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第152話 ブルガジェット攻略戦とプリシュケヴィッチの苦悩

今回は3000字を超えたのでこの作品としては長い方になります。

1918年5月14日 イタリア王国保護領アルバニア マト県 ブルガジェット

アルバニア反乱軍の拠点であるブルガジェットはイタリア軍による包囲下にあった。


「砲兵の支援は無いのか」

「航空隊の連中が爆撃に来るはずですが…」

「航空隊などあてにならないからな、砲兵がよかった」

「せめて戦車がまともに動けばよかったのですがね」


ロドルフォ-グラツィァーニ大佐に対し、部下であるジョヴァンニ-メッセ大尉はそう言った。


ブルガジェット攻略はアルバニアの未整備なインフラが原因で停滞しつつあった。

昨年のドゥラス防衛戦の際には、アドリア海を通じた輸送によって軽便鉄道や馬車といった輸送手段に頼らざるを得ないアルバニア反乱軍に対し勝利して見せたのだが、内陸部への進撃が開始されて以降は、逆にイタリア軍の補給が滞るようになり、ようやく反乱軍の拠点であるブルガジェット攻略に取り掛かったものの、砲弾が不足しているため砲兵の支援は満足に受けられなかった。


当時、イタリア軍が運用していた戦車は2種類あり、アンサルド社がマグリーニ-マンギアパン少佐の提言をもとに完成させた左右に合計8基の履帯を持ち、前後に65mm砲を連装で2基備え、重量は70トンにも達する『アンサルド-マグリーニ-マギアパン』戦車であり、その巨大さからマンギアパン少佐の怪物と言われていた。


流石にこの怪物が運用困難であることはイタリア軍もわかっており、その経験をもとにアンサルド社の技師ジーノ-トゥリネッリが小型軽量化した『アンサルド-トゥリネッリ-テストゥジーネ-コラッツァータ』戦車が開発された。テストゥジーネ-コラッツァータは装甲化された亀という意味であり、その外見に由来する名だった。車体の前後に連装砲塔という配置は変わっていないが、主砲はブレダ-ペリーノM1912機関銃と共にイタリア陸軍の主力機関銃であった、フィアット-レベリM1914機関銃の開発者であるアビエル-ベテル-レベリ-ディ-ボーモンが開発したフィアット-レベリM1916 25.4mm機関砲が装備され、車体には銃眼が付けられていた、また小型化に伴って履帯が左右合計4基に減らされ重量は20トンになっていた。


ドゥラス港の防衛の際に活躍したのはこの『アンサルド-トゥリネッリ-テストゥジーネ-コラッツァータ』の方だった。

だが、多少は軽いとはいえ20トンもあるテストゥジーネ-コラッツァータを内陸部で運用するのは難しかった。この当時の戦車は何処の国でも通常は鉄道移動が前提だったのだが、アルバニアの鉄道は600mmという狭軌であったために、鉄道輸送は出来ず自走させる事になった。しかし、これにより故障が頻発し、それを直すための整備に時間を割く羽目になり、結局、進撃が遅れるという事態を招いていた。

イタリア軍としても本土における反戦運動の活発化は十分に理解していたため早期に決着をつける必要に迫られた。そこに、陸軍航空隊のジュリオ-ドゥーエ大佐から航空機による空からの支援を行ない、地上部隊はその援護の下で進撃するという案が提案され採用された。


アルバニア反乱軍は砲弾の補給、戦車の整備、整備部品の輸送などは襲撃で妨害する事は出来たが、爆撃機に関してはそうはいかなかった。爆撃機はアルバニア沿岸部のようなイタリアの支配が強固な土地より発進して爆撃を仕掛けており、その基地に対する破壊工作は容易ではなかったからだった。


今まで、反乱軍のゲリラ的攻撃で大きな損害を出していたイタリア軍上層部は航空隊による攻撃による戦果に満足していたが、一方で現地で戦う将兵からすれば、航空隊による偵察や攻撃の結果、ゲリラの掃討が完了したと報告された村落で激しい抵抗にあったり、味方への誤爆が相次いだりと、航空隊はあまり信用できない連中、という評価が一般的だった。


しかし、ブルガジェットに対する攻撃のような、ある程度目標がはっきりしている際には航空隊による支援によって、イタリア軍はアルバニア反乱軍に対して戦いを有利に進める事ができた。


こうして、ブルガジェット攻略後にはアルバニア反乱軍の活動は下火になり、その構成員たちは諸外国へと逃げ延びる事になる。中には逃げ延びた先で野盗となるものや、犯罪に加担するなどして周辺諸国を不安定化させる原因となった。なお、指導者であるアフメト-ゾグー-ベイの死体は発見されなかったことから、いつか、アフメト-ゾグー-ベイが戻ってくるという民間信仰がアルバニア人の間で盛んになった。


一方、イタリアではこの戦いの戦訓からテストゥジーネ-コラッツァータの本格量産を試みたが、主砲であるフィアット-レベリM1916 25.4mm機関砲が高価であった為、代わりにロシア帝国から37㎜塹壕砲を輸入し、のちに国産化した。この37㎜塹壕砲の導入はイタリア、ロシア間での軍事協力の最初の例となったのだが、そこまで関係が深まるのはまだ先の事だった。


1918年6月1日 ロシア帝国 ペトログラード モイカ川堤防地区 ホテル-ロシア

有名な作曲家であるピョートル-イリイチ-チャイコフスキーが宿泊していた事でも知られるホテル-ロシアは黒百人組の指導者ウラジーミル-ミトロファノヴィッチ-プリシュケヴィッチお気に入りのホテルだった。だが、そんな場所にも関わらずプリシュケヴィッチの気分は晴れなかった。


(皇帝陛下が巻き込まれるような事があってはいけない。やはり、確実に奴一人を排除できる時に実行する事にして、今からでも計画を中止すべきか…だがそれではロシアを救う事は出来ない…それにボリス大公の事を考えれば悪い事ばかりではないはずだが…しかし…)

 

プリシュケヴィッチはロシア帝国首相兼内相として長年、その座に留まり続けたピョートル-アルカージエヴィチ-ストルイピンの排除を目論んでいた。


といっても、政治的な意味での排除では無かった。なぜなら、ストルイピンは皇帝ニコライ2世の信頼の篤い大臣の一人だったからだ。これに対抗できるのは宮廷内では皇后アレクサンドラ-フョードロヴナによって重用されているグレゴリー-エフィモヴィチ-ラスプーチンぐらいだったが、プリシュケヴィッチはラスプーチンも嫌っていた為、ラスプーチンと手を組むなどということは考えられないことだった。


結局、プリシュケヴィッチはもっと直接的な手段による排除、つまり、ストルイピンの暗殺を実行にする事にしたのだが、ここで一つの問題が出てきた。ストルイピンが新年に、ペトログラードに次ぐ大都市である副首都モスクワを訪れる事を知ったプリシュケヴィッチは直ぐに指令を出したのだが、そのモスクワ訪問は皇帝ニコライ2世とその家族の行幸に付き添ってのものであるとの報告が飛び込んできた。


皇帝による親政を目指すプリシュケヴィッチとしては、最悪、皇帝やあるいはその家族に流れ弾が当たるかもしれない状況での暗殺を命じる事に忌避感があったが、一方では例えば皇太子のアレクセイに万一の事があれば、熱心な反イギリス論者であるロシア大公ボリス-ウラジーミロヴィッチがその後継者となり、ニコライ2世が死亡した場合にも摂政として国政に参画する事ができ、プリシュケヴィッチにとって大きな利益となると考えていた。


暫く悩んでいたプリシュケヴィッチは、翌朝、ホテル-ロシアを出て、ウラジーミル宮殿に向かった。ボリス-ウラジーミロヴィッチ大公の母であるマリア-パヴロヴナに会う為だった。

アンサルド-トゥリネッリ-テストゥジーネ-コラッツァータの主砲は史実では37㎜砲が考えられていたようですが、おそらくこれはピュトー砲だと思われるので(間違っていたら申し訳ありません)、フランスと関係が微妙なこの世界では採用しないと思いフィアット-レベリM1916 25.4mm機関砲にしました。


あとから、ロシア製の37㎜砲を採用しているのはどう考えてもフィアット-レベリM1916 25.4mm機関砲が高価そうなので…


ペリ-ノ機関銃がブレダ社によって量産化されていますが、第一次世界大戦の早期勃発によって機関銃の必要性を理解した為、採用されたと考えています。

その後、史実通りにフィアット-レベリM1914機関銃が採用されたのはブレダ社に負けたくないフィアット社がペリーノ機関銃よりも量産が容易な事アピールし、その事からバルカン戦争に備えて軍備増強を進めていたイタリア軍が目を付けたと考えています。


前話のタイトルを変更しました。

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