは一歩一歩苦難に耐えながらも進んでいきたい。その為のフェビアン協会なのだから」

「私もウェッブさんの意見に同意します。私が議員となったのはイギリス帝国の社会改良のためですから」


自己紹介を終えたムッソリーニに対し、ウェッブとアメリーは答えを告げた。その回答に対してムッソリーニは満足したようで僅かに微笑みながら頷いた。


「…ふむ、なるほどね。その答えを聞いて安心しました。実は困ったことに"大陸"の同志たちの間では武力革命を目指すものが少なくないのです」


"大陸"、一般的に大陸と言うとユーラシアやアフリカなどの別大陸を想起するが、ここで言う"大陸"とはイギリスなどを除く大陸ヨーロッパの事だった。


「それは…急ぎ過ぎなのでは?、今の段階ではどう考えても成功する見込みもありませんし」

「ええ、私もそう思います」

「なぜ今なのですか」

「…どうも私の知る限り裏で動いているのはロシア人とドイツ人のようですな」

「両国共に弾圧は激しかったはずですが…まさか、それだけに自棄になったとか?」

「そんな馬鹿な。そのような革命が本気で成功すると"大陸"の連中は考えているんですか」

「彼らが何を考えてそのように動いているのかは、私にも解りかねます。しかしそのように弾圧され続けている彼らが動くのですからね。何か勝算があるのでしょう」


ウェッブとアメリー、そしてムッソリーニもドイツ、ロシア両国の革命家たちが何を考えて動いているのかわからなかった。解るのは歴史は自分たちの与り知らないところで確実に動いているという事だった。

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