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第52話 ヴィダルの決闘

1914年11月28日 アメリカ合衆国 カリフォルニア州 ヴィダル

そこは小さな鉱山がある以外は、特に見るべきものも無い荒野だった。そんな鉱山に近づく一団があった。


「止まれ…お前らメキシコ人か、ここはアメリカだぞ」


一団に対して鉱山の警備員が身構えた。


「別に取って食おうって訳じゃない。ただ、水と食料、あと酒と出来ればカネが欲しいんだ。ああ、それから弾薬もあると助かるな」


馬上から一団の指導者と思われる男が下手な英語でそう言った。


「帰れ、帰れ、ここはそこらの露店じゃないんだ。お前らにやるようなものは一つだって…」


警備員が言い終わる前に男はウィンチェスターライフルで警備員の足元を撃った。


「次は頭だ。まあこっちも弾が少ないから、あまり撃ちたくはない」

「おい、騒がしいぞ」

「社長」


あからさまな脅しに警備員が何と答えようか迷っていると、奥から社長と呼ばれる、見るからに老人とわかる男が出てきた。警備員は咄嗟に社長を庇おうとしたが社長は気にせず男の前に出ていった。

男はしばらく社長を興味深そうに見つめていたが、こいつは話せる奴かも知れない、と判断して事情を話す事にした。が、先に口を開いたのは社長の方だった。


「なんだってこんなとこまで来たんだ。道を間違えたんなら教えてやるが、あんたらの国はあっちだぜ」

「言われなくてもわかってる。だが、このままタダで帰るわけにもいかないからな。弾と武器、それとメキシコに帰るまでの水と食料が、もちろん馬の分も含めて欲しい。こっちだって早く帰りたいからな」

「そりゃできねぇ相談だな。見ての通りの細々とした貧乏鉱山だ。そんな余分な物資はない」

「さっきも言ったが、こっちはタダで帰るわけにはいかないんだ。故郷じゃ仲間が政府の犬どもに毎日殺されてる」

「…あんたら、革命派か」

「ああ、そうだ。お前たち、アメリカ人(グリンコ)の都合で俺たちは国を滅茶苦茶にされてるんだ。弾の一発や二発わけろ」

「同情はするが、だからと言って余分なものは無いからな。諦めろ」

「本当にないのか、だったらアンタの腰のものはどうなんだ」


男は社長のホルスターの中にしっかりと銃が収まっているのを見ていた。

(あの、長さはソードオフショットガンかなにかか)

拳銃にしては長い、その銃に少し疑問を抱かないことは無かったが、武器が手に入るなら、と思い男は社長に問いかけた。


「悪いがこいつは友人からの贈り物なんだ。わたせんな」

「ああ、そうかい。だったら力づくでも…」

「あんた一人か、それとも全員か」


男が脅しの言葉を吐いた途端に社長の雰囲気が変わった。冷静に獲物を見つめる狩人、ただの一分の隙も無く敵の攻撃に備える歴戦の兵士、そんな雰囲気だった。

だが、それだけで臆するわけにはいかない。どんな手練れがいたからと言ってここまで来て、何の目的も果たさずに戻る事は出来なかった。


「俺一人で良い。後悔するなよ爺さん」

「ふっ」


男の言葉に老人は不敵に笑うだけだった。男は馬上から降りると、社長の前に立った。

ウィンチェスターライフルのレバーを動かして次弾を薬室に送り込む、後は発砲をするだけだ。

一方の社長には相変わらず一切の隙が無い。だったら、先に撃つまでだ。

社長がゆっくりとホルスターに手を伸ばしたその時に今だ。と思い男は発砲したはずだった。

だが、気がつけば男の手からウィンチェスターライフルは弾き飛ばされていた。


「はぁ、ったく歳はとりたくねぇなぁ。心臓か頭のつもりだったんだがなぁ」


社長は本当に困ってしまったという感じでそう言った。社長の手に握られていたのはソードオフショットガンではなく、長銃身のリボルバーだった。全くなんつう速さだ。男は助かったことに安堵しつつも、その技量に恐怖したが、指揮官としてその両方の感情の何れも表出さないまま、余裕を持った振りをして社長に言った。


「俺の負けだな。今後はホセ-ドロテオ-アランゴ-アランブラの名においてこの鉱山には手を出させない」

「そいつはありがたいねぇ。老人のささやかな小銭稼ぎを邪魔されずに済む」


そんな、ホセ-ドロテオ-アランゴ-アランブラ、仲間からはパンチョ-ビリャと呼ばれる事の多い、革命派のゲリラ戦術の名手の言葉に対し、社長は笑いながら言った。


「なあ、あんた名前は」

「俺か?ワイアット-アープってんだ。これでも昔は保安官(シェリフ)だったんだぜ」


愛銃のコルト-バントライン-スペシャルをしまいながら、ワイアット-アープは答えた。

アメリカ人ならば知らぬ者はいない。西部開拓時代の伝説の保安官を生憎と知らなかったパンチョ-ビリャはアープの事をただの凄いやつ程度にしか思わなかったが、後にこのヴィダルでの決闘はワイアット-アープ最後の決闘として、西部劇の題材にされる事になる。





ちょっとティーハの最終話を投稿した後からずっと新しい連載のネタを考えていたので、投稿が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。


新連載ネタが出来上がったら『とりあえず形にしてみた火葬/仮想戦記的な何か』の方で書くかもしれません。

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