表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まさひこのパンケーキビルディングとその住人。打砕く者と守る者。  作者: TOYBOX_MARAUDER
闇の片鱗と目覚める小虎
43/109

ギルドマスター柴犬チャーム


 後ろには大楯を構えた重装歩兵たち。目の前には紫色のスーツ姿の厳つくガタイの良いヤクザのような男。その向こうには椅子に座り、呑気に眠るピエール吉田の姿。花子とマロンは暫くの間この状況を打破するための思考を巡らせていたが、冷静になった二人は同じ結論に行き着いた。


 「なぁ、花子。お前ハンカチ持ってねえか? 白いやつ」


 マロンは両手にダガーを逆手持ちにして身構えたまま、隣でマントの中に左手を隠したまま男を見据える花子を横目で見る。


 「こんな形で使うことになるとは思いもしなかったわ」


 花子はそれに反応し、口元に困ったような微笑を浮かべながら横目でマロンと視線を合わせ、鼻から息を吐き出すとマントの中に隠した左手を高々と己の上にへと掲げる。その手には真っ白いハンカチが指先で摘ままれていて、花子はそれを左右に振る。それによって四角く真っ白いハンカチが翻る。それは白旗のように。


 それを合図にマロンは逆手に持ったダガーを腰後ろにやり、それを鞘に納め、花子とマロンの目の前にいた紫色のスーツの男もやや身構えた風であった態勢を解き、軽く自分の身だしなみを整えるように襟やネクタイを弄った。


 ここで敵側のボスと思われる目の前の男を始末したところで何の意味もない。大体それが出来るかどうかがまず怪しい。戦いになれば後ろの重装歩兵たちはこちらに向かってくるだろうし、早々に踏みつぶされるのは目に見える。それにピエール吉田の救出が不可能になった時点で自分たちの敗北は決まったのだ。相手側の目的は大よそピエール吉田の酒造りの腕であるだろうが、話し合い次第では譲歩が望める可能性はある。結果の見えた戦いをするよりかは取引で活路を見出す。それが二人が出した答えだった。


 「…賢い子たちだ」


 紫色のスーツの男は一言言うと口角を上げ、その大きな部屋の中にある四人が囲めるであろう小さな円卓へと向かい始め、それと同時に部屋の出入り口付近で固まっていた重装歩兵の内二人が前進し始める。


 「おーいッ、赤十字条約を忘れるなぁ!」


 「そーよッ、軍人でもなんでもないけど!」


 マロンと花子は動き出した重症歩兵二人の方へ振り返り、両手を肩の高さに上げつつ自分たちの方へ迫ってくる二人の重装歩兵へ切羽詰まったような顔をして呼びかける。


 「お前ら面白いな」


 二人の重装歩兵の内一人、通り過ぎ様、花子とマロンに顔を向け、笑い交じりの声で一言言うと部屋の中心にある椅子に座るピエール吉田のところまで行き、彼を担いで紫色のスーツの男がいる円卓の一席へと運び始める。捕まるのではと考えていたマロンと花子はそれが思い過ごしだったと理解すると胸を撫で下ろした。


 「少し話をしよう」


 そんな彼女たちを円卓から見ていた紫色のスーツの男が声を掛け、花子とマロンはお互いの顔を見合わせた後、円卓の方へと歩み寄り、各々円卓の前の椅子を引く。


 煌びやかなシャンデリアが白い光で広い部屋を照らす。その室内にある四人で囲めるであろう円卓。それを花子とマロン、眠ったままのピエール吉田と紫のスーツの男は囲んでいた。


 周囲には重装鎧に身を包んだガタイの良い男たち。ここから逃げるのはもう無理そうだ。そう思えてしまう光景が花子とマロンを取り巻いていた。


 「自己紹介がまだだったね。私の名前は柴犬チャーム…。この鋼血騎士団のギルドマスターだ」


 円卓の上に両肘をつき、両手を組みながらその紫色のスーツの男、柴犬チャームは落ち着いた声色で語りかける。目つきこそ悪いが優しい笑みをその顔に浮かべ、その鋭い目つきで円卓に付く各々の顔を眺めて。


 「知らねーな。そんな可愛い名前の奴。つかそんな厳つい顔して柴犬チャームなのか。いいネーミングセンスしてやがる」


 マロンはそのふかふかの椅子の背もたれに深く背を預け、後頭部に両手をやりながらその男、柴犬チャームの顔を眺めている。己の殺生与奪の権利を持つ相手に接するにはあまりにも太々しい態度で。


 「実は私も気に入っていてね。自分の中では渾身の出来だとすら思っている」


 「んで、その柴犬チャームさんは侵入者のあたしらの身ぐるみ剥がさずに置いてくれる理由はなんだい? あたしのファンか?」


 ニカッと笑ってマロンは柴犬チャームのグレーの瞳を眺める。柴犬チャームはそれに瞳を閉じ、会話を楽しんだように口元に笑みを浮かべながら首を横に振った。最初見た時やたら攻撃的な笑みを浮かべていたように見えたが、そのヤクザのような厳つい顔つきのせいでそう見えただけなのかもしれない。そんな穏やかな彼の様子を見ていて、花子はそう思った。


 「ふふ…そうではないが、女や子供に手を上げない。男としてのメンツが私にもある」


 「オイ聞いたかお前ら。今親分がスゲー良いこと言った。あたしらが逃げ出そうとしても攻撃すんじゃねーぞ」

 

 マロンは自分たちを取り囲む重装鎧のプレイヤーたちの方へと振り返り、一人一人に目をやりながら釘を刺すように言う。その一切物怖じしない図々しく、調子のいい態度に重装鎧のプレイヤーたちの中からクスクスと僅かに笑い声が上がった。


 「なんでこのバカを浚ったのよ。勝手なことされると困るのよね」


 マロンに任せていると話が脱線しかねない。まずは糸口を見つける。まず相手が何を望んでいるか。それを明確にするため、花子は話を振る。ヤングナイトでの話を聞いている限り、おおよその予想はついてはいるが。


 「吉田さんは私たちを30階層に送ることをモグモグカンパニーに対しての裏切りだと思っているようでね。少し前から話をさせてもらっていたが、なかなか応じて貰えなかった。なので今回少々手荒なやり方をさせてもらった」


 ヤングナイトに居た男やマロンの推理は大きく外れていたようだった。まあ今のその発言自体が真実なのかは一切わからないが。そういえばピアノトリオのための楽器を運んで来たのが此処の人間だったっけと花子は思い出し、黙って耳を傾け、傍に居るマロンはその柴犬チャームの発言に対し、ものすごく懐疑的に思った風な疑念に満ちた渋い表情をする。

 

 「お前らがモグモグカンパニーに敵対的ってのはよく聞く話だなぁ。モグモグカンパニー出し抜くためにより上の階層に行こうって考えか?」


 柴犬チャームの言葉を信じた風ではないが、その発言に合わせた問いをマロンは掛ける。その問いかけによって生じる表情や言葉の些細な変化。それらを観察するような目をしながら。


 「そんなところだ。彼らにはちょっとした借りがあってね。それを返すために強くなって置きたいのさ」


 メンツ。借り。マロンはなんだか花子に似ていると感じるそのおっさん、柴犬チャームを眺めた後、自分の傍に居る花子へと視線をやる。花子はその視線の真意がわからないらしく、きょとんとした顔をし、小首を傾げている。こいつもこんな反応をするのかと意外に思いながら、マロンは再び柴犬チャームの厳つい顔へと視線を戻す。


 と、そのマロンの視線の意を勘違いした花子は何かに気が付いたような顔をし、小物入れを弄り、その中から空になったポーションの小瓶を取り出すとそれをピエール吉田の鼻提灯に向けて放った。それは鈍い音を立て、ピエール吉田の鼻へとあたり、痛みによって彼の意識を覚醒させる。


 「こら、人に物を投げてはいけません」


 「…今後気を付けるわ」


 それを見ていた柴犬チャームが花子を叱りつけるように言う。その雰囲気は子に過干渉気味な父親たちが放つそれだ。こんなヤクザみたいな成りで妻子持ちなのか? 花子は話の本筋に関係ないところで驚きつつ、やや怯んだ花子は柴犬チャームに返事を返す。


 その最中、痛みに鼻を押さえつつピエール吉田は周囲の状況を確認するようにあたりを見回す。彼はマロンと花子の姿をその目に映すと驚いたような、そして動揺したような表情をした。


 「私もこんなやり方は本意ではないんですがね、吉田さん。ライブを台無しにしたくなければ私の言うことを聞く他ありませんよ」


 毅然とした態度で、柴犬チャームは目を覚ましたばかりのピエール吉田に言い、その厳しい視線でキラキラしたピエール吉田の瞳を見据える。明らかなる脅迫の念が感じられるそれは、今さっき花子に説教した人間とは思えぬ様子、道徳観。しかしそこには利益のために人を利用する薄汚さなどは無く、一切のぶれのない純粋な報復心、復讐心が伺える強い意志を感じるものだ。オルガとモグモグカンパニーのことだ。シルバーカリスのような犠牲者を知らずのうちに作っている可能性は十分にある。そう考えると花子は自然と柴犬チャームの態度に納得できてしまった。


 ピエール吉田は何かを言おうと口を開きかけるが、すぐに俯いた。これは話し合いではない。武力を背景とし、こちら側の足元を見た一方的な要求。つまらない意地を張ればライブは無くなる。実質的に応じるしか道のないもの。ただ本を使ってピエール吉田が30階層に飛ぶというのであれば、自分やマロンもその時に本を使えばこの場から逃げられる。そういう意味ではピエール吉田が情報を提供すれば、自分達の無事は確保される取引ではある。柴犬チャームがそれ以降自分たちに要求することも出来ないフェアな取引だ。


 そこで花子は何か企んだ様な顔をし、静かで、しかし悪そうな笑みを浮かべるマロンに気が付いた。悪さの魅力の感じるその彼女の視線は柴犬チャームへと向けられている。柴犬チャームの動機の真偽を見定めたその目が。


 「おもしれえ話だな。幾らで買う?」


 マロンは後頭部にやった手を己の身体の前に戻し、椅子に座りなおすと両肘を円卓の上に立てて両手を組んだ。まるで少女のものとは思えぬ眼光。それに柴犬チャームはその悪い目つきを細めて、悪い笑みを浮かべる。ピエール吉田にとってマロンのその言葉は想定外だったようで、驚いた顔をしてマロンのその横顔を見ている。


 「これは取引だ。金さえ払えば30階層まで飛ばす。この話は武力を背景にした無理強いではない。お互い同意の元の商談…そうだろ? 柴犬チャームさんよ」


 鋼血騎士団側からすれば誘拐犯にならず、体裁が保ててマロンを通してほしい物が手に入る。少々金が掛かるが柴犬チャームにとって良い話だ。視線を円卓の上で交差させるマロンと柴犬チャームの中で、ある種の、協力関係が言葉を交わさずに生まれた瞬間だった。


 「マロンちゃん…! そんなこと…!」


 ピエール吉田はようやっと声を発し、困惑と少しの怒りとが混ざったような様子でマロンに何か言いかけるが、悪い薄ら笑いを浮かべるマロンに見据えられてすぐに黙った。


 「おっちゃん、別にアンタがモグモグカンパニーの肩持つ理由なんてねえんだろ? デケー客で金払いもよかったのかもしれねえが、感じる必要のねえ義理で後ろについてくる奴らに迷惑掛けんのはやめろ」


 マロンは厳しい口調で、ピエール吉田を見透かしたように言う。今回のライブイベントの出資者であるモグモグカンパニーに対しての恩。人が良いからこそ存分に感じ、それに勝手に報いようとする姿勢。人としては素晴らしいとは思うが、それは理想主義的で、現実が見えていないようにマロンには思えたのかもしれない。客観的に見てしまえばサービスを提供する者とそれを買い取る者。ただそれだけなのだ。その間に義理などない。


 どっちの意見も正しそうに花子は思うが、勝手に抱いた義理で仲間に迷惑を掛けるのはやっぱり肯定し辛い物に感じる。まぁ、ピエール吉田自身鋼血騎士団が実力行使に出るとは思いもしなかったのかもしれないが。


 ピエール吉田が沈黙したのを確認したのち、マロンは再び柴犬チャームに視線を向けた。一階層の魔境から這い上がってきたマロンと実力行使も辞さない武闘派ギルド、鋼血騎士団のギルドマスター柴犬チャーム。その二人の鋭い眼光が再び交差する。


 「三億ゴールド」


 まず、マロンが口を開いた。三億ゴールド。食料品が高い世界ではあるが、家の建材や武器の素材等は案外安めに買えるこの世界。小さな町程度なら作れる金額だ。こういった交渉など一切行ってこなかった花子はその巨額な金額を平然と要求したマロンの横顔を驚いたように見据える。


 「一億五千」


 柴犬チャームは真直ぐマロンを見据えたまま、静かに言う。普通の子供なら怯えて萎縮してしまうような雰囲気であるが、マロンは一切表情を崩さず、その瞳に柴犬チャームを映している。


 「二億五千」


 「殺生与奪の権利はまだこちらにあることを理解しているか? 一億八千」


 「そうなりゃライブぶっ潰した悪名高いギルドとして30階層までは自分の足で行くんだな。二億三千」


 度胸のある女だと思ってはいたが、想像以上だ。微笑が浮かぶマロンの横顔は今の状況を楽しんだ風ですらある。


 「わかった。二億ゴールド。これ以上は出さん」


 柴犬チャームは眉間に皺を寄せながら、その大きな背中を椅子の背もたれに預けた。それにより椅子が軋み、ギシッと音が立つ。


 マロンはその言葉を聞き、双眸を閉じると椅子から立ち、円卓の上に身を乗り出すと、ニンマリした顔をしながら閉じた双眸を開き、ライトアイボリーの瞳で柴犬チャームの顔を眺めながら、右手を差し出した。


 「商談成立だな」


 「君のような子供がいるなんてな。末恐ろしい奴だよ」


 二人は口元に微笑を浮かべ、固く握手を交わす。ピエール吉田は落ち込んだ風にし、傍観者であった花子はマントの中で腕を組む。なんとなくそう思っていたが、芸能事務所フルブロッサムを実際に動かしているのはマロンなのだと、その時初めて花子は確信した。 


 握手が終わり、マロンと柴犬チャームが両手を離した後、柴犬チャームはスーツの内ポケットから万年筆と小切手を一枚取り出し、それにペンを走らせて円卓の上を滑らせ、マロンの前に置いた。


 「おう、おっちゃん。柴犬チャームと一緒に飛んでくれ」


 「マロンちゃん…僕は…」


 マロンの要求にピエール吉田はまだなんだか煮え切らない様子だ。マロンはそんなピエール吉田の方へと顔を向け、ため息を一つついて自分の後頭部を右手で掻いた。


 「綺麗ごとじゃ自分は守れねえ。アンタのそういうところ嫌いじゃねえけど…最初の頃一緒に思い知ったはずだぜ?」

 

 どことなく言い聞かせるようなマロンの一言。それによりピエール吉田は押し黙ったまま、ベルト回りにある小物入れから本を取り出した。そして柴犬チャームの肩に手を触れ、開かれた本の中に描かれている白い砂浜とアクアマリンの海の絵に親指で触れて、柴犬チャームと共に姿を消した。それを見届けた後、マロンはテーブルの上の小切手を手に取り、それを小物入れに突っ込む。

 

 マロンとピエール吉田の過去にいったい何があったのだろう。そう思えてしまう光景であったが、なんか重い話になりそうなので、花子はそれにタッチせず、腰の小物入れから本を取り出す。少しの間話しただけではあるが、柴犬チャームは悪い男ではない。そしてその手下も。このまま帰してくれる。そう思って本を開く。


 しかし、本の絵は灰色のままだ。花子はそこで周囲の重装歩兵たちを見回す。彼らは帰らないのか? とでも言いたげな視線を送り返してくるだけで今の現象に関与した様子はない。


 そして次の瞬間、けたたましいガラスを突き破る音と共に、割れた窓の向こう側から建物上方から垂れ下げられたロープに掴まり、侵入してくる複数の人影。全員が全員身体が大きく、たくましい肉体をしていることが分かり、身体に張り付くような無駄な装飾等のない武骨な胸当て、ガントレット、足具。その下に青い厚手の服を着ている。頭部を守る防具は特に特徴的で、目の辺りを丸く縁取る、ガラスの嵌められた鉄仮面。それの口元を灰色の布で覆っている。その右手にある武器は先端部が縦長の針の長いモーニングスター。左手に柄を覆う大きなガードが取り付けられたマインゴーシュを持っている。背中にはクロスボウのようなものまである。


 当然、その正体不明の襲撃者に鋼血騎士団の重装歩兵たちは反応し、向かっていくが…


 「なんだこいつらッ…!」


 「増援、増援をッ!」


 「ぐあぁっ!」


 それはもう圧倒的な組織力、個の力で瞬く間に重装歩兵たちを片付けていく。一方的にすら思える戦い。否、虐殺。動きが早く、無駄がなく。左手のマインゴーシュで鎧の隙間を狙い、モーニングスターで鎧ごと身体を砕く。花子とマロンは急いで武器を抜き、その正体不明の襲撃者たちに向き直る。その間に聞こえるのは悲鳴と襲撃者たちが鉄仮面の中で発する籠った物々しい低い声。それだけで戦意を喪失するような鬼気迫るものがある。


 勝てる気がしない。個としての戦闘能力は別次元だ。そして何よりも恐ろしいのがお互いの腹の内を以心伝心で感じ取っているかのような連携。まるで特殊部隊のような洗練された動き。花子の額にも、マロンの額にも汗が浮かび、二人は真っ先に逃げることを考え始める。


 「花子さんとマロンさんですね?」


 花子とマロンが身構えていると急に後ろから籠った声がした。二人が振り返れば襲撃者の中の一人がいつの間にか背後に立っていて、その内側が見通せない眼の辺りに嵌められた厚く丸いガラスに二人の姿を映している。味方なのか? そう思いながら花子は浅くなった呼吸のままその問いに頷く。


 するとその男は右手に持ったモーニングスターを腰に掛け、右手を自分の耳元に持っていく。


 「みたらしワンから団子パックへ。目標の確保に成功した。これより回収地点へ向かう。オーバー」


 『了解、5分以内に回収地点に到達せよ。アウト』


 無線でやり取りするかのように一人で呟くと彼の右手から何やら聞き取りやすい女性のものと思われる返事が聞こえた。彼は腰の鞘にマインゴーシュを納め、花子の前へと立った。その表情の読めぬ姿もそうであるが、その立派な体格がものすごい威圧感を放っている。


 「ちょっ、ちょちょっ…!」


 「わっ、わっ…!」


 花子とマロンは別々の襲撃者に抱えられ、彼らはそのまま走って突き破られた窓の外へと飛んだ。高さは三階。落ちれば無事で済みそうではない。しかし彼らはさも当然のように着地し、走っていく。まるで風を切るかのように。


 鋼血騎士団の敷地を囲む柵にある、襲撃者の彼らが破壊したと思われる個所。そこから彼らは屋敷の敷地から外へと出、ペースを一切落とすことなく、迷うことなく走っていき、やがて薄暗い路地に到着する。戦闘能力もさることながらレベル自体も恐らく桁違い。運ばれている花子はなんとなく察する。 


 自分を運ぶ者の進行方向を見てみると大き目の馬車が止まっているのが見えた。彼らはそれの上に花子とマロンを乗せた後、続いて馬車に乗り込み始める。人数は8人。全員が全員同じ物々しい姿をしている。彼らは人に見られたくない立場の人間なのか、馬車の隅にまとめて置いてあったローブを重ね着、自分達を覆い隠した。それのあとで馬車は動き始める。ガタガタと音を立てながら、今の花子の家である白い宮殿のある高級住宅地へと向かって。 

先端の丸い部分が鎖で繋がれている物がフレイル。棒状になっているのがモーニングスター。後者はメイスの一種ですな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ