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まさひこのパンケーキビルディングとその住人。打砕く者と守る者。  作者: TOYBOX_MARAUDER
海賊の秘宝と青い海、俗物共の仁義なき戦い
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夢の世界の終幕、仁義なき戦いの開幕

色々あって遅れたゾ。ごめんよ、我が作品を追ってくれている数少ないお前たち…。

最近趣味の比重がこっち側に傾いて来て…絵と言う形でキャラを表現したくなったのだ。故にプロポーション、骨、筋肉、パース…それらの勉強をしていて時間が回せなかったのだ。許せ!

納得が出来る出来になった暁にはキャラの紹介ページなどを作ろうと思う。…と言うことで、気長に待っていてくれよな!


 燦々と照り付ける陽射しが段々と黄色味を帯びてくる頃。塩パグ学園島の都市エリア。その中心に立つ最も背の高いガラス張りの塔の天辺にある一室に、スタイリッシュなスーツに身を包んだ美女が2人。客として招かれていた。


 正面180度ガラス張りの壁となった部屋。向こうには青い海を遠景とし、近景にビル群の頭を映す明るく、発展の限りを尽くした世界。部屋の中心には円卓。それの向こう側半分を埋めるように座る、お世辞にも見てくれは良いとは言えない学生服に身を包む5人組。彼らの視線の先には、己らの対面に座り、円卓の上に一台のノートパソコンを開いた銀朱のテクノカットが特徴的な美女、ルッソと小麦色の肌と、大きく開かれた胸元から覗くタトゥー、若苗色の髪が印象的な美女、ソニアの姿。彼女たちの背面側に位置する部屋の出入り口周辺には鎧姿のプレイヤーが数人。その中には鈍い銀色の鎧に身を包む、ブルータスの姿もあった。


 「それで…モグモグカンパニーのルッソさんとソニアさんは…どんな要件でここに?」


 円卓の一番奥。そこに腰かける頬骨が出、頬のこけた神経質そうな細い目つきの男が話を切り出す。何処か緊張した、彼女たちが来た理由を察した風に。円卓の上に組んだ両手を握りしめて。額に熱由来とは違う汗の光沢とその険しい表情、様子からは確かに後ろめたさが見て取れた。だが、それはあくまで保身からのもの。自分可愛さからのもので、罪悪感の色は一滴すら混じらない。


 「我々がNPC人権部調査課であると言えば察しは付くと思う。NPCに対する虐待行為。強制労働など…それらの是正勧告に来た」


 「…待遇を改善すれば問題ないんですね…?」


 淡々と言葉を述べるルッソに対する細い目の男はそれはもう苦々しい引き攣った愛想笑いをし、虫が良すぎる言葉を紡ぐ。モグモグカンパニー人権部調査課の2人。それの出方を窺うようにしながら。


 だが、ソニアは憐れんだ様な、呆れたような笑みを浮かべて顔をガラスの壁の向こうに広がる景色の方へ向けて鼻から息をふぅっと吐き出し、ルッソは毅然とした態度を変えぬまま口を開く。大凡都合の良い言葉など聞けそうにないことは誰が見ても解る様相で。


 「それだけではない。彼らは心を持つ知的生命体。当然償いはするべきだ。金銭賠償と言う形で」


 「ちょっと待ってください…モグモグカンパニーに口を出すような権利があるのですか? それにこういったことは当人同士で解決するべき…介入は不要では?」


 「法に触れていないから、法が無いから問題ないというのは下種の理屈。道徳に反した目に余る行為は、他から反感を買うものだ。そして、余りにも過ぎた真似をしているものには報い…制裁が齎される。それだけの話だ」


 「ッ…!」


 ルッソは淡々と言葉を紡ぐ。唐紅の瞳に都合が悪そうな顔をするだけで何も言えない細目の男を映しながら。相手側の気持ちなどは一切忖度しない、鉄の意思を持ち…彼女は更に続ける。


 「各階層間で暮らすNPC達の住処への破壊工作。中には死者が出たと言う報告も入っている。命には命で贖うべきと私個人は考えているが…上層部はそれを望んでいないらしい」


 「何かの間違いだ…! そんなことしたことなんて…!」


 虚偽の混ざった釈明。細めの男からなされるそれを聞きつつ、ルッソの隣にいたソニアはノートパソコンを操作。自分たちの内通者であるブルータスから受け取った、ブルータスが関わらなかった別件の動画を再生させつつ、ノートパソコンを半回転させて画面が自分たちの対面に居る者たちの目に触れる形にする。


 その画面に映る証拠とされる映像は、裏切り者の存在を細目の男に確信させると同時に、その目を見開かせて…悪あがきしようとする心をへし折った。その変化などまったく気にした様子無く、ルッソは続ける。


 「NPC側の要求だが…五つ目の大罪だったか? このギルドの名前は。それの一切合切の資産を要求するそうだ。金も、設備も、土地も…全て」


 「…! 読めた…。お前らの目的が。ハナから島を奪い取るつもりだったな…そうなんだろう!?」


 ようやくルッソとソニアがモグモグカンパニーによって派遣されてきた理由。真の目的。それに今更ながら気が付いた細目の男は席から立ち、円卓の上に上体を乗り出して声を荒げた。強く強く円卓の上に両手を叩きつけて。対するルッソは淡々とした様子であったが、口角を微かに上げて微笑すると両目を閉じて笑い始めた。小さく、静かに。


 「ふふっ…クックックッ…。かもな。まぁ、なんにせよ…力に溺れた愚かな自分を呪うがいい」


 一頻り笑った後、ルッソは閉じた瞼を開き、顔を仰向けに傾かせ下目遣いに殺気立つ細目の男を見据えると、右手を肩の高さに上げ、それを彼らの方へと振り下ろした。


 その合図によって室内の出口のサイドに立っていた数人の鎧姿の男性プレイヤー達は前へと出、円卓の向こう側に座る細目の男以外の者も席を立って、細目の男の方へと向く。各々武器をその手に。


 「次起きた時には夢から覚めた世界だ。せいぜい今のうちに噛みしめておくことだな。都合の良かった夢の世界の味を」


 動揺したように己を取り囲むかつての仲間たち、部下を見まわす。恐怖に揺らぐ瞳を右往左往させながら。歯を強く噛みしめて。今の細目の男に、ルッソの声など聞いている余裕はもはやなかった。


 「お前らッ…全員裏切ったのか…!? 俺を売りやがったのかーッ!」 


 「ごめん、でも…こうすれば1万ゴールドだけは資産を残して貰えるんだ…ほんとごめん…月影…」


 取り乱して叫ぶ細めの男、月影と長い間一緒にやってきたのであろう塩パグ学園島首脳部のプレイヤー達との間で展開される…何とも言えないとても見苦しい、人の醜さを濃縮したような会話。夢の世界に有るまじき、売られた者と売った者が対峙し、膠着する光景。現実でもそうお目にかかることの出来ない絵がそこに出来上がる。


 「うふふふっ…あーあ、たーいへーんだぁ」


 そんな人と人とが織りなす地獄の様な有様を、ソニアは円卓の上に頬杖を突きながら、楽しそうに笑いながら眺める。自分可愛さのために仲間を売るおぞましい人間たちが暗く彩る、夢の世界の終幕を…胸いっぱいに味わった風に。だが、そんな見苦しい光景も長くは続かない。月影とその仲間たちにとってこの上なく悪い結末を描いた、ブルータスが月影の元へとやってきたことによって。


 「ブルータス、お前もか…!」


 「ハンッ、カエサル気取りか? モラルとか常識が欠如したバカに刃物(ちから)を持たせるとどうなるか…塩パグ学園島見て良く解ったよ」


 月影は裏切った仲間たちに両腕を押さえつけられ、ブルータスのダガーの一突きによって床へと伏した。その後で、チャキッと言う何かをスライドさせるような…小さな金具の音が聞こえ――4発の発砲音が室内に響く。


 直後、月影を押さえつけていた4人は倒れて動かなくなった。静まり返る室内には硝煙の匂いが漂い、空薬莢が転がる音が微かに響く。


 発砲音の先には円卓の向こう側にオートマチックピストルを握った右手を向けるソニアの姿。彼女は的が無力化されたことを目視にて確認すると、引き金に掛けた人差し指をピンとまっすぐ伸ばし、煙が僅かに立つ銃口を天井へと向けた。


 「はぁい、ご苦労様。後は…そうね。月影君にダガー握らせて…丸腰にした他4人と一緒に2階層の人気のない原っぱに捨てて来て貰ってもいい? ブルータス君」


 「解った。やっておく」


 着崩した黒いジャケットの下にある、腰回りに取り付けられたホルスターにオートマチックピストルを戻すソニア。蠱毒の壺の底を覗いて楽しむかのような彼女の悪趣味な要望に、ブルータスは内心引きながらも納得し、頷く。動かなくなった月影とその仲間の4人を見下しつつ、階層転移の本を取り出し…開いて。まだ色鮮やかな草原地帯が描かれたページを。


 ――権力。力。それを手にして以来…いい気になって他人の気持ちも考えずに、好き勝手やるバカだったが…全てを失ったうえで、自分を売った仲間を許す器量があるだろうか。


 ブルータスは今自分がしようとしていることの結末がどんなものになるかを…途中で考えるのを止めるように顔を軽く横に振ると、月影の前に屈み、今さっき彼を刺したダガーを彼の右手に握らせて、その後で今回自分に協力してくれた鎧姿のプレイヤー達を一瞥。彼らと共に動かない5人の身体に手を置き、口を開いた。


 「ルッソさん、ソニアさん。正体不明の黒ずくめの部隊と…なぜかこっちの素性を知っていた青緑色の髪の奴が居た。前者は今学園エリアで起きてる騒ぎと関係あるかもしれない。後者は…金髪のNPCを探しているとか言ってた。気を付けてくれ」


 「ふむ…解った」

 

 塩パグ学園島の目と耳が無くなったその場所で、ブルータスは情報を共有。その後に階層転移の本の絵に触れてその場から消えた。仲間たちと倒れた5人と共に。その情報にルッソは難しい顔をし、返事を1つ返してノートパソコンを閉じて小脇に抱え、ソニアと共に席を立ち、踵を返した。


 「それでルッソ。どうする? 別件が絡んできてるみたいだけど」


 「塩パグ学園島の治安維持部隊が想定以上に強かったことを想定して、本部に根回ししてある。問題はない」


 塩パグ学園島のリーダーたちが居た部屋を出、エレベーターホールへ進みつつ今の状況をなんだか楽しんだ風なソニアと淡々としたルッソは言葉を交わす。そして、エレベーターホールへと行き着いて銀色のエレベーターの扉の隣に取り付けてあるパネルを押した時、ルッソはジャケットの裾に付いたブローチを人差し指で叩き、手首の当たりを口元に寄せた。


 「こちら赤い狐&緑の狸。団子メイカー応答せよ。オーバー」


 『こちら団子メイカー。オーバー』


 「塩パグ学園島治安維持部隊とは別の、正体不明の部隊の行動が確認された。モグモグコマンドの出動を要請する。オーバー」


 『…了解。30分後モグモグコマンドSETsixを派遣する。アウト』


 ルッソと淡々とした口調の女オペレーターとの会話。その通信が終わったところで、ピカピカに磨き抜かれた銀色のエレベーターの扉が開いた。ルッソはそちらの方に目をやりつつブローチを指先で叩き、通信状態を解除すると先行するソニアのあとに続く形でエレベーターに乗り込む。忙しくはなりそうではあるが、塩パグ学園島での混沌を極める動乱での勝利。それを疑う様子微塵もない2人を乗せるエレベーターの扉はゆっくりと閉じられた。




 *




 青い海に浮かぶ複数の大型帆船。綺麗に船列を組み、見るからに頑丈そうな高架橋に沿い進むそれらの側面には大量の大砲が顔を覗かせていて、どれもが橋の上の一点。そこへと狙いを定めていた。狙う先の地点には、アスファルトの敷かれた橋の上を爆走する二つのママチャリ。先を行く金髪の美男も、それを追う男装をした美少女も。例外なく必死の形相であった。


 時はルッソとソニアが塩パグ学園島のリーダーたちを無力化する少し前。それは長く、行く先が霞み、蜃気楼で揺らめいてすら見える…見る者の心を折る橋の上。マリグリンとシルバーカリス。血を吐くようなママチャリでの競争…我慢比べを展開していた。


 「シルバーカリス…まだ行けるか…?」


 「っ…はぁっ、はぁ…すみまっせんッ…ちょっと今…話しかけないで欲しい…です…ッ」


 照り付ける陽の光と暖かい環境下には適さない白いスーツ姿。激しく長時間の運動。それらに額に汗を浮かべるシルバーカリスは余裕なく、息絶えだけに言葉を紡ぐ。セラアハトのねぎらいの言葉に対して。律儀にも。その様子、返答はセラアハトに猛省の念を抱かせるのには十分で、いつものツンツンした雰囲気を大きく軟化させた。どことなく、戸惑いを混ぜた風に。


 「あっ…すまない。思慮が足りなかった」


 セラアハトは若干シュンとした風にして謝って、右手にあるフリントロックピストルのグリップを強く握った。


 今現在元気なのはシルバーカリスの漕ぐママチャリの荷台に座るセラアハトぐらいの物で…彼以外、つまりシルバーカリスもそれに追われるマリグリンも息絶え絶え。青息吐息。シルバーカリスを思うと、どうにかしてさっさと決着を付けてしまいたいところであったが、そうする術は無いに等しい状況だった。


 右手に握ったフリントロックピストル。離れた場所にいる敵を攻撃する道具であるが、疲労困憊の状態で、気力と精神力でペダルを漕ぐシルバーカリスの運転するママチャリは左右に大きく振れている。狙いを定めて撃つことはできなくはない環境ではあるが、所詮は滑腔銃。フリントロックピストルの命中精度は心細い物だ。的の位置も遠い。撃って当たる可能性は極めて低い局面で、どうしても切り札になり得る1発を撃つ気にはなれなかった。歯がゆく思いながらも。


 「マリグリン! 降伏しろッ! 今なら僕が事後の面倒を見てやるぞ!」


 「はぁっ…ハァ…ンっ、ぅるさいっ…! 俺はもう引けないんだッ…! と言うか…今ッ…話しかけるなッ!」


 日和見主義の風見鶏。忠誠や根性とは無縁の男、マリグリン。少なくともセラアハトが知る彼はそんな感じであるが、彼の返答を構成する言葉にセラアハトは違和感を感じた。まるで今の状況を、逃げ延びることを強いられているかのような…そんな感じのものを。


 しかし、そんな違和感が気になるのもほんの一瞬。セラアハトはマリグリンを捕らえるための手段を考え始め、すぐに袖についているブローチを指で叩き、口元に寄せた。


 「…リック、今どこにいる? どうぞ」


 『あと少しで検問所のある島につく。今どうなってる? マリグリン捕まえた? どうぞ』


 彼の声のバックグラウンドには、風を切るような音と何かの駆動音の様な物が聞こえた。…都市エリアから塩パグ学園島の正面玄関である島。そこまでの距離は相当あるはず。歩きや自転車では到底短時間では至れない距離であるが、リックと花子は既に検問所のある島へと行き着いているらしかった。


 ――随分と速い。一体どうやったのだろう? 電車やモノレールの運行が再開されたのだろうか?


 セラアハトはふとそんな疑問を抱くが、今自分たちの居る橋。そのサイドに掛かる電車の線路とモノレールの線路にはいまだに何も走っては居なく、揺らぐ視界の向こう側、振り返って見えるごうごうと燃え盛る乙女島の方からも電車やモノレールは来ていなく、来る気配もなかった。橋のところどころで分かれた橋の先に在る切り立った島々。そこからも。


 「…乙女島でのマリグリン捕獲には失敗、現在橋の上にて追跡中。挟み撃ちにしたい…目印は――」


 そこでセラアハトは周囲に見える物で目印になりそうな特徴的な物を探す。とはいっても周りに見えるのは今走っている長い橋とそこから分岐する複数の橋。遠目に見える島々ぐらいのもの。蜘蛛の巣の様に張り巡らされた橋のうちの1本を断定するには…目印としては弱い物ばかりだった。しかし、その橋の下。その海域でゴルドニアファミリアを示すウサギの紋章を入れた帆船の船列。それだけは違った。


 「ゴルドニアファミリアの帆船が集まってる場所だ。どうぞ」


 『あー…シルバーカリスが言ってた味方かどうか怪しい奴らがいるってそいつらの事か…まあいいや。こっちは何とか足確保してそっちに急ぐわ。トラックとか。しかしマリグリンもしぶとい野郎だな。どうぞ』


 「まったくだな。…期待してるよ。リック。通信終わり」


 リックの話しぶりを聞く限り、彼と花子は塩パグ学園島の運営。それが例外的に交通を許可する車の類に忍び込むなどして移動していたようだった。


 ――2人が来てくれて挟み撃ちの形に出来れば、きっとこの仕事は終わる。でも――


 セラアハトはブローチを指で叩き、通信を終えながら腹の中で呟いて橋の下に見える海域。そこに展開するゴルドニアファミリア帆船を見る。…邪魔が入る懸念をその光景から感じ、片眉を微かに吊り上げながら。


 ――そしてその懸念は時を見計らっていたかのように表面化する。立て続けに轟く、火薬の爆ぜる爆音と火を噴く大砲と共に。…聖乙女学園の校舎を灰燼に帰した砲撃は、マリグリンを追っていた仲間。それを追っていた邪魔者を排除するためのものであるようだったが、その邪魔者とは…どうやら塩パグ学園島の治安維持部隊以外も含まれることを、その有様、轟音はセラアハトに理解させた。


 「えぇッ!? 撃っちゃうの!? 嘘ォ!? うっ…うおああああああッ!」


 「ッ…! っ…フンガー!」


 大砲の命中精度は余り良い物ではないようで、その弾道ほとんどが放物線を描いて橋を飛び越える。ただ全部ではない。何発かが道路のサイドに通る電車の線路を破壊し、モノレールの線路の一部を吹きとばし…今2つのママチャリが爆走するアスファルトの道路を轟音と共に叩いて砕く。マリグリンは目を引ん剝いて猛々しさと情けなさが混ざった声を上げ、シルバーカリスは歯を食いしばって腹を括ったように吼えながら、降り注ぐ砲弾を巧みなママチャリ捌きで躱す。


 砲弾が齎す危険、脅威は直接的な物だけではない。割れて切り立ち、小さなクレーターを作り…精々畦道程度の悪路までしか対応できないであろうママチャリに対し、過酷極まりない瓦礫の道を作ること。その破壊の爪痕は、確かな脅威としてママチャリを操るシルバーカリスとマリグリンの前へと立ちはだかる。


 「クソッ…! ルーインは本気なのか…!?」


 …表向きは味方であるはずの自分諸共吹きとばしかねない強硬なやり方。砲弾が降り注ぐ中、シルバーカリスの腰に両手を回してしがみつくセラアハトは、砲弾を撃ってくるゴルドニアファミリアの帆船をその空色の瞳に映しながら追い詰められたように呟く。戦慄を感じた、微かに歪む表情で。その時思うことは…今さっき自分が理解したつもりでいた砲撃の意味。それは間違いであったということだ。


 ――マリグリンを始末して口封じしたい勢力が居る? そいつらがルーインの背後にいる勢力…? マリグリンが地下遺跡で見つけた物に関わることなのか…?


 滅茶苦茶になる橋の上のアスファルト。凹み、割れて、切り立つ…そんな悪路を疲れながらも脚力のごり押しで進むシルバーカリスの後ろで、セラアハトは考える。だが、のんびり考えていられるのも束の間。こちらの真上に落ちて来そうな軌跡を描く砲弾を見た時、セラアハトはシルバーカリスの左手に手を重ね、軽くハンドルを切った。


 「うわわっ!」


 「くぅっ…!」


 ギリギリのところで砲弾を躱せたが、ママチャリは倒れそうになり、飛んでくる破片がシルバーカリスとセラアハトの身体を切り裂く。


 「大丈夫っ…ですか!? セラアハトさんッ」


 傾くママチャリだったが、伸ばされたシルバーカリスの足が割れたアスファルトを蹴ったことによって持ち直す。…散弾の如く飛んでくるアスファルトの破片の威力は、現実世界であれば身体の一部が欠損していてもおかしくなさそうではあるが、身体能力、身体の丈夫さ、一見ただの服に見える装備によって、ちょっとした痛みを感じる程度のもの。直撃弾を食らえば否応なしにお陀仏であっただろうが、軽傷で済んでいた。


 「ただの掠り傷だッ、運転に集中しろッ!」


 セラアハトも大したことなかったようで、シルバーカリスの呼びかけにすぐに反応。2人は互いの安否を確認し終えた後、再び再びその顔をマリグリンの背へ向けた。…幸いママチャリにも致命的なダメージは無いようで、動いてくれている。ややペダルを漕ぐごとに異音がしているが。


 2人の近くに落ちた1発を最後に、帆船の一斉掃射が止む。束の間の風と波の音が良く聞こえる静かで平和な時間。タイミングを見計らったように切り立ったアスファルトをママチャリで乗り上げ、軽く飛び上がったマリグリンが顔を横に向けてその瞳でセラアハトを見る。微かに恐怖に歪んだ口を開け、若干動転したように。


 「こっ…殺す気かーッ! 俺が死んだら…聞き出せることも聞き出せなくなるぞッ! いいのかーッ!?」


 マリグリンは右手を振り上げつつ、絵に描いた小物の様に喚き散らし…己が持つ秘密。情報。それらを盾に取る。己が持つ情報の価値に大層自信があるようで、殺されることはないと高を括った腹の内が窺える、ハッタリにも思えぬ強気な様子で。――少なくともゴルドニアファミリアには。


 …当然ではあるが、自分達とこの周辺海域に展開しているゴルドニアファミリアの帆船。彼の目から見て目的を同じくする仲間同士に見えているようだった。


 しかし実情は違う。セラアハトにもルーイン一味がここにいる理由が解らないし、彼らの目的も解らない。だが、そんなことなど今のセラアハトにとって釈明するにも値しない、些細な問題に過ぎなかった。頭の中の大部分を占めるのはこの間マロンが言っていた取引の内容。マリグリンに掛けたと言っていた鎌掛けのこと。マリグリンが見つけた何かが思った以上にヤバい代物であると今の状況が肯定したと言う事実だ。


 「お前は何を知っている!? 命を狙われるような何かを地下遺跡で見つけたのか!?」


 セラアハトは吼える。マリグリンが地下遺跡で見つけた物。秘密。それがなんなのかを知るべく。潜む敵。まだ見ぬ敵。その正体を探る手がかりとなると考えて。


 しかし、その問いかけは大砲の火薬が爆ぜる音によってかき消されて、セラアハトの問いかけに耳を傾けていたマリグリンの表情は危機感に歪み、顔と意識は飛んでくる砲弾へと向いた。


 穏やかな海。強い風。大砲を撃つ爆音と砲弾が水面を叩き、アスファルトや鉄骨を砕く音。焼けた鉄とアスファルトの匂いが風に乗り、咽返りそうになる匂いが当たりに立ち込める。道路は砕け、道路としての様相を呈さなくなる。だが、そんな中でも2つのママチャリは止まらない。一方は裏切り者を粛清しに来た執行人から逃げるため。一方はまだ見ぬ獅子身中の虫を炙り出すため。己の命に対する執着と使命感。砲弾の雨の中、命懸けの鬼ごっこと化した戦いの決着はまだ着きそうになかった。

人はね、なんであれ持ち得る力を自覚するべきだと思うの。それが強いなら尚更。自分の行いを顧みる謙虚さが無くては行けない。解るか? 優しさが…思いやりが必要なんだよ! まぁ、私は立場が逆転した時が怖いから常日頃から謙虚で居ようと心掛けている小心者だがな!

…と言うか…なんかこう…既存の製品名使ってもいいのかな。銃器の名前とか…パテント切れてるガバメント君とかいけそう…行けそうじゃない?(戦々恐々)

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