ホストクラブと困った客
花子たちが住む白い宮殿のエントランスホール。その中心にある噴水の前に鉄製の白い椅子に座らされたハイドアーマー姿の男の姿。今さっき目覚めたそれは椅子の肘置きと前足に革のベルトを用いて手足を縛り付けられたその状態で、自分の目の前に立つ、自分を殴り倒した黒頭巾の少女の顔を眺めていた。それはもう腹を立てたような、そして居心地の悪そうな様子で。
その周囲にはそれらを取り囲むようにして集まっているそれぞれ個性を持った、容姿端麗な少女たちの姿。各々自分の鎧に身を包み、その手に武器を握りしめて椅子に拘束された、明るいブロンドの髪の少年を見据えている。
「マロン先輩、モグモグカンパニーの人たちに相談したら助けてくれると思うのだけれど」
「今それを公にすればライブがパーになりかねねえ。公になる前に内々でどうにかするのが一番だ」
「理想を言えばそうかもしれないけど、どうにかできると思う? きっと相手はどこかのギルドよ?」
「花子とあたしが居りゃ何とかなる。攻略勢の花子と…この階層で最もレベルの高いあたしが居りゃな…」
柘榴とマロンは深刻そうな面持ちで話し合っていた。ライブは明後日。モグモグカンパニーとの話し合い窓口はピエール吉田で、マロンたちは何も知らない。芸能事務所フルブロッサムとしてはどうあってもピエール吉田を取り戻さねばならない状況にあった。
「話し始めるまでに二秒だけあげるわ。仲間は何処?」
少年より歳の低いであろう黒頭巾の少女による高圧的で、命令口調な問いかけ。リアルの世界では学校という年齢による明確な序列が存在するそれに所属しているがために、それは少年に取ってとても生意気に思え、気に食わなく、自然と反発心が生まれる。今尋問を受けている少年、リックはその二秒の間に口を開くことなく、自分の目の前にいる黒頭巾の少女である花子の碧い目を橙色のその目で何も言わずに睨んだ。
「あら、手荒いのが好み? 奇遇ね。私も好きなの」
「!…うあっ…!…!」
花子はそれは生意気で、独特な色気のある、どこか気障な笑みを浮かべると少年の胸倉を左手で掴み、椅子ごと噴水の縁の上に倒し、少年の顔を仰向けにさせた状態で噴水の水面に顔面を沈め、そのあと乱暴に胸倉を掴む左手を引いて水面の中から引き戻す。結構えげつない真似を平然とやるその花子の様子にその場に居る芸能事務所フルブロッサムのアイドルたちの中からどよめきの声が上がる。
「がはっ! …がっ…げほっ、げほ……はぁ、はぁッ…!」
仰向けに水面に着けられたことにより、鼻の奥に水が入り、溺れるような感覚を感じ、その苦しみから引き戻されたリックはボタボタと水をその顔から垂らしながら、それは辛そうに顔を歪めて咳き込み、呼吸を整えている。
「これで少しは舌が回るようになったんじゃないかしら?」
やや弾んだ花子の声と共にリックの胸倉を掴む左手が前進し、リックの後頭部が噴水の水面に触れる。痛みはないが、激しい苦しみ。それが目の前に来たことにより、リックの表情は恐怖に歪む。
「…仲間を売るほど墜ちちゃいない」
「へぇ、それは立派ね」
しかし、リックの口から発せされる言葉はその恐怖に抗う、気丈で健気なものだ。年上としてのプライドか、仲間を思うが故の強がりか。そんな殊勝な彼の姿を花子は見下ろし、フンと鼻を鳴らして笑うと再び彼の顔面を噴水の水面の中にへと沈める。
水の中で上がる激しい水泡。その顔は強い苦しみに歪み、椅子の足や肘置きに括りつけられた彼の身体はガタガタと音を立てて大きく動き、間も無く彼の顔は水面の上へと引き戻される。少しずつ少しずつ。気を失わせないように丁寧に加減する花子の手によって。
「っ、がふっ…! げほっ! …げほっ! あぁ…!」
リックは激しく咳き込み、勢いよく水を吐き出して、落ち着いたところで虚ろになった目で花子の碧い目を見据える。そのリックの橙色の瞳に映る黒頭巾の中の花子の顔は口元から噛みしめた歯を覗かせ、それは楽しそうな、サディスティックで攻撃的な笑みを浮かべたもので、情報の聞き出しを目的としはするものの、それと同時にこの行為自体楽しんでいる風なそれはリックの心の中により深い絶望を与えるのには十分だった。
そこで一度、花子はリックの身体を引っ張り、椅子の脚を青い絨毯の敷かれた床へと付け、正常な形にへと戻す。
「はぁ…はぁっ…お前らが至る所から恨まれている理由がよくわかったよ」
息絶え絶えになりながらもリックは不敵に笑う。その段階でただそれは、仲間のためでも使命感でもない、男としてのプライド、年上としての意地だけがそうさせる虚勢であると花子はなんとなく見抜いていた。
「本当のことを言うとね、アンタたちのせいにして舞台に上がらないことを正当化するのもアリだと思っているの」
「…?」
唐突に話を変える花子。リックはその何の脈絡もない自分語りに訝しんだ風な顔をする。
「でも主義ってのは厄介よね、私の場合メンツを何よりも気にするから…このまま引き下がるわけにもいかなくてね」
花子は語りながら、右手に持った盾を鎧のベルトに掛け、椅子に拘束されたリックの前から左回りで回り込むようにして彼の背後に回り、その肩に手を置く。リックはそれに身を強張らせ、何をしているか分からない背後にいる花子の方へ意識を集中させる。
「これ知ってる? 階層間を行き来するための本」
リックの目の前に片手で本を開いた花子の手が伸びてきて、氷と雪原の銀世界が描かれたページが彼の瞳に映る。
「雪原の中、手足縛られた状態で放置されたらどうなるのかしらね」
「…本気か? 俺が死にでもしたらログが残る。ゲームが終わった後逮捕されるぞ」
明確な焦り。危機感。聞く者にそれらを感じさせるリックの声色。それを聞く花子の顔は涼しいもので、会話を楽しんだ風ですらある。
「それまでの過程がそれほど細かくログに残るかしら? 精々死んだ場所の位置情報と死因ぐらいじゃない? その時のアンタの死因は凍死。誰かから攻撃されたわけでもないわけ」
本を開く花子の親指が開かれた本のページへとゆっくり動き始める。背後にいるその少女の表情こそ見えないが、おそらく本気だ。幼いからこそことの重大さを理解しない。幼いからこそ残酷になれる。年下の少女の言いなりになることが癪だっただけのリックはそこで急いで口を開いた。
「待てッ、わかった、喋るよ…」
「ふふっ、お利口さんね」
花子はそれは機嫌良さそうな静かな笑い声を立て、その手でリックの頭を撫でる。リックはそれに反発したような気に入らなそうな顔をしてはいたが、花子の勢いに飲まれ、屈したリックには屈辱的には感じられないものだった。
「屋台通り近くにヤングナイトってホストクラブがある」
「あのバカさらった理由は?」
「俺は下っ端だから良く知らねえ。上からの命令でやれって言われたからやった。でも心当たりあんだろ? お前らがデカくなればなるほど客がそっちに吸われるんだ」
「ホストクラブは女性客、私たちは男性客。客層が違わない?」
「水商売やってるところは大体ほかに違う客層を集める店をやってるもんなんだよ」
花子はそこで口を閉じ、ゆっくりとした動きでリックの前へと戻ってきて、彼の橙色の瞳を見据えた。
「今聞いたことが嘘だったら後で雪原に置いてくるけど…ほかに何か言っておきたいことはない?」
「嘘じゃねえっての」
確認を取るように花子は言い、それに不機嫌そうに反発するリック。部分的に話してこちらをかく乱するような強かさや頭の良さ持っていないであろうその少年の顔を暫く花子は見つめた後、踵を返し、その尋問の様子を腕を組んで眺めていた革と金属の白い鎧に身を包んだマロンの方へと目をやる。
「さ、行くわよ」
「おう」
マロンは短く返事をし、本を開いた花子の肩に手を置いた。
ここに戻ってくる道中決まったことだが、レベルが高く、戦闘経験のある花子、そしてレベルが特に高いマロンとでピエール吉田を救出する形で話はついていた。敵側に動きを察知される危険性を考慮しての少数精鋭。シルバーカリスや柘榴など他のアイドルたちが二人に視線を向ける中、花子は一階層の街の絵が描かれたページに触れる。正義も悪もない、ただ自分のメンツを立てるための自己満足の戦い向かって。
*
そろそろ陽が一番高いところに上るであろうその時刻。その黒革と骨とマントの中装鎧の黒い装備の少女と白革と金属の軽装鎧に身を包んだ白い装備の少女はホストクラブ、ヤングナイトの扉の前に立っていた。黒い石材で作られたその佇まいはまさに夜の店と言った感じのもので、営業時間を大きく外れた時刻であるため、当然開いては居なかった。
「花子ぉ、頼りにしてるぜ」
「アンタも頑張んなさいよね。45レベル」
花子は左手にグラディウスを抜いてそれをマントの中に隠し、右手の盾のグリップをその感覚確かめるかのように何度か握り、マロンは腰にある二本の鋭利な曲剣を抜き放つ。
「いくわよ」
「あぁ、いつでもいいぜ」
準備が整った二人は互いの顔を見合わせた後、二人そろってその足を前に突き出し、その立派な金属の扉を蹴破った。
「どぉーもー! 天パでまつ毛の長い目がキラッキラしたおっさん指名したいんすけどー!」
「ここに居んのはわかってんのよッ! さっさと出しなさい!」
開け放たれた扉の向こうには、ミラーボールが天井に輝く、黒を基調とした広い空間。ミラーボールからの明かりが散り、その黒い店内に光の断片を落とすそれは、夜空の星々を思わせる、見る人間によってはロマンチックに感じるような場所だった。
そしてそこにいる派手なスーツ姿の髪の長く、細い身体の男たち。その人数は七人。突然の襲撃者にも驚くこともなく、まるで覚悟していたかのように各々手に持った武器を構えるが、マロンを見た一部の人間はやや怯んだ様な顔をした。そんな彼らの持つ武器はレイピアや直剣。それもどれも見栄えのいいもので、アクセサリーとしても様になるようなものだ。そこにはピエール吉田の姿はない。
「おーおー、知ってるツラが何人かいるなぁ。ハッ、ヘナチン共が。水商売ギルド同士協力してフルブロッサムをどうにかしようってわけかよ」
マロンはその鋭利な曲剣の刃先を下へと向けつつ、ゆっくりとした足取りでその広い店内の中心で武器を構える男たちの方へと近づいて行く。突出して高いレベルを過信してか、腕っぷしに自信があるのかはわからないが、それは花子にとって不用意にも思えるものだった。いつでもカバーできるよう、花子は神経をとがらせる。
「吉田のおっちゃんはどこだ?」
「さあな」
憎き敵を見るかのような顔でマロンを睨む男達。身なりからしてここの店の従業員…というよりは水商売を生業とするギルドのリーダーたちに見えるそれらは、止まることなく進んでくるマロンの間合いに入る直前に距離を一気に詰めてマロンに対して切りかかった。
「いいねぇ…上等だよ」
マロンそれにいち早く反応して半歩ほど下がり、一番自分に接近し、その身体を伸ばし切った男のレイピアでの突きを左手で持った曲剣で逸らすとほぼ同時に右手に持つ曲剣でその男の腹を裂いた。
「ぐぉっ…!」
深刻なダメージを受け、その男の動きは止まる。しかしそれの直後に花子が前へと出て、今崩れ落ちんとする男の身体を盾で突き、その倒れ掛かる身体を避けようと下がった男二人を追いかけ…
「がぁっ!」
「クソガキぃッ!」
その二人の腹部をその手に持った白いグラディウスで横に裂いた。それと一歩遅く花子に振り下ろされる直剣をしっかり盾でガードする。常に守られていたが腐っても攻略勢。その戦闘能力は戦い慣れしていない者たちをはるかに凌駕するものだ。
あっという間に三人崩れ落ちたことにより、残りの四人は怯み、花子とマロンはまだ意識を断ち切れていないその三人の身体を盾にするように立ちまわりつつ、一人一人しっかりと止めを刺していく。ほんの短い間の後、四人が再び闘志を取り戻し、彼女たちに剣を振り上げた頃には傷ついた最後の一人が花子の手によって止めを刺されるところであった。
「せいっ!」
「おわっ…!」
向かってくる男たちに向かい、斬られた腹部を抑えつつもまだ闘志を失った風ではない男の尻を蹴とばし、向かってくる男たちの剣先が同士討ちを避けようと迷いが出来たところで盾を構えて突進する。身を低くし、蹴とばした男の背に隠れながら。
そして通り過ぎ様に一番近くにいた男の腹を裂き、背中へと振り下ろされる剣を円盾で弾き、身体を急ターンさせ、武器が弾かれて身体の流れた男の身体に体当たりする形でグラディウスを深々と腹部に突き立てる。
「きっ…きたねえぞ…!」
「ハンッ、何とでも言うがいいわよ」
腹部を深く刺された男は気を失う間際、自分に密着して己の身体を盾のようにして使い、他からの攻撃を躊躇わせる花子のえげつない戦い方に対し、負け惜しみのように言う。花子はそれに機嫌良さそうに口角を上げ、そんな彼の身体を他二人の方へ向けて盾で突き、自分の身体から離すと水平方向にピシッと伸びた前蹴りでその男の腹部を蹴っ飛ばし、他二人の方向へその男の身体を突っ込ませた。
花子が大人しくしている間、残りの二人は先にマロンを倒してしまおうと彼女と格闘していたが、攻撃を避け、ガードすることに注力して時間を稼ぐ彼女を仕留めきれる様子はなく、花子に蹴っ飛ばされた男の身体がその二人の背に凭れ掛かったことをきっかけに、彼らは大きな隙を作ってしまった。
「ナイスゥ! 花子ちゃん!」
マロンはその隙を見逃さない。バックステップとサイドステップを多用し、攻撃を躱していたその脚で今度は二人の敵の方へと向けて地面を蹴る。日々ダンスをやっているだけあって体幹は強く、動きにブレがなく、体重移動がスムーズだ。そして左右の手に持った曲剣の刃を冷たくも美しく閃かせ、一人の首元を裂き、そして最後に残った灰色のストライプ柄のスーツを身に着ける男の武器を持つ方の手首を切り落とした。
「いや~、花子ぉ…あたしお前にイカれちまいそうだ。ジャズもカッケーし、戦いも出来るし」
「はいはい、どうも。で、そこで蹲ってるおっさんは喋ってくれそうなの?」
戦いが終わった後、マロンは一仕事終えた様子で、花子は生き残りがいないか警戒した様子で会話をする。花子が見る限り、ミラーボールが輝く店内の中で生き残っているのは、もう自分達と手首を切り落とされて蹲る灰色のストライプスーツの男だけだった。
「任せて頂戴よ。このマロンちゃんの得意分野だぜ」
「そう。騒ぎ聞きつけた衛兵が集まってこないうちに頼むわよ」
マロンは腕を切り落とされ、蹲る灰色のストライプ柄のスーツを身に着ける男に目をやり、その近くに転がっていた彼が持っていたレイピアを手首ごと遠くへ蹴っ飛ばす。それによりストライプスーツの男の顔は己の前へと立つマロンへと向けられる。
「あたしがナイトランナーっつー盗賊ギルドとつるんでるのは知ってんな」
「…今じゃ押し入りもやるなんてな。そんな度胸いつの間についたんだか。悪ガキが」
男は己の切り落とされて先がない手首を抑えたまま、額に汗を滲ませつつ意地の悪い笑みを浮かべて悪態をつく。さすがは水商売ギルドのお偉いさん。その様は結構渋くてかっこよく見える。
「これが押し入りになるかどうかはテメーの出方次第だぜ。おっちゃんの場所は?」
「…PTだ」
案外簡単にマロンの問いかけに答えたストライプスーツの男。しかし、彼の笑みからは店の中を盗賊ギルドに荒らされることと仲間を裏切ることを天秤にかけたような葛藤のようなものは感じない。それどころかもうすでに目標は達成し、自分達は勝利したというようなものだ。そしてPTという言葉を聞いたマロンの顔がそれはもう面倒に思った風なものに変わる。
「パンケーキビルディングタバコ産業か。なんでお前らがタバコカルテルの鋼血騎士団なんかと…適当ぶっこいてんじゃねえだろうな?」
「俺たちは金で雇われただけだ。大方吉田のおっさんに酒でも造らせようってんだろ。最近流れてる得体のしれん安酒は鋼血騎士団が流してるって話だしな」
「なるほどな。お前らとしてはいい酒が安く手に入ってフルブロッサムが潰れて万々歳…ってわけか」
「ご名答。お利口だな。ホイップクリームマロンちゃん」
「チッ、吉田のおっちゃんをライブ当日まで閉じ込めておいてライブを失敗させようとしてるってぐらいに考えてたけど話がデカくなってきやがったな」
ホイップクリームマロンちゃんとしてではない、マロンの本来の顔。本来の姿が垣間見える会話。花子と同じぐらいの年齢にしては肝が据わっている印象を受けてはいたが、叩けば埃が出て来そうなキナ臭さを感じさせる。そして二人の会話はこのまさひこのパンケーキビルディングにおける勢力間の利権に絡むような、政治色の強いものだ。ただ目の前に居る敵を倒し、次の階層へ飛ぶための本を探していた花子にとってちんぷんかんぷん。完全に置いてきぼりだった。
「わざわざ戦って時間稼ぎしたってことはここから連れ出されて時間は経ってねえ…」
マロンはその両手に持った曲剣を鞘へと納めると花子の方へと振り返る。
「おい、花子。この近くに鋼血騎士団の拠点がある。そこにカチコミしにいくぞ。あたしに喧嘩売りやがったらどうなるかしっかり教えてやんねーとな」
芸能界という業界で大金を稼ぐマロン。その利権が脅かされようとしていることを認識した彼女のその顔は、作り物であるホイップクリームマロンちゃんとしてのものはひとかけらもない。嘘偽りのない姿。真実の姿。それはこの一階層という利権が渦巻く魔境を生き抜き、成り上がってきた一人の女、マロンとしての血気溢れる邪悪さを感じる笑み。そこには善だろうが悪だろうが邪魔をするものがあればぶっ飛ばす。そんな意志が感じられるものだった。
花子はその顔を見て初めてマロンを見たような気がして、嬉しくなって口元に微笑を浮かべる。こんなにカッコいいのなら普段からそうしていればいいのにと思いながら。
「ふふっ、いい顔するじゃない。いいわよ、付き合ってあげる」
マロンの無謀にも思えるその誘いに花子は戸惑うことなく、躊躇することなく快諾するとグラディウスをマントの中に左手と共に隠し、こちらに笑いかけるマロンと共に店の出入り口へと向かっていく。
「…将来大物になるわ。ありゃ」
店の出入り口の向こう側へと消えていく白と黒の少女の後ろ姿を眺めながら、その場にそのまま残されたストライプスーツの男は片手でタバコを口に咥え、それの先端にライターで火をつけて一服する。少女のものとは思えぬ気迫、雰囲気。己の身を省みない見ていて気持ちの良い真直ぐな姿勢。あっぱれに感じるそれは、思い出すと感服と共に笑けてきて、なんだか応援したい気分になるようなものだった。
真直ぐ生きられるって素敵よね。アタイもそうなりたいわ。