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第13話 ニコライ2世の決断

1906年1月10日 ロシア帝国 サンクトペテルブルグ

ロシア帝国の首都サンクトペテルブルグでは皇帝ニコライ2世と政府閣僚による会議が続けられていた。原因はドイツ帝国が12月に行った部分動員だった。

これに対してフランス共和国も国境に兵力を集結させ始めていて、開戦は間近のように思われた。

このような事態に際し、フランスは同盟国であるロシアに対して開戦時の対ドイツ参戦を要請し、それを受けたニコライ2世は会議を開き閣僚に対し意見を求めたのだった。


「今回の件はフランスの独断であり、わが国としてはここでドイツに対して宣戦を布告するよりはむしろ両者の調停役として振る舞った方が良いと思われます」


内務大臣として国内の治安を預かるピョートル-ドミトリエヴィッチ-スビャルトボルグ=ミルスキー公爵は、ロシア帝国内部での様々な改革、革命運動の高まりを受けて現状での参戦に否定的だった。

短期的にはナショナリズムの高揚による国民の団結心の強化も見込めるだろう。だが仮にナポレオン戦争のような長期戦となった場合、疲弊しきったロシアにどのような影響が出るかは分からないからだ。最悪フランス革命のような事態もあり得るだろう。それだけは絶対に避けなければならなかった。


「いや、同盟国に対する責務は果たされなければならない。フランスは我がロシアを信頼している。我々がその信に答えなければロシアは信頼を失う事になる。我々は戦うべきだ」

「経済的な面から言っても、フランスがドイツの軍門に下るのはまずいですな。ロシアに対してフランスは数多くの投資を行なっています。近年のオデッサ、ウラジオストクの自由港化にはフランス資本の存在は欠かせません。また、ドイツ資本はバルカン半島への進出によって、オスマン帝国経済の従属化を狙っているものと推測されます。これは我が国のカフカスやウクライナなどの黒海沿岸地域にとっても経済的脅威となります。こちらも部分動員でドイツに譲歩するように圧力をかけてはどうでしょうか」


ウラジーミル-ニコラエヴィッチ-ラムスドルフ外務大臣とセルゲイ-ユリエヴィッチ-ヴィッテ大蔵大臣がスビャルトボルグ=ミルスキー公爵の非戦論に対して反対した。

ラムスドルフは外務大臣としてロシア帝国という国家の信義の問題を考え、ヴィッテは大蔵大臣として経済的理由を考えての事だった。

ヴィッテの言うオデッサとウラジオストクの自由貿易港化とは、保護貿易志向の強かったロシア帝国において良港ながら辺境に位置していたこの2港を自由貿易を許可する自由港として他国資本にも開放する事により辺境経済の発展に役立てようとするものだった。

しかし、オデッサに関しては近年その地位が脅かされそうとしてしていた。原因はドイツ資本による鉄道敷設だった。オデッサを中心とした黒海沿岸地域の海運の掌握を目論むロシア帝国とバルカン半島を縦断し中東に至る鉄道敷設によりそれらの地域の勢力圏化を狙うドイツ帝国の思惑が真っ向から衝突していたからだ。

この状況にヴィッテは強い危機感を覚えていたのだった。


「もしするのであれば、部分動員よりも総動員の方がよいでしょうな。我が国は広く兵力を集めるのに時間を要し、部分動員では必要な兵力が不足する可能性がある。軍人としていざ開戦となった時に不完全な状態であるのは避けたい」


それまで議論を見守っていたアレクセイ-ニコラエヴィッチ-クロパトキン陸軍大臣がそう言った。

このクロパトキンの言葉が結果的にニコライ2世の決断を促したと言われている。


翌1月11日、ロシア帝国、総動員令を発令。第一次世界大戦への道は開かれたのだった。



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