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まさひこのパンケーキビルディングとその住人。打砕く者と守る者。  作者: TOYBOX_MARAUDER
海賊の秘宝と青い海、俗物共の仁義なき戦い
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逆襲の技能実習生

本当はね、コレプラス1万文字の文章をセットで上げようとしてたんだけれども…さすがに分けることに致しました。と言うことで…次のアップは比較的早めになりそうです。早くて明日。遅くて三日後位をめどに。


 見える範囲を真っ赤に彩る、沈み際の赤い夕陽。爆炎と燃え盛る炎で赤く染まる塩パグ学園島を更に赤く染め上げ、今、様々な思惑を持った者たちの魔の手が伸びた自然エリアをも染め上げる。衰退、郷愁。見る者にそんな色を齎す…寂し気な濃い赤で。


 戦いや変化があちらこちらで起き、もう安全とは言えなくなった自然エリア。その森の中に幾つか通る道。その中の1つで…戦いは起きていた。駆け巡る戦慄に戸惑う、自分たちの使命を忘れた塩パグ学園島の守護者だった者たちを合間に置き、金銭と言う単純明快な物を求める傭兵共とその協力者…島を制圧しに来たのであろう、どこかの組織の先遣部隊。それらの戦いが、道行く車を複数遮って。


 敵はたったの3人。黒い鎧に素顔を隠すフルフェイスの兜。武器は剣だけの軽装。いくら個として優れていようが圧倒的な数の前には無力である。そう考え、疑わなかった花子の認識に疑問符をつけるほどの戦いぶりを彼らは見せていた。ゴルドニアの音楽隊と轡を並べたゴブリン討伐隊。それらの中の弱い者から…着実に。1人1人…狩って行きながら。


 「まだまだぁッ!」


 「逃げろォッ!」


 「降伏…降伏しますッ!」


 「兄貴! 一緒にアイツらやっちゃいましょう! 実は前から気に入らねえと思って――ぐはぁッ!」


 劣勢に立たされたと思った時、数の優位から何とか戦いに臨んでいたゴブリン討伐隊の面々は様々な反応を示す。ある者は戦いを継続し、ある者は背を向けて、ある者は降伏。中にはシーシルキーテリアに仲間を売ろうとし、仲間に制裁される者など。秋の紅葉の葉のように、それは様々。同じくして、混沌を極める戦いの中にあるすべての者たちの心持。腹積もりも…同様であった。


 ――弾除けが居なくなる前に勝負に出るべきね。


 この混乱の中で花子が考える事は、この大乱闘によって遮られた道路にて、どうすることも出来ずに車を止めてただ大乱闘の成り行きを見ているプレイヤーから車を強奪する方法。さっさと戦線離脱し、脱出地点へと向かう。目的はその一点であったが、状況はなかなか難しい。自分の居る位置と車までの間を遮るゴブリン討伐隊と…まるでそれを壁にするかのように立ち回るシーシルキーテリアの3人組の存在があったから。


 勝負どころを見極めんとしているその最中。烏合の衆、ゴブリン討伐隊は…その間にもどんどんと散っていく。無理な攻撃をして同士討ちをし、仲間を盾に取られ…3人組に翻弄されて切り伏せられて。時代劇の殺陣。それに出てくるやられ役のように。実力の吊り合わない者同士での戦い。まざまざと実力差を思い知らせる戦いぶりは、抵抗を続けていたゴブリン討伐隊の戦意と士気を挫き、集団であったことを辞めさせかねないほどのもので、既に彼らが無数の個になる兆候見せていた。


 ――1人2人ぐらいなら貫通するはず。


 花子は妙に冷静な表情のまま、心中で呟いてその手にある38式歩兵銃を一目見――シーシルキーテリアの3人組。その内の身体の大きな1人に向けて、それを構えた。――まだ戦うゴブリン討伐隊。その背越しに。


 刹那、鳴り響く銃声。花子が構えた38式歩兵銃の銃口から放たれた弾丸は、ゴブリン討伐隊の隊員の身体を貫き――一番身体の大きいシーシルキーテリアの隊員の腹を撃ち抜いた。


 「ぎゃあっ!」


 「ぐおぉっ!」


 花子は止まらない。撃たれたゴブリン討伐隊の隊員とどこかで聞いた時のある様な、野太い声のシーシルキーテリアの隊員の悲鳴を耳にしつつ、すぐにボルトを引いて次弾を装填。銃声に驚き振り返るゴブリン討伐隊の隊員越しに…シーシルキーテリアの隊員へと照準を合わせた。状況を察したシルバーカリス、ガリ、チビに守られる様な形となりながら。置いてきぼりのマリグリンとロングヘアの少女を気にすることなく。


 立て続けの2発目の発砲。1射目で撃たれた者たちの苦悶の声が響く中でなされた的確な射撃は、ゴブリン討伐隊の隊員に視界を遮られたシーシルキーテリアの隊員からは視認が難しいもの。読めぬ射線と突発的になされた射撃の速さも相まって、回避行動の前に弾丸はやってきて――


 「うああああッ!」


 「ぐああっ!」


 次に狙われた一番背の低いシーシルキーテリアの隊員の身体を撃ち抜いた。今、情けない声を上げるゴブリン討伐隊の隊員を経て、これまた聞き覚えのある声を上げる男の元へと。突然の事態に誰もが状況を理解していない最中、間髪入れずに花子は行動を起こす。前へと、止まる車の方へと踏み出して。


 「シルバーカリスッ、仕掛けるわよ」


 「花ちゃんに合せますッ」


 ゴブリン討伐隊やシーシルキーテリアの生き残りが何が起きたのか、事態を把握したのは2射目の直後。前者は仲間だと思っていた花子の凶行を、後者は銃が本物である事に酷く驚いたように目を見開き…ほんの一瞬。隙を作った。その隙を突く形でゴルドニアの音楽隊は前へと打って出る。花子に先導される形で、立ち往生する車の方へと…嗅ぎ覚えのある、ヤニ臭いシーシルキーテリアの最後の生き残りを警戒し、銃弾で撃たれて呻く、どこかで聞き覚えのあるシーシルキーテリアの2人の声を耳にしつつ。


 その次の瞬間――花子とシルバーカリスの瞳を…強く、眩い光が射した。強い光を放つそれは、複数でけたたましいエンジン音と共にやってくる。フロントガラスの向こう側に人を満たし、ルーフパネルの上にすら人を乗せて。


 「クソッ!」


 やってくる車のハイビームに照らされつつ、花子は毒づく。その直ぐ傍ではシルバーカリスとガリ、チビが3人がかりで罪のないプレイヤーを車の中から引きずり出そうとしている。


 「すみませんすみません」


 「ごめんなさいごめんなさい」


 「ちょっとなんです!? あっ…やめっ…!」


 シルバーカリスは無言。ガリとチビは謝りながら…3人が掛かりでただその場に居合わせた、困惑する罪なき塩パグ学園島のユーザーを車外に引きずりおろした。だが…その間に一行を照らす車はそこへと到達する。シーシルキーテリアの増援部隊を乗せた車が。


 「ヒャッハー! ここにも居たぜぇッ!」


 「おっ…可愛い女の子いんじゃーん! テンション上がってきたー!」


 「とりあえずボコって駐車場に集めようぜ!」


 まさにチンピラ。絵に描いたような愚連隊。今自分たちを襲撃した3人組とは明らかに毛並みが異なる、30階層の狂犬。花子たちが良く知る30階層の厄介者、シーシルキーテリアらしい者たちが…今、車を止めてその上から、中から地上に降り立つ。トライデントや剣などを持ち、自分達の勝利を微塵にも疑った風なく。彼らの登場は圧倒的な劣勢をゴブリン討伐隊の隊員たちに察させ、表情を自然と引き攣らせ、固まらせ…始めさせた。命乞いの大合唱を。


 「言うこと聞くから叩かないでッ!」


 「シーシルキーテリアって前からカッコいいと思ってたんですぅ! マジ憧れるわー! マジリスペクト!」


 「俺もシーシルキーテリアに入れてくれないか?」


 「なんかあのデカい兜被った奴が悪いんです! 僕たちはあいつにやれって言われてぇ!」


 聞くに堪えない助命を求める声。ただ降伏ならまだしも、大半は仲間を売って体制側に寝返らんとする者たちばかり。仲間意識など微塵もない、ただ己が助からんとする者たちの足を引っ張り合う地獄の釜の底の様な光景は、さすがのシーシルキーテリアの面々をドン引かせ、困惑させた。余りの光景に彼らは止まったが…ゴブリン討伐隊は止まらない。太古の昔から人が1つに纏まる方法。共通の敵を叩くという行為。今この場にいる敵となり得る勢力。それに目をつけ…彼らは動く。


 「そういえばこいつらがシーシルキーテリアさんの隊員さん攻撃してたんすよね! 俺らも撃たれましたし! 一緒にやっちゃいましょうよ!」


 変わる風向き。嫌でも感じる雰囲気。流れを…今奪った車に乗り込んだゴルドニアの音楽隊となぜか付いてきたゴブリンハンターは肌身で感じる。頼りない武器を手に、こちらへと剣を向けるゴブリン討伐隊。そして…我を取り戻したシーシルキーテリアを目にして。


 「シルバーカリス! 出して!」


 「イエッサー!」


 周りが一気に敵に回る恐怖は、ロングヘアの少女、マリグリン、ガリの顔を強張らせ、チビの眉間に深い皺を齎し、ムカつかせたが…スリルジャンキーである花子には笑みを齎す程度。シルバーカリスに至っては冷静なままで特に影響は齎さなかった。そして花子の一声によってシルバーカリスは車のアクセルを踏み込む。目の前を遮る蝙蝠共、敵対者を轢くことを厭わずに。


 「ウワー!」


 「見てくださいッ! こいつらがァッ!」


 「わー!」


 「緊急回――フンギャッ!」


 急発進する車。それは情け容赦なく行く先を遮るゴブリン討伐隊を轢いて行く。誰かがめちゃくちゃやっているという心理からだろうか。一行の後続に居た車たちも一斉に動き始める。シーシルキーテリアから逃れるために、前に。遮る者を轢き殺さん勢いで。だが…その時、問題が起きた。


 「そいやーッ!」


 さっきも聞いたような忌々しい女の掛け声。後輪が刺されて車体が僅かに沈む感覚。車高が低くなったことにより、ボディーの一部がアスファルトの地面を叩く衝撃。思わず花子が振り返ってみれば…なんだかしてやったりと言う満足げな表情で笑う、例のビキニアーマーの女性プレイヤーの姿があった。それを見た時…花子の顔は豹変する。怒りに…いや、憤怒に。


 「ッ…またあいつか…あんの女ァァァァーッ!」


 火花を散らせながら走る車は失速していく。絶叫する花子を乗せて。背後には車に乗り込み、こちらを追おうとし始めるシーシルキーテリアの面々の姿と、走ってこちらを追ってくるゴブリン討伐隊。その絶望的な光景ではなく、単純な報復心で花子は最後のカードを切ることに決めた。


 「シルバーカリス! もうこうなったらあいつらいたぶってやるわよ! 私に喧嘩売ったこと後悔させてやるわ!」


 「うーん…そうですね。どのみち戦わないと活路は開けそうにないですし…でも車奪えたら引きましょうね。目的は忘れちゃだめですよ」


 間も無く車は止まり、そこから花子とシルバーカリス。その後にマリグリンを見張るガリとチビ。更に後ろにものすごく心細そうにするゴブリンハンターとロングヘアの少女が続く形となり…彼ら彼女らの前には、立ちはだかるゴブリン討伐隊の姿。花子はそれを碧い瞳に映し…纏わせる。身体に赤い稲妻を。


 「見た時から気に入らない奴らだと思ってたのよね!」


 花子はアスファルトを片足で強く踏み、その足元から赤い稲妻を発生させ…ほんの一瞬。それは瞬間的にゴブリン討伐隊の群れへと延び、彼らの身体と身体をチェインする形で駆け巡る。何か炸裂するような音とともに。だが、それを受けた彼らの様子は…現実とは違う物であった。


 「イタァイ!」


 「いてッ…何? 魔法!?」


 「チートじゃないかぁ! チート! 魔法とか!」


 雷の魔法。それは現実であれば人間の反応速度では先ず防ぎようのない攻撃。場合によっては人を内から破裂させる恐ろしい魔法。けれどゲーム内…この世界の中では攻撃範囲や威力に大幅な制限が掛かっているようで、発現された魔法は思ったよりもショボいものであって、それを受けたゴブリン討伐隊は進行を止めはしたが、結構元気だった。だがしかし…人を痛めつける事に楽しみを見出す女…猫屋敷花子。報復を目的とする彼女にとってそれは好都合でもあり…その顔に何か良い事でも思いついたような笑みを浮かべさせた。


 「ふふ…照り付けたアスファルトの上で踊るミミズの如く…動かなくなるまで躍らせてやるわ! 特にビキニアーマーの痴女! アンタは念入りにやってやるから感謝しなさいよ!」


 アスファルトの上に張り巡らされる赤い稲妻。それはパチパチと音を立て、複数の赤い光の筋を範囲内に存在する者に伸ばす。車に乗って接近を試みるシーシルキーテリア。立ち往生するゴブリン討伐隊。中でも…ビキニアーマーの女性プレイヤーへと集中的に。


 「イタッ…! くッ…! 痛いってッ! 私は痴女じゃッ…」


 「いでで…! いでっ! やめて!」


 「イタイ! 痛いってば!」


 「痛いんだよぉッ!」


 防ぎようのない痛みに晒されて、攻撃対象となった者たちは身を捩る。乾いた音とともに伸びた光の筋が触れた箇所を摩り、半ギレで痛みを訴えて。気に入らないゴブリン討伐隊や邪魔なシーシルキーテリアが踊る様は花子の心を十分に満たすが、それだけではない。足止めとしては十分に機能しており、シルバーカリスがその手にあるトライデントで1人1人刺し、叩き伏せる。


 しかし――そんな時も長くは続かない。一番最初に襲撃してきた3人組のうちの最後の1人。彼が花子の攻撃範囲外から車を走らせ、乗り捨て…いい気になる彼女の方へ向けて突っ込ませたことによって。


 「おっと!」


 「クッ…!」


 「危ないッ」


 「当たらん!」


 「ひっ…!」


 「っ…!」


 「ごあっ!」


 花子、シルバーカリス、ガリ、チビ、マリグリン、ロングヘアの少女は向かってくる車に咄嗟に反応。真横に、転がるようにして飛んで。けれど逃げ遅れたゴブリンハンターは横に飛んだ直後、尻を跳ね飛ばされ、痛そうに声を上げつつ空中でスピンしながらアスファルトの上へと這いつくばった。


 その一瞬の隙に…ゴブリン討伐隊とシーシルキーテリアの混成部隊が態勢を立て直して迫る。倒れた態勢から立ち上がろうとする面々の方へ。特に前に出ていた、今起き上がらんとするシルバーカリスへと。だが、その時…周囲を取り巻くこの状況に変化が齎された。


 突如響く1発の銃声を皮切りに、立て続けに銃声が響く。森の中から。ボルトアクションライフルだけのものではない、機関銃の様な連続した銃声まで。車を避けたことによって身を低くしていたゴルドニアの音楽隊とその連れたちは運よく被弾を免れたが、ゴブリン討伐隊とシーシルキーテリアは横殴りの鉄の雨に打たれ、倒れていく。


 少しして一斉射撃が終わった。辺りには致命傷を与えられなかったプレイヤー達のうめき声で満ち、道路の上には鉄の雨に打たれた物言わぬゴブリン討伐隊とシーシルキーテリアの隊員達の折り重なる姿。痛みにうめく、意識のある者はほんの一部。そう多くはない。運よく動ける者、咄嗟に伏せて躱した者に関しては本当に微々たるもの。道路に並んでいた車すらもほとんど穴だらけで使い物になりそうには無かった。


 けれど静寂はすぐに破られる。勇ましい音色の…突撃ラッパの音によって。


 「今だッ! 総員突撃ーッ! 積年の恨みを果たすべし!」


 「うおおおおおおおッ!」


 森の奥。暗がりから聞こえてくる怒号。複数の何者かが走る複数の足音。それは間も無く茂みを突き破り現れる。国防色の軍服、帝国陸軍の軍服をその身に纏う…矮人族と犬型獣人の…技能実習生の部隊が。前者は銃剣が取り付けられた38式歩兵銃を。後者はこれまた銃剣が取り付けられた99式軽機関銃を手に。


 ――弾丸が共有できるように38式歩兵銃じゃなくて99式小銃を作ればよかったのに。


 ボルトアクションライフルだけではなく、機関銃すら作り上げた開発能力。明らかにこの世界を創造したまさひこの意思に反するそれに感嘆の意を示しつつ、補給の観点からの…おそらく彼ら技能実習生に銃を提供したのであろうモグモグカンパニーへのダメ出しを心の中で花子はすると、混乱を極めるその場にて走り始める。自分たちに向けて乗り捨てられた車。一斉射撃に晒されず、残ったそれへと向かって。視線の先にはチビやガリ、ロングヘアの少女やマリグリンの姿もあった。

 

 「鬼畜塩パグ学園島の住人を許すなーッ!」


 真っ先に前に出てくるのは背の低い矮人族ではなく、身体の大きな犬型獣人。彼らは一斉掃射で狩り損なったその場に居合わせた者たちへ向かっていく。ハチが根回ししてくれているかもと淡い期待を抱いていた花子であったが、彼らが抱える99式軽機関銃の銃剣が向く先に自分達も含まれていることを早々に理解。いつの間にかゴブリンハンターがしがみ付いている車のルーフパネルの上に飛び乗り、その直後に最後尾にいたシルバーカリスが運転席へと乗り込んで、車を発進させる。


 多少なりとも流れ弾には当たっていたようであったが、奇跡的に銃弾は車のタイヤには被弾しなかったようで、スムーズに走り出した。しかし…その遠ざかる車両に向けられるは複数の銃口。残党狩りをする犬型獣人を後目に、小さい緑色のおっさん。38式小銃を構える矮人族は…引き金を引き絞る。


 「うわわッ…あぶなッ…!」


 「撃たないでくださいぃ~!」


 「チッ…チビッ…! あっ…ロングヘアの子が…名前知らんけど逝ってしまった!」


 「いって! 守って! 俺死ぬと困るんだろ!?」


 的にされる恐怖。ただ弾丸が当たらない様に祈り、被弾面積を狭くするために身体を小さくするしかない状況に…歯を浮かせ青ざめた表情でルーフパネルの上にへばり付いていた花子。情けなく叫ぶゴブリンハンター。背後からは断続的に聞こえる38式歩兵銃の物と思われる発砲音。下からはガリの声、マリグリンの情けない訴えなどの他に車体に弾が命中する弾の音や、バックガラスが砕ける音。側面からは弾が通り過ぎる風切り音が聞こえる。その中で、時折己の着るドレス状の服のフリルを弾丸が貫通する感覚すら花子は感じ、生きた心地をしない状況であったが――


 「いったぁッ!」


 「大丈夫っすか!?」


 間も無く1発の弾丸が花子の脚へと命中。痛みに目じりに涙を浮かべ、思わず声を上げ…その花子に恐らく素であろう口調、態度でゴブリンハンターが声を掛ける。


 「つぅ~ッ…大丈夫な訳ないでしょ! 撃たれてんのよ! こっちは!」


 「あっ…さーせん…あっ…ポーション…」


 結構な被害が出たようであったが、車に命中した弾丸は車体に致命的なダメージを与えられなかったようで、車は止まらず進んで行く。ゴブリンハンターの問いかけにキレる花子と、済まなさそうにしながら己の腰回りにある小物入れを漁り出すゴブリンハンターをルーフパネルに乗せて。


 38式歩兵銃では当てるのが難しいであろう距離から、射程外まで走り去り…その上で痛みに堪えながらも、なんとかルーフパネルにしがみ付き続けた花子は、車を今運転しているであろうシルバーカリスの無事を感じ、安心しながらも…マリグリンの安否が気になった。


 「いたた…シルバーカリス、損害は?」


 「マリグリンさんは被弾しましたけど大丈夫です。その付き人だった女の人とチビさんがやられて…ガリさんと僕が無傷。花ちゃんは大丈夫そうですか?」


 花子の問いに返ってくるのはいつも通りのシルバーカリスの声。緊張感の伺える淡々とした報告は、任務の継続が可能であることを花子に理解させ、確かな安堵を届けてくれた。なんかゴブリンハンターが混ざっていることが気がかりではあるが、花子はそれについては深く考えず、彼が差し出すポーションを無視し、己の小物入れからポーションを取り出してシルバーカリスとの会話を続ける。


 「脚に1発貰ったけど…なんとか。ポーションは持ってるわよね? マリグリンに死なれると都合が悪いから飲ませてあげて」


 「今ガリさんが飲ませてるんで大丈夫です。花ちゃんも回復して置いてくださいよ? もしかしたらボート乗り場でもう1戦やらなきゃならないかもしれませんし」


 「ハイハイ、解ってるわよ。しかし…やれやれね。勝ち確だと思ってたのに、結果が解らなくなってきたわ」


 「ふふっ、でも退屈はしませんね」


 「アンタも言うわね」


 度重なる逆境。この塩パグ学園島に潜入してから一番危なかったであろう局面。犠牲を出しつつもなんとか乗り越えた達成感と充実感に花子は微笑し、肩身狭そうにするゴブリンハンターの隣、穴だらけの車のルーフパネルの上でポーションのボトルに口を付けた。まだ冷める気配のない戦いの熱気を多少冷ます強く感じる風に、濃紺色の髪を強く靡かせつつ。


 一行を乗せた車は、強い潮風と微かな波の音…至る所から聞こえる銃撃音の中、赤い太陽を正面に道を行く。シーシルキーテリアと塩パグ学園島の残党。そして…復讐に燃える技能実習生。それら三つ巴の戦場となった自然エリアにて。場合によっては自分たちの最後の戦場になるであろう島の端、ボート乗り場へと向かって。

ビキニアーマーって見ますけど…あれ防御性能服以下では?


そして、私は新たなステップに踏み出した。38式歩兵銃は所謂俗称。正式名称ではない。言い逃れることが出来る。しかし…99式軽機関銃は正式名称。…ヤバかったら教えてくれ。

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