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第180話 混沌の大陸

ヨーロッパで混乱が続いていたころ、南米大陸の情勢もまた混沌としたものになりつつあった。


その発端はブラジル合衆国だった。

アメリカ合衆国の影響下にあるブラジルではアメリカとの貿易量が多く、それによってメキシコ風邪のウイルスが持ち込まれ、さらにブラジル国内の低水準の医療と腐敗した役人たちによって無意味な名ばかりの検疫しか行われていなかった為、1919年12月の上陸後すぐに大流行したのだった。


こうした状況に対して1918年にヴェンセズラウ-ブラスに代わってブラジル大統領に就任したロドリゲス-アルヴェスはアメリカに倣った感染対策を行なう事で乗り切ろうとしたが、まともに機能する事は無く、その中で自身も感染して1月16日に死亡してしまった。後任となった副大統領のデルフィム-モレイラは遂に主要都市を中心とした戒厳令の布告という強硬手段に打って出たのだが、これがまずかった。


モレイラの継承そのものに対しての異論も強かったにもかかわらず、強硬手段に打って出た事から、各州の反発を招き、アルヴェスと大統領の座を争った首都リオデジャネイロを基盤とするリオデジャネイロ共和党のニロ-ペカーニャを指導者として反乱を開始した。


それだけならばまだよかったのだが、モレイラにとっては不運な事にモレイラに対する反乱に同調するものたちはブラジル軍内にもいた。ブラス政権下で失脚させられたブラジル軍内のドイツ留学組の将校たちだった。これら将校たちは軍を除隊して反乱軍へと合流した。


政治的な事情から失脚していたとはいえ、ドイツ帝国に留学して第一次世界大戦の戦訓をそこで戦った軍人たちからじかに学んだものたちが反乱軍の側に付いたことは、ただでさえ、数の上で劣勢だったモレイラが質の上でも劣勢である事を示していた。


こうして広がった混乱の中でブラジル最南部の州で、19世紀の独立運動では若き日のジュゼッペ-ガリバルディが参戦した事でも有名なリオグランテ-ド-スルでは再び中央政府からの独立運動が起こった。


前回の独立運動は共和主義者が当時のブラジル帝国からの独立を求めたものだったが、今回はジャウマ-フェッターマンやゼノン-デ-アルメイダといった無政府主義者たちが中心となったものであり、リオグランテがメキシコのチアパスやグアテマラのロスアルトスと同じく自由地区となったことを宣言した。


こうしたブラジルの混乱に対して、隣国であるウルグアイ東方共和国はバルタザール-ブラム大統領の下で戒厳令を布告し、反対者を投獄する事で取りあえずの安定を得ていた。

一方、パラグアイ共和国ではブラジルから始まった混乱に乗じて二大政党の1つだったコロラド党の元大統領ペドロ-パヴロ-ペーニャが武装蜂起して内戦に突入した。ボリビア共和国でも同じく二大政党の1つだった共和党が長年政権を握ってきた自由党に対してクーデターを行ないこれを成功させた。


ブラジルの北の隣国であるベネズエラ共和国では、アンデスの暴君と呼ばれた独裁者であるフアン-ビセンテ-ゴメスが長らく傀儡を立てて自分の意のままになる大統領を選んで政治を行なっていたのだが、国家の非常事態を理由に突如クーデターを起こし、ゴメス自らが大統領としてベネズエラを統治する事を宣言した。


ゴメス政権の主要な支持者の一人である社会学者ラウレアノ-ヴァレニラ-ランツによれば


『大衆とは後進的で制御不能な集団であり、だからこそ、大衆のエネルギーを受け止める事のできる強力な、古代ローマのカエサルのようなカリスマ的な指導者が必要なのである』


とのことであった。

ゴメスがカリスマ的な指導者であったかはさておき、その統治が非常に強烈なものであったことは間違いなく、反対派を感染拡大の混乱に生じて次々と粛清していくことになる。


一方、ブラジルの仇敵ともいえる関係であるアルゼンチン共和国では感染源を外国からの移民たちであるとするお決まりのデマが流行ったが、これに対しかねてより移民排斥を訴えていた、軍内部の秘密組織アルゼンチン愛国同盟の指導者であるマヌエル-ドメック-ガルシア海軍少将はクーデターを起こして大統領のイポリト-イリゴネンを拘束し、政権を奪取した。


しかし、当時のアルゼンチンの与党であった急進的市民同盟ではそのころ各州ごとに分裂が進んでおり、チリ共和国に近いメンドーサでは左派のホセ-ネストル-レンシネスが、ボリビアとの国境に近いフフイ州ではインディオとの和解と公共事業政策をめぐって中央政府と対立関係にあったミゲル-タンコなどの急進的な州知事が中央政府に対して武装蜂起し、さらにアルゼンチン各地ではアルゼンチン愛国同盟に反対する移民たちやクーデターに反対するテロが頻発した。アルゼンチン愛国同盟は首都ブエノスアイレスでの無政府主義者の蜂起こそ鎮圧したものの、元から移民の多いパタゴニアではイタリアから来た文豪ガブリエーレ-ダヌンツィオやアルゼンチン人ながらダヌンツィオと行動を共にしていたレオポルド-ルゴーネス、スペイン人移民で無政府組合主義者のアントニオ-ソトなどが中心となって『サンタ-クルス=パタゴニア執政府』の樹立を宣言した。


こうして、ブラジルから始まった混乱は南米大陸各地に広がる事になる。

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