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まさひこのパンケーキビルディングとその住人。打砕く者と守る者。  作者: TOYBOX_MARAUDER
海賊の秘宝と青い海、俗物共の仁義なき戦い
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仮面の下の思惑

技能実習生の出番はまだだ。まだだったんだ…。


 まだ夜にはなりきらない空の色。それを鬱蒼と茂った南国の木々、蔦。蔓が覆い隠し、森の中は夜よりも暗く陰る。視野は狭く、視界は効かず…周囲には虫の声。遠くからは微かに波の音が聞こえていた。


 まったくもって一切の開拓がなされていない南国のジャングルであったなら、歩くことすら難しかったであろうが、ここは塩パグ学園島のアミューズメント施設、自然エリアの一部。背の低い緑色のおっさんを追い回して叩きのめすことが出来る程度には動ける足場だ。けれど木々はそこそこ密集していて、長物を振り回せるほど広くはない、使う得物や戦法を考えなければいけない環境であった。


 「…あぁ、やだなぁ。本当にツイてない…なんで最近こんな目にばっかり合うんだ…」


 そんな暗い森の中。情けない男の声がか細く響く。疲れ果て、弱り果て…己の運命を呪う、悲観に満ちた声が。


 声の主である金髪の優男、マリグリン。肩を落とし、憔悴した様子のままに進む彼の後ろには、銃剣を取り外した38式歩兵銃の腰の前に構えて銃口をその背に向ける、大凡森の中には居ないであろう黒と紫のドレス風の衣装に身を包んだ少女の姿が在った。


 「神様が不幸にしてやりたくなるほどムカつく顔、性格、仕草をしているからよ」


 マリグリンの呟きに対し、情け容赦のない言葉を返すのはその少女、猫屋敷花子。彼女が持つ38式歩兵銃に突き動かされる形で、マリグリンは一行を…先導する形で歩いていた。暗い森の中、少し先も見渡せない闇の中を。


 「全部じゃないか…。俺の顔は関係ないだろう?」


 「いや、あるわ。大いに。私が女神だったら下界に正拳突き打ってピンポイントで殴りたくなるほどムカつく顔してるもの」


 「そうだとすると神って奴はお前みたいなサディストか…。悪魔だろう。ソレ。虫とか痛めつけてにやにやしてそう」


 「あっ…今のちょっとムカついたわ。また逃げるかもしれないし脚撃っちゃおうかしら」


 花子からの何の実りもない一方的な罵り。マリグリンは反抗の意を示すかのような言葉を返した時、花子が腰の前に構えていた38式歩兵銃を肩の高さに上げ、ストックを肩に当てて構えた。その動きは…彼女の後ろで世間話をしていたシルバーカリスとロングヘアの少女、ゴリに対して愚痴を言っていたチビとガリの4人の視線を自然と集める。


 不機嫌そうな花子の声。微かに聞こえるスリングの金具が銃のボディに当たる音。マリグリンはそれらに顔を横向け、花子が銃を構えていることを1度は流し目で。2度目は状況を理解し、目を真ん丸くして身体ごと振り返って両手を突き出した。静止を求めるかのように、浮足立った様子で。

 

 「そういうつもりじゃッ…待てッ! 早ま――」


 花子の悪意。悪戯心。消えぬ彼女の原動力。害意の炎に…マリグリンは薪をくべる。花子の望む様な焦りに満ちた反応を。それは花子の心を至上の喜びで満たし、38式歩兵銃を持つその手に…力を込めさせた。


 「ばん!」


 「ひぃっ!」


 花子は銃声を雑にまねた声を上げ、構えた38式歩兵銃の銃口を上げて見せると、マリグリンはその場で身を低くして勢いよく蹲った。恐怖により情けない声を上げ、両手で頭を押さえて。


 この自然エリアに至るまでの道のりで出会ったラズ子たち3人組が示した反応とは違う…無様で情けない物。そういう反応が好みなのか、花子は眉をハの字に曲げ、口元から歯を覗かせてしょうがない物でも見たかのような嘲った表情をその顔に、マリグリンを笑い始めた。そんな彼を笑う友人の姿に…シルバーカリスは苦笑する。今日何度目かの苦笑を。


 「プークスクスクス! 情けなさ過ぎてもう最高よ! 私好み。病みつきになっちゃいそうだわ!」


 「ほら見ろぉ! やっぱり俺の言ってたことは間違いないじゃないかぁッ! 鬼! 悪魔! このサド野郎!」


 笑う花子。その姿を瞳に映し、己の言っていたことは寸分違わぬ事実であったことを確信…悔しそうな顔をしながら半ばいじけた風に、勢いよく花子の方へ指を指して抗議の声を上げるマリグリン。前者にはシルバーカリスとロングヘアの少女の視線が。後者にはガリとチビの笑い声が向けられる。


 「ハイハイ、解ったからさっさと進みなさいよ。急いでんのよこっちは」


 返ってくる花子の反応はおちょくった風な…極めて理不尽で滅茶苦茶なもの。マリグリンの言葉などに一切聞く耳を持たず、にやつきながら彼に前に進むように言うだけ。明らかに雑な扱いを受けていると感じざるを得ない反応に、マリグリンは顔を怒りで赤くし、プルプルと肩を震わせながら何か言い掛けたが…それすらも楽しんだ様な意地悪い笑みを浮かべた花子に見据えられ、開いた口から声を発することなく、へそを曲げたような顔を1つ見せると身体を前に向けて歩き出した。構えば相手側の…花子側の思うつぼなのだから。


 ――構ったら負けだ…耐えろ、俺…ムカつくけど!


 そう、自分に言い聞かせて。


 と、くだらないやり取りが終わり、花子が再び38式歩兵銃を腰だめに構えなおした時…花子の袖付いたブローチとシルバーカリスの袖に付いたブローチがぼんやりと光り始めた。


 花子にはマリグリンを見張る役目がある。故にシルバーカリスがブローチを指で触れ、袖を己の頬の隣へと持っていく形となった。


 「こちらシルバーカリス。どうぞ」


 『リックだ。自然エリアのところどころからライフルと軽機関銃で武装したちっこい緑色のおっさんと犬型獣人…あと良く解らん鉄仮面が上陸してる。ハチの仲間だろうけど…末端まで俺たちを仲間として見るか怪しいので、見つかる前にジェットスキーを放棄して島に上陸した。今どのあたりにいる? どうぞ』


 シルバーカリスの耳に聞こえるは落ち着いては居はするものの、追い詰められたような雰囲気のリックの声。場所から言って海に近いのか…波の音がバックに、微かにだが聞こえる。その彼の報告は…今脱出を目的とする花子とシルバーカリスにとって余り嬉しくない報告でもあった。けれど、シルバーカリスは顔色1つ変えず、声色1つ変えず…冷静に今の状況を受け入れつつ、唇を口内に巻き込み、唇に舌を這わせてから口を開いた。


 「今自然エリアの森の中で…高架橋から内陸部へ少し入り込んだぐらいです」


 『なるほど。解った。んじゃあ…島の端のボート乗り場へ向かってくれ。パンフレットに書いてあるやつ。俺達はほとぼりが冷めたところでジェットスキーを回収してそこに向かう。何か異論は? どうぞ』


 ――結構遠いけど…現実的かも。


 シルバーカリスはそう思いながら、顔を横に向けてこちらを流し目で見ていた花子の目を一瞥。アイコンタクトを取り、異論ない事確認すると、口元にブローチを寄せた。


 「では、ボート乗り場で。幸運を祈ります。どうぞ」


 『おう。お互いやられない程度に頑張ろうぜ。通信終わり』


 通信を終えたシルバーカリスは顔に寄せていた腕を下ろし、彼女の様子を見届けた花子は再び視線をマリグリンの方へと戻す。脱出が難しくなったという事実が突きつけられたシルバーカリスと花子の2人であったが、その表情に絶望の色は一切ない。己への自信ゆえか、それとも…困難への挑戦を望むゆえか。隙あらば逃げ出そうと考えているマリグリンにとって、弱さの一切見えない2人の様は不安に思えるほどのものだった。


 その後で、特に変化がないまま一行が進んでいると…森の境目に出た。前方には周囲に木々が無く、草の生い茂る場所。その開けた場所の中心には…大きい石造りの、作り物感が凄いわざとらしさ感じる古ぼけた風な建物が見える。入り口の前には銀色の鎧を着たプレイヤーと思しき者たちの姿があり…それを目視した一行は立ち止まって横並びになり、身を低くして…シルバーカリスは傍にいたガリの方へ視線を向けた。


 「ガリさん、鎧着てるってことは治安維持部隊の生き残りですかね? あの人たち」


 そうであり、そうではない。そんな風な難しい顔をし、ガリは少し困ったようにしてから…首を横に振る。その後で口を開くのは…チビだった。


 「恐らくアレは…今の塩パグ学園島の現状から目を背け、治安維持部隊としての役目を放棄し…ここ自然エリアのヘビーユーザーと共にゴブリン討伐隊となった、言わば成れの果て…。ゴブリンをシバくことの喜びに憑りつかれた悲しきモンスター達です」


 チビは遠い目をし、遠目に見える彼らを見て言う。ただその物言いは…花子取っては不自然な物に聞こえ、彼女の小首を傾げさせた。


 「ゴブリン…技能実習生の反乱を事前に抑止する…と言う意味なら正しい治安維持活動に思えるのだけれど。塩パグ学園島の立場としては。一般的な倫理観から見たらまずいでしょうけど」


 「あれらにそんな大義残っているもんですか。圧倒的な力を持つ侵略者などと言う見るべき現実よりもゴブリンをシバく…それしか考えられなくなった亡者達なんですよ。と言うかあれだけ滅茶苦茶やっておいて貴女の口から倫理なんて言葉が――」


 「目的のためには犠牲はつきもの…しょうがない事なの。私たちは進まねばならない…ここまでに至るまでに散っていった仲間たち。その尊い犠牲を無にしない為にも」


 花子はチビと会話することによって、あれらが…マリグリンの態度次第では敵対する可能性がある事。マリグリンが大人しければ自分たちに敵対しないであろうことを理解。森と遺跡風な建物がある空間の境目にて立ち止まっていたマリグリンの背後へと回ると、彼の尻を押すように蹴った。


 「ほら、出発よ。先導しなさい」


 「ッ…解ったから蹴るなッ。言葉で十分だッ、言葉でッ」


 雑に。ぞんざいに。屈辱的にすら感じるほどに扱われるマリグリンは、蹴られた箇所を摩り反抗的な態度を花子に示しつつ、森と遺跡のある広場の境界線の茂みから追い立てられるように出る。その後を…花子、シルバーカリス、チビ、ガリ、ロングヘアの少女が続き――一行の存在に気が付いたゴブリン討伐隊の面々の顔がそちらへと向いた。


 なんだか助けるべき相手でも見つけたかのように、ヒロイックな雰囲気を漂わせ、意気揚々と近寄ってくるゴブリン討伐隊。数は…20人ぐらいだろうか。男は全体的に軽そうな、やけに装飾の凝った軽装鎧。女に至って防具としての意味が見出せない、水着の様ななにか。恐らく、メイスや片手斧では格好が付かないのであろう。武装も防具同様、見栄えにばかり気を配ったような装飾品としての色合いの強い、華奢な片手剣ばかりだった。


 「生け捕りは義務ではない。次勝負に出て負けたらどれぐらいの掛け金が無くなるか、よく考えることね」


 シーシルキーテリアや、現代兵器に片脚を突っ込んだ武装の反逆の技能実習生たちに対し、余り戦力として期待できないであろう彼ら。それらへと近付きつつ、花子は――ふっとマリグリンに囁いた。


 ――ブラフだッ。


 マリグリンは腹の中で頭を覆う迷いを跳ね飛ばすかのように吐き捨てたが、表情は自然と硬い物になる。殺されるかもしれない可能性。どうしてもそれが無いと言い切れなくて。


 「ここは危険だ。まだゴブリンが潜んでいるかもしれん」


 心の中の迷いと向き合うことによって下がるマリグリンの視線は、前から掛けられたどことなく厳かな、大物感漂わせる淡々とした声によって上げられて、その足を止めさせた。


 鈍い銀色の鎧。ゴブリン討伐隊の中ではそこそこしっかりとした防具。特に不釣り合いにも思えるフルフェイスの兜は印象的であり、身に着ける人間の素顔を隠すそれは、自然とマリグリンを含む一行の目を引く。その後の反応は様々であったが…ロングヘアの少女、マリグリン以外の反応は大凡冷ややかな物であった。


 「風紀委員の人ですよね? あのー、シーシルキーテリアが強襲上陸しかけて来てるんで遊んでる場合じゃないと思いますよ?」


 真っ先に口を開いたのはチビ。片眉を吊り上げて心底しょうもない物でも見るかのような目で、このゴブリン討伐隊のリーダーなのであろうフルフェイスの兜の男を見遣る。その突き放すような視線。敬語であるがゆえに冷たさの際立つ意見は…現実逃避ガチ勢であるゴブリン討伐隊に…微かにだが戸惑いの色を齎した。


 「チビ。変なのと遊んでんじゃないわよ。さっさと行くわよ。ほら、マリグリン、アンタも進む」


 マリグリンがこのゴブリン討伐隊に助けを求めることを恐れてだろう。花子はこの場に留まろうとせず、チビに呼びかけつつマリグリンの尻をブーツの底で押し…マリグリンは迷ったような顔をしていたが、促されるままに進み始める。


 何か言おうとしながらも、声は発さず、なんだかやるせない感じになるゴブリン討伐隊と、とにかく進もうとする一行。何事もなく、何もなかったかのように…それらが擦れ違おうとした時――異変は起きた。


 「…? ゴブリンハンターさん、あの黒い鎧の人たちって――」


 背後から聞こえる、ビキニアーマーの女からフルフェイスの兜の男への問い。それに…一行6人の視線が、ビキニアーマーの女の顔の向くその先へと向けられた。


 その時、一行の瞳に映ったもの。それは森と遺跡風の建物があるこの広場。今、その境目から広場へと出てくるの黒い鎧に身を包んだ複数人の姿。恐らく島の入り口部分を武力制圧したのであろう、紛れもないシーシルキーテリアの隊員たちだった。


 「よし、逃げるわよ」


 花子の判断は早かった。シーシルキーテリアを視認しても淡々とした表情のまま、仲間たちに言うと、マリグリンの背中を急かすようにその手にある38式歩兵銃の銃口で突き…6人そろって広場の対面。遺跡風の建物の見える向こう側へ向けて走り始めた。その彼らの急な動き。迷いなき後姿を瞳に映すはゴブリン討伐隊。その長。ゴブリンハンター。彼もまた、すぐに行動を起こした――


 「――待って! 置いてかないで!」


 「ゴブリンハンターさん!?」


 その手にあった得物を放り、両手を前へと突き出して…フルフェイスの兜の男。ゴブリンハンターは走り出した一行を追う。迷子になった幼子の様な、心細そうな声で呼びかけながら。ファーストコンタクト時に見せた威厳。尊厳などはまるで幻だったかのように、微塵もありはせず…彼をリーダーとするゴブリン討伐隊のメンバーを驚愕させた。彼の名を呼びつつ…遅れながら彼の後へと走り出しながらも。


 「えぇーっ…嘘でしょ…?」


 「はぁー! つっかえねー! マジつっかえねー! ホンマこいつらッ」


 武器を放り、仲間を置いて逃げ出した烏合の衆の長。ゴブリンハンターに…ガリは驚き、チビはこの上なく辛辣な言葉を投げかけながら、片目にゴブリン討伐隊の姿と…5人ほどだろうか。その向こう側にてこちらを追ってきているシーシルキーテリアの隊員たちを捉える。一生懸命に走りながら、今、遺跡風の建物の横へと差し掛かりつつ。


 「追いかけっこかぁい? いいよぉ! 後ろからケツに槍ぶち込んでやるぜェ! フゥー!」


 「フハハハハハハハ! 小学生の時、鬼ごっこの覇王と呼ばれたこの俺を振り切れるかなッ?」


 リーダーが早々に戦闘を放棄したゴブリン討伐隊。言葉もなく、余裕もなく。強張る必死の形相で走る彼らとは真逆に、シーシルキーテリアの隊員はノリノリだった。戦闘を意識した肌の露出のない、身体をしっかり守ってくれる黒い軽装鎧。攻撃を遮る物のない開けた場所では、所詮はサイドアームである剣なんぞより圧倒的に優位であるトライデントをその手に、獲物を追い掛けて。戦いではなく、狩り。猟犬と言うほどお行儀はよろしくない、野犬の如く。獲物とされる者たちに降伏の二文字を躊躇わせるほどには溌剌とした顔で。


 そんな…今この場に広がる1枚の絵。日々抵抗できないゴブリン…技能実習生を追い回し、狩りごっこを楽しんでいたゴブリン討伐隊が逆に狩られる立場となった皮肉の効いた状況は、花子の口角に皮肉っぽい笑み、クスリと小さな笑い声を齎し…そんな嘲笑交じりな顔をする彼女の方に、ロングヘアの少女の顔は向けられた。


 「あのッ、私たちで一斉に襲い掛かればやれそうな気がしませんか? 数では圧倒的に優位なんですし…」


 「良く言ったわ! 感動したッ! アンタの事は忘れないわ! 明日の晩御飯までは! さあ、レッツ1人捨て奸!」


 「すてがまり? というのは良く解りませんけど…私1人じゃ意味ないって言うか…あの、みんなでって…」


 ロングヘアの少女は花子と並走しつつ提案。しかし花子は戦うつもりなどさらさらないようで、1人で行って来いとでも言いたげに投げやりに返す。その言い方は…ロングヘアの少女の意気を挫く物で、返しの彼女の声はだんだんと小さく消え入るようなものとなっていって…やがて口を閉じた。不貞腐れたように唇を尖らせて。


 「花ちゃん」


 遺跡の横を通りすぎ、あと少しで広場の対面につく。そんな時…シルバーカリスが花子の名を呼んだ。


 「なによ」


 花子は返事を返す。何か思い当たったような表情をするシルバーカリスの横顔を横目で捉えつつ。


 「敵の展開速度が速すぎます。この近くに渋滞していない、車の行き来出来る道路が通っていると見ていいのでは?」


 「…私たちが出てきた場所から見て右手側からシーシルキーテリアが来てたわね」


 「えぇ」


 シルバーカリスからの意見を聞き、花子は顔を横に向けて背後に居るゴブリン討伐隊と、5人のシーシルキーテリアの部隊を一目見る。


 自分達、ゴブリン討伐隊、そして…シーシルキーテリア。それらの距離は余り離れていない。森に入れたとしても、ゴブリン討伐隊伝いにシーシルキーテリアは追ってくるであろう。森に入り、道路を見つけ、速やかに車を強奪し…ゴブリン討伐隊が自分たちに追いつく前にその場から走り去る。戦いを経ず、30階層の狂犬共を振り切るには…それしかないという結論が、花子の頭の中で出たが――


 「――クソッ」


 進行方向の先。右手側。そこから…現れる複数人の人影。黒い鎧を着こむそれらを瞳に映し、花子は思考を一時中断。小さく毒づいた。


 「どうします?」


 花子の隣でシルバーカリスが問う。あと少しで森に逃げ込めそうではあるが、このまま進めば行く手を遮られるのが目に見える状況。強行突破か…それとも、始末するか。シルバーカリスとマリグリンさえ無事であれば後のことはどうでもいいと言う非情で冷徹な考え。けれど己の使命から見て合理的な考えを根底に、ほんの一瞬だけ花子は考えた後…その足を止めた。


 ――まだ魔法のカードを切るのは早い。それなら…。


 ストックを肩に当て、半身になる花子によって構えられる38式歩兵銃。その銃口は…今、広場へと出、自分たちの存在を目視したシーシルキーテリアの隊員へ向けられた。そして花子は口を開く。自分が止まったことによって足を止めそうになる仲間たちへと向けて。


 「前に居る連中を殺るわよッ!」


 直後、響く銃声。38式歩兵銃から放たれた弾丸は、5人1組で分隊を組んでいるのであろう、進行方向上に現れた1人のシーシルキーテリアの隊員の胸を貫き、貫通し…その後ろにいたもう1人の肩を貫いた。だが、照星越しにその有様を見届けた花子は集中した表情のまま、ボルトを素早く引いて空薬莢を排出。機械のように洗練された動きで銃口を次のターゲットへ。迷いなく引き金を引き絞り、状況を理解していないもう1人のシーシルキーテリアの隊員を無力化したところで…今何が起きたのか解らずに浮足立つ残り2人のシーシルキーテリアの隊員たちへと襲い掛からんとする、己の仲間たちの方へ走り出した。その立ち止まってからの2発の射撃はほんの一瞬の出来事で、花子にゴブリン討伐隊が追い付くことはない。すぐ後ろに一心不乱に走るゴブリンハンターの姿が在るが。


 「チビ、やっちまおうぜ!」


 「死ねオラー!」


 塩パグ学園島。その制服姿のチビとガリは護身用程度に持っていた細い剣を腰の鞘から抜き放ち、今、浮足立ったシーシルキーテリアの隊員1人の腹部を蹴る、シルバーカリスの援護へと向かう。味方の居る状況のせいか。それとも見た目の麗しい異性の手前である故か。はたまた…人の本能、闘争の熱に酔っているのか。それは彼らにすらわからなかったが、恐怖心など微塵にも感じた様子無く、シルバーカリスに蹴り倒されたシーシルキーテリアの隊員の右手にあるその武器で突き刺し、無力化した。


 「こんな獰猛な塩パグユーザー居るなんてきいてねえッ…!」


 花子の射撃から3人が無力化。1人が負傷。まともに戦えるのが1人になった時…その1人は狼狽えたように呟いた。状況を飲み込み、迎撃態勢が今ようやく整った時に。しかし、状況はどう見ても不利であるためか、攻撃を仕掛けてくるようなそぶりはない。


 ――戦意は挫けましたね。


 シルバーカリスは脚の甲に転がっているトライデントの柄を乗せ、蹴って立て、それを右手に取ると左手にある花子からもらった投げナイフを無傷の1人に投擲。彼がそれを防御しようと守りに入ったところでトライデントを構えたが――その彼の背後。揺らめく人影が現れた。


 「えいっ!」


 「ギャッ!」


 その人影、ロングヘアの少女はその手に持っていたショートソードでシーシルキーテリアの隊員の後頭部を強打。兜を付けていたことによって切り裂けはしなかったが、剣。それは詰まる所…紛うことなき鉄の棒だ。兜越しでも脳震盪を起こす程度の衝撃があったようで、シーシルキーテリアの隊員の動きを止め――


 「よいしょッ!」


 シルバーカリスの操るトライデントの横なぎが彼の横っ面を殴りつけた。ポールウェポンでの遠心力の乗った圧倒的な衝撃。現実ならば頭が吹っ飛ぶほどの重い一撃は…シーシルキーテリアの隊員の身体を横っ飛ばせ、意識を声を上げさせることなく断ち切った。そして開く。退路。森への道が。


 「ナイスですッ」


 「ハハッ…」


 2人掛での流れるような敵の排除。最前線で戦う攻略勢とは言えないが、戦闘に心得のあるシルバーカリスは一仕事終わったような爽やかさで。そもそも戦いをしてこなかったのであろうロングヘアの少女は左手を左胸に当てながら、硬い表情での笑みをシルバーカリスへと向けた。


 けれど、2人がのんびりして居られる時間は無い。すぐに追いついてきた花子を見、まだ戦いの最中であることを思い出して走り出す。広場と森の境界線へと…肩を撃たれて今は剣すら振れそうにない最後の1人を放って。

 

 様々な勢力。様々な思惑。様々な使命。複雑に絡み、こんがらがる混沌。その絡まりを形成する糸くずの一部であるゴルドニアの音楽隊は進む。ただ逃げ惑う人々。なし崩し的についてくる者たちを引き連れて。最終的な勝利を手にするべく、新たな目的を胸に。




 *

 



 橙色と紫色。後者が強まり、夜の気配が一方的に強くなる空。生い茂る木々で陽の光が、視界が遮られる森の中…夜の虫たちの涼やかな声が辺りから聞こえ始める。塩パグ学園島、自然エリアいっぱいに。


 あたりが暗くなり、視界が悪くなりつつある自然エリア。いつも騒がしくある場所なのであるが、今日に限ってはその喧噪は…尋常な物ではなかった。


 響く悲鳴。怒号、歓喜の声。武器と武器を打ち合わせる音に…何かが爆ぜる様な音。都市エリアを染め上げた混沌が、自然エリアへと伸びたことを聞く者に知らせるそれらを耳に…一行は走っていた。シルバーカリスを先頭に、ゴブリン討伐隊を後ろに引き連れて。彼らを追っていたはずのシーシルキーテリアの姿は、その時既になかった。


 「こっちで本当に合ってるんでしょうね?」


 黒と紫のドレス風の姿の少女、花子は38式歩兵銃を己の体に付けるような形で持ち、木々に引っかからない様にしながら走りつつ、己の背後。そこにいるフルフェイスの兜が特徴的な、ゴブリン討伐隊のリーダーである男…ゴブリンハンターに問い掛けた。


 「この状況で嘘つくと思うのか?」


 彼はどことなく呆れた風に言う。シーシルキーテリアに追い掛け回され、パニックだったのが夢や幻だったかのように。けれど――


 「状況的に嘘はつかないと思うけど…精神的な動揺で間違った方向を教えてるとかそういう可能性がね…不安になるのよね」


 「うっ…うぐっ…うぅ…」


 仲間を置いて真っ先に戦闘を放棄する無様な姿。その認識は…彼の名誉、尊厳を…地に落とし、不可逆な物へと変えてしまった後であった。故に花子の返す言葉は…悪意はないのであろうが、耳を塞ぎたくなるようなドギツイもの。悪意が無いから、評価が低いことが透けて見えるからこそ宿る破壊力、毒がゴブリンハンターの心を切り刻み、駆け巡り…彼の言葉を詰まらせて、その言葉の交わされぬ空白の間に、辛辣な顔をしたチビの視線がゴブリンハンターへと向けられた。


 「つーかなんで付いてくるんですかね。あっち行けっての。ふざけやがって。他から見られてアンタらの同類だと思われたら責任取れますか? あん? 名誉棄損ものだぞ? おぉん?」


 表情は見えないが、バツの悪そうにしている風な雰囲気が伝わってくるゴブリンハンターに対し、チビが絡む。しかし、ゴブリンハンターはそれに顔を背けるだけ。反抗はおろか、そもそも言葉を交わそうともしない。五体を引っ込めた亀の如き対応、姿勢は…現実世界の彼の在り方を窺わせるものではあったが、彼は付いてくる。ゴルドニアの音楽隊を核とするこの集まりに。

 

 ゴブリンハンターとチビ。彼らの膠着状態が始まった時…前方を行くシルバーカリスが肩の高さに握りこぶしを作った右手を上げ、それを軽く左右に振った。


 ――場合によってはゴブリン討伐隊とやり合うことになるけど…十中八九そんな気概は無いか。


 シルバーカリスのハンドサインを碧い瞳に映した花子は心の中で呟きつつ、顔を横に向けてゴブリンハンターを一瞥。相変わらず兜の向こう側は見えず、何を考えているか解りはしなかったが、彼とその仲間たちに塩パグ学園島の守護者、風紀委員としての矜持が無いと高を括りつつ、視線を前へと向かたところで…一行は森から抜け、その向こう。アスファルトの敷かれた二車線の道路へと出た。


 街灯のない、ただアスファルトの敷かれた道路。両脇に申し訳程度の歩道が設けられたそれは、学園エリアと都市エリアの建築で資金が尽きたのであろうことが察せる、ただこの自然エリアの往来を目的としたもので、疎らではあるが、車は走っていた。その様子は大渋滞であった島の入り口と今、この場所。この地点。そこに至るまでの道に車を止めて立ち寄れる場所がある事を見る者に察させる。まぁ…そんなことなど花子にとってどうでもいいことであって、重要なのは動く車があるかどうか。その一点ではあるが。


 「マリグリン、行って」


 学園エリアと都市エリア。そこで見ることの出来た視覚を楽しませる道。それとは違う…正にド田舎の歩道。そう形容して良さそうなそこにて立ち止まった集まりの中、花子はマリグリンに一言言葉を投げかけた。彼はすぐに反応を示し、目を真ん丸くして振り向く。


 「えっ…どういう意味?」


 花子の言う"行って"の意味。マリグリンを含め…花子の仲間であるシルバーカリスも意味が解らないようで小首を傾げた。そのいまいちなマリグリンの顔を見据えつつ、花子はその表情を変えずに口を開き…38式歩兵銃のボルトに手をやる。


 「車の前に立ちはだかるの。それで車を止めるの」


 先ほど撃ったきり空薬莢の排出をしていなかった38式歩兵銃。ボルトが引かれたことによって小気味の良い金属のスライド音が鳴り、薬室から勢いよく空薬莢が飛び出す。ただ薬室に弾丸を込めるための所作であったかもしれないが…マリグリンにとって威圧的に感じるものであった。――行かねば撃つ。そんな風に。


 「…轢かれたりしない?」


 「大丈夫。そうなっても何か撥ねれば車止めるでしょ。普通。あれぐらいの速度で轢かれても死にはしないからセーフ」


 ――俺を消したい組織に追いつかれるよりマシだからやるけどさ…。


 空薬莢が地面に落ちる音。甲高いそれを耳にマリグリンは腹の中で呟いた。突っ込みどころのあり過ぎる、散々人を轢いた花子の語る普通に…突っ込むこともなく、やるせない顔で。そして彼は進む。とりあえず車を止めればいいのだと己に言い聞かせ、歩道と車道を隔てる白い金属の柵を乗り越え、その向こう側へと。


 「トマッテクダサーイ!」


 2つの車線を隔てる白線の上に立ち、マリグリンは道路の真ん中で叫ぶ。両腕を大きく広げ、大きく振りながら。


 「うーん…なんか思ってたのと違う。60点。哀れで間抜けっぽくて情けない感じがあるからこれはこれで良いけれど」


 「何の話をしてるんですか」


 車を止めようとするマリグリン。その様子を眺める花子はシルバーカリスに呆れたような突っ込みを入れられつつ、小物入れに入れた左手で5発の弾丸がセットされた最後のクリップに触れ、クリップから弾丸を分離させると、そのうちの3発だけ左手に持って38式歩兵銃へ。弾倉に3発手慣れた様子で込め、ボルトを戻して薬室に弾丸を装填し終えたところで…マリグリンの前にて車が止まった。


 「バッカヤロー! あぶねえだろーが!」


 降りるサイドガラス。そこから…可愛い顔をした少年が顔をだして声を荒げる。道路のど真ん中で突っ立っている金髪の優男に向かって。そこで少年とマリグリン。彼らは目を見開いた。


 「あっ…さっきのホモ野郎じゃん。…まさかそこまで俺を…ヤバッ――」


 少年の顔はみるみる青ざめる。恐怖に。まだ可能性の域を出ないマリグリンの執念を感じて。そして彼はすぐに車の中に引っ込み、車を発進させようとしたところで――銃声が1発。あたりに聞こえるゴブリン討伐隊の不安そうな声を塗りつぶし、辺りに木霊し…車に乗っていた少年は力なくハンドルに前のめりに凭れ掛った。彼の体はクラクションを押し、その音を周囲に響かせ…発砲音と同時に動き出した6つの影は、彼の乗る車へと素早く駆け寄る。


 「悪いわね。ちょっと借りるわよ」


 人を撃つ喜び。強いて言えば人を傷付ける喜び。加虐心。誰しもが多かれ少なかれ持つ…人間の暗い欲望を胸いっぱいに満たす少女、猫屋敷花子。ゴブリン討伐隊の大部分に戦慄の眼差しを向けられつつ、それはそれは悪そうににやつきながら、上機嫌に…運転席のドアを開けると頭を撃ち抜かれてピクリとも動かない少年の胸倉を掴み、乱暴に車外へと放る様に引きずり下ろす。


 あとは車でボート乗り場に向かうだけ。まだ油断はできず、懸念は在りはするけれど、大きく勝利に近付けた。ゴブリンハンターが母鴨に置いて行かれた子鴨の如く走ってきているが、彼とはここでお別れだ。シーシルキーテリアに狩られるか、技能実習生に報復されるか。行き着く先、末路はそんな感じであろうが、花子たちが考えることではなかった。


 だが――自分を置いて安全圏へ逃げようとする他者を見た時、誰もがそれを傍観するわけではない。人は時に、他者の幸せを、成功を…破壊するものなのだ。


 ――たとえ、そこに利が無くとも。


 「そいやーッ!」


 女性プレイヤーの掛け声。まるで何かを攻撃するような声の後、今花子たちが乗ろうとしていた車に異変が生じる。車の左後ろのあたり。そこから、何かを突き刺すような物音が聞こえた後に…少し沈んだことによって。


 「なッ…何をッ…!?」


 真っ先に反応したのはガリ。彼の見据える先にはビキニアーマーの女性プレイヤー。恐らくシーシルキーテリアの隊員の得物を鹵獲したのであろう。シルバーカリスが持っているトライデントと同じデザインのそれを手に、彼女は突き刺していた。…車の後輪を。ヤケクソになったような顔をして。


 「逃げられると思わないでッ! どうせ狩られるのなら1人でも多く道連れにしてやんだからぁッ!」


 理など微塵もない…感情だけの質の悪い発言をビキニアーマーの女性プレイヤーは口にする。悪びれもせず、塩パグ学園島の治安部隊としての建前もなく、半泣きになりつつ。まさに害悪。車と言うこの地獄を切り抜ける蜘蛛の糸。それを断ち切ったトライデントを車の後輪から引き抜いて。

 

 ――きっとシーシルキーテリアがうろつくこの場に置いて行かれた時の事を考え、とち狂ったのであろう。見る者を慄かせる負のパワー。手の付けられないある種の無敵状態のビキニアーマーの女性プレイヤーにガリは怯むが…それは彼とロングヘアの少女だけ。その他の者たちはムカついたような顔だったり、辛辣な顔だったり…大凡不機嫌そうに彼女の方を見ていた。だが――緊張が走るのは一瞬で…すぐにシルバーカリスが睨み合い始めたゴブリン討伐隊と花子一行の間に割って入った。


 「ここで車を幾つか確保してから皆で進みましょう。仲間割れしてても意味ないですから」


 感情的になった花子が暴挙を起こす前に行動を起こしたシルバーカリス。彼女はゴブリン討伐隊へと顔を向けていたが、振り返って花子の瞳を見据えた。


 「…ですよね。花ちゃん」


 花子は、ビキニアーマーの女性プレイヤーをどうしてやろうか考えていた風であったが、ゴブリン討伐隊の期待の眼差しをその背に一心に受けるシルバーカリスの声に冷静になったようで、すごく気に入らなさそうな顔をした後に38式歩兵銃の引き金に掛けていた人差し指を真直ぐに伸ばした。


 ――堪えてくれましたか。よかった…。


 外面は一切変えないが、内面で胸を撫で下ろしつつ…シルバーカリスはビクついた様子で一纏まりになっていたゴブリン討伐隊の方へ振り返れば、全体のピンチが齎した不和を優しく包み、二つの勢力の間を取り持ってくれた彼女の方へと…済まなさそうにするゴブリン討伐隊の縋る様な視線が集まる。シルバーカリス。彼女より年上であろう面々の…覚悟の足らぬ、足の引っ張り合いをする者たちの許しを請うかのような視線が。


 「よしッ、じゃあゴブリン討伐隊の人たちは治安維持部隊の権限を使って車を接収してください。僕達は周囲の警戒をしておきますから」

 

 けれどシルバーカリスは嫌な顔1つせず、ゴブリン討伐隊の面々に指示を出す。その内容は道徳的、倫理的に褒められた様な内容では決してないが、ゴブリン討伐隊の面々は頷いて…道路に簡易的な検問を設け始める。今使い物にならなくなった車を道路の真ん中に横向きに置き、来たる車の進行を妨げる形として。…どっちの車線にも車の姿は1つも見当たらない事実を気にした風に、各々で会話をしながらも。

 

 そして…検問が出来上がったその時。それは静かに現れた。草木を掻き分ける音とともに。


 「ッ!」


 森の中の暗がりを突き破り、現れたるはさっきも見た3人ほどの黒鎧。だが、頭にはその顔を隠すかのような仮面。ただ塩パグ学園島の関係者を追い回すことを楽しんでいたシーシルキーテリアの一般的な隊員とは違う、それの剣での奇襲攻撃を花子は咄嗟に38式歩兵銃で受けた。ほんのりと香る、鼻にヤニ臭さを感じ取りながら。


 「ハイッ!」

 

 3人ほぼ同時での奇襲。花子1人では躱し切れるものではなかったが、残り2人の攻撃はシルバーカリスの突き出されたトライデントによって牽制され、花子に届くことはなく、その隙を着いて花子はバックステップ。3人の襲撃者から距離を取った。


 そして睨み合う形となる。襲撃者の存在に気が付いたゴブリン討伐隊と一行の仲間たちが3人を認知したことによって。けれど…静けさは一瞬。彼らは止まらない。各々頼りなさそうなショートソードを手に――向かってきた。


 増える同行者。次々と現れる敵。楽観視していた脱出までの道のりは、思った以上に険しかった。しかし、戦いの最終局面は始まったばかり。まだまだフォールドするタイミングではない。ゲームを降りないゴルドニアの音楽隊と他とは毛並みが違う、シーシルキーテリアの隊員。それらの戦いは今始まる。赤紫色の空の下。消えゆく夕日の光に照らされて。

「この野郎」。この言葉を女性に使うのは誤用ではあるのですが、感情を相手に叩きつける罵倒にそんな正しさなど必要でしょうか?

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