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まさひこのパンケーキビルディングとその住人。打砕く者と守る者。  作者: TOYBOX_MARAUDER
海賊の秘宝と青い海、俗物共の仁義なき戦い
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帰ってきたまさひこ

やぁ、待たせたな。どうも筆が進まなくてな。済まぬ。

そんで…以前ここで有力者たちのお話が混ざると言いましたが…次になります。


 満ちる眩く白い光。鬱陶しくすら感じられた強い光が、まさひこのパンケーキビルディングの世界に存在するプレイヤー達の視界から消え失せた時…各々の瞳に付くのは人の群れ。その背景には…見覚えのある街並みが広がって見えていた。


 もう誰も娯楽目的では訪れないであろう階層。1階層。急速に寂れて行った地。この世界の始まりであったはずの場所。その広場にて…リックはしたり顔をし、広場の上空に漂う、赤いローブをその身に纏う巨人を見上げていた。


 「ふふふっ…グッジョブ、まさひこ。何しに来たかはしらねえけど…よくやった」


 リックは錆色のジャケットの片側を開き、その内ポケットから4枚の小切手を取り出して流し目でそれを見る。振出人の欄にルーイン・ゴルドニアの名と、金額欄に100,000の金額が書かれた3枚と…5,000,000と金額が記載された1枚を。その4枚の小切手の存在は、勝者がマリグリンだけではなかったことを示していた。


 けれど、このまさひこのパンケーキビルディング初日にあった様な状況で、大人しくまさひこに注目するのはリックを含めてほぼ一部。辺りでは恐らく塩パグ学園島での戦いの関係者たちなのであろう者たちの争う声が聞こえている。


 「ここであったが百年目…逃げられると思わない事ですよ」


 「そんなことが言える立場ですか? ジョロキアさん。パイタッチジョロキアの決定的な証拠が我々の手の――」


 「なら尚の事生かしちゃおけねえよなぁ…楽に死ねると思うなよ? こんの角刈り野郎がァー! テメーはなぶり殺しだァ!」


 「助けてー! セクハラマンに殺されるぅ!」


 「セクハラマン言うなッ!」


 大多数がまさひこに構わない集まりの中、リックは歩く。その手に持った勝利の証を大事そうに再び胸ポケットの中にしまいつつ、逸れた仲間を探して。その間、どこかで聞いた時のある様な声から成る悲鳴等も聞こえるが、リックは気にしない。


 「むうぅ…」


 暫くして聞こえるくぐもった声。一行に静まる気配のないプレイヤーたちに痺れを切らしたのであろう空からの悩まし気な唸り声がリックの耳に届いた時、彼は野次馬のように人が集まるその場に踏み入れていた。


 「これさ、まさひこプレイヤーの中に混ざってね? 塩パグ学園島になんか変なのが居たって情報こっちにも来ててさぁ、まさひこでは?」


 「語るに落ちるとはまさにこの事だな。時代遅れの帝国主義者め。今は21世紀から22世紀になろうとしている時代だぞ」


 「オルガさんは"NPC乙型"の人権を守るために然るべき処置をしたまでだよ。塩パグ学園島における技能実習生達の扱いは、平和な時代を生きる我々現代人の倫理にそぐわないものだったのは周知の事実。そうだろう?」


 何やら話し声が聞こえる。リックが背伸びをして覗き込めば、騒めく人と人との間の向こうに見える円形に立ち、話し合う4人のプレイヤーの姿。誰もが身なりが良く、ある種の貫録を感じるその会議の中では…白と銀糸の縦ストライプのスーツを着た背の高い白金の髪の女と紫色のスーツを着た逆立つ金髪の髪が特徴的な男が、静かではあるが言い合いをしている最中であった。


 「侵略の大義名分としてはありふれたものだな。仮にそうだったとして、お前が行ったやり方は力を背景にした紛れもない侵略。そんな武力による現状変更が許されるのか? それこそ現代にそぐわないやり方だ。これを許してしまえば危険な前例を残す形に――」


 「しーずーかーにーしーてーくーだーさいッ! 話を聞いてくだちゃい!」


 紫色のスーツの男。柴犬チャーム。彼が白と銀糸のスーツとスタイリッシュな黒い手袋が特徴的なオルガに再度懸念を表明しかけた時…空から声が大きく響く。その声は紛れもないまさひこの声。叫び。まさひこのパンケーキビルディング初日、以前の事がトラウマになっているのか、その言葉は覚束ず、響きだけは威圧感があるものの確かな緊張を孕んだ物であった。


 その響く言葉はあたりを一瞬静かにさせ、その後で…リックの見るその先。主要組織の面々は互いの顔を見合わせた後に…柴犬チャームに顎をしゃくられたオルガが空に浮かぶ赤いローブの巨人。まさひこのアバターであろうそれを見上げた。


 「どうした。まさひこ。お腹痛いのか?」


 「いや…その…べつに。痛くない…痛くないです。そうじゃなくって、ちょっと今日伝えたいことがあって…」


 オルガはいつも通りに、マイペースに尋ねるが…まさひこはしどろもどろだった。もうこの世界の製作者だとか、アバターの凄そうな雰囲気、威厳など。微塵にも感じられない委縮した雰囲気のままに。


 「そぉだ。まさひこ。良いぞ。要件は伝わった。成長した!」


 「あぁ…あっ…そうっすか。あざます…」


 何とも言えない微妙な雰囲気の中でスタートするまさひことオルガの会話。明確になるまさひこの意思、プレイヤー達全員に伝わる要件、真意。まさひこは咳払いを1つすると、息を吸い込む。


 「今回集まってもらった理由はですね、このまさひこのパンケーキビルディングの中でチートを使っている人が見つかったからです」


 もう、忘れてしまったのだろうか。彼は正式名称ではなく、プレイヤー間で使われる俗称でこの世界を言い表して今回プレイヤーを集めた理由を述べ、それを皮切りに…その後で広場のところどころで声が上がり始める。


 「頭にモーニングスターぶち込まれてもピンピンしてた毒にも薬にもならないラノベ主人公みたいなツラの奴いました!」


 「証拠映像もありますよー! ビデオカメラで撮ったんでバッチリです! ケツにカラーコーンぶち込むところも!」


 「まさひこ! チート使ってイキる性根の腐った可愛そうな奴に正義の鉄槌を! この場で吊し上げようぜ! カラーコーンも丁度あるし!」


 「つか、その証拠映像とやらをばら撒いた方がダメージ行きそうじゃない? 社会的な意味で。自然と死にたくなりそう」


 「人はそれをテロと呼ぶ。誰が見たいんだよ? そんな動画。ホモしか得しねえだろ」


 「ちょっといいかい? お兄さん…その一方的な言い方には異議がある。私の様な貴婦人に対してもそれは恩恵として享受されることを忘れないで頂きたい。ともあれ…テロに成り得る可能性は捨てきれない。まずは物を拝見させてくれ」


 まさひこそっちのけでやいのやいの声が上がる場所には…塩パグ学園島の制服姿。腕に風紀委員の腕章を付けたプレイヤー達。他には興奮した様子の無関係の女性プレイヤーの姿も散見出来る。前者の恐らく正義感からの制裁を求める声に巨人のアバターのまさひこは己の臀部に手をやる。何かを思い出した風に。


 けれどそうなったのも一瞬。まさひこは顔を横に何度か振ると再び語り始めた。無駄にミステリアスな雰囲気の、ラスボスっぽい声で。


 「そういうのは良くないと思います! と言うかそれはチートじゃありません! たぶん超体力ビルドです!」


 まさひこによる考えなしの骨髄反射での返答。それは、そのチーターらしき者を間近で見ていた者たちの心にとある疑念の芽生えさせるには十分であった。


 「おい、このフレーズ…苦しすぎる言い訳、どっかで聞いたぞ。それも今日」


 「マジまさひこ。チーターまさひこ」


 「動画ばら撒いて制裁しましょうぜ。まさひこの精神を破壊するために。徹底的に破壊する。まさひこハートを」


 「まさひこ。ボスとして今後登場予定あるから死にたくないとかそんな感じかな?」


 チーターの目撃情報とそれへの制裁の言葉で盛り上がるプレイヤーの声はあっという間に止み、代わりに産まれたるは疑念。物議の声。まさひこにとって不穏になりつつある空気の中、彼はプレイヤー達の声を掻き消すかのように手を振りかざした。無理やり話を変えるかのように、注意を逸らすかのように。


 「無実のプレイヤーを吊し上げる魔女狩りみたいなことは止めてくださいッ! 今は21世紀から22世紀にならんとする時代ですよ! とりあえずチートに纏わるアイテムカモン!」


 グダグダな自己弁護にしか聞こえないまさひこの発言の後、彼は右手を払う様に動かし…彼の眼下、各所で声が上がる。その中にはリックにとって聞き覚えのある2人の女の声もあったが、リックの瞳は前方に居る柴犬チャームを映したまま動かなかった。彼の指に嵌められた、ウサギの髑髏を緑色の宝石で象った指輪が光を放ちながら彼の手から離れていく様を映したまま。


 「あらヤダ。柴犬さんってチーターだったの? んもう、イケない人ね」


 そんな様子に真っ先に反応するのが…主要組織のリーダーとして面々の中に混ざっていた男だった。淡い黄緑色、毛先の白い長髪。黒いチョーカーを首に付けたパンクなファッションに身を包む…中性的な顔立ちの男。リックにはその姿に見覚えがあった。つい昨日、自分達の服を選んでくれた男、アイビーだったのだから。


 「いや、ウチは30階層開発時に偶然アレを見つけただけだ」


 「本当かしら? 言うほど30階層に投資しているようには見えないケド?」


 「30階層の不動産王として商品の測量は40パーセントほど済ませている。ウチ以上に他に30階層の未開の地を歩き、調べた組織があるだろうか?」


 「ふぅん…んまっ、そういう事にしてアゲル。というかその言い方はズルいわよ。土地の殆ど柴犬さんが独占してるクセに」


 釈明する柴犬チャームと追及するアイビー。2人の会話が続く中で、プレイヤーの中から集めたアイテムをまさひこはその手中に収め…手を下ろし、それを見届けたオルガが再度まさひこのローブで隠れた顔の辺りに視線を合わせた。


 「まさひこ。チートアイテムとは具体的にどういう物だったのかね?」


 「あー…何と言いますか、ゲームの不具合と言いますか。装備すると魔法使えちゃったりしたんですよ。そういうのが確認できたので、今日その旨の報告と対処をさせて貰ったんス」


 問われるがままにまさひこは簡潔に答える。けれどそれは一部の人間に何か妙に思わせる物であったが、オルガは気にせず、顔色1つ変えずに笑い、片手を肩の高さに上げて見せた。


 「そっか。バグ取りご苦労!」


 「あっ…はぁ…」


 オルガに対して煮え切らない返事をまさひこがする一方で、主要組織の面々の中の1人。二股の帽子が特徴的なダイヤ模様の白黒道化師の衣装に身を包む、背の高めの痩躯の男が腹の前に置いた腕の先、手の上に対の手の肘を付き、軽くウェーブの掛かる真っ白い髪に指を絡めつつ、空色の瞳で、まさひこを見上げていた。まるで獲物を見る捕食者の様な目で。


 「皆さん。唐突ですが、まさひこを狩る組織の垣根を超えた機関を作りませんか? 奴がプレイヤーの中に紛れている可能性は非常に高い。捕獲していろいろ情報が引き出せれば、もっともっとこの世界は住みやすくなるかと」


 まさひこのパンケーキビルディング。その世界の中で最も巨大な勢力。砂糖シンジケートを統括する組織であるロリポップキャンディ。そのトップに立つ男、ペロペロキャンディは集まった有力者たちに提案し、視線をまさひこから集まる有力者たちの方へ。ゆっくり腕を解くと、徐に腰後ろに手をやりつつ続ける。


 「なんなら今浮いてるのを叩き落としてもいい。どうです?」


 今、腹の前でゆっくり組まれた腕の先…手にはいつの間にか投げナイフが指と指の間に通されている。そうした後でペロペロキャンディの視線は再度空中のまさひこの方へ向いた。表情の読めぬ…だが、少しだけ不安そうにした雰囲気のまさひこの方へと。


 「勇者ペロキャン、魔王まさひこへの挑戦。上映間も無く。ポップコーンの準備は良いかね? 諸君」


 「アタシメープル味がイイ~」


 「まさひこ、今こそ驕り高ぶる挑戦者に威厳を見せつける時だ。ペロペロキャンディ。お前らがやられても砂糖の生産流通はパンケーキビルディングタバコ産業グループが責任をもって引き継ぐから安心して散って欲しい」

 

 プレイヤーの本来の目的はこの世界の脱出を目指すこと。脱出のカギになっているであろう、まさひこに立ち向かうのが本来正しい姿である。だが…ペロペロキャンディに返ってくるその場にいる主要人物たち。オルガ、アイビー、柴犬チャームからの返事は控えめな…いや、高みの見物を決め込もうとするような物であった。傍観と言う選択肢を取った彼らの真意は言葉通りなのかは証明しようもないが…協力ではなく、競合相手を出し抜かんとする腹積もりが根底にあることはペロペロキャンディには伝わった。 

 

 「全く困った人達だ。こんな時ですら自分の組織の利益を追求しますか」


 自分がいい思いをするために目的を同じくするはずの仲間の脚を引っ張り、はたまた傍観する醜い有様。足りないものを求める人の歴史の中で、営みの中の日常で…規模にこそ違いはあれど腐るほど例のあるそれの一例を目の前に、ペロペロキャンディは辟易した。まさひこへ向けた敵意を、目的を同じとするはずの面々へと向けて。


 世界からの脱出を目的とするプレイヤーならば議論の余地すらもない正しい主張であるが、反応を示すのはアイビーだけだった。だが彼の反応は…目つきをキツくし、顔をムッとさせるような…否定的な物だ。

 

 「悪い? 急いでゲームを終わらせても、のんびり終わらせても現実世界に戻った後のアタシたちに対するあつかいはどうせ大差ないわよ」


 もうゲームが始まってから二か月が過ぎた。それ故だろう。ある種の開き直りにも近い心持を露わに、アイビーは言い放つ。一切の負い目。一切の淀みもなく…微かではあるものの、現実世界への否定とこの世界への執着。心酔した一面を確かに伺わせて。もう、そうなってからは一致団結してまさひこを叩きのめそうという雰囲気ではなかった。


 「まさひこ、用が済んだようなら解散していいかね? ペロキャン君もやる気なくなったみたいだし。オルガさん実はこれから予定があってさ、大変なんだよ」


 そんな中、オルガは空気を一切読むことなく、なんだかおどおどし始めたまさひこを見上げる。まさひこのパンケーキビルディングの最大勢力に袋叩きになる様な流れになる中で、彼にとってそれは助け船だったのだろう。オルガの声にまさひこはすぐさま反応を示す。


 「あっ、大丈夫っすよ。回収し忘れてたアイテム集めるのが目的だったんで。お忙しい中時間取らせてスンマセンした」


 「良いって事よ。まさひこが元気そうでオルガさんは安心した。また何かあったら呼んでくれ」


 「あぁ…はい。んじゃ俺はこれで…お疲れーっす」


 「おう、お疲れ」


 ペロペロキャンディの気持ちを萎えさせた後も残る無数の敵意…いや、獲物を見る目。本来圧倒的な強者であるはずの存在が場の空気に呑まれる。根っからの小心者なのか、敵対する者たちを評価しての必然か…まさひこはこの中で影響力のある存在であり、己と敵対姿勢を見せていない何かと話しやすいオルガと会話を交わしたのち、そそくさと派手な効果音と共にエフェクトの中に姿を消した。


 不穏そうな空の色はいつもの明るい星空に戻り…広場にはプレイヤー達だけが残される。ちょっとした非日常が終わった後の喪失感にも似た静けさの中、オルガは更に続ける。今さっき自分と話していた有力者たちへと振り返りつつ。


 「各々方、話は変わるがミックスジュースの山盛りくんからの緊急会議要請が来ているのを認知しているかね? 緊急の議題だそうだ。オルガさんは直ぐにでも応じる構えだが…君たちはどうだろう?」


 オーダーメイドの上等な白地と銀糸のスーツの襟。斜めに銀糸のストライプの入ったネクタイを黒い手袋をはめた手で弄り、オルガは問い掛ける。1人1人異なる反応を示す…組織のトップたちを瑠璃色の左目に映して。


 「柴犬さんがフルーツタルト君の土地に無断で兵隊送ったことについてよね? イケない人よねぇ。全く…困った人なんだから。もちろんアタシは召集に応じるつもりだケド」


 各々がオルガの言葉に反応し、視線を向ける中で返事を返すのはアイビーだ。独特の色気のある切れ長の目で、顔色1つ変えない柴犬チャームの横顔を見つめ、微笑を浮かべながらオルガに会議に参加する意を伝達。次に彼女の方へと視線を滑らせた。どことなく意地悪い笑みを浮かべ、己の顎先に手を当てながら。


 「でもいいの? 今日色々あったみたいじゃない? モグモグカンパニーも。有力者が集まるとなれば追及は避けられないわよね」


 アイビーからの悪意のある、少しばかり意地悪な質問。どうやっても追及が避けられないであろうモグモグカンパニーの所業を解って居ながらのそれは、オルガの耳に届く。その悪意も。けれど、彼女は瞳を閉じて静かに笑うだけ。一切追い詰められた風はなく、憎たらしく思えるほどに。


 「ふふふ…今回の我々の動きを看過するような勢力は居るまいよ。解っているともさ…」

 

 囁くように言うとオルガは急に左目を見開き、両腕を開いた。片眉を吊り上げ、下目遣いで場に居る者達を眺めつつ好戦的な笑みを浮かべて。


 「だが、既に! オルガさんはお前たちの二手三手先を行っている。是非試してみたまえ。オルガさんやモグモグカンパニー…それらを断罪できるかどうかをね」


 傍から見ていて気持ちがいいほどの挑発。最初の一声以外は口元に笑みを浮かべながら、彼女は静かに紡ぐ。やや仰向けに傾けた顔を戻し、広げた手を下ろしながら、心底楽しそうに…聞き心地の良い声で。それはどこか根本からズレたものを感じる物で…してやった事。上手く事が進んだこと。自信。勝ち、負け。そのようなことに対してではなく、今こうして…互いを蹴落とさんとする空気、競い合う事そのものを楽しんでいる様な物であった。そんな挑発に真っ先に反応を示すのは…血の気の多いペロペロキャンディだ。


 「勘違いをしないで頂きたい。プレイヤー間の暗黙の了解…それを破った者が裁かれるのは当然のこと。例外はありません。さ、詳しい話は皆さんが集まった場でするとしましょう」


 冷たい氷の様な突き放すような毅然とした口調、態度で言葉を紡ぎ出しつつペロペロキャンディは階層転移の本を取り出し…姿を消す。その後に残されるオルガと柴犬チャーム、アイビーは互いに静かに目を配らせた後、階層転移の本を取り出した。


 「思ったんだけどさ、彼はなんで道化の衣装を着ていたんだい?」


 「30階層のどこかに遊園地作るらしいわよ。きっとそこのスタッフに着せるユニフォームのデザインを試行錯誤してるんじゃないカシラ?」


 「この世界に横浜を作り出そうという訳か。ふむ、完成した暁にはオルガさんも遊びに行ってみよう。それじゃ向こうで」


 「えぇ。皆からせっつかれるだろうけど頑張ってね」


 オルガとアイビーが話している間に柴犬チャームが階層転移の本により姿を消し、無駄話が終わったところでオルガもアイビーも姿を消す。このまさひこのパンケーキビルディングではなかなか見ることのない有力者、有名人を見物しに来た集まりも彼等の解散を合図に霧散。姿を消し始める。他の階層へと。誰もが…1階層には居つこうとはせず。


 久々に賑やかになったと思ったらすぐに人が居なくなり行く1階層。まだ残って居る者達も次々を本を取り出し――この場から去ろうとし始める。嘗てのプレイヤー達の中心は、もう既にそうではないことを現す光景は…寂しさを感じる光景。そんな黄昏。物悲しさを感じつつ、リックは動き始めた。恐らく1階層に残るであろう仲間たちを探すために。


 


 *




 流れる星。青い月明かりで空は満ち、それらに照らされたるは1階層広場。まさひこによって集められた者たちは次から次へと消え、あっという間に人は減って行く。


 だが…一部。すぐには行動を起こさない者たちも存在した。もともと1階層で活動していた者。何か理由があって直ぐには行動を起こそうとしないもの、懸念があって元居た階層に帰ろうとしないもの。それらが残り…広場に居つく。


 その内の1人と言っていいかは怪しいが、有力者たちの様子を眺めていたリック。彼はだいぶ歩きやすくなった広場の中を仲間を探しに歩き出していた。そんな彼の耳に…ふと騒ぎ声が聞こえてくる。…悲痛な女の悲鳴が。


 「うわッ…! 誰かッ…誰かぁッ! 助けっ…! ゴブリンハンターさぁん!」


 「アンタには借りがあったわね! 利子付きで今返してやるわッ! 色もたっぷり付けてね!」


 悲鳴は聞き覚えのない声。だが、それに被されるノリノリの声は…リックにとって聞き覚えのあるものであった。当然、自然とリックの足取りはそちらの方へ。少なくなった人々の中、新たに形成される人だかりへと進む。


 やがて見えてくる人と人との間の向こうには…何処か見覚えのある、焼けてボロボロの黒と紫色のドレスを着た濃紺色の髪をところどころ跳ねさせた少女の背中と、それに馬乗りにされ、顔面目掛けて容赦なく拳を打ち下ろされるビキニアーマー姿の女が居た。リックは苦笑する。その訳の分からない状況と…探していた人物の1人。己の連れの暴挙に。――帰るに帰れなくなったのだろう。周囲には塩パグ学園島の制服姿の者たちが居はしたが…誰も止めようとはしていない。ほとんどがおどおどしていて、止める勇気が無いようであった。


 直後――その人だかりを形成する一部分。なんだかおどおどし、声なき声で花子たちの方へ何か言っている頭防具だけ立派なフルフェイスの男を押しのけ、1つの人影が現れる。白いノースリーブのシャツ。長く黒いチェーン付きの黒のショートパンツ姿の少女が。ライトアイボリーの髪色と瞳の彼女は、拳をビキニアーマーの女に振り下ろす花子の背後に立つ。何とも言えない…呆れたような顔をしつつ見下して――


 「――っ!」


 花子の頭に右腕を置き、寄りかかった。花子は反射的に新たな敵の到来を察知したような攻撃的で好戦的な表情をし、顔を横に向け、瞳を動かして己に寄りかかる者の正体を見定めんとするが――。


 「あっ…」


 「うわぁーん! もういいじゃないですかぁ!」


 花子の碧い瞳に映るは下から見上げる形で見える見覚えのある横顔。その姿に一瞬目を大きく見開き、酷く驚いたような、動揺したような顔をした後で声を上げた後でバツの悪そうな表情となり、花子は顔を背けた。年下の少女による女相手でも一切の手加減のない攻撃に晒され、痛みと恐怖で泣き出したビキニアーマーの女の上で。


 「よぉ、花子ちゃん。ちょっと愚痴きいてくれよ。最近どっかのバカが4匹の畜生拾って来やがったんだけどなァ、エサ1日分しかねえってのに2日も家空けてる奴でよぉ」


 「へっ…へぇ、それは大変ね…」


 命を懸けた戦いが日常であるまさひこのパンケーキビルディングの生活の中で、何かに目覚め、年上だろうが強そうな奴であろうが気に入らなければ遠慮なく噛みつくようになった狂犬。花子。だが…彼女にも頭の上がらない存在が居ることを、その時の光景は確かに物語る。口元にヘラヘラした笑みを浮かべ…しかし静かな威圧感を含んだ少女、マロンの登場によって。


 「アレは…ホイップクリームマロンちゃん…?」


 「バカ野郎! 今はマロン姉貴だ!」


 「さすがマロンの姉さんッス! 伝説のライブのじゃじゃ馬ちゃんとまだ接点あったんすね!」


 「まーな」

 

 マロンの登場によって収まる騒動。アイドルらしいアイドルをしていた時のマロンの姿が頭の中にある者…今現在の芸風の彼女を押すファン、花子の正体に気が付いていた者。それらの声が聞こえる中で、マロンは普段通りの気さくな態度で適当な返事を返し、花子の頭の上から腕を退けた。一方、花子はバツが悪そうな顔のままゆっくりと立ち上がる。涙を流し、クシャクシャにした顔に両手首を交差させて泣き声を立てるビキニアーマーの女の上から。しかし――


 「あー、草臥れたぜ。いろいろ予定あったってのにモンスター狩りに行ったりしてさぁ。重たかったなァ。仕留めたモンスターの身体は。腹減ったなぁ」


 マロンの視線と注意が自身のファンに向いていたのはほんの一瞬だった。追撃は終わらない。透かさず顔を背ける花子の肩に凭れ掛かる様に右腕を置き、体重を掛けて寄りかかり…下から横目で見上げる形で視線を向ける。


 「大変だったなァ。誰か1人で頑張ったマロンちゃんにご褒美くれねえかなぁ」


 マロンは更に体重を掛け、花子に密着。のしかかる。言葉以上に物を語る瞳を向けられる花子は反撃どころではない。反撃するにはあまりにも立場が弱すぎるから。ただ顔と瞳を逸らして歯を食いしばるだけ。とてもとても都合が悪そうに。


 「うう~…うぅう~!」


 唸る花子をマロンは視線を彼女の顔から動かさず、顔の角度、位置を変えつつ視線を背けることに努める彼女の苦し気な表情を舐めるように見る。言葉では直接的には表現されはしないが…その態度、目はマロンが望む物。要求がなんであるかを雄弁に物語る。当事者である花子以外にも。


 ――そう、それは紛れもないカツアゲ。理由を知らない者共から見れば純然たるカツアゲだった。


 花子は追い詰められ、たじろぎ…マロンがさらに詰める。人と人との合間越しに、あまり見ることのないお灸を据えられる花子の様子を眺めていたリックは、日頃雑な扱いを受けているが故に楽しんでいたが、暫くして満足したらしく花子の救済のために前へと進みだす。前を遮る制服姿の男たちを押しのけて。


 「すんませーん、ちょっと通りますよ~」


 「なんだこの目つき悪いにーちゃん!?」


 「うっせ、ほっとけ」


 押し退けられる塩パグ学園島関係者に驚かれながら、リックは花子とマロンの傍へ。その接近に気が付いた彼女たちは動きを止めると、リックの方へと顔を向ける。その時の花子は助け船でも視界にとらえたような真ん丸いつぶらな瞳にリックを映し、マロンは目つきを据わらせたヤンキー。誰かに絡むそれらしい表情、態度で。


 「おう、リック。花子がこの様ってことはセラアハトの坊やのお遣いしくじったんじゃねーだろうな」


 ペットの面倒を見る上で掛かる費用を稼がせるために斡旋した依頼。馬、熊、ライオン、梟。花子とシルバーカリスが拾ってきた4つの命の維持に掛かる金額は、きっと思った以上に大きなものだったのだろう。依頼の成否を気にする立場では無いにも関わらず、気にする姿勢、態度はそんなマロンの思いが窺えるものだ。


 ――こいつはほんとしっかりしてる奴だよな。…どっかの誰かさんと違って。


 ガラ悪く凄むマロンに見据えられつつ、リックは視線を彼女から…マロンが怖いのであろう。なんだか縋る様に見てくる情けない花子の方へ。そして錆色のスチームパンクなジャケットの片側を片手で広げると、対の手で内ポケットに指を差し込んで4枚の小切手を取り出した。


 「勝利条件は達成したよ。この通り…金を稼ぐって勝利条件は」


 肩の上に掲げられたリックの指先には、薄い緑色の小切手が4枚が翻る。微かに風で揺れて音を立てるそれらには…内3枚が100,000ゴールド。1枚だけ5,000,000ゴールドと金額欄に書かれ、そのすべての振出人の欄にはルーイン・ゴルドニアの名。紛れもない勝利の証であったが…マロンは訝し気な顔をし、花子から離れてリックへと向き直る。


 「オメー…どんな錬金術使いやがった?」


 「マリグリンを狙ってるのはセラアハトだけじゃなかった。野郎を追ってる最中に競合相手と取引してね。協力することを条件に前金って形で金を貰ってたわけだ。言い出したのは花子で、俺はそれに乗っかっただけなんだけれども」


 ざっくりと経緯を語るリックは、勝ち誇りつつも少しばかり心苦しそうだった。金を得るまでの経緯。本意ではなかった裏切りに後ろめたさを感じる故に。小切手を注視し、訝し気な顔をしたまま眉間にしわを寄せ、腕を組むマロンを目の前に、リックは更に続ける。


 「――マリグリン捕まえられてりゃもっとデカい金額が貰える約束だったんだけど…予定より儲かったし今回の仕事は成功ってことでいいだろ」


 リックはそこで口を噤む。自分たちの勝利の証をジャケットの内ポケットにしまって。報告が終わった後に湧き出すのは、脳裏に燻っていたある光景。マリグリンが自分たちの目と鼻の先から逃げ延びる直前、言い残した言葉とその時の様子だ。だが、リックは言い出さない。マリグリンの言う秘密の危険性を考えればそれは当然の事であった。


 「……ま、セラアハトの坊やの後ろ盾が無くなっても問題ねえか。お前らもその辺考えてくれたみたいだしよ」


 しばらくの間マロンは黙っていたが、小切手に書かれていた名前を見て、これから起こりかねない面倒ごとを打破する道筋が見えたのであろう。セラアハトが裏切られたことを理由に自分との約束を反故にしたとしても問題ないと踏んだらしく、鼻から息をふうっと吐き出すと組んだ腕を解いた。


 「おわっ…いたぁい!」


 リックとマロンのやり取りが終わった傍で花子が胸をなでおろし…泣きじゃくるビキニアーマーの女を後ろめたさを感じた風に野次馬の中から見下す立派なフルフェイスの兜を被る男、ゴブリンハンターが何者かに押し退けられて膝をついてすっ転び、彼が声を上げた。自然とリックの注意は視線と共にそちらへと向けられる。


 そこにはガリを先頭に、シルバーカリス。ゴリ…無線でのみ存在を聞かされていた背の低い男とロングヘアの少女の今回の仕事の協力者たちの姿。見計らっていたかのようにそれらは向かってくる。ガリとシルバーカリスは手を振りながら、ゴリは意気消沈。肩を落としたまま…チビは普段と変わらない様子で、ロングヘアの少女はただ呼ばれて付いて来たらしく、戸惑った風に。


 「いやー、マリグリンさんに逃げられた時は全てが骨折り損になったかと思いましたけど、転んでもただでは起きない…さすがリックさん。花ちゃんです」


 その功労者の中、一番最初に声を上げたのはシルバーカリスだ。きっと今までマロンと花子、そしてリックの会話を野次馬に紛れて聞いていたのであろう彼女は、屈託のない眩しい笑顔を浮かべている。自分たちの目的が遂げられたことを今知り、心底安心したような。その彼女を碧い瞳に映すのは花子。彼女は、シルバーカリスの心中を瞬時に看破したらしく、ムスッとした辛辣な顔になった。


 「シルバーカリス…アンタ、マロンに怒られると思って隠れてたんじゃないでしょうね」


 「あははー…えぇ、ハイ…まぁ…」


 核心を突く花子の言葉にシルバーカリスは思わず顔を逸らし、屈託のない笑みが見る見るうちに引き攣った笑みに。こんな時、嘘が付けずに馬鹿正直に答えてしまうのは彼女の性格ゆえだろう。だが、正直に言ったところで花子の心の中にある不平等感は和らがない。シルバーカリスに詰め寄り、文句を言わんと己の腰に片手を当てシルバーカリスへ向かって人差し指を立てかけるが――


 「まぁまぁ、1晩中好きに遊ばせてやるから落ち着けよ」


 不意に、リックが口を挟んだ。先ほど取り出した小切手4枚。そのどれでもない…29,800ゴールドと記載のある小切手を手に、瞳を閉じ…格好を付けた顔をして。振出人の欄にリックと名前が書かれたそれを持つ彼の方へ、周囲の視線は集まる。…とはいっても花子の暴虐を見ていた野次馬は既に散り、疎らに残っているのはただのマロンのファンであったようだが。


 「その心は?」


 リックの言葉の意味。思惑。花子とシルバーカリスがリックの方を見たまま停止する中で、マロンが問う。己の腰に片手を当て、真意を確かめるかのように。


 「ふっ…言葉通りの意味だぜ…。昨日今日と一緒に戦った仲間たちに。ペットの面倒と言う意味で戦ってくれたお前に…一晩だけ夢を見せてやるってな…」


 リックはどこか勿体ぶった様な口調で言葉を紡ぎ…今手にしている小切手をしまう。そして次の瞬間――目をカッと見開き、拳を夜空へと力強く突き出すと同時に、口を開いた。


 「今夜は俺の奢りだァー! お前らッ、俺にッ…付いてこーい!」


 おそらくリックが花子達と一緒に行動するようになってからの…一番の歯切れのよい、一切の曇りのない声。その響きは、不愛想な顔をしていた花子の顔を驚いたものに。シルバーカリスの瞳に輝きを齎し、マロンの顔をなんだか訝し気で老婆心を孕んだものにさせる。


 「キャー! リックさん、ステキー!」


 「アンタはやれば出来る奴だと思ってたのよね! 狂いはなかったわ、私の目は!」

 

 さっきまでの殺伐とした様子、花子による醜いあらさがしの始まりはどこへやら。シルバーカリスと花子は白々しさ満点の安い称賛の声を上げてはっちゃける。一夜限りの夢を…嘗て味わっていた贅沢を。他人の金で…味わえることに。


 「なんか俺達…場違い感が…」


 「おだまりなさい。ガリさんも俺も勝利に貢献したのは事実なのだから甘んじましょう。そして味わいましょう…トップカーストに位置する人間たちの吸うであろう空気を、景色を」


 「あの、あの…私ただ着いて行っただけなんですけどッ…」


 その後に続くは遠慮気味なガリの消え入るような声と、是が非でも参加する心構えのチビ。特に何もしていないという自覚があるロングヘアの少女のか細い声。ゴリは相変わらず肩を落としたままであったが、誰も気を止めはしない。


 「格好つけるのはいいけどよ。良いのかよ」


 言葉通りの称賛は宿っていなくとも、大きな喜びと砂粒程度の感謝が窺えるウキウキした花子とシルバーカリスの言葉を聞き、いい気分になっているリックにマロンが歩み寄り、背を向ける形で立ながらリックの傍で囁いた。明言はせず、漠然と。彼にだけ聞こえる程度の音量で。


 「んー? なにがよ?」


 リックはマロンの言葉の意味するところに大凡の目星は付いた風ではあったが、シンプルにその意図を問う返答を返す。やんややんやと喜び燥ぎ、これからの予定を話し合い始めた花子とシルバーカリスを眺めながら。


 「花子もシルバーカリスも容赦しねえって事だよ。さすがにレジの前で土下座する羽目にはならねえだろうけど…お前の名前入ってた小切手吹っ飛ばすぐらいにはなるぜ」


 「あー…いいよいいよ。どうせあの金はホスト時代の貯金と塩作りのバイトで稼いだ金だし。綺麗さっぱり使って30階層との区切りにすんのも悪かない。だからお前も遠慮しないでパーッと楽しめよな」


 リックの財布を心配したマロンであったが、リックから返ってくる言葉は出し惜しみとは対極の金に一切の執着を見せないもの。顔を向けて横目で彼を見てみれば、気の良い近所のにーちゃんの様な雰囲気でリックは笑いかけてくるだけ。その後でマロン派顔を前へと向け直し、視線を夜空の方へとやった。


 ――ならいっか。


 マロンはそう己の中で結論を出した後、ガリやチビ、いつの間にかロングヘアの少女も混ぜてこれからのプランについて話し合っていた花子とシルバーカリスの方へとマロンとリックも歩み出す。今の今まですかしてはいたが…これからの時間を楽しみにし、ワクワクとした顔で。


 「おい~、何ニヤついてんだよ。散々俺大人ですってツラしてやがったくせによぉ」


 「いやぁ~、実は言うとさ、花子とシルバーカリスが遊び歩いてるの羨ましく思ってたんだよなァ」


 漸く解放されてそそくさと逃げるビキニアーマーの女となんだか羨ましそうにするゴブリンハンターとその仲間たち。それらの前でマロンとリックが今回遊びに行く仲間たちの元へと混ざろうとしたとき、彼らの目の前で花子が開かれた階層転移の本を持った右手を掲げた。


 「もうこんなシケた階層、帰る場所すら失った亡者共の前で喋ってる場合じゃないわ! とりあえず30階層に行くわよ!」


 「そうですそうです! 既に魔法の砂時計の砂は落ち始めているんです! のんびりしてる場合じゃありませんよ!」


 つい最近まで住んでいた家のある世界に対し、何という言い草だろうか。これから楽しむことに気合を入れた様子の花子とその声に便乗するシルバーカリスは早々に階層転移の本により姿を消し、ガリとチビもゴリを掴んで30階層のページをタッチ。光となって姿を消す。残るは…ロングヘアの少女とリック、マロンだけになるが、すぐにマロンはロングヘアの少女の肩に手を置き――


 「遅れるとあいつ等クッソうるせえだろうから急ごうぜ」


 「あっ…はっ、はい」


 ちょっとヤンチャな集まりの中に居るような普段接しない人種。強引だが優しいノリで掛けられる言葉に、遠慮した風にしていたロングヘアの少女は思わず返事を返す。それは肯定ともその場しのぎの物とも取れる返事であったが、マロンはロングヘアの少女の肩に手を置き、対の手で階層転移の本を開く。


 「先行ってるぜ~。お財布ちゃんよ」


 「ひでえ言い方。まあ間違っちゃないけども」


 ニヤつくマロンはリックに意地悪く言うと、唇尖らせるリックを後目に親指を動かして本に描かれた30階層の絵に触れ、ロングヘアの少女と共に姿を消す。リックは1人取り残される形となるが、仲間を追うべく右手で階層転移の本を開いた。仲間になりたそうな視線を、フルフェイスの兜の向こう側から送ってくるゴブリンハンター。彼の視線をビシビシと感じつつ。


 指は動く。そして触れる。青い海と白い砂浜の…色鮮やかな世界の絵に。厳しい勝負の結果、居場所を失った物たちを残して。風は吹く。いつも通りに。勝利した者には心地よく、敗北した者にはうすら寒く感じる風が。それはゴルドニアの音楽隊とその協力者たちにとってはこの上なく心地の良いものであった。

ゴルドニアの音楽隊目線で見るともうやることないし、ここでこの章終わりにしてもいいのですが、この章の主人公はセラアハト君みたいなところがあるのでまだ続きます。

マロンパイセンの隠した秘密とゴルドニア島に巣食う獅子身中の虫。これらに纏わる話が片付いたところでこの章は終わる感じになります。


アクション多めになるから…書く量は増えることは必至。まあ、読みごたえはあると思うよ。良ければ楽しみにしていてくれたまえ。


次回は…有力者たちの政治的なお話とNPCの枠組み。余力があれば遊ぶゴルドニアの音楽隊と仲間たちを描こうと思います。んじゃな!

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