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第156話 新型計算機開発と建艦計画

1918年8月1日 アメリカ合衆国 ワシントンD.C アメリカ財務省国立標準局

元々各州の度量衡を統一するための機関であったアメリカ標準度量衡局が改称されたアメリカ国立標準局では同じく財務省に属する公衆衛生局、そして、アメリカ海軍と共に新型計算機の開発を行なっている最中だった。


「ウィーナー君、どうかね」

「また、故障のようです。ちょっと直してもらいますよ」


新型計算機開発の責任者であるオズワルド-ウェブレンに対し、助手であるノーバート-ウィーナーはそういって走り去っていった。


「まったく、困ったものだな。この機械には、こんなに故障をするようでは使い物になるようになるまで一体何年かかる事やら…」


ウィーナーと入れ替わりに部屋に入ってきてウェブレンに声をかけたのは、マサチューセッツ工科大学から来て研究に参加しているヴァネヴァー-ブッシュだった。


「だが最初のころに比べれば動作は安定して来ているよ」

「しかし、海軍はこれを戦艦に載せるつもりなのだろう?」

「もともとは統計用に作っていた筈なんだけどね。…まあ、今や金を出してくれそうなのは海軍だけだし何とか頑張るよ」


ウェブレンやウィーナー、ブッシュが作っている計算機は、1909年にパーシー-エドウィン-ラドゲートが発明した解析機関(正確には19世紀にバベッジが発明したものの再発明)にリレー回路などを組み込んで改良したものだった。


解析機関はすぐにアメリカに導入され、さまざまな分野で使用されていた。特にメキシコ風邪の感染拡大を受け、公衆衛生局では解析機関を利用した感染者の増加率の予想を行なっていたのだが、一方で、それ以前から従来の解析機関よりも高性能な計算機が必要だと訴えていた国立標準局と共に新型計算機の開発に乗り出していた。


それを聞きつけたアメリカ海軍はメキシコ風邪の影響で未だ艤装中の排水量8万トンの新型戦艦に取り付ける為の弾道計算用新型計算機の開発が難航していた事もあり、共同開発を提案して来たのだった。


こうして、世界初の電気機械式計算機が開発され始めたのだが、やはりというべきか、進捗状況は芳しくなかった。


最大の難点は小型化だった。

もともとはアメリカ海軍としてもこれを戦艦に載せるつもりはなく、艦艇の設計に使うつもりだったのだが、ベンジャミン-ティルマン副大統領発案の巨大戦艦の建艦が始まると弾道計算用に使えないか、という意見が出るようになった。


こうした意見が出たのはアメリカ海軍がレンジクロックと呼ばれる装置を例の巨大戦艦から採用する事を予定していたからだった。


これは文字通り時計型の装置で、艦隊での砲撃戦を行なう際に旗艦から僚艦に敵艦の進行方向及び射距離を知らせるためのものであり、旗艦としての役割を期待されている巨大戦艦にとっては必要不可欠なものだった。


アメリカ海軍はこのレンジクロックをイギリスおよびフランスからの情報を基に独自に開発していたのだが、ある問題があった。


従来型の計算機では、どうしても計算が遅く結果として命中率が下がってしまうという問題があった。


愛国党政権になってからの建艦計画、所謂ダニエルズ-プランは基本的に太平洋上における白人文明の防衛線構築を目的としていたが、米英戦争あるいは米西戦争の様に先制攻撃を仕掛けて、大日本帝国、大清帝国を相手に戦端を開き、太平洋と極東地域の制海権を握り、この2国を制圧する事も視野に入れられていた。


この場合、日清両国だけならば楽に制圧する事ができるとされていた。実際、当時の日本海軍ではいつロシア帝国が新型戦艦を回航してくるかに注目が集まっており、アメリカとの戦争などは想定外だった。清国海軍はよりひどく、軍備の更新をしたい軍及び政府と、それを許さない議会、特に宋教仁、林覚民といった漢人政治家は対立し、政府および軍を徹底的に攻撃した。内閣総理大臣に任じられていた梁啓超はこの対立に辟易し、陸軍の近代化を進める代わりに建艦計画の延期ということで、双方を納得させている有様だった。


しかし、アメリカ海軍にとっては厄介な事に日清両国には同盟国と言える間柄の国があった。フランスとイギリスだった。


前者は第一次世界大戦で共に戦った関係であり、後者は経済的にかなり深いつながりがあった。


フランスとは共和主義的な親近感からアメリカとも関係が良好な事、イギリスは清国以外にも、インドやロシアという巨大市場を手にしていた事から列強2国との戦争は回避可能なのではないかとの意見もあったが、そうならなかった時の事を考えて、フランス及びイギリスの戦闘を考えるとアメリカ海軍はその規模で、特にイギリスの誇るロイアルネイビーとは大きな差があり、ダニエルズ-プランで建艦予定の艦隊を持ってしても劣勢であることは明らかだった。


そのため考えられたのが、レンジクロックを使用しての統制射撃によって、確実に叩き潰すという方法だったが、最初にレンジクロックを開発したのがイギリスである事を考えればロイアルネイビーが同様の砲撃戦を挑んでくるのは目に見えており敗北は避けられないと考えられたため、アメリカ海軍は仮想敵より有利に立つべく様々な方法を考えた。その中で考え出されたの仮想敵より正確な値を、仮想敵より早く計算する事ができる新型計算機の開発だった、この結果、巨大戦艦の設計は16インチ50口径砲を、6連装4基24門搭載し、新型計算機の能力を活かし統制射撃を行ない撃破するという案に固まった。


当初は6連装砲という冒険的な案に懐疑的な意見も多かったが、当時のアメリカ海軍の主砲の製造限界やティルマン副大統領の圧力によって1番艦をサウスカロライナ州チャールストンで建造すべく造船所の拡張工事などを行なった結果の予算圧迫により、18インチ砲の開発が延期されていたこともあり、例の巨大戦艦は10隻の建艦が予定されている事から、主砲の大きさより投射弾量で敵艦を圧倒する事が出来る、と結論付けられた。


こうして、アメリカ海軍は建艦計画そのものを左右する存在となってしまった新型計算機の開発を早く終えるべくウェブレンたち新型計算機の開発スタッフに圧力をかけていた。


しかし、1904年のサンフランシスコでのペスト流行の経験則からメキシコ風邪は終息しつつあると考えた公衆衛生局においては新型計算機開発はもはや不要なのではないかとの意見が主流となりつつあるため、新型計算機開発をするためには海軍からの資金提供に頼らざるを得ず、その要求を呑むしかないと考えられた。


結局、ウェブレンたちの計算機は新型戦艦の竣工には間に合わず、搭載は後の事になってしまったのだった。

ウェブレンたちが開発している計算機は劣化版harvard mk1です(それでも従来のものよりかは高性能でしょうが)


ティルマンの巨大戦艦は結果的に6連装砲を採用する事になってしまいました。この世界だと18インチ砲ができていないからしょうがないですね。


艦船の設計については本当に素人なので割とロマンで考えてます。もし、おかしな点があったら、笑って流すか、感想等でご指摘いただければ幸いです。

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