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第201話 謁見と承認

3000字超えたので、いつもより少し長いです。

1921年8月3日 南アフリカ連邦 ナタール州 ノンゴマ

ノンゴマはかつて初代王シャカ-ズールーのもとで一部族から南部アフリカ地域に覇を唱えるまでに成長し、イギリス進出後にはイギリスに対して激しく抵抗したズールー王国の首都であり、イギリスによってズールー王国が滅ぼされた後もこの地にはズールー族の王が暮らしていた。


そんな、ノンゴマにはこの日、アメリカ製の高級車に乗った一団が到着していた。


「今日は謁見を賜る事を機会を頂いたこと何と感謝申し上げてよいやら…」

「デューベ、後ろの男がお前の話していた男か」

「はい、陛下。世界黒人開発協会アフリカ会連合のマーカス-ガーベイ氏です」


ズールー族出身の南アフリカ先住民民族会議の指導者であるジョン-ランガリバレレ-デューベはズールー族の王であるソロモン-カディヌズールーに対して客人の名を告げた。


「陛下、すでにデューベ氏を通して申し入れたとおりです。どうか我が世界黒人開発協会アフリカ会連合とともに立ち上がってはいただけないでしょうか」


ガーベイの申し入れはカディヌズールーをアフリカ帰還後に成立する筈の新国家の象徴として迎え入れようと考えている、という物だった。


当初、ガーベイはアフリカ帰還運動の象徴としてはエチオピア皇帝こそが適切であると考えていたが、現在の皇帝リジ-イヤスはムスリムであったため、ムーリッシュ-サイエンス-テンプル-オブ-アメリカの勢力伸長を恐れるガーベイとしてはムスリムをその象徴として迎え入れる事は避けたかった。

また、エチオピアにはベタ-イスラエルと呼ばれる古代イスラエル王国12氏族の1つダン族の子孫であるとされるユダヤ系黒人たちが居住していた事も問題だった。

もともとガーベイの周りにはスキャンダラスなうわさが絶えなかったのだが、ガーベイはこうしたうわさを根拠無根な個人攻撃として一蹴し、その背後にはユダヤ系資本がいるとして一方的にユダヤ人を敵視していたからだった。そのため、反ユダヤという観点からしても、エチオピアは好ましい土地では無かったのだった。


そうしたガーベイが目を付けたのがズールー王だった。

最終的には敗れたとはいえ、一度はあのイギリスを打ち破った事は世界の誰もが知っているし、またズールー族の多くがオランダ系のカルヴァン主義教会やイギリス系の聖公会、1910年にアイザイア-シェムベが創始したナザレ-バプテスト教会に属するキリスト教徒であったことも、キリスト教徒の黒人を中心にした運動を行なっていたガーベイにとっては好都合だった。


そして、もともと、南アフリカ連邦における黒人地位向上運動を行なっていたデューベとガーベイは親交があったことからズールー族であるデューベを通じて、ガーベイはカディヌズールーに謁見すべく動いたのだった。


結果的にカディヌズールーが正式に象徴としての役割を引き受ける事は無かった。同じ黒人とはいえ大西洋の向こう側の者の為に、王国が滅びてなお王として変わらぬ忠誠を捧げてくれるズールー人たちを犠牲した危険な賭けに出るという決断は出来なかったからだ。


しかし、カディヌズールーもガーベイの事を無視したわけではなく、時折、世界黒人開発協会アフリカ会連合に対して書簡を送るなどしてその活動を間接的に支援していくことになる。


1921年9月20日 リーフ共和国 アジール

リーフ共和国は南部と北部に分かれたスペイン王国保護領モロッコのうち地中海に面した北部の地域を支配しているベルベル人を主体としていた共和国だった。


スペイン本国では長きにわたる内戦がハイメ3世率いるカルリスタの勝利に終わろうとしており、残存するスペイン王国軍はアンダルシアへ撤退したもののアンダルシア民族主義者の蜂起によって追い詰められ、イベリア半島最後のイスラム王朝ナスル朝の拠点であったグラナダで絶望的な抵抗を続けていた。こうした状況を見たスペイン国王アルフォンソ13世と主要な閣僚は最新鋭戦艦レイナ-ビクトリア-エウヘニアに乗ってイタリアへ亡命し、すでにアゾレス諸島テルセイラ島に逃亡していたポルトガル共和国政府と並んで、スペイン、ポルトガル両国の正統政府は相次いで本土から叩きだされる事になったのだ。


現在のスペイン王国保護領モロッコは、総督府の所在地であり現在はイギリスに保障占領されたタンジールからセウタまでを含む北端部を除き、北部はリーフ共和国の支配下だった。一方、リオ-デ-オロ(西サハラ)地域及び隣接する南部地域はカナリア諸島と共にフランスの保障占領下にあり、唯一スペインによる統治が維持されている飛び地のイフニではドイツ保護国モロッコ王国から逃れてきたドイツ軍兵士とスペイン軍、そして親スペイン派の現地人が一緒になってアフメド-アル-ライズリが指揮するモロッコ反乱軍に備えていた。


現在、モロッコに野心を持っていたのは主にフランス共和国だったが、そもそも、モロッコの地中海沿岸部がスペイン領となったのはイギリスの海軍戦略上の重要拠点であるジブラルタルの対岸をフランス人が支配する事を望んでいなかった為であり、そうした考えは今も生きており、北端部がイギリスの保障占領下にあるのはまさにそれが原因だった。


一方、フランス人からすれば本来自分たちが手にするはずだと考えていたドイツ植民地の多くがイギリスによる保障占領下におかれている事への不満もあり、リーフ共和国の領域はもちろん北端部を含むモロッコ全てを支配下に置こうと考えていた。


リーフ共和国の独立はそうした危うい状況下で黙認されていたのだが、それもこの日までだった。


「やった、やったぞ」


リーフ共和国大統領アブド-エル-クリムは歓喜に打ち震えていた。


その手にはアメリカ大統領ジョン-パーロイ-ミッチェルからの親書とジョセフ-エドワード-ウィラード駐スペインアメリカ大使からの書簡があった。ウィラードからの書簡の内容はアメリカ合衆国によるリーフ共和国の外交的承認とそれに伴ってウィラードがスペイン大使と兼任で駐リーフ共和国公使も務めるというものだった。ヨーロッパ諸国間の微妙な勢力均衡によって存続を許されてもらっていた立場のリーフ共和国にとってまさに朗報と言えるものだった。


アメリカ国内ではリーフ共和国承認にはモンロー主義に反するのではという意見もあったが、ミッチェル政権は承認を強行した。

すでにアメリカの勢力圏であったはずの南米ではブラジルから始まった混乱により、各国で内戦や暴動が頻発しており、その内戦や暴動に際して欧州諸国の企業や民間人などが絡んでいるのは周知の事実であり、中でも、反アメリカ政策を露骨に進めていたブラジル新政権であるニロ-ペカーニャ政権は特に旧ドイツ帝国から多くの亡命者を受け入れて、近代化を進める事により対決姿勢を鮮明化させていた。


また、アルゼンチン南部ではガブリエーレ-ダヌンツィオらを中心にサンタ-クルス=パタゴニア執政府がパタゴニア地域に移民たちの国家として樹立されていた。当初はすぐに滅亡すると考えられていたサンタ-クルス=パタゴニア執政府は従来のチリとアルゼンチンとの係争地帯をチリに譲り渡す事でチリからの援助を受け、国家としての基盤を強化する事に成功していた。


こうした動きに対抗すべくアメリカは反移民熱の強いアルゼンチン政府への援助やチリやブラジルへの経済的締め付けなどを行なったが、チリとブラジルに関してはアメリカに代わってヨーロッパ諸国の企業との経済的関係が深まっただけに終わっており、リーフ共和国承認はアメリカによるヨーロッパ諸国への報復の意味合いが強かった。


しかし、モロッコにいきなりアメリカが介入してきた事は全てのヨーロッパ諸国にとって衝撃であり、ドイツをはじめとする社会主義勢力に関しても一致した結論を出すことが求められていた事もあり、イベリア及びモロッコ問題と社会主義勢力に関する国際会議が開かれる事になった。


これは当初ヨーロッパ主要各国とアメリカ、そして社会主義ドイツのみ参加の筈であったが、各国の利害関係が絡み合った結果、参加国は増えて、南からの社会主義勢力と東からのロシア帝国をいずれも脅威と考えている北欧各国や極東におけるフランス、イギリスそれぞれの同盟国或いは勢力圏である大日本帝国、大清帝国、そして南米各国まで招かれたかつてない規模のものとなるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 興味深く拝見しております。 えげつないところにアメリカは介入してきますね。 パラドックスの歴史ゲームだとイベントのウインドウが開きまくってパニックになりそうな状況であります。 日本や北欧の…
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