表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/330

第37話 ヨーロッパの火薬庫

当時のオーストリア=ハンガリー帝国にとって、最も敵対的な国家だったのがセルビア王国だった。

元々セルビア王国は独立以来親オーストリア=ハンガリーのオブレノヴィッチ家が治めていたが、1903年の5月クーデターによりオブレノヴィッチ家と敵対していたカラジョルジェヴィッチ家に王位が移ると親ロシア的な政策を取り始めるようになる。


1906年に勃発した第一次世界大戦ではセルビア王国は参戦こそしなかったものの、親ロシア的な態度を取りオーストリア=ハンガリーに対して圧力をかけ続けた。

しかし戦後、後ろ盾となっていたロシア帝国がバルカン半島に関与できなくなると、オーストリア=ハンガリーはすぐさま報復を行なった。

セルビアの主要輸出品であった豚など畜産物と農作物に対して多額の関税をかけて市場から締め出した。

これにより、隣国であるオーストリア=ハンガリーに依存していたセルビア経済は大打撃を受ける事になった。セルビアはこれを受けてオーストリア=ハンガリーからの輸入品に対して報復関税をかけ、セルビア軍の装備していた兵器の輸入元をオーストリア=ハンガリーからドイツへ切り替えるとともに、畜産物の新たな販売先を探し始めた。


効果はすぐに現れ始めた。オスマン帝国サロニカ港からの輸出により、セルビア産の農作物はオスマン帝国やヨーロッパ各地に輸出されたが、特に主要な輸出先となったのがオーストリア=ハンガリーの同盟国であったドイツであったのは皮肉だった。

これに対してオーストリア=ハンガリーはドイツに対して抗議したが、ドイツは1908年のロンドン講和会議で承認されたバルカン半島におけるドイツの優越権を理由に取り合おうとはしなかった。ドイツにとってセルビアはベルギーの国際寝台車会社が運航していたオリエント急行に平行するバルカン列車の通過国であり、セルビアでの鉄道敷設権を得る為にもセルビアからの支持を得る必要があった。


こうした事情から、オーストリア=ハンガリーはセルビアを追い詰めるための別の手段を模索、実行した。

セルビア製品の主要輸出港であったサロニカの帰属をめぐりオスマン帝国と対立していたギリシア王国への援助である。ギリシアは地中海地域の安定にとって重要な地であり、そこでドイツの影響力が増す事を警戒したイギリスによってドイツの優越権が承認されていたバルカン半島諸国の中では唯一例外とされた国だった。

オーストリア=ハンガリーはそこに目をつけギリシアに対し様々な援助を行なった。中でも周辺諸国に大きな衝撃を与えたのは1907年に起工されたものの大戦中や戦後の混乱もあって半ば放置されていたラデツキー級戦艦のエルツヘルツォーク-フランツ-フェルディナントのギリシアへの売却だった。

ドレッドノートの就役によって旧式化した準弩級戦艦だったが、オスマン帝国海軍が保有していたトゥルグート-レイス級を上回る火力を誇るエルツヘルツォーク-フランツ-フェルディナントの売却は特にオスマン帝国を刺激する事になる。


セルビアに次いでオーストリア=ハンガリーに敵対的だったのはルーマニア王国だった。

ルーマニアとオーストリア=ハンガリーはハンガリー領トランシルヴァニアの帰属をめぐり敵対関係にあった。

ルーマニアはモレニやブロエシュティといった油田の利権をドイツ企業に対して与える事により、オーストリア=ハンガリーの圧力に対抗しようとした。また、ルーマニア語がロマンス諸語に分類される言語である事から自らをラテン民族としてラテン民族主義を掲げてフランスやイタリアにも接近した。


これに対してオーストリア=ハンガリーは、ルーマニアと国境紛争を抱えていたブルガリア王国に対して援助をする事でルーマニアを牽制しようとした。


こうした複数の国家の利害が入り乱れる事により、バルカン半島はヨーロッパの火薬庫と呼ばれるようになるのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ