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禁断の秘奥義

所謂糞戦法。安全圏からの攻撃をひたすら繰り返すそれは、誰がやっても反感を食らうものです。!


 風が吹く。

 視界を遮る木の一本すら生えぬ草原を撫でる一際強い風が――地を行くものの目と歩みを阻む巨木生い茂る森へと。

 立ち並ぶ巨木の枝葉を撫で、揺らし、音を立てて…奥地に。

 特に大きく背の高い、少し特殊な巨木を中心に立てた、周囲に原っぱが円形に広がる平坦な空間へその風が届いたと同時に…それらはやってくる。


 青く薄暗い…木々の合間から。明るい太陽の望める…その開けた空間へ。


 蹄鉄が地を叩く音と共に森の中から現れたるは人を乗せた馬の群れ。

 その先頭を行く一頭の馬を操るベウセットと、彼女に抱きかかえられたままの花子はその空間の中心に目を留める。

 十字の丸い明かり窓が幾つかと、かぼちゃのランタンで飾り付けられた、出入り口と見られるガラスの嵌っていない十字窓付き、橙色の木製の扉が取り付けられた巨木に。


 「かぼちゃのランタンに…木の幹を刳り貫いて作った家。橋渡ったあたりからそうだったけど、童話の世界みたいね」


 「中から下半身丸出しの赤いシャツを着た黄色い熊が出てくるかもしれんぞ」


 「それなら簡単ね。問答無用の騎兵突撃からの試し斬りに協力して貰うだけでこの階層は終わりよ」


 花子とベウセットが開けた空間の中央にあるものを見、話しをしている最中、彼女たちと行動を共にしているポーク●ッツも、彼女らを追ってやってきたヤスやめがねくんも視線を同じくし、ベウセットの馬がより中心のツリーハウスへ近づいた時――それらの視線にあった木の扉が開け放たれた。


 開け放たれた扉の向こうから颯爽と飛び出すは人影。

 紫色のローブと大きなとんがり帽子の老婆は、宙に浮く箒を両足で踏む形で飛び乗って、人の手の届かない高さまで飛び上がった。


 「なにかしら…既視感あるわ。あのNPC」


 「宿屋で見たな。データを流用しているようだが…チッ、思ったよりも面倒そうだ」


 花子とベウセットは理解していた。

 場所。シチュエーション。それらから…この場所がボス部屋に当たるエリアであり、今現れた存在、今自分自身の周囲に様々なデザインの氷の槍を出現させ、展開する魔女がこの世界のボスなのであろうと。

 原っぱの中心に立つ、巨木の周りを回る様な進路を馬に取らせながら。


 「ちょっと…なんかすっごいことになってるんだけどッ」


 「クソッ…時間が無いというのに」


 ポーク●ッツが喚き、ベウセットが唸る中…攻撃は始まる。

 一階層のボス。魔女が――手を振り下ろし、挑戦者たちに向け、展開した氷の槍を降り注がせて。


 「うへぇっ!」


 「うっわ…アイツあのまま戦うつもりかしら。魔法ないって話だったわよね?」


 「出演するゲームを間違えたようなのが居るというだけの話だろう。喉に剣を突き立てれば大人しくなるさ」


 降り注ぐ氷の槍。精度が良いとは言えないが、たくさん地面へと向かって降り注ぎ…広い原っぱと巨木の木の幹を青白く彩る。

 ポーク●ッツは情けない声を上げ、中心にある木の幹にくっ付く形で射線を切り、ベウセットは花子と会話を交わしつつ、己に向かって飛んできた三角頭の穂を持つ氷の槍をキャッチ。それで向かってくる槍を弾き飛ばしていく。


 そんな氷の槍の一斉掃射が終わった後、魔女が次に目を付けるのは、地面に突き立った氷の槍で進行方向を阻まれて馬を止めざるを得なかったヤスとめがねくんで――当然狙われた二人もそのことに気が付くのに時間は要らない。一射目と同じように手を振り上げた魔女を見上げ、馬を走らせ始める。

 ベウセット達が巨木の外周を円を書く形で回ってくるのだとすれば、鉢合わせることができるよう、逆側から巨木の外周を回る形で。


 「チィッ…NPCの分際で…」


 「銃で撃ち合う様なゲームでひたすら安地からスナイパーライフル撃つようなタイプですね。ありゃあ」


 明らかに剣が、武器が届かない上空。ただひたすら一方的に氷の槍を降り注がせる魔女から逃げんと巨木の方へと寄りつつも、めがねくんもヤスも…それはイラついたような顔をして唸る。NPCが行う…所謂糞戦法に。

 だが、ムカつきはするが彼らにとっては好都合でもあった。魔女が居る限りベウセット達は次の階層には逃げられないのだから。


 故に…迫られる。逃げる者たち。ベウセットと花子に。行動することが。

 だがその行動の定義は…彼女たちの同行者であるポーク●ッツ。彼にとってはまた違った意味であった。プレイヤーではない存在が故に。


 「このまま森の中で撒こう!」


 敵から逃げ切ることを考えるのであれば当然の帰結だったろう。ポーク●ッツは提言する。敵から逃れるために。手綱を操り、中心の巨木から離れさせるように、馬の頭を動かしながら。

 しかし、彼の視線の先に居るベウセットは首を横に振る。


 「だめだ。今ここを抑えなければ勝ち目はなくなる。ポーク●ッツ、お前もあの空飛ぶ老婆を引きずり降ろすために頭を捻れ」


 「馬がやられるかもって考えてる? 今空飛ぶばあちゃんは敵の方に行ってるから大丈夫だよ!」


 「違う。アレを始末することもプランの内の一つだという事だ」


 「ッ…! んもー! 解った、解りましたよッ! ったく、付き合いますよッ! 付き合えばいいんでしょぉッ!」

 

 ポーク●ッツには何故あの魔女にベウセットが拘るのか解らなかったが、半ばヤケクソな気持ちになって叫び、馬の頭を再び巨木の外周を回る形に戻した。その手に…まだ使い切れていなかった酒の一つを手に取って。

 その間にもベウセットとポーク●ッツの馬は巨木の外周を進んで行き――鉢合わせる。氷の槍から逃げるヤスとめがねくんと。


 「姐さん、どうやら年貢の納め時のようですねェ!」


 「さて、それはどうかな」


 ヤスと擦れ違い様にベウセットは会話を交わし――お互い持つ武器を相手側の馬へと向ける。前者はショートソードを。後者は凍りの槍を。

 決してこの状況下でも慣れあわず、味方にはならず…投擲されたそれらは届く。互いの馬へと。

 

 「もっひひーん!」


 「ぶもぉ!」


 ヤスの馬はその場で崩れ、ヤスは原っぱの上で受け身を取り…ベウセットの馬はヤスの攻撃と言葉なくタイミングを合わせてきためがねくんの攻撃もあったが、深手にはならなかったようで鳴きはしたものの、転倒まではしない。

 

 「花子。あの卑怯者を引きずり降ろすぞ」


 「はっ!? えっ!?」


 透かさずベウセットは馬の背の上に立ち、今ヤスとめがねくんを追ってやってきた魔女へと向けて飛ぶ。

 状況が読み込めない様子で、目をパチクリする花子をその腕に抱いて。


 「さぁ行ってこい!」


 「うわわっ…!」


 レベルが上がって身体能力が増強しているとはいえ、所詮は人の跳躍力。

 そう高くは飛べなく、魔女には一歩届かないが…そのベウセットの腕の中から、間も無く花子は投げ飛ばされる。黒いマントを大きくはためかせ、僅か上方。魔女の方へと。


 「くっ…叩き落してやるわッ!」


 投げ飛ばされた花子の右手には白い円盾が。左手には何も持っておらず、巨人の骨のグラディウスは鞘に収まったまま。驚いた表情をする魔女を目の前にした花子が獲り得るアクションは膝を立て、突き出す事であった。


 魔女…その老体を狙う綺麗なフォームの、花子によるフライングニー。

 その標的とされた魔女はすぐさま放棄の上で軽くジャンプ。箒の向きを反転させ、花子から離れるが…彼女が咄嗟に放ったあまり勢いのない円盾。それがそのとんがり帽子を掠め、頭の上から前方に落ちることによって、ほんの一瞬視界が塞がる。


 一先ず攻撃はしのぎ切った。

 余計に動かず、最小限に。落ち行く帽子で視界が遮られながらも、そんな考えの透けて見える動きの魔女に対する花子は、とあることに気が付いて何かに合せるように手を下から、救い上げるように動かす。身体ごと、斜めに回転する形で。


 「ッ、逃がすかァッ!」


 そしてその手は持ち上げる。今、下から飛んできた口に火を付けた酒瓶を。

 飛んできた先にはガッツポーズを取り、ドヤ顔をしながら馬に乗ったまま走り去るポーク●ッツの姿が在る。


 投げると言うよりかは打ち出す。そんな形で花子の手に掬い上げられた酒瓶は魔女へと向かって行き、身体に命中。内容物をこぼし、落ち…包む。彼女の身体と空飛ぶ箒を。静かに燃える青い炎で。


 「ッ、うぎゃあああああッ!」


 けたたましく響くは老婆の悲鳴。身を焼く炎の熱さに慌てふためき、バランスを取れず、落ちたところを迎えるは飛んだあと馬の上に着地したのだろう。今、落ちてきた魔女のとんがり帽子が頭に乗ったベウセットの操る馬だ。


 「撥ね飛ばせッ!」


 「うげぇっ!」


 ベウセットの一声ともに強く地面を蹴る馬。地面に落ちる前であった魔女を力強く跳ね飛ばし、その身体は原っぱの上へと叩きつけられて大の字に倒れる。

 そんな光景を背に花子は原っぱの上に着地する。結構な高さからの落下と言うこともありながらも、恐怖に目を真ん丸くしながらも、綺麗な前回り受け身で。


 「殺った!?」


 着地した後、花子は直ぐに老婆の方へと振り返るが…魔女はまだ動いていた。

 しかし、妙な物で右手で服を叩きつつ、左手をローブの中に突っ込むとすぐさまその場から姿を消した。白い光に身を包み、跡形もなく。


 殺せたかと言えばそうではない微妙な結末。なんだかスッキリしない終わり方ではあるが…そんなこと気にして居る暇はない。まだ戦闘は続いているのだから。

 花子は近くに転がっている円盾の方へ。彼女を目掛け、敵対者ヤスが走ってきている。その背後には旋回してきたベウセットを乗せた馬とポーク●ッツを乗せた馬、最後尾にめがねくんを乗せた馬が続く。


 「捕まれッ!」


 聞こえるベウセットの声。振り返れば手を差し伸べつつ、馬で近付いてくるベウセットの姿。


 「落とさないでよッ!」


 今通り過ぎんのするその方へと花子は左手を伸ばし、手と手が重なるが――


 「ッ…!? 何ィッ!?」


 ベウセットに腕を掴まれ、ぐんと身体が持って行かれる感覚の後に気になったのは左足首に感じる違和感だった。宙ぶらりんになる花子はその違和感の正体を見、思わず声を上げる。

 目じりを吊り上げ、歯を見せ笑うヤスの姿を碧い瞳に映して。


 「逃がしゃしませんよッ!」


 攻撃的に笑うことによって、もともと悪い人相が更に悪くなるヤス。だが、してやった風な彼の顔へ…すぐに影は落ちた。


 「うっさい、離せッ! コイツめっ! こいつっ!」


 「いだっ! いだだっ!」


 ヤスを襲うのは花子の無慈悲な右脚での蹴り、踏みつけ。黒く硬く、厚い靴底での踵の角を重点的使ったそれは、ヤスを容赦なく打ちのめし、進むベウセットの馬は彼の脚を原っぱの上にて引き摺るが…彼は離さない。両手を固く握ったまま。


 「もうこうなったら禁断の秘奥義を使うしかないようね…!」


 氷の槍で彩られた原っぱを巨木沿いに走る馬。それにぶら下がる形となっている花子は冷静になり…右足をゆっくりと引いた。


 「ていっ」


 そして仰々しい物言いに顔を上げたヤスの目を目掛け、小さな声と共に繰り出す。硬く丸い黒いブーツの先端を。


 「ふんぎゃああああああッ! 目がっ、目がぁぁぁぁッ!」


 「ヤスッ!」


 人間の急所。目。それを軽く蹴飛ばされ、ヤスは片目を抑えて氷の槍の突き立つ原っぱへと落ちて行く。後方から聞こえるめがねくんの呼び声の中で。

 その非情なる一撃を繰り出した少女、猫屋敷花子は――なんだか難しい決断を下したような顔をしていた。両目を閉じ、仕方なかったのだと言わんばかりの雰囲気を醸し出し、ベウセットに馬の上に引っ張り上げられながら。


 「禁断の秘奥義を使わせるまでこの私を追い詰めたことを誇りに、安らかに眠ると良いわ…ヤス…。フォーエバーヤス…」


 花子の態度は物語っていた。戦いは決したと。

 残る敵は馬に乗っためがねくんのみ。彼は未だに諦めた風ではなかったが、ポーク●ッツの顔が調子に乗り始めた様なものになりかけた時…それはやってくる。蹄鉄が木の根を蹴る音と共に。


 「待たせたな、真打の登場だ! ご主人、プリケツ君!」


 世界を、プレイヤー達を救う。

 そんな高尚な使命を心に燃やして集っていた者ども…攻略組は使命もくそもない、ただ強いエンジョイ勢にボコられてお昼寝タイムに突入しているようだった。

 それを示唆するは遅れて現れた白銀の髪の女、オルガ。

 現実世界では花子の護衛と言う形で存在するそれは向かってくる。本来の使命を忘れ、敵として…フリスビーでも追い掛ける嬉しそうな大型犬の如く。花子の使い魔の分際で。


 「嘘でしょ? 結構いたわよね。攻略組――」


 戸惑いつつ花子は遠目に見える、馬に跨ったオルガを見ていたが――ふと、その視界の端にあるものが映った。

 かぼちゃのランタンの傍にある、開け放たれた扉の向こう側に見える室内。そのど真ん中にある、開かれた巨大な本が。

 

 「あっ…!」


 直後背後から腰に腕が回され、身体は横に引っ張られ…花子は馬から降りたベウセットに小脇に抱えられながらその扉の方へ。同じようにしてポーク●ッツも横っ飛びで馬から降り、その後ろを同様にめがねくんが追う。


 「裏切らないでよッ! あんまり多く取り分要求したりしないから裏切らないでよッ! と言うかその中入ったら袋の鼠じゃない!? 大丈夫なの!? ねえってば!」


 「逃げるなーッ! 戦え臆病者共ーッ!」


 不安そうに喚くポーク●ッツの後ろを行くめがねくんは良く解っているようだった。今来たばかりで状況が解っていないオルガとは違い…もう勝敗は決しかけていると。悔しいのだろう。珍しく声を張り上げて。


 「バーカバーカ! そう言われて戦う奴が居るもんですか。負けたアンタは惨めに囲むがいいわ。悔し涙の塩味の効いたしょっぱいしょっぱい桜鍋をね!」


 だが、めがねくんの声も虚しく、勝利を確信して余裕をぶちかまし、煽りに煽る花子を小脇に抱えたベウセットは木の家の中へ。

 続いてその中へと入ったポーク●ッツによって扉は閉められ――めがねくんとオルガは同時にその扉の前へと行き着くが…進もうとするめがねくんの前にオルガの腕が制する様に出た。


 「…オルガ、惜しかったな。今回は私の勝ちだ」


 ガラスの嵌らぬ十字の明り取り窓。その向こうに見える木の幹をくりぬいて作った棚に色んな小物が置かれるその一室。中心でぼんやりと青白く光り、宙に浮く開かれた大きな本。

 それがひとりでにページを捲り、パラパラという音を立てる最中、ベウセットは取り出した勝利の美酒を一口味わい、勝ち誇る。

 扉の外側に居るオルガを明り取り窓越しに見据えたまま――花子が見た時もない様な、ニコニコのうっきうきな、上機嫌な様子で。

 けれど対するオルガは悔しそうにはしてなかった。ただ静かに、前髪で塞がっていない左目を静かに閉じ、一息つくだけで。


 「結果の解らん博打。困難の先に在る勝利の味と言うものは、さぞ美味かろう…存分に味わうがいいさ。それが…勝者の特権なのだから!」

 

 まるで何か一つの試合が終わったかのような清々しさ。スポーツマンシップのようなものを窺わせ、勝者たる敵対者たちを称えているだけ。無理している様子も…偽っている様子もなく。語りながらオルガは左目を開き――見る。この時のために一本だけ残しておいたのだろう酒の一本を、それは美味そうに飲むベウセットの姿を。


 ――まぁ…こいつはこういう奴よね。


 地団駄を踏んでくれるほど悔しがってくれたら高笑い出来た所であったが、安心感すら覚える、良く知る使い魔の様子に花子は勝利の熱を少しばかり冷ました。


 「まあこれから頑張ってくれたまえよ。勇者ご主人。勇者プリケツ。オルガさんはこの世界の飲食業界を牛耳るつもりでいるので、美味しい物が食べたくなった時はこの階層に帰って来ると良い。ところで――」


 別れ際の挨拶。大人しく認めた敗北。今回の事に関して根に持ちも、禍根にすらしない風に語るオルガは、腕を腕を組みつつ、話を切り替えんと言葉を紡ぐ。

 当然勝ちは勝ち。勝者の余裕があるからだろう。付き合ってくれる花子とベウセットを扉越しに。不安そうに部屋の中をうろうろするポーク●ッツを見ることもなく。


 「オルガさんが言った階層移動の与太話を信じていたのかい? 君たちは」


 思っても見なかった切り返し。二日目の晩にあった何の気のない話はこの裏切りを見越しての欺瞞であった。そう無条件に認識した花子の顔は途端に強張るが――


 「フッ、気が利かなくて悪いな」


 オルガの悪戯心。それを看破していたベウセットは表情を崩さず、オルガを見据えたまま、手にあった酒瓶を落として花子の手を引き、後方へと飛ぶと部屋の中心にある大きな本を背で触れる。

 直後、白い光と共に2人の姿は見えなくなり、光は本のページに落ち、消えていき…不安そうにうろうろするポーク●ッツだけが取り残される。


 「ちょっと…あっ、これっ…これかなぁっ? あっ――」


 眉尻を下げ、心細そうに…落ち着かない様子で。頻りにドアの外に立つオルガの方を気にしつつ、慌ただしく…ポーク●ッツも本へと触れて光と共に姿を消した。


 残るは静けさと楽しかったイベントの終わりの後の余韻、寂しさの様な物だけ。


 「プリケツは揶揄い甲斐の無い奴だよ。まったく。この階層のボスも秒殺だったみたいだし…巨人君よりは弱かったっぽいな」


 「しゃっ…社長…スンマセン、取り逃がしちまって…」


 肩を竦めて踵を返したオルガの声に戦いの終わりを察してだろう。木の扉の前から退き、原っぱの方へと数歩歩み、座り込むめがねくんと木の幹に今寄りかかるオルガとの方へ、片目を押さえたヤスが歩み寄る。とても申し訳なさそうな顔をして。

 だけどオルガは腕を組み、フランクな笑みを浮かべるだけだった。


 「楽しかったし良いっしょ」


 「えぇ、まぁ…そりゃあそうですけど…」


 ヤスはなんだか拍子抜けした風にオルガに返答を返し――その後に、自分達がやってきた森の向こうから馬に牽かれた荷馬車が二台オルガたちの方へと向かってくる。


 「さて、諸君。木の家の中のアイテムを回収したら街に戻ろう。これからは他のプレイヤーも本格的に動き出すはず。せいぜい出し抜かれんよう忙しくしようではないか」


 敗北し、しょげたヤスとめがねくんの元を離れ、オルガは語りながら進む。

 モグモグカンパニーの仲間たち。鏡砕きの四英傑と姫騎士ジャンヌ…訳も解らず、たった1人に心身ともにボコボコにされて心を木っ端微塵に粉砕された攻略組と――今回の騒動に巻き込まれてしまったNPCたちを乗せ、向かってくる馬に牽かれた荷馬車の方へ。


 多大な迷惑、損害と少しの犠牲を伴った戦いの幕は閉じる。

 木々騒めく森の奥地。ぽつんとある巨木。その周辺にある原っぱにて。

 この世界、一階層にてこれから始まるであろう真の戦い。求める力。渇望。人の欲が燻り香らせる…火と煙の匂いを微かながらに漂わせて。

勝利条件と言うのはですね、敵を倒せばいいという訳ではないんですね。どんな犠牲を出そうとも目的を遂げられたなら勝利。そういう物なんです。故に殴り合って勝敗を決めるというのは非効率的なのでは? と思った次第であります。

往々にして敵を倒す = 目的達成を阻害する存在が居なくなる = 勝利…みたいな感じで直接勝ちに繋がることもありますけれども。

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