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第45話 燃える火薬庫

1914年5月10日 ギリシア王国 アテネ

「陛下、奇襲は成功です。主力をアラブ地域に派遣していたオスマン軍の抵抗は微弱であり、現在我が軍は父祖の地を取り戻しつつあります」

「そうか、ヴェニゼロスよ。もうこの辺りで良いのではないか」

「いいえ陛下。クレタやテッサロニキ、ドデカネス諸島だけでは足りないのです。マケドニアもトラキアも、エピロスもイオニアも、そしてコンスタンティノポリスも、まだ我々のもとに還って来ておりません」

「しかしだな…」

「陛下、ご安心ください。このまま行けばドイツもオーストリア=ハンガリーも介入する暇もなく終わるでしょう。我々は大いなる計画(メガリ-イデア)を実現するのです」


ギリシア国王ゲオルギオス1世の問いに対して首相のエレフテリオス-ヴェニゼロスは自信を持って答えた。

大いなる計画(メガリ-イデア)とはヨーロッパ及びアナトリア半島沿岸部のギリシア人居住地域を全てギリシア国家の領土としようとするギリシア民族の統一国家構想であり、ヴェニゼロスはその熱烈な支持者だった。

ゲオルギオス1世は大いなる計画(メガリ-イデア)を列強との衝突を招きかねないとして危険視していたが、アラブの反乱以降オスマン帝国の弱体化が露呈していたこと、そして、社会改革と財政の黒字化の成功によって国民から絶大な支持を受けるヴェニゼロスとの対立を避ける為渋々開戦に合意したのだった。

ヴェニゼロスの読み通り、オスマン帝国軍は弱体化しており、クレタ島沖の海戦ではオスマン海軍相手に決定的な勝利を収めた。

しかし、バルカン半島は多数の国家、民族の利害が交錯する地であり、それは彼らが征服しようとしていたマケドニア、トラキアの地も例外ではなかった。


1914年6月20日 ブルガリア王国 ソフィア

「そうか、ギリシアは拒絶したか、オスマン大使をここに呼べ」


ブルガリア国王フェルディナント1世は静かにそう言った。ブルガリア国外では国王として扱われているが、国内では皇帝(ツァール)を称していた。そんなフェルディナント1世はギリシアに対して、参戦の見返りとしてトラキアかマケドニアのブルガリアへの併合を提案していた。トラキアはエーゲ海への出口であり、マケドニアは山がちなバルカン半島において農業生産の適地である数少ない土地だった。

どちらも7世紀から11世紀まで存続した第一次ブルガリア帝国と、その後12世紀に復興されオスマン帝国に攻め滅ぼされるまで続いた第二次ブルガリア帝国が領土としていた地域でもあり、ブルガリア帝国復興を目標とするフェルディナント1世にとってはブルガリアの国力増大のためだけでなく誇りを取り戻すという意味でも欲しい土地だった。

しかし、依然として戦闘を有利に進めていたギリシア側はこれを拒否。

そのため、ブルガリアはオスマン帝国に対して同様の条件を提示して、オスマン帝国側での参戦を持ちかけることにしたのだった。オスマン帝国内部では反対意見も強かったものの戦局を打開する手立ては無く、最早なりふり構わなくなったアブデュルハミト2世によって強引に押し切られ、ブルガリアを引き入れる事とした。

更には、オスマン帝国はオーストリア=ハンガリー帝国に対してもオーストリア=ハンガリーが1878年のベルリン条約以来行政権を獲得していたボスニア-ヘルツェゴビナの正式な割譲を餌に参戦を呼びかけた。


これに対してセルビア王国は大きく反発し、セルビアとオーストリア=ハンガリー間で緊張が高まる事になる。


そのような状況下において、参戦国、非参戦国を問わず、その動向が注目されている国があった。第一次世界大戦を同盟国側の盟主として戦ったドイツ帝国、そのドイツ帝国に敗れ、バルカンでの権益を失いながらも未だスラヴ民族の盟主としての地位を持つロシア帝国、そして、第一次世界大戦に非参戦だったが故に超大国ともいえるほどに成長したイギリスだった。






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