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第21話 アブデュルハミト2世の模索

1907年8月3日 オスマン帝国 イスタンブール ドルマバフチェ宮殿

宮殿の一室を歩き回っている男がいた。

彼こそはオスマン帝国を治める君主(スルタン)にしてイスラーム世界の半分を統べるスンニ派の指導者(カリフ)であるアブデュルハミト2世だった。

日本との関係ではイスラーム世界にカリフの威を示すべく派遣した軍艦エルトゥールルが日本に立ち寄った帰路に沈没し、その乗員の救助が日土友好の基礎となったことが良く知られているが、彼はアジア初、イスラーム世界ではチュニジアに次いで2番目となる憲法、ミドハト憲法を停止し専制政治を推し進め、反乱を企てていたアルメニア人に対してはハミディイェと呼ばれる鎮圧部隊を送り込み、アルメニア人を虐殺するなど国の内外から何かと批判を受ける事の多い君主(スルタン)だった。


「大宰相よ、余はどうすればよいのだ」

「陛下、私は陛下がどのような決断をなされましてもただそれに従うのみです」


ピタリと動きを止めたアブドュルハミト2世の呟きに部屋の隅でそれまでじっと控えていた大宰相メフメト-フェリド-パシャが答えた。

メフメト-フェリド-パシャはアルバニアの名家出身で、母語であるアルバニア語以外にオスマントルコ語、アラビア語、フランス語、イタリア語、ギリシャ語を操るマルチリンガルでもあり、その優秀さに加えてアルバニアをオスマン帝国の統治下に保ちたいアブドュルハミト2世の方針によって1903年からオスマン帝国の首相にあたる大宰相を務めていた。


彼らの懸念事項は三国同盟を結びながら未だ第一次世界大戦に参戦していないイタリア王国の動向だった。

この頃イタリアでは、イタリア統一運動の際に制圧し切れなかった南チロルやイストリアなどの未回収のイタリアの奪還を望む親連合派と同じくイタリア統一運動の際にフランスに支援の代償として割譲したニース、サヴォワ、文化的にイタリアに近いコルシカ島、イタリア人が多く居住していたチュニジアの併合を望む親同盟派がせめぎ合い政治的に混乱していた。

だがオスマン帝国にとっては厄介な事にイタリアの誇る政治的天才であるジョヴァンニ-ジョリッティが第一次世界大戦に同じく非参戦でかつ弱体化していたオスマン帝国領アルバニアとトリポリタニアの併合を訴えて反対派を切り崩し、あっという間に世論をまとめ上げてしまった。


勿論、ジョリッティも本気でそのような事を言い出したわけではなく、両陣営に引きずられてのイタリアが風下に立つ形での参戦を避け、イタリアという国家を両陣営に高く売りつけるための時間稼ぎに過ぎなかったが、オスマン帝国とイタリアの間で奇妙なチキンレースが始まってしまっていた。

しかし、列強の中ではオーストリア=ハンガリー帝国と並んで下から数えた方が早い国力のイタリア相手とはいえ瀕死の病人の異名は伊達ではなくオスマン帝国は混乱の最中にあった。

新税を創設すれば、反対運動が起きて取り消しを迫られ、それを見た改革派がミドハト憲法復活を求め始めた。かといって、異教徒であるギリシア人やアルメニア人から過剰な税を取り立てる訳にはいかなかった。オスマン帝国は欧米列強との間でキリスト教徒に対する差別撤廃を約していたからだ。そして、それは保守派の反発を招きオスマン帝国の国情は不安定なままだった。


かといって、オスマン帝国にはタバコの栽培を始めとする第一次産業が主体であり、しかもその利権の多くは欧米列強の企業によって抑えられていた。

皮肉にも、かつては特権として与えていた欧米列強の国民に対する不平等条約、所謂カピチュレーションもオスマン帝国の経済的植民地化に一役買っていた。


「陛下、一つ方法がございます。石油を掘る、というのはどうでしょうか」

「なるほど、ペルシアのようにか、しかしあれは僅かな量しか出なかったと聞くが…」

「僅かであっても今の帝国には十分なはずです。このまま異教徒の好きにさせるよりかは」

「そうか。わかった大宰相、お前に任せる」

「御意」


こうして、オスマン帝国は石油という新たな財源を手に入れるべく動き出す事になる。

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