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まさひこのパンケーキビルディングとその住人。打砕く者と守る者。  作者: TOYBOX_MARAUDER
海賊の秘宝と青い海、俗物共の仁義なき戦い
93/109

死屍累々を踏み越えて

1万文字とか言ってたけど1.5万近くある。どういう事だよ(困惑)

 

 代わり映えのしない森の中の微かに勾配の付いた道。正面に見える半円の太陽は、真っ赤に見る者の目と心を焼く。物悲しい赤で。


 戦場を切り抜け、走り抜けて来たゴルドニアの音楽隊と協力者たち。彼ら彼女らを乗せる車は、止まることなく走っていた。今まで切り抜けてきた鉄火場。窮地。それらからは考えられない優しい風と波の音、エンジンの駆動音とカースピーカーから流れるローペースなクラブジャズ以外聞こえぬ…静かな時の中に。


 辺りの静けさは、この島の奥深く。自分たちの居る位置がまだ戦場にはなっていないことを一同に教えてくれる。だが、油断はできない。リックからの報告では技能実習生が続々と自然エリアに上陸しているという話だ。そのことから、接敵していないだけであって、この周辺に居る可能性はまず間違いないのだから。


 シルバーカリスの持つトライデントが飛び出たサイドガラスから耳に届くクラブジャズ。なんだか既に何かやり遂げたような雰囲気を醸し出すゴブリンハンターの隣にて、花子は柔らかな表情をし、視線をその手にある38式歩兵銃に落とし、耳に届くクラブジャズの調べをハミングしながら、手慣れた手つきで38式歩兵銃の弾を込めていた。風に髪とフリルの付いたところどころ銃弾で切れ、穴の開いた黒と紫のドレスをはためかせて。


 引かれたボルト。オープンされた薬室から弾倉へ2発の弾丸を押し込むのに時間は掛からない。もう、銃弾はこの弾倉に入っている5発で全て。自分の手にある強力な手札の内の1枚が、あと少しで無くなる喪失感、惜しみにも似た気持ちを抱きながら、ボルトを戻し、薬室を閉鎖。白兵戦も意識し、着剣装置に銃剣を取り付ける。


 ――これで今出来ることは全てやった。後は成り行きに身を任せて、最善を尽くすだけ…か。


 小さく心の中で呟いて、38式歩兵銃に落としていた視線を上げ、車の後方を花子は見据える。


 けれど辺りは静かな物でこれと言って何か変化があるわけでもない。抵抗勢力の多いであろう島の入り口。そっちの方に技能実習生は行っているのかもしれない。もしかしたらこのまま戦いなく切り抜けられるかもしれない。何もない静けさに、楽観的な考えが一行の頭の中を巡り始める。


 「フッ…俺たちの勝ちか…」


 ふと、ゴブリンハンターが呟く。いろいろ突っ込みたくなるような事を…格好を付けたように。そんな彼の素顔の見えぬフルフェイスの兜を被った横顔を、花子が蔑みに満ちた辛辣な目で見た時…視界端にて変化があった。


 車の後方。その向こう側から迫る複数の明かり。眩しく感じたのは一瞬。絶句するゴブリンハンターの隣で、すぐにそれらがなんであるか花子は認知できた。


 今一行が乗っている車より速く走り、前方をハイビームで眩く照らしつつ風を切る、銃創がそのボディーに複数見て取れる数台の軽トラックの群れ。運転席と後部の荷台に見えたるは黒い鎧のシーシルキーテリアの隊員達。逃げて来たというよりかは自分たちを追ってきた。そんな風な印象を受ける、彼らの運転する軽トラックは自分たちを目視した途端、スピードを上げた。


 ――島を取りに来たと言うのが真の目的ではない…? 狙いはマリグリン?


 どさくさに紛れての島の確保。勝手に彼らの目的がそうであると花子は考えていたが、その考え、思い込みに…疑問符が浮かぶ。


 ――自然エリアの入り口や遺跡風の建物があったところで出会ったシーシルキーテリアの隊員は、少なくともこちらを…マリグリンを狙った風じゃなかった。毛並みが違うと思えたのは道路で襲撃してきた3人組。何かシーシルキーテリアとしてではない、密命を帯びる何者かが居る…?


 花子は迫りくる軽トラックの群れを見据えつつ、車のルーフパネルの上に腰かけたまま片膝を立て、その上に38式歩兵銃を置き…両手で構えると、右手人差し指を引き金に置く。車内から聞こえる、先ほどの物とは違う気分が乗る様なアップテンポなジャズの音色をその耳に、38式歩兵銃の照星を、まだ遠くに見える迫りくる軽トラックの内の1つ。その前輪へと合わせて。


 次第に自分たちの乗る車と、軽トラックの群れの距離が縮まっていく。38式歩兵銃の弾倉の中にある5発全てを上手い具合に当てたとしても…潰せるのは5台だけ。だが、軽トラックは目に見える限り7台はある。


 「冗談キツイわ。5発しかないっていうのに」


 思いのほか射程のない魔法で対処するのは最終手段。パッと思いつく最善は、上手い事軽トラックと軽トラックぶつけ合わせて処理すること。集中し、自然と眉間に皺が寄って難しい顔をする花子は38式歩兵銃の照星の向こう側に見える、軽トラックの群れを見据えていたが…その時思い付いた。とある非情な、冒涜的な攻撃手段を。


 「――ゴブリンハンター。とっしん」


 花子は38式歩兵銃を迫りくる軽トラックの群れに向けたまま、小さく…命令する。己の隣で不安そうにし始めたゴブリンハンターに対して。


 「…え?」


 真意は解っている。だが、理解したくはない。ゴブリンハンターは心細そうに、解らないふりをして花子の横顔を見つめる。動揺し、戸惑い交じりの返事を返しつつ。


 「…ゴブリンハンター…ロケットずつき」


 声を荒げたりはしない。だが、確かに強くなる。静かではあるが…確かな圧が。花子が発する声と圧は…ゴブリンハンターを静かに追い詰めていく。


 「待って。俺が飛ぶよりも…俺が装備してる物投げた方が絶対に良いと思う…」


 「…そらをとぶ」


 「解った…軽トラ1台やるから見逃して。証明するから!」


 理不尽な花子からの要求に対し、ゴブリンハンターは花子に逆らうわけでもなく、交渉を試みる。アーマーやガントレット。レギンスなどを脱ぎ…その下にあるしゃれっ気のない地味な衣服に身を包む、痩躯を露わにし、自分が役立てる事。その態度が本気である事を態度で示しながら。――しかし、彼は脱ごうとしない。他の装備には不釣り合いな、フルフェイスのヘルムだけは。


 だが、そんな花子によるゴブリンハンターへの理不尽な要求、彼を襲うパワハラは中断せざるを得ない状況になる。自分たちを追う軽トラックの群れが、すぐそこへと迫ったことによって。そして始まる。ゴブリンハンターがこの集団の中で、信頼を勝ち取るための、忠誠を示すための戦いが。シルバーカリスの運転する車の中から聞こえる、アップテンポの短いジャズがそれとは別の、アップテンポのアシッドジャズに切り替わったのを合図に。

 

 「おにゃああああッ! おにゃおにゃ!」


 「くふっ…!」


 始まる戦い。ゴブリンハンターの迫真の咆哮。明らかに浮足立った様子の彼は、己の中にある恐怖を誤魔化さんと、振り払わんと珍妙な声で叫ぶ。剣の収まっていない鞘や防具、投げられるものを、ボロボロの、満身創痍な迫りくる軽トラックへと両手をぐるぐる回すように投げて。本人自身は必死で大真面目であろうその光景は、淡々とした、見方によっては不機嫌そうな顔をしていた花子に思わず笑いを齎し――車の後部座席からは何事かと驚き、怪訝そうな目をしたマリグリンが顔を出す。


 「えっ、なになに? どうしたの? …発情した猫…?」


 マリグリンが好き勝手出来たのはその時だけ。すぐに彼の肩をガリが掴んだ。


 「大人しくしろって。死にたくないとか言う割には野次馬根性旺盛だよな」


 「いや、だって変な声がしたし…気になるだろ」


 「解るけど頭ひっこめとけって。危ないから」


 車の中から聞こえるガリとマリグリンの会話をその耳に、花子は視界の先、投げ放たれたゴブリンハンターの私物達の行く末を見守っている。


 軽トラックの群れへ向かっていくゴブリンハンターの私物たち。車体を叩き、物によってはフロントガラスに罅を入れるそれらは、確かに運転の妨害にはなったようで、軽トラックのハンドルさばきを怪しいものにし、スピードを落とさせたが…横転までには至らない。結果は誰が見ても失敗。不可逆的なダメージは与えられない、大局には何ら影響のない嫌がらせ程度にしかならない結果故に…無言の圧は強まる。花子からの、ゴブリンハンターに対する圧が。


 「一斉に掛かれッ! 犠牲を厭うな! 倒れた仲間を踏み越えろッ! 乗り込んで制圧するぞォッ!」


 ゴブリンハンターが大体の物を投げ終えた後、軽トラックの荷台に乗るシーシルキーテリアの1人が声を荒げる。明らかに島の制圧を目的としたものではない執念と信念、覚悟を窺わせる、犠牲を顧みない、使命の達成を第一とした敵ながら天晴れな姿勢で。良く見れば軽トラックの中や荷台には…技能実習生からの銃撃を受けてか、既に行動不能になっている隊員の姿も見ることが出来た。


 リーダー格と思われるシーシルキーテリアの隊員の一声を合図に、横広がりのフォーメーションを取り始めた軽トラックの部隊。投げてダメージになりそうなものを全て投げつくし、空のポーションの容器だとか鎧の下に羽織っていた上着だとか…ただの挑発にしかならなさそうなものを手に、狙いを定めた風に目を細めるゴブリンハンターの隣で、花子は今、引き金に掛けた人差し指に力を籠めた。


 発砲音と共に放たれた銃弾は、横への移動を開始していた軽トラックの前輪に命中。緩やかに蛇行を始め、その振れ幅が大きくなる軽トラックがコースアウトしないうちに、花子は立て続けにもう3発発砲していく。感覚を置かず、迷いなく、まだ無傷な軽トラック目掛けて。回避行動を取られる前に。


 「クソッ…! ハンドルが――!」


 「ぶっ…ぶつかるぅッ!」


 制御の効かなくなった軽トラックから聞こえるは…けたたましいスキール音と志半ばで脱落し行く者たちの断末魔。やがてそこに悲鳴と、軽トラックと軽トラックがぶつかり合う音、それらがコースアウトし、森へと突っ込み木々をなぎ倒す音が足されゆく。その有様を耳に感じ、碧い瞳に映す花子はボルトを引いて空薬莢を排出。ボルトを戻して薬室に最後の1発を装填したところで――38式歩兵銃を下ろした。横から、ゴブリンハンターの憧憬の眼差し。媚びるような雰囲気のそれを受けつつ。


 「…まぁ…こんなものよね」


 撃った弾は4発。4台の軽トラックに命中し、他1台巻き添えにする形で排除できた。だが、花子は呟くだけで最後の1発は撃とうとはせず、冷静な表情のまま、横に間隔を開けて突っ込んでくる2台の軽トラックを見据えている。行動を起こそうとしない彼女に、思わずゴブリンハンターは小首を傾げた。

 

 「撃たないの…? 弾切れ…?」


 色々あり過ぎてキャラを取り繕うことすら出来なくなった素のゴブリンハンターが、花子に問う。


 「他に使う予定があってね。ここじゃ切りたくないのよね」


 花子は素っ気なく返すだけで銃を再び構えることはない。上体を車の側面へ乗り出させ、後部座席のサイドガラスを叩き、ガリと何やら会話するだけだ。


 「――えぇ…いくらなんでもそれは…」


 「うっさい。男なんだから腹括りなさいよ。勝たなきゃ意味ないのよ」


 花子が何を要求、命令したかは…絶え間ない風切り音と車内から聞こえるアシッドジャズの音色によってゴブリンハンターには聞き取れなかったが、要求受けたガリは驚き…忌避感を示した風だった。けれど花子は有無も言わせない態度で話を一方的に終えると、38式歩兵銃を手に立ち上がり、今自分たちが乗る車。それを両サイドから挟みこむ形で追いつかんとする軽トラック2台のうち1台の方に38式歩兵銃を構えた。罅割れたフロントガラス越しに互いの姿が良く見える距離で、運転手へと銃口を向けて。


 「ばんっ!」


 今日何度目かの銃を使ったこけおどし。声と共に銃をわざとらしく上げて見せるそれをシーシルキーテリアに向かって行った。顔を覆うヘルムのせいで表情の確認できなかったものの、当然本物の銃を使ってのこけおどしだ。平静で居られるものなどそう居はせず、軽トラックの挙動、運転手の反応が一瞬…怪しいものとなって隙を作った。その生じた隙。花子の声を合図に彼女たちが乗る車の後部座席のドアが開き――何かが…軽トラックの前へと向けて転がされた。2つ。猛スピードで流れる、硬いアスファルトの上に。


 「…ッ!? お前らやっていいことと悪いことが――!」


 その何かを2つに乗り上げ、バランスを崩した軽トラックは片輪走行を経て、緩やかに横転していく。その時、運転席から聞こえる声は…今花子が行わせた所業を咎めるものであった。


 花子の傍らでゴブリンハンターが見たもの。それは、気絶状態で戦力として使い物にならなくなったチビと…ロングヘアの少女がアスファルトの上に放られ、2人の身体を轢いた軽トラックが横転する様。花子が行わせたのであろう、他に手が無いとしてもあまりにも非情な手段に、戦慄と共にゴブリンハンターが目を釘付けにしていた時、ふと彼は背後に気配を感じる。


 「ゆけっ! ゴブリンハンター! すてみタックルだ!」


 「うわっー!」


 背に強い衝撃と…足と車体が離れ行く浮遊感。身体が制御できない感覚。それは紛れもない恐怖としてゴブリンハンターの心にやってきて、彼の身体を嫌な汗で濡らした。


 彼は漂う。空中を。迫りくる軽トラックに目を釘付けにし、フルフェイスの兜の中で目を見開いて。フロントガラスがより近くに迫り、その向こう側の慌てふためいた運転席、助手席に座るシーシルキーテリアの隊員の姿すらも良く見えた。


 ――蹴落とされたッ…!


 妙に遅く感じる時の流れの中、遠のく花子の歯切れのよい活き活きとした声も相まって、彼、ゴブリンハンターは自分の身に起きたことを理解するのに時間は要らなかった。


 「裏切っ――グギャッ!」


 遠のく車の上、横に真直ぐ上げた脚を下ろしかける花子の方へ何とか視線を向け、何か言いかけたゴブリンハンターは…間も無く軽トラックの車体に激突。しっかり装着されていなかったのだろう。その衝撃で彼のトレードマークでもあった兜ははずれ、彼の素顔が一瞬だけ見えた。矮人族の技能実習生達よりゴブリンっぽい顔の素顔が。


 「…自分の顔にコンプレックスでもあったのかしら。しかし最後まで使えない奴だったわ」


 ゴブリン討伐隊。彼ら彼女らには煮え湯を飲まされていた事もあり、花子は清々したように辛辣な評価をその集まりの長、ゴブリンハンターに付けると花子は38式歩兵銃を構えた。ライフルとしてではなく、槍として。今まさに車のサイドにやってきた軽トラックの荷台。そこから、こちらの車の上に飛ぼうとタイミングを窺い始めたシーシルキーテリアの住人を見据えて。


 「さあ、行くぞッ!」


 「やめて。来ないで」


 30階層の厄介者であり、世紀末の住人。シーシルキーテリア。その所属とは思えぬちゃんとした人たち。隊員が花子を見据えて宣言。ムスッとした顔をし、花子は冷やかすように言うが…直後にシーシルキーテリアの隊員の1人は飛ぶ。花子が立つ、車の上へと。しかし――


 「今ッ!」

 

 シルバーカリスが声を上げ、ハンドルを横へと切った。そして飛んだ男は落ち、2つの車両の距離は遠くなる…と思いきや、そうはならない。シルバーカリスの行動を予期し、合せた軽トラックの運転手の運転によって。


 「ふふっ…相手が悪かったな。お嬢ちゃん。現実世界でゴールド免許持ちのこの俺に――」


 「ぐおあああっ! オマタが裂けちゃうぅッ! あっ…蹴らないで!」


 一方が距離を取ろうとし、一方が追随する最中、おそらく技能実習生の一斉射撃を食らって砕け散ったのであろう、ガラスがほんの少しだけ残るサイドガラスの向こうから、素性を隠すような黒いヘルムを被る運転席に座る男が、車の側面側を見るシルバーカリスに向けて、何か語り掛けた時、2つの車両の合間から野太い悲鳴が響いた。バックには花子の機嫌の良さそうな笑い声も聞こえる。

 

 「ヘイヘイヘーイ! 行くわよー!」


 「タンマタンマ! 今は無し! いい子だから! つか魔法使えんの!?」

 

 車の上では飛んで来ようとする者への牽制か、身体に赤い稲妻を纏わせ、銃剣を取り外した38式歩兵銃の銃身を両手でバットを握る様にして持ち、構える花子。彼女の目前には両脚を大きく開いて車両間の間に挟まれる様な形になりつつ、軽トラックの方に仲間に助けを求めるようにして手を伸ばすシーシルキーテリアの隊員の姿が在った。そして間もなく、花子の身体がゆっくりと動く。バットを振りかぶる打者のように。


 「ホームラン!」

 

 「ぐあぁっあああああぁーッ!」


 綺麗なフォームの花子が振るう38式歩兵銃。その硬い木製ストックでの足首への強打はシーシルキーテリアの隊員に激痛として伝わる。脚を伸ばしているのも不可能なほどの痛み、衝撃として。彼は痛みに声を、その直後に身体に感じる浮遊感への恐怖に声を上げ、アスファルトの上へと落ちていく。軽トラックの運転手が何かアクションを起こす前に、ほんの一瞬で。


 「あぁ、面白かった。さ、次は誰かしら?」


 その後で花子は38式歩兵銃に銃剣を再度取り付け、いい気になったように気障に笑い、左手の人差し指で己の前髪を軽く弾いて余裕を見せ…シルバーカリスの運転する車は横移動を止めてスピードを落とす。目的地の到着を遅らせるように、飛び乗ってくることを誘うかのように。


 だが…花子とシルバーカリスの見せた露骨すぎる反応は、シーシルキーテリア側にゴルドニアの音楽隊側の思惑を悟らせるには十分であった。


 「…なるほど。攻撃は一時停止。終点で勝負をかけよう」


 荷台の上に乗っていた花子たちの魂胆を察した1人の隊員が小さく呟き、今飛ぼうとしていた同僚の肩に手を置いた。そしてシーシルキーテリア側の雰囲気が冷静な物となって、車両間に距離が取られた。自分たちの勝利条件を今一度思い起こさせ、達成する最善を見据えるような。虎視眈々とした雰囲気で。


 「あら、あんまりのんびりしてるともう遊んであげないわよ?」


 「当ててあげよう。もうそれに弾は入っていない。そうだろう?」


 花子は38式歩兵銃を構えて銃口を軽トラックのタイヤへ。己の気分次第でどうにでもなるような雰囲気を醸し出す笑みをその顔に浮かべていたが…シーシルキーテリア側はゴルドニアの音楽隊に打つ手がないと思った風であった。


 ――生意気ね。本当に撃ってやろうかしら。


 花子依然として余裕ぶってはいたが、その面の皮の下では焦っていた。車の中からのアシッドジャズの静かな前サビが流れる中で。敵側の人数は4人。さっき戦った3人組レベルのプレイヤーなら、リックとセラアハトが合流してもマリグリンを守っての戦いは分が悪いのは明らか。けれどできれば最後の1発は使いたくない。マリグリンに対する保険が無くなるから。そう…花子は葛藤する。


 この窮地に花子は周囲に気を配る。この状況を打開する何かを求めて。けれど何もない。自分たちの車両以外なにも。軽トラック部隊とのチェイスが始まる前の道なりの森の中、駐車場と幾つかの建物が立てられた簡素なサービスエリアみたいなものを見はしたが、そんなものがある気配すらも。


 「花ちゃん、これでタイヤ突っ突いてください」


 そんな時、車の中からシルバーカリスの声が聞こえ、サイドガラスから突き出るトライデントの穂先を彼女の白い手がポンポンと叩いた。灯台下暗しとは良く言ったもので、撃つしかないと考えていた花子に活路を見出させ…その手に、トライデントを掴ませる。


 しかし…車内からトライデントを引っ張り出そうとしたとき、花子はある事に気が付いた。耳に届く謎のエンジン音。自分達の上に一瞬這い、過った影に。


 「?」


 ふと、車の上の花子と軽トラックの荷台の上に乗っていた者たちは顔を上げた。


 各々の目に映るのは映画やゲームの世界でしか見ることの出来ない空飛ぶ化石。主翼に親指を立てた、特徴的な赤い鼻の、コック帽を被った太った壮年のおっさんのエンブレムが描かれた1機の複葉機。緑色の塗装が成されたそれが自分たちの進行方向へと飛んでいる。だが、落ち着いていられたのもその時まで。複葉機は旋回し、今花子たちの居る車両の方へと向けて急降下してきた。


 「うわわわわわ…!」


 「フレンドリー! フレンドリー!」


 花子が迫りくる複葉機を見上げて目を見開き、恐怖に歯を浮かせ、シーシルキーテリアの隊員は両手を上げて声を発す。射撃されれば避けようのない状況に。自分たちの命運を複葉機のパイロットの善意に委ねつつ。けれど後者の対応が功を奏してか、プロペラの向こう側、複葉機の上部にマウントされた二門の機銃からは火が吹くことはなく、上昇する素振りを見せ始めた。


 「…撃たれると思った」


 「性格悪いわよ! 人を脅かして嘲笑うなんて! 品性を疑うわ! バーカバーカ!」


 複葉機は道路スレスレのところで上昇し…自分たちの後方へと飛んで行く複葉機。その後ろ姿を見上げながら、シーシルキーテリアの隊員は胸を撫で下ろし、花子が握りこぶしを作った左手を振り上げて大声で抗議する。今の今まで己がやってきたこと。その所業を棚に上げて。その後に残るは静けさだが…各々はまだ安心は出来ていなかった。戦いの最中ではあるものの…あの複葉機が気がかりで。


 「塩パグ学園島の連中はあんなの相手してんのか。剣と鎧で。いやー、ムリゲーにもほどがある」


 「翼竜とかペガサス飛ばしてもダメかい?」


 「的が地上に居るか空にいるかの違いにしかならねーよ」


 「そんなもんかぁ。現代兵器って言うのは生半可なファンタジーより強いんだねぇ」


 シーシルキーテリア側の軽トラックは隙だらけ。上昇していく複葉機を見上げながら、荷台に居る隊員たちは世間話をしている。刺すのであれば打って付けのタイミングだが、花子にそんな気は起きなく、ルーフパネルの上に俯せになってシルバーカリスが鹵獲したトライデントの大きな穂先が飛び出す、開かれたサイドガラスの向こう側に覗き込む形で顔を出した。


 車内には落ち着いた様子でハンドルを握るシルバーカリスと…後部座席の隅で身を縮めるマリグリン。この度重なる修羅場で何かに目覚め、恐れなど微塵も感じた風のないガリの姿がある。花子はその中のシルバーカリス。彼女の横顔を見据え、口を開く。


 「シルバーカリス、私が合図したら車を止めて。その後でドアを開いたままにして伏せるの。あの複葉機をやり過ごすわよ」


 「うーん、今のスピードだとかなり強引な止め方になりますけど、大丈夫ですか?」


 「構わないわ。車が使い物にならなければね」


 「もう、相変わらず難しい事言いますね。やって見ますけど。振り落とされて行動不能にならないでくださいよ」


 サイドガラスの上部から顔を覗かせる花子の無茶ぶりとも言える要求に、シルバーカリスは口では不満そうに、文句っぽく言いはするがニッと口元に爽やかな笑みを作って見せた。


 「そうなったらアンタのせいね。まっ、上手くやるわよ」


 ベウセットほど長く一緒に居たわけではないが、相棒と行っても差し支えないシルバーカリス。彼女への信頼感が成しうるのか、花子は不安に思った様子無く、軽い憎まれ口を叩いて姿勢を戻す。その間も、耳にはまだ複葉機のエンジン音が聞こえていて、遠のく気配はなかった。


 「…やっぱ撃ってくるつもりじゃ…?」


 「そう思う? どうしよ」


 シルバーカリスの運転する車に並走する軽トラックの荷台の上には、自分達の後方の空を見上げるシーシルキーテリアの隊員。彼らの見上げる先の複葉機は旋回し、その機首が再び2つの車両の方へと向く。先ほどよりも緩やかな角度で、狙いを定めたように。そして――


 「シルバーカリス!」


 機銃掃射の兆候を感じた花子はシルバーカリスの名を呼び合図。直後、回るプロペラの向こう。機体の上部に取り付けられた2門の機銃の先端にマズルフラッシュの明かりが灯り、シルバーカリスの運転していた車は急なハンドル操作とブレーキによって、耳を劈くスキール音と共に路上の上をスピンし始めた。2車線の間を斜めに動き、急速に速度を落とし…歩道と車道を隔てるガードレールにぶつかりながらも。その間、ルーフパネルに雷の魔法で貼りつく花子の鼻に匂うのはゴムの焼ける嫌な臭い。耳には銃弾がアスファルトを叩き、跳弾する音が聞こえる。


 「ギャァァァァァ! 本当に撃ってきたァァァッ!」


 「あがッ――」


 「退避ー!」


 「わー! うわぁあああッ!」


 回避行動をすることなく、進み続けた軽トラック。ゴールド免許を持つ男が運転するそれは…情け容赦のない複葉機によるエアストライクによって忽ち火だるまになる。当然乗っていた者たちは無事に済むわけはなく、荷台の上に乗っていた2人はそこから飛び降り難を逃れたようであったが、運転席と助手席に乗って居た2人は軽トラックと運命を共にする形となった。


 圧倒的な破壊力。一方的な攻撃。戦いの神秘など在りはしない、ただ相手を死に追いやる殺戮マシーンの威力を目の当たりにしたマリグリンは、ガードレールを擦る形で何度か激突し、何とか止まった車の中、後部座席から運転席の方へと身を乗り出した。助手席側と運転席側のドアを大きく開け、運転席の下に身を屈めるシルバーカリスに。


 「シルバーカリスッ! 車を放棄して森に逃げよう! 花子の賭けはリスクが大きすぎる!」


 「今ここで降りたとしてもすぐそこにシーシルキーテリアの隊員が2人。更に増援が来る可能性は高い上に、辺りには武装した技能実習生が存在する可能性大。この局面で車を切ってしまうのは勝ち筋を放棄することに他なりません。今はやり過ごしましょう」


 「お前らと心中なんて俺はごめんだぞ!」


 「ここは勝負に出るとき…多くを得るためにレイズする局面なんです。ボートに乗って海上の上。すなわち、都市属性外へと出れば撃てなくなるでしょうし」


 狼狽えるマリグリンは冷静なシルバーカリスとの会話を経て、自分の意見が通らないと早々に理解。ガリによって開け放たれたドアの向こうへ出ようと試みたが…首根っこをガリに捕まれて阻止された。作り物ではない非常事態。脳と心を焼くスリルの味。たとえその場に主人公ではなくとも脇役として存在できる事。その感覚をこの上なく楽しんだ笑みを口元に浮かべる彼に。


 「ほら、早く屈めって。見つかったらやられるぞ」


 「ッ…お前誰だよッ。クソッ…死んだら呪ってやるからなッ」


 ガリはそのまま後部座席の下部に身を屈め、マリグリンも文句を言いながらも同じようにする。今抵抗して複葉機に見られでもしたら最悪な状況になるのが目に見えるから。


 迅速に行動を起こしてくれた仲間たちが乗る車の上では、花子が遠ざかっていく複葉機の後ろ姿を見上げていた。複葉機から見て自分たちの車のある位置は真後ろであり、下だ。顔を横に向けたぐらいでは自分の様子は見えない筈。花子はそう判断し、複葉機が旋回し始めたタイミング。車の様子を見ることが出来るタイミングでルーフパネルの上から森の方へと逃げて見せた。


 ――装弾数はそう多くはない。無駄撃ちは避けたいはず。


 歩道のちょっと向こう。そこにある木の幹に背を預け、花子は心の中で呟く。近付いてくる複葉機のエンジン音を聞き、熱由来とは少し違う、汗の湿り気を全身に感じながら。


 …時間が流れる。虫の声とより近くに聞こえる波の音。強い潮風が木々の枝葉を揺らす音。ボート乗り場が近いのだろうか。そう思わせてくれる自然音。それらを塗りつぶす軽快なアシッドジャズの調べ。視界に映る車の後部座席の下側には避難訓練で燥ぐ男子生徒のように余裕ぶるガリ、運転席の下部にはチョコレートでコーティングされたエナジーバーを齧るシルバーカリスの姿がある。見方によってはしくじっても自分だけが生き残れるように森の方に居ると思われても仕方なさそうな物であったが、ガリとシルバーカリスはそうは思ってはい無い様だった。…ガリの向こう側から刺すように見てくる、マリグリンの心中はそうではないだろうが。


 だが、そんなにはのんびりはしていられなかった。軽トラックの残骸がある方向。その森の中。そこから…微かに聞こえる枝を踏み折る音。小動物が立てるものとは思えぬそれは、敵の接近を…シーシルキーテリアの隊員2人組の接近を花子に悟らせ、彼女に行動を起こさせる。まだ十分に遠のいては居ない複葉機のエンジン音を理解しながらも。


 「シルバーカリスッ! 行くわよ!」

 

 「んむー!」


 ルーフパネルの上に飛び乗った花子の一声で、口いっぱいにエナジーバーを頬張ったシルバーカリスは車を急発進させる。花子の視線の先、シルバーカリスの視界の端には…今、森の中から片手剣を右手に森から出てこようとするシーシルキーテリアの2人組。彼らの伸ばした左手は車のトランクの辺りを掴みかけたが――


 「しつこい男はモテないわよ!」


 「うがッ! わぁああああああッ!」


 「イッターイ! ふあぁぁぁあああッ!」

 

 花子に小指を踵で踏んづけられたことによって車から離された。それは痛そうな声を上げ、その後でアスファルトの上を転がって。


 「んぐんぐ…ッ。花ちゃん! やりましたね!」


 この難しい局面。数多くの追っ手と脚を引っ張る蝙蝠のゴブリン討伐隊。動く物をとりあえず撃つ複葉機。口内のエナジーバーを咀嚼し、飲み込んだシルバーカリスは度重なる窮地。戦いに勝利を確信した風に、ルーフパネルの上に居る花子に声を掛けた。後はリックとセラアハトと合流し、本が使える位置まで行くだけ。艱難辛苦の道を乗り越えたような、明るく弾む、歓喜の声で。


 しかし――花子はそんな気にはならなかった。車の後方。こちらへ向かって飛んでくる複葉機の存在がその碧い瞳に映っていたから。それの接近は音として、シルバーカリスに状況を理解させる。


 「花ちゃん…リスク覚悟で車放棄するしか…」


 次第に近付いてくる複葉機のエンジン音。やや下り坂になった道の向こうには真正面に半円の赤い夕陽をバックに煌めく海と水平線。まだまだ陸と海の境界線までの距離は在りそうではあるが、とりあえず終着点らしいものをフロントガラス越しに眺めながら、シルバーカリスは少しばかり弱気に呟きかけるが――


 「いや、そのまま真直ぐ走って」


 ルーフパネルの上の花子から返ってくる言葉は落ち着き払ったものだ。それも耳を疑うような、自殺行為にも等しい指示。花子を信じるシルバーカリスでさえ耳を疑う意見は、当然…ガリやマリグリンにも衝撃を与えた。


 「ふざけるなッ! トラックがハチの巣になったの見なかったわけじゃないだろ!?」


 真っ先に声を発するのはマリグリン。プレイヤーと違ってここで死ねば本当に人生が終わってしまう故に、もっともな意見を彼は述べる。根が優しい性格なのであろうガリも、なんだか彼の意見に同調した風に車を運転するシルバーカリスの後姿に物言いたげな視線を向けている。けれどシルバーカリスは無反応。代わりに、車の上から花子の声が返ってくる。


 「勝負にも勝って試合にも勝つ…。あのいい気になってる蠅を叩き落とし…完全勝利してこそ真の勝利。勝者と言うのは常に敗者を余裕の笑みをもって見下ろすものよ」


 ルーフパネルの上から返ってくる返事は体裁ばかりを気にしたようなもの。ロマンチストの理屈。場合によってはそれを語り、拘る者を敗北に追い込む呪いとも取れる心構え。ここまでの道程を共にしてきたマリグリンには、花子が言うそれは、ムキになっているようにしか聞こえない主張であり、余りに愚かに思えてマリグリンは言葉を失った。


 その間、花子の目に映る複葉機は降下しようとする素振りを見せずに車の後方から前方へと飛んで行く。けれどそれは自分たちを見逃してくれる…そんな虫のいいものではない。敵を…自分たちを始末しやすい位置へと機体を移動させている。獲物を目の前にした蛇が一番飛び掛かりやすい位置に首をもたげるが如き様子であった。


 「シルバーカリス。そのまま…そのままよ。…見てなさい。今圧し折ってやるわ。天狗の鼻を」


 花子はルーフパネルの上に半身で立ち、囁く。仲間と、己自身に言い聞かせるように。彼女の見上げる先には…旋回を経て真っ赤な太陽を背に迫ってくる複葉機。その姿を真直ぐ見据えて花子は構える。小さく鼻から息を吸い、呼吸を止めて。自分に対してナメた真似をする、いい気になった者への制裁を行うべく。己の誇り、矜持を胸に…最後の弾丸。その1発が込められた銃剣の取り付けられた38式歩兵銃を。


 風で揺れる髪が耳に当たる音、衣類のはためく音。やってくる複葉機のエンジン音。花子の見据える先、38式歩兵銃の照星越しに見えたるは赤く眩い夕陽を背に降下を開始した複葉機。あと少しで撃ってくる…そんな気配。勘が花子に伝わった時…彼女は引き金に掛けた人差し指にゆっくりと力を込めた。曲の終わり際で最も華やかになるアシッドジャズの音色の中で。


 弾丸は放たれる。銃声と銃口から立つ炎と共に。それは、風を切り裂き、真直ぐと複葉機へと向かっていき…キャノピーを突き破ってコックピットへ。そこに座るパイロットの額を――


 今、貫いた。


 精神を研ぎ澄まし、たった1発の射撃に全神経を集中して居た花子にもその様子は見えた。眩しくとも、確かに。花子は勝利を確信する。射撃することも減速することもなく向かってくる複葉機に向けて背を向けて。


 「…フッ…死ぬほど美味しかったでしょう? 鉛の味は」


 真っ赤な夕日と…墜ち行く複葉機。それらを背に、花子は右手に持った38式歩兵銃を肩に掛ける。この上なく格好を付け、勝利の喜び、今度こそ乗り越えた困難への達成感に胸をいっぱいにし、強い風の中で…口元に気障な笑みを作って。


 その様子こそ見えはしなかったものの、撃ってくるタイミングであろうとも減速もしない複葉機をフロントガラス越しに見ていたシルバーカリスはパアッと表情を明るくし、ガリは目を疑ったように目をパチクリさせ…マリグリンは今、恐る恐るといった風に横目でフロントガラスの向こう側を見た。しかし――彼の目に映った複葉機の軌跡は…あまりにもこちらに接近しているように見えた。その異変に、ガリもすぐに気が付く。けれどシルバーカリス。彼女は油断しきっているようで、気が付いた風もない。


 「ハッ…花子さん! ひッ…飛行機がッ…!」


 「ふふっ…アレが撃って来たら大変ね。もしかしたら奇跡が起きてそのまま落ちるかもしれないわよ?」


 「そうじゃなくって…! あぁッ…!」


 異変に気が付かないシルバーカリスが車を運転する中、ガリは車の横へと顔を出して車の後方に身体を向け、一仕事終えてこの上ないドヤ顔を決める花子に呼びかけるが…彼女はガリの発言の意味を本意を汲むことが出来ていない返事を返すだけ。そして直後に…それは来た。


 ――調子に乗りに乗り、余裕をぶっこく花子の背へと。


 「ウオンチュー!」


 制御を失った複葉機。力なく口を開け、空を仰ぐ無力化されたパイロットを乗せたそれは、車のルーフパネル。その上に乗っていた花子の背をプロペラ先端で突き、そのままアスファルトのへと突っ込んだ。その時、花子は奇天烈な悲鳴を上げていた様な気がしたが…すぐにかき消される。アスファルトに激突した複葉機が爆発する音で。


 「はっ…花子さーん!」


 燃え盛る複葉機の残骸へ向けてガリは手を伸ばし、呼びかけるが…当然返事は帰って来なかった。車が進むにつれて直ぐに遠のき…小さくなっていく。シルバーカリスは爆発音に漸く後ろを振り向いていたが…彼女は状況が解っていない風であった。


 「シルバーカリスさん! 花子さんが複葉機の下敷きに…助けに行かないと!」


 ガリはすぐに身体を車内に引っ込め、状況を理解していないシルバーカリスに提言。そこで漸くシルバーカリスは何が起きたのか理解した風であったが…彼女はすぐに凛とした表情になり、首を横に振って顔を前へと向けた。


 「複葉機の神風アタックを生身で受けたとあれば…間違いなく行動不能。辺りには技能実習生。今この時もシーシルキーテリアの増援がこちらを追って来ているかもしれません」


 「しっ…しかしッ…!」


 「ガリさん。今の状況は余裕ぶって油断し…いい気になって複葉機とハードランディングした花ちゃんの犠牲があってのもの。残された僕らは期待に応える義務があります。最終的な勝利こそが…花ちゃんへの…手向けになるのですから!」


 「思ったんですけど、シルバーカリスさんって結構毒吐きますよね」


 「…そうですかね?」


 度重なる戦い。度重なる困難。多くの犠牲を払い進むことの出来た車の中、戦力が大幅に減った状況…唯一得しかしなかった人物が1人いた。シルバーカリスとガリが無駄話をするその車内にて、車の窓際で頬杖を突き…花子が散った場所へと続く後方に伸びる道路を横目に捉える男の姿が。


 彼は静かにほくそ笑む。一番の障害が居なくなったことに。下り坂を走る車の中、陸と海の境界線を視界の端に映して。

ゴールド免許はスタントマンの証と言うわけではない。安全に運転出来た人間に与えられるものなのだ。


…これの次で塩パグ学園島を終わりにしたい。なお、やっぱり一悶着あるので二話ぐらいかかる可能性がありますけれども。

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