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第100話 バトンルージュの会食

総合評価300pt突破、ブックマーク700pt突破と100話到達記念作品です。


折角の記念作品だから、なんか食べ物系の話が書きたいと思って書いていたら、どうも最初に考えていたのとは違う話になってしまった気が…。本世界におけるジャズの話もいれようと思いましたが、長くなったので、別の機会に書く事にします。

1916年9月13日 アメリカ合衆国 ルイジアナ州 バトンルージュ


その日、愛国党の大統領候補者であるセオドア-ルーズベルトは会食を楽しんでいた。相手はルイジアナ州知事、ジョン-ミリケン-パーカーだった。

パーカーは元々民主党員だったが、進歩主義的な考えを持っていたこともあり、愛国党が結成されるとすぐに参加し民主党のラフィン-ゴルソン-プレザント候補を破って、アメリカ初の愛国党の知事となっていた。


「では、ルイジアナでは愛国党員の数は増えつつあると」

「ええ、その通りですテディ、民主党や共和党よりも愛国党を、という声は大きいです」

「なるほど、ルイジアナの10人の選挙人が得られるのは愛国党にとって大きな利益になる。パーカー君ありがとう」

「いえいえ、私一人の力ではありませんよ」

「そんなに、謙遜しなくてもいいじゃないか…ところでこのベーコンみたいなのは何なのかね、美味い事は美味いのだが」

「ああ、そう言えば説明していませんでしたね。テディは狩猟が好きだと聞いていたので、てっきりアフリカあたりで食べた事があると思っていたのですが」

「アフリカだと?…パーカー君、これは本当に何の肉なんだね」

「ここで教えても良いですが、お時間があるようでしたら是非ウィンフィールドまで一緒に来ていただきたいのですが」

「いいだろう。私としてもなんだかよくわからない肉を食べたままでは心配でたまらないからな」

「ありがとうございます。テディ」


翌日、2人はルイジアナ州ウィンフィールドの牧場へと向かった。


1916年9月14日 アメリカ合衆国 ルイジアナ州 ウィンフィールド


パーカーと共に牧場を訪れたはずのルーズベルトだったが、その牧場の様子に困惑していた。

そこは一般的な牧場のような草が生い茂った土地などではなく、ブラックウォーターと呼ばれる枯葉などが堆積した湿地帯だったからだった。


困惑するルーズベルトの前に濁った水の中から、昨日、ルーズベルトが食べた肉の原材料が顔を出してきた。


「カ、カバだと」


水中から顔を出したのはアフリカに生息しているはずのカバだった。動物園ならいざ知らず、普通の沼地でカバを見る事はアメリカ合衆国ではまずない。なぜこんなところにいるのか、服がびしょ濡れになった事も気にせずルーズベルトはカバがここにいる理由を考えたが、わざわざ、牛ではなくカバを飼育する意味が分からず。ルーズベルトの困惑は深まった。


「失礼、うちのカバが粗相をしてしまって…元大統領、何故ここに」

「君は…デュケイン君か、アフリカの狩猟では世話になった。そうか君がここの責任者ならば納得だ。ブルサード議員の提案を事業化したという訳か」


話しかけてきたのは南アフリカ出身で、第二次ボーア戦争でコマンドーとしてイギリス軍と戦い、その後アメリカへと移民したフリッツ-ジュベール-デュケインだった。彼はアフリカの動植物に詳しかったことから、アフリカでの狩猟の際にルーズベルトのアドバイザーとして同行した事があった。


デュケインは移民後に自身の知識を活かして、ルイジアナ州出身の下院議員ロバート-ブルサードが設立した新規食糧供給協会の所属していたことがあった。これは、将来牛肉などの既存の肉製品が不足した場合に備えて、それらに代わる、新たな食肉の確保を目的として設立された組織で、デュケインは新たな食肉としてカバをアメリカに持ち込む事を提案し、ルーズベルトもそれに賛同していたのだが、結局、ブルサードの提案は下院にて否決されてしまった。


こうして、アメリカの食卓にカバ肉が並ぶことは無い、と思われた。

しかし、全く別の所からの提案でブルサードの提案に比べれば小規模とはいえ実用化がなされたのだった。


「デュケインさん、カバの様子は…これは、これは、まさか我が牧場に貴方がいらっしゃるとは、歓迎しますよテディ」


奥の方から出てきた男が、デュケインに話しかけようとしてルーズベルトに気づいて、思わず姿勢を正した。


「ロング弁護士お久しぶりです。紹介しますよテディ、こちらは弁護士のヒューイ-ロング氏です。労働災害の訴訟を主にされている方で、ルイジアナでは貧者の味方として有名なんですよ。そして、この牧場の建設の中心人物の一人でもあります」


まだ若い弁護士であるヒューイ-ロングはここウィンフィールドの貧しい家庭の生まれであり、貧困を憎悪しながら育った彼は、セールスマンとして働きながら司法試験に合格、常に貧しいものの側に立って行動する彼の姿勢は、多くの敵を作り、そしてそれ以上の多くのものから尊敬され、ルイジアナ州では知らぬ者がいないほどだった。


「いやいや、私はデュケインさんの提案を丸写ししただけですよ。パーカー知事、あなたの助けが無ければ実現は不可能だったでしょう」

「それでも、この牧場を失業者の救済に役立てようというアイデアは貴方のものだ」

「失業者の救済?」

「ええ、スタンダートオイルをはじめとする大規模石油会社は国外からの原油を安く輸入しています。おかげでルイジアナでは小規模の個人経営の油井の多くが経営が成り立たなくなっているほか、大規模会社の系列の油井ですら合理化の名目で減産や活動停止が相次いでおり、多くの失業者が出ているのです」

「ドル外交の負の面か…」


第一次世界大戦後にタフト政権が推し進めた、ドル外交によって南米や中東地域で多くの石油利権を保有する事になったアメリカの石油会社だったが、その結果として従来の主力であった国内の油田では大規模の産出が見込まれたテキサスなどを除けば、事業の縮小が相次いでいたのだった。

そうして生まれてしまった失業者の救済に何かできないかと考えたロングが過去のブルサードの提案を知ってデュケインに声をかけ、このカバ牧場が成立したのだった。しかし、今のところはバトンルージュやニューオリンズの一部のレストランに納めているだけであり、経営は芳しくなかった。デュケインもロングも本格的に経営というものを理解していなかった為だった。


「いつまで続けられるか、正直は自信はありませんが、出来る限りやってみようとは思います」

「そうか、私も微力ながら応援させてもらうとするよロング弁護士」

「ええ、ありがとうございます」


そういって、ロングとルーズベルトは握手を交わした。


だが、それからしばらくして、ロングたちの牧場事業は思わぬきっかけで軌道に乗る事になる。

切っ掛けは、ロングがルイジアナを中心とした南部地域から離れて、北部にも営業をかけるようになったからだった。セールスマン時代の経験から、見込みのない地域で販売を続けるよりも新たな市場を切り開く事をロングは選んだのだった。

当時の北部では、ウースター-ランチ-カー-カンパニーやジェリー-オマホニー-ダイナー-カンパニーといった新世代のランチワゴンの興隆期だった。

簡易レストランであるランチワゴンは19世紀から存在していたが、これまでの客車を改造したようなものとは違い、プレハブ造りの新しいランチワゴンは工場で生産されて、都市のいたるところで組み立てられていった。特にニューヨークをはじめとする大都市では、オフィス街で手軽に食べられる料理を提供する店として人気が出るようになっていた。


しかし、一方でそうした急拡大は問題も引き起こしていた。

ランチワゴンはグリル料理の店が多かったのだが、肉料理に必要な肉の生産が追い付かなくなっていたのだった。

元々、19世紀からの過放牧、灌漑技術の発展と第一次世界大戦後の大量の移民の流入に伴う1909年のホームステッド法の改正に伴う農地面積の増加は、広大な土地と多くの牧草を必要とする牧畜に少なからず打撃を与えており、急な増産には対応する事が出来なかった。


数が限られる従来品の肉は普通のレストランやホテルに納められてしまい、ランチワゴンでは魚料理などを提供するようになったが、客からは肉料理を望む声が多かった。

そのため、カバ肉は代用食として採用され、ランチワゴンの定番としてアメリカ社会に受け入れられる事になるのだった。

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