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まさひこのパンケーキビルディングとその住人。打砕く者と守る者。  作者: TOYBOX_MARAUDER
海賊の秘宝と青い海、俗物共の仁義なき戦い
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落ちる火の粉


 青と白の石材でできた島の斜面に沿う形で作られた町。夜空の下にあるそれは青い月明かりで青く見えて、その青さに町の建物から漏れる、ランプの暖かな暖色の光が混ざって煌びやかで享楽的な光とは違う、優しく趣のあるものとなって町を照らす。


 明るい月明かりの下でもキラキラと輝いて見えるその街の中、シルバーカリスとリックともう一人はゴルドニアファミリアが経営する店のテラス席にて、椅子に腰かけ、パイン材の丸テーブルを囲んでいた。


 リックとシルバーカリスの視線の先には同じテーブルを囲む、薄い青色の髪の美少年。彼、セラアハトは両腕を組み、難しい顔をしながら瞳を固く閉じていた。何か手立てはないものか。そう考えた風に。


 セラアハトと張り詰める空気、固唾を飲んで返事を待つリック。それらを眺め、己の手元に置いてあるトロピカルジュースをストローで飲み、マイペースな顔をしているシルバーカリス。そんな沈黙が暫く続き、やがてセラアハトが閉じていた瞳を開き、静かに語り始める。


 「…僕にはどうしようもない。ゴルドニア・ラビットヘッドが外の世界からやってきた奴らから取り込まれて以来、ゴルドニアファミリアは外からの奴らを危険視している」


 「組織自体が警戒モードなわけか。つかゴルドニア・ラビットヘッドって?」


 リックの問いかけに、セラアハトは顔は建物と建物の向こう側に見える海、それの更に向こうに小さく見える光り輝く摩天楼たちが立ち並ぶ島の方を顎でしゃくった。


 「あの島、そしてあの島に縄張りを持っていた…僕たちゴルドニアファミリアとゴルドニアの名を巡って争っていた敵対組織を指す言葉だ」


 「モグモグカンパニーの島か…確かにあれだけデカければ普通人住んでるよな…。住んでた人はどうなったんだ?」


 セラアハトの視線の先にある遠くに見えるモグモグカンパニーの島。それを橙色の瞳にリックは映しながら問いかけた。そして、その後で少しばかり後悔したような顔をする。今自分がした問いかけは、地雷を踏み抜くようなものだったかもしれないと遅れながら気が付いて。だが、セラアハトは静かに瞳を閉じるだけ。ただ静かな表情で、唇を舐めて濡らした。


 「――戦って死んだ。そうとしか考えられない。ゴルドニア・ラビットヘッドに居たのは勇敢で気高い女戦士ばかりだ。降伏なんてするわけがない」


 「その時…この島の奴らは何やってたんだ?」


 「傍観したよ。当初はゴルドニア・ラビットヘッドが負けるなんて思っても居なかったから。侵略者と潰し合って弱ってくれたらと思っていた」


 「確かに…敵対組織が都合悪くなるってんなら傍観するよな。でも、その目論みは大きく外れたわけか」


 「あぁ、あっという間に侵略者側に取り込まれた。…敵対はしていたが、僕たちは元を辿れば同じルーツを持つ人間だ。得体の知れない奴らにこの世界を抑えられる可能性があるのなら、僕たちはゴルドニア・ラビットヘッドに協力すべきだった…今さら言っても後の祭りだけどね」


 重たい話。重たい空気。まさひこのパンケーキビルディングの話とは思えないそれ。セラアハトとリックはどこか傷心した様子で俯いている。しかし、傍からそれを聞いていたシルバーカリスは何を言っているんだろう? と不思議そうな顔をして彼らの姿を灰色の瞳に映している。そして唇に咥えたストローを前歯で迷ったように何度か噛んだ後、それから口を離した。


 「あの…たぶんですけど、その…ゴルドニア・ラビットヘッドの人たち生きてますよ。あの島にタワーマンションが立ち並ぶNPCだけが住める区画があるんですけど、そこでスーツ姿の綺麗な人たちが至れり尽くせりのセレブみたいな生活してるの何度か見ました」


 どことなく言いづらそうに紡がれるシルバーカリスのその言葉に、リックとセラアハトは口をポカンと開けて間抜けそうな顔をして彼女を見、言葉を失う。


 「モグモグカンパニーの島に開発資料館があるんですけど、そこ見に行ってみます? きっと細かいところまで経緯書いてくれてると思いますよ」


 シルバーカリスによる、顔色伺いながらのさらなるダメ押し。それはリックの顔に意地悪い笑みを浮かべさせ、今さっきまで悲壮感漂わせてシリアスに語っていたセラアハトの顔にその視線を向けさせた。


 「セラアハト、今どんな気分だよ」


 「うっ…うるさいなぁッ! 僕はそう聞かされてたんだよッ! それに青いのが言ったことが本当だとは限らないだろ!」


 「今話したの全部受け売りだったのかよ」


 頬杖を突き、にやつきながらセラアハトへと問うリック。普段は花子やマロン、柘榴に事あるごとに揶揄われるハイエナに囲まれ引き裂かれるガゼルの様な立ち位置であるが、今珍しく優位を取る彼のその顔は楽し気で、対するセラアハトは顔を真っ赤にして顔を恥ずかしそうに顔を背けている。そんな微笑ましい光景を眺めながらシルバーカリスはストローを再度口に咥えて、グラスの中のトロピカルジュースをすべて飲み切った。その直後、海が向こう側に見える建物と建物の間から黒いマントの装備と白い革の装備を身に着けた、見知った人影が見えた。


 「あっ、あんなところに居るわよッ!」


 「おっ、ほんとだ。あの青い髪の奴がセラアハトかぁ。確かに可愛いツラしてやがる。男にモテそう」


 セラアハトに対し、優位を取っていたリックがヒエラルキーの底へと落ちる瞬間。ガゼルへと戻る瞬間が訪れた。聞き覚えのある二人の少女の声が聞こえたことによって、二匹のハイエナが現れたことによって。それにリックは肩を微かに跳ねさせ、口元を苦々しく歪め、声が聞こえるそちらの方から顔をゆっくりと背けた。


 「花ちゃーん、マロンちゃーん」


 「また黒頭巾か…知らないのも居るな」


 やってきた花子とマロンの方へ手を軽く振って呼びかけるシルバーカリスの傍で、セラアハトは小さく毒づく。間も無く花子とマロンは他三人が居るテーブルへと到達すると、空いているテラス席から椅子を引っ張ってきて、それに腰かけた。


 「で、セラアハトは協力してくれそうなの?」


 早速話を切り出す花子。…真っ先にそれを聞くということは今日一日で花子とマロンは良い収穫はなかったのだろう。シルバーカリスはそう理解し、口を開く。


 「セラアハトさんは協力的なんですけど、ゴルドニアファミリア自体が僕たちプレイヤーに敵対的でダメみたいです」


 聞かれたことに対し、シルバーカリスは端的に答え、それを聞いた花子はマロンと顔を見合わせた後で二人そろって肩を竦め、その後で花子は不機嫌そうな顔をするセラアハトの方へと身を乗り出した。


 「セラアハト、アンタのリックを思う気持ちはそんな程度だったの? 頑張んなさいよ。コレ逃したらもうリックには二度と会えないわよ。私たち他の階層に行かなきゃいけないんだから」


 「お前なぁ…セラアハトにも立場ってもんがあるだろうよ」


 「アンタは黙ってて」


 人の弱みに付け込む花子とそれを真に受けたような顔をし、深刻そうな顔をするセラアハト。それらの様子を見てリックは目元に手を当て、ただ花子のやり方に辟易している。


 「僕はゴルドニアファミリアの構成員だ。勝手なことは――」


 「仕事とリック、どっちが大事なのッ!?」


 瞳を閉じて軽く顔を左右に振って迷いを振り払うような素振りを見せてから、ゴルドニアファミリアの一員としての矜持から立場を表明し、断るような事を口走りかけたセラアハトの迷いの伺える言葉を遮り、強く、それは強く花子が食って掛かった。その花子の表面上は真直ぐな言葉はセラアハトの顔をハッとしたものにさせ、感化されたかのようにその空色の瞳を大きく見開かせる。だが、それも一瞬で不信感の宿る辛辣な目が、自分自身の言った上っ面だけのセリフについ口角緩みかけた花子の顔へと刺すように向けられた。


 そのやり取りを見ていたマロンは口元を押さえて吹き出し笑いを堪えて震え、シルバーカリスがそれを咎めるかのように脇腹を肘で軽く突いている。見え透いた下心、思惑。悪ノリが成す産物。花子からそれが透けて見えているリックはただただ呆れたような顔をするばかりで、二人の会話に口を挟もうともしない。ただ傍観している。


 「…良いだろう。使われてやろうじゃないか。癪だけどな」


 目に見える下心。それらを目の当たりにしながらもセラアハトは協力する旨を伝えた。その落ち着いた目つきで、花子の顔を見据えて。聞いていて心地の良いハスキーボイスで。今さっきまで外からの侵入者について深刻そうに語ってはいたが、彼自身は外から来た人々を危険視していないようだった。その言葉を引き出した花子はフンッと鼻を得意げに鳴らして笑い飛ばすと、マロンの方へと視線を向けて顎をセラアハトの方へとしゃくった。


 「…この額で海に面した土地を買え」


 マロンは懐から小切手を一枚取り出し、そこへペンを走らせてそれをセラアハトの前へと押しやる。芸能事務所フルブロッサムではない自身の名前とその小切手を使って引き出せる額、450万という数字。それが書かれたものを。…仮にセラアハトが裏切ったとしても無くなるのはマロンの金だけ。観測気球として打つ手としては悪くないように思える。


 セラアハトはその小切手に視線を落とすとそれを右手で取り、スーツの内ポケットにしまい込む。…彼の反応から見て、ここの土地を買える程度の額なのだろうということが分かる。


 「このまま僕が裏切る…とは考えないのか?」


 「リックが居なけりゃそうなるだろうな」


 マロンは一切手の内を見せない。どれぐらい金が出せるのか、今あるのが全部なのか。そう言った無駄な突っ込みを受けそうな話は振らず、情報を伏せた形で話を進める。そして今の彼女はもう話は済んだとでも言いたげな顔をしている。柴犬チャームとの商談の時もそうだったが、こういう時のマロンは本当に頼もしい。…彼女曰く失敗だったそうだが。


 花子はマロンとセラアハトの会話が途切れたタイミングで腰の小物入れに手を突っ込み、丸まった羊皮紙をテーブルの上に置いて広げた。余計な追撃を防ぐため、話を切り替えるべく。――30階層の島。それの内の一つが描かれたものだと思われる地図。北西の海岸沿い、その一か所にバツが付けられたそれ。宝の地図を。


 「宝の地図だぁ!」


 第一声はシルバーカリス。彼女はそれが宝の地図に思えたようで灰色の瞳を銀色に輝かせ、心躍らせたような雰囲気になる。 


 「当ててやろうか? これはマロンが考えたな。こんな手の込んだ悪戯をするのはお前って決まってる。シルバーカリスは騙せても俺は騙せんぞ」


 シルバーカリスに追随する形でリックが声を発する。これを最初に見た時にマロンが見せたような、悪戯の類であると思った風な冷めた態度で、そしてある種の、決して良いとは言えない花子とマロンへの信頼感。それを確かに抱いた様子で。締まりのない笑みを浮かべて後頭部に両手をやったマロンの顔を一点に見据えて。


 「いや、リックさん。よく見てくださいよ。結構年季入った羊皮紙ですよ? 悪戯のためにこんなもの用意しますかね?」


 「やるね。花子とマロンならやるね。一か月近く一緒に暮らしてきたけど、こいつらは俺をおちょくるためなら一日潰すぐらいのことは平気でやるよ」


 シルバーカリスとリックが話し込んでいるその傍で、ただ一人セラアハトだけは声を発さず、どこか引っかかった風に口元に手を当て、地図を注視していた。だが、彼のことなど花子とマロンは気にせず、彼女たちの視線は見ていて楽しいリックへと向けられている。その反応だけで口元を楽し気に緩ませて。 

 

 しかし、このままでは話は進まない。悪戯と決めつけて頑固になっているリックに経緯を言って聞かせるのは面倒であるため、花子はすぐに信じて貰える方法を取ることにして、右手を地図の上へと置いた。地図に置かれたその右手。その花子の行為が理解できていないシルバーカリス、リック、セラアハトの三人の目が向いたところで花子はその身体に赤い稲妻を走らせて見せた。それによって三人は目を瞠り、周囲に居る人々の視線が一斉に花子の方へと向く。


 「どう? 信じて貰えたかしら?」


 花子は得意げにウインクし、その口元に微笑を作る。小生意気で大人ぶった顔をして。それによってリックの顔が冷めた物から一変し、シルバーカリスが見せたそれよりもなんだかワクワクしたようなものに変わった。宝探し。ロマン。女よりも男の方がこういったものに弱い。それがありありと感じ取れる反応だ。


 「――じゃっ…じゃあ…この宝の地図は本物なんだなっ?」


 今までに見た時がないほど心躍らせた様子のリックの問いかけに花子は何とも言わず、ゆっくりと右手の白革と黒革のガントレットを外していく。――半ばまで外したところで薬指にはめられた、赤い宝石が散りばめられたウサギの頭蓋骨の彫金がなされた指輪が顔を覗かせ、店から来るランプの明かりで自身を妖しく煌めかせた。


 「瓶の中に地図と一緒に入ってたわ。ユニークアイテム使ってまでしてこんな悪戯する奴が居るかしら?」


 赤い宝石の指輪が少しだけ見えるところでガントレットを外す手を止め、その手の向こう側から花子はリックの顔を眺めながら言うと間も無くガントレットを嵌めなおす。その彼女の瞳の先に居るリックはなんだかいつもと様子が違い、どこかそわそわした感じで周囲を見回すと、テーブルの上の地図をそそくさと丸め始めた。


 「…誰が盗み聞きしてるかわかったもんじゃない。花子、シルバーカリス。俺たちは明日以降戦力増強のためにこの宝とやらを見つけに行く。わかったな」


 ロマンと実利。それらからリックは花子とシルバーカリスの顔を交互に見て言うと丸めた地図を花子の方へと放る。花子はそれを受け取ると腰の小物入れにそれをしまい込み、それからリックへ向けて親指を立てて見せ、シルバーカリスは二度ほど頷いた。…明日以降の花子一行の予定が決まった。その瞬間、セラアハトが席から立った。


 「僕はそろそろ戻る。今日中に土地絡みの話纏めておくから、明日の朝また来てくれ」


 「なんだ。急だな。夕飯ぐらい一緒に食っていったらいいのに」


 「土地の権利者と話を付けて来なくちゃいけないし、うるさいのが居るからな」


 あてつけがましく、厭味ったらしく言うセラアハトの視線の先には頬杖をつく黒頭巾の少女。花子。何かと突っ掛かってくるセラアハトであるが、花子はそれを楽しんだ風にただ口元に笑みを作り、片手をひらひらと左右に振った。――その時、マロンの表情が締まりのないものから何かを懸念したかのようなものに変わる。何かに気が付いてしまったかのように。


 「頑張ってちょうだいね。私のために」


 明らかな挑発。当てつけ。リックの為に行動を起こす、すなわち彼女のためになる。その純然たる事実。とても癪に障る彼女の言い方にセラアハトは口元を苦々しく歪め、踵を返すと海を背にして島の内陸へと向かっていき、やがて道行く人々の中へと消えていった。花子はセラアハトの後姿を勝ち誇ったように眺めた後、テーブル中央にあるメニューを手繰り寄せる。その視界の端には時間を置かずして周囲のテラス席についていた複数のグループが会計を済ませて早々に去っていく様子がある。


 「リック、アンタはナマコとアメフラシ料理ね」


 「…は? なんで俺が…つか嫌なんだけど」


 「つべこべ言うんじゃないわよ。男でしょ」


 「いや…関係なくね?」


 早速リックにだる絡み始める花子。メニューの中にある所謂珍味、ゲテモノ。それらばかりをピックアップしてリックに注文するよう迫り、リックは顔を引き攣らせている。


 「…もしかしたらやべえ事しちまったかもな」


 そんないつもとあまり変わりのない賑やかな夕飯時の風景。ただ一人、静かにしていたマロンが不意に呟いた。何かを憂慮する曇った表情で、視線をテーブルの上に落として。


 「大丈夫ですよ、セラアハトさんはきっと約束守ってくれますって」


 「そうじゃねえ。セラアハトの坊やが権利者とか言ってたよな。…プレイヤーじゃねえとするなら…この階層はNPC間で土地の所有権が存在するって事になる」


 マロンは深刻そうに言うが、政治に疎く、一切興味がないシルバーカリスは事の重大さが分からないようで、小首を傾げてきょとんとするだけだ。


 「…それの何がまずいんですか?」


 「人は欲しい物があって、理屈が通りゃなんだってするってことだよ」


 思わせぶりで核心には触れないマロン。シルバーカリスは口の中で小さく唸って両腕を組み、視線を星々と月が彩る夜空へと向けて考えた風にする。その間にマロンとシルバーカリスの会話が気になった風な花子とリックの視線が彼女たちに向けられた。


 「マロンちゃんの言ってることは匂わせぶりでどうも…うーん…NPC…所有権…土地の持ち主が居るとするならその人から買い取れば…あっ…」


 少しだけ考え込んだシルバーカリスはぶつぶつと己の中で推理していたが、マロンが懸念していること、それに途中でぶち当たったらしく、はっとした顔をした後で真顔になって視線をマロンの顔へと向けた。


 「…ヤバそうですね。コレ」


 マロンの懸念。それはこの階層の既得権益を持つものを蹴落とす大義名分。それが金で買えるという事実。そう理解したシルバーカリスの表情は引き攣った笑みを浮かべ、小さく呟く。開けてしまったかもしれないパンドラの箱に考えを巡らせて。


 「そういうことよ。大義名分が買えちまう。今土地を支配している奴は不法占拠で自分達は正当な所有者だってな感じでな。…戦争の火種になる可能性がある」


 既得権益を守るため、大義名分を与えぬため。場合によってはモグモグカンパニーやPTが、土地の所有者であるとされるNPCを亡き者にすると言う強硬手段を取り得る可能性。マロンの話を聞いたシルバーカリスの脳裏に真っ先に浮かぶのはそれだった。…セラアハトを始めとするゴルドニアファミリアの人々を争いに巻き込んでしまう。NPCを人間として見なしているシルバーカリスはその考えに至った時、とてもセラアハトに協力してもらおうなどとは考えられなかった。


 「――他に大義名分を与えないために既得権益を持つ組織が土地の所有者とされるNPCを始末する可能性もあります。セラアハトさんたちの事を考えるなら土地を買わない方が良いんじゃないですか?」


 「言いたいことは分かる。でもあたしらが今目ぇ瞑ったところでいつかは誰かがこのやり方に気が付く。さっきの話聞いてた奴が居ねえとも限らねえ。NPCから土地を買ったことによって起こる問題は誰がやっても同じ。いや、後手になれば誰もが今以上に投資しちまって引くに引けなくなると見て間違いねえ。傷が浅く済むうちにやるべきだ」


 多少の犠牲は仕方がない。そうとでも言いたげにマロンは毅然とした態度で言う。シルバーカリスの懸念。彼女の考え。それらすべてをひっくるめて理解しながらも。それに対するシルバーカリスは反射的に口を開きかけたが、マロンの言っていることが頭では理解できており、今自分が言葉にしようとするそれがただの理想論であることを理解しているゆえにそれが言葉にされることはなかった。

 

 ふと、シルバーカリスは視線を感じる。その方向へと視線を向けてみれば、こちらに視線を向けている花子とリックの姿。花子は何くだらないことで悩んでいるんだかと言いたげな座った目、冷めた目で二人を見ていて、リックはいつもと変わらない素っ気ない顔をしている。


 「バカね。戦争なんてするわけないじゃない。そんなことにお金を掛けるぐらいならNPCの前に作った金貨の山の大きさで雌雄を決めるわよ。暗殺だって言っても何人殺さなきゃならないのか分かったもんじゃないし、現実的じゃないわ」


 花子の考え。そもそも争いなどは起こりはしない。そう高を括ったようなもの。通りで花子が冷めた目で自分たちを見るわけだ、とマロンとシルバーカリスはそれにとても納得出来てしまう。今さっきまで深刻そうに語っていたのが恥ずかしくなるレベルで。


 「俺も花子の意見が正しいと思う。既得権益持たない勢力はNPCの肩持つ形で団結するだろうし、そいつら相手に殴り合い出来るか? 仮に勝って権益守れたとしても失う物の方が大きいと思う」


 「そーそー、どうあってもモグモグカンパニーとPTが泣きを見てお仕舞いよ。ほら、アンタ達もさっさとメニュー選びなさいよ。こっちはお腹減ってんのよ!」


 花子の意見に便乗するリックと今の話題なんてどうでもいいと言わんばかりに、メニューをマロンとシルバーカリスに突き出す膨れっ面の花子。マロンとシルバーカリスは黙って花子からメニューを受け取り、それで顔を隠すようにしながらメニューに目をやった。あとでこれをネタとして揶揄われるかもしれない。そんな風に心の中で思いながら。


 一抹の危惧。懸念。花子の一言でそれらが吹っ飛び、彼女たち四人が囲むテーブルの雰囲気はいつもながらの明るさを取り戻す。そして料理の注文を経て始まる夕食。ゲテモノ料理を食べることを強いられるリック、だる絡んで強いる花子。それを見物し、にやつくマロンとゲテモノ料理に好奇心から、恐る恐る手を伸ばすシルバーカリス。夜空の下にある、賑やかな彼女たちの日常風景。それは今日も何事もなく一日が終われそうなことを示していた。

宝の地図とかいうロマン。いつ聞いてもワクワクするものです。

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